イケメン霊媒師によるたった一つの冴えたやり方   作:O•Nホール

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存在しない記憶

 五条悟。六眼と無下限呪術。現代における最強の象徴。その慈悲と良心の上でこの場は成り立っている。その気になれば一瞬でこの場にいる全員を殺せることを、この場の誰もが承知している。

 上層部。呪術界における重鎮。かつては並いる呪術師の中でも実力者で構成されていた。しかし政府との折衝を一手に担うためか。いつしか自らの利権と保身を第一に考え、五条に腐ったみかんと揶揄されるまで腐敗した。

 その者たちへの五条の態度は唯我独尊。いかに御三家の当主といえど、殉じる役職らしからぬ高慢さと奔放さには全員が常々手を焼き、歯噛みしている。

 その最強はつい先日、自分より強い者がいると眉唾なことを吐き捨てていった。しかし呪詛師でない以上、五条が認識している在野の呪術師ならば下手に藪を突く必要はないと結論が出て、無理に引き込むことは避けた。五条並のストレスをこれ以上抱えたくない共通認識は正直なところあった。

 しかしその者は思ってもいない活躍を見せた。

 通常、特級に値する呪物は不害不壊の縛りによって祓うことができない。しかし受肉。人の体に取り込まれると呪物は今一度生を受けるか、被呪者が死ぬか。いずれにせよその人の実質的な死を意味する。

 取り立てて問題視してなかった一件。そこから後に全国受肉被害と名付けられた。その被呪者の1人。五条が面倒を見る御三家の血を引く伏黒恵の義理の姉、伏黒津美紀が受肉から逃れて生還した。

 それを為したのが五条が認める最強の者。津美紀の件から判明した全国の被呪者に対して1週間余りで解決してみせた。

「特級呪物宿儺の指が祓えた……だと!?」

「ええ、これが証拠の……ブフッ!」

「何だ。笑っている場合か! 事は重大だぞ!」

 それに加えて今回の戯けたと言わざるえない報告。最強という忌庫よりも高いセキュリティから宿儺の指の持ち出しは許可しているが、そんなことになっているとは思いもしない。しかしもし本当なら。一縷の望みをかけて証拠と称して提出してきた記録。動画を再生した。

「え、此処で!? あ、僕急用思い出したのでちょっと抜けまーす」

 五条が退室する。そんなことが気にならないくらい映像に困惑する。宿儺の指が少女に変わる。我々は何を見せられているのか。そう理解する前に溢れ出した存在しない記憶──

 

 

 

 ──その夏は一際暑かった。

「なんだ貴様。この程度の暑さでへばっているのか」

「スクナか。相変わらず手厳しいな。お前は暑くないのか?」

「おかしなことを聞く。雑魚のお前と違ってこの程度、暑いわけがあるまい」

 机にへばりついたまま見上げた先のセーラー服。短い服から見える玉のような肌から照りかえす日差し。首筋を伝う雫は、その豊満を象徴する谷間に流れ落ちる。強がりなのは見てとれた。

「ほれ、くれてやる」

「お前これ……」

 アイスの当たり棒。口に咥えていたのはこれだったのか。いや涼んでいるじゃないか。

「よほど俺は神に愛されているらしい。それで3本目だ。これ以上は流石に腹が冷える」

「いやだからって……」

「俺ほどの美少女の授けものだぞ。咽び泣いて喜べ」

「自分で美少女って言うやつがあるか……いてっ」

 そう言うと頭をチョップされる。

「ふん……いらないなら捨てとけ」

「いや、貰う。ありがとう」

 それでもこの暑い中冷たいものは嬉しい。少し拗ねた様子の彼女に感謝を述べると、伺えない表情は少し機嫌を直したように感じた。

 

 学校近くの駄菓子屋。営んでいるおばちゃんは人が好く、慕う学生たちの溜まり場になっている。

 蝉の鳴き声が五月蝿い。特に暑い今日。アイスケースの前に立ち止まり手をかけて引き換えのアイスを取り出す。

 カウンターの奥で涼むおばちゃんを呼んで、引き換えようとして……やめる。カウンターに出しかけた当たり棒を仕舞い、現金で購入した。

 

 うだるようなあの暑い夏の日。貰った当たり棒はどこか甘く今も宝物として──

 

 

 

 ──記憶。思い出。身に覚えのないもの。それぞれがありし日のありえない幻想から覚めて、目の前の映像を見る。

 幻想にいたはずの少女が嬲られている。弄ばれ、物のように扱われている。貫く魔羅は自分と同じ物とは思えない。少女は嗚咽し苦しみ、泣き叫びながらも快楽に身を捩らせて……否善がっている。抗えぬ快楽に喜悦の声を吐き、悶絶し、鳴いている。

「あ、嗚呼……よせ」

 誰の声だっただろうか。か細い蚊の鳴くような声がする。その場にいる誰もが涙が伝い落ちても映像から目を離せない。嬲っている男も女もわからない。なのにはっきりとわかる。

 ここに映る宿儺の指に変えられていた勝ち気で優しかった少女。この場にいるそれぞれ境遇は異なれど青春を彩ってくれた女性。彼女が辱められてその体を消失するその瞬間。最後まで見届けることしかできなかった。

 

 4時間後。

「当該校の忌避物、当校に1つを残し特級呪物。宿儺の指の残り5本において浄化を認める。……先と同じように映像で報告をするように」

「……何かありました?」

「いやない。……五条悟。改めて確認する。祓った術師を教える気は」

「ないって言ってるじゃない。……何どしたの、なんかあった?」

 消失感。その場に集うものが得た久方ぶりの感覚はあまりにも虚しく、大きなものを失った気がした。

 ただならぬ様子に五条は年寄りには刺激が強すぎたことを悟った。

 

 後日提出された最新の映像は視聴後、秘密裏に人数分焼き増しされた。

 

 

 

「安価で美味い。くじもある。成る程、歴史があるわけだ」

「また当たり? ……もう良いの?」

「ああ。今は満足だ」

 外出をしたあの日から。万同伴での外出を許されたスクナは、再び出たアイスの当たり棒をがま口の財布にしまった。

 

 

X指定版は

  • いる(真顔)
  • 書いて♡ 書け(豹変)
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