イケメン霊媒師によるたった一つの冴えたやり方 作:O•Nホール
シリアスは置いてきた。この先ついてこれないからな……突いてはこれるか。
近しく遠い夏油と自分の術式。わかったことと言えば己の能力で呪霊操術と同じことができ、逆に呪霊操術では同じことはできないこと。
呪霊操術では俺の呪霊を奪うことはできないし、呪霊を操るには一度呑み込み取り込まなければならない。呪物呪具の形を弄ることもできない。
もしかすると拡張していけばいずれできるようになるかもしれないが、玉藻の言った通り現状俺の術式は彼の上位互換であるのは間違いない。
それが分かっただけでも夏油の依頼を受けた価値はあった──なんて思えるほど俺は殊勝でもなければ聖人君子でもない。
人の迷惑を考えない深夜の凸。お楽しみ中に呼び出された苛立ち。それも五条とは別のベクトルで面倒くさい相手。
閉じそうになる眼を擦りながら契約書を作り、縛りを結び。誰が楽しくて辛気臭い顔を見ながら酒を飲むか。可哀想な男ほど憐れなものはない。性に合わないしたくもない説教、講釈もつい垂れた。
術式を調べるうちに興が乗って色々したが始末に困るシヅカ似の呪霊もどきができただけ。これは自業自得だが玉藻も怒らせた。
慰めるついでに俺の無聊も慰めて貰ったが到底足りず、その日はその後臨時休業までして苛立ちを収めたほどだ。おかげで呪物の半分は気をやってしまい数日使い物にならない始末。
「夏油のことを殴る段取りはした。遠慮なくやってくれ」
「それはうん。ありがたく殴らせてもらうけど……休むほど疲れたの? 家の鍵までかけて……何してたのじゃ?」
「あーうん。理子にはまだ早いかなあ」
何も知らない理子に五条は言い淀む。
「妾はもう子供じゃない! 五条とだって2つしか違わんぞ!」
「いや十分子供だから。享年14歳」
「それはそう! ……ねぇ教えてよーカムイー」
「教えないぞ」
「もー! ケチ!」
もしかすると今時の中学生でも猥談するのかもしれないが、むしろする? ……とはいえちょっと憚られる。憂太と里香のハッスルぶりもそうだが、五条曰く高専上層部も提出したスクナの調伏映像を見てから様子がおかしいらしい。
今更なのだが俺の知らないところで俺の知らない能力が発揮されている可能性を危ぶみ。本当に今更だが、恵と理子にはまだ俺の除霊は見せてない。それにシヅカが中学生には刺激が強すぎるからと怒る。というか理子に前強請られた時シヅカに怒られた。
高校の年になったら教えるかどうか考えよう。でも、恵はどうだろう。中学卒業を待たずに察するかもしれない。色々としでかしておいて俺が言うなと言う話だが、あんな従順な美女美少女が居て我慢できるものか? 俺なら無理だ。
クシュン。
「……どうしたの? 風邪?」
「いや、どうだろうな。もしかすると誰かが噂でも……おい、やめろ自分で計れるから! 体温計あるだろ!」
「でもオープンスクールあるって言ってたし熱がなくても体調悪いなら」
「大丈夫だって。反転術式もあるし……あーほら、円鹿もいるから」
低身長爆乳有角の美少女の姿が脳内をよぎる。
「円鹿ちゃんに無理させちゃダメよ?」
「ちゃん付けするな、頭も撫でようとするな!」
義理の姉からのスキンシップが一番恵の心臓に悪かった。
来る当日。五条と理子が隠れるKAMUI心霊相談所に呪霊に乗って夏油がやってきた。
血色が良い。食事も呪霊もさぞ美味しいものを食べたのだろう。
「呪霊を再び取り込めるようになったことには礼を言うよ。けどラブホに置き去りはないだろ。猿どものばっちい体液がついたらどうしてくれるんだ」
そうはいっても世のサラリーマンは出張の寝泊まりに普通に使うんだがなあ。男だけじゃなく女も女子会と称して本来とは違う用途で使うと聞いたこともある。それに元の用途が用途だ。余程じゃないかぎり大体は普通のホテルより念入りに掃除はされるし。最近はパーティールームとしての貸し出しをメインにするところもある。
だというのに猿の体液がどうのこうの。穢らわしいったらウンタラカンタラ。喧しいったらありゃしない。
「はあ……路上に放り出さなかっただけマシだと思え。それで反転術式自体はどうだ。ちゃんと使えるか」
去勢してないんだからお前にもぶら下がってるだろと言いかけてやめる。自棄になって非術師全員皆殺しよーと決める人間にそんなこと言ったら今この場で自分の分身も亡きものにしかねない。
「……ちょっとは悪びれろよ。いや、別に良い。良いさ。許すとも。反転術式は問題なく使えるよ。硝子みたくアウトプットできないのは残念だが、全てこの充足感万能感の前には瑣末なことだね。だが私が寝ている間にどうやったんだい?」
反転術式を使えと電話で伝えた時には正気を疑われたが、呪霊を取り込んで正気を失ったのは夏油の方だ。美味すぎると狂乱する夏油の声に隠れて何人かの声が聞こえた気がする。
にしてもニッコニコで腹立つな。
「企業秘密だ。さて今日呼んだ理由は他でもない。最後の契約を果たしてもらう」
「ああ、あれだね。良いさ甘んじて受けるよ! 今の私には反転術式もある! 猿の一撃程度大したことな」
「どぅあーれが猿じゃ! このど阿呆めッ! おいカムイ、我慢の限界じゃ! さるさるさるさる言いおってからに、貴様もホモサピエンスの猿じゃろうが!」
我慢しきれず飛び出てくる人物の姿に夏油の余裕は顔色から消える。
──護るつもりで、護れなかった少女。
声を振るわせ歩み寄る夏油。
「あ、あまな」「もういい。口で言ってわからんようじゃから一発きついのくれてやる! 歯ぁ食いしばれ夏油ぉ!」
「ちょ、ちょっとまぶべら!?」
助走をつけ、一気に距離を詰めた理子。
ハンデを負っても相手は特級呪詛師。五条に教えられた通り躊躇いなく、一切の容赦なく、握りしめられた小さな拳は鋭く早く振り抜かれた。踏み込み一閃。
縛りで避ける選択肢のない夏油は拳を横っ面に受けた。
幸か不幸か。今日も黒い火花は微笑む相手を選ばなかった。
今回のことは俺たち3人に責任があった。
多少過保護気味に理子の体を作ってしまった俺。拳に呪力ののせ方を教えた五条。夏油相手なら加減いらないかとマジのガチで殴りにいった理子。出てしまった黒閃。吹き飛ぶ夏油。笑い転げる五条。
結果。夏油は窓ガラスを割り、下にたまたまいたシーツクッション改め喋るパンダに落っこちた。
理子は外の割れた窓ガラスの掃除を。気絶した夏油は給湯室に隠れていた五条に無下限で浮かせて邪魔にならない家の方へと放り込ませ、割れた窓は自分の部屋で彫刻をしていた万を呼んで修繕させる。
──理子に実戦を経験させていれば起きなかったかもしれない、偶然と必然が重なり起こってしまった夏油の殺人未遂。熊の足つきシーツクッションのパンダがいなければ死人が1人産まれているところだった。
それはそれでそうなれば人間じゃなくなるし遠慮なく連日の気疲れを本人に吐き出させてもら……いやいや。人の死を願うなんて一線超えてる……相当だなこれ。かなり精神的に参ってる。
テキパキと片付けを終えて、ソファに座る高専の3人にスクナが冷えた茶を出した。その後アイスバーを出してきて咥えたちっちゃいけど小さくない低身長メイド。私物とはいえ1人だけずるい。今日は君に決めた。
「で、何やってんすかカムイさん」
「ん、ああ。まさかここまで大事になるとは思ってなくてだな。……巻き込んで悪かったな恵。あと高専の3人も申し訳なかった。もう一度パンダさんには礼を言う。ありがとう」
話には聞いていた高専1年生2人と1頭。それになんで一緒にいるのか中学の制服姿の恵に頭を下げる。
「いやーそれほどでも……あるけどな!」
「しゃけ。高菜」
「あーはい。まあそこのクソボケ担任がここにサボりにこなきゃよかっただけなんで」
「みんなひどぉい! 今日はサボりじゃなかったのに!」
と正座して反省のポーズを取る五条。
「いや、あんた今日オープンスクール……」
「それはマジでごめん。……急に決まった話でさ。こっちの用事はすぐ済ませて戻るつもりしてたんだよ。でも」
「……妾が奴を思い切り殴らなければ良かったのじゃ……ごめん伏黒。ごめんなさい」
その横で理子は正座して猛省中である。五条に爪の垢でも煎じて飲ませようか。垢でないから無理か。
「……まあ良いけど」
「俺のことも良い! 気にすんな!」
「伏黒……ぱ、パンダさん……」
禪院真希が狗巻棘にヒソヒソと理子を見ながら話しているが……喋り方は気にしないでやってほしい。思春期なんだ。
パンダが場の空気を変えるように聞いてくる。
「で、本当なのか? あんたが悟に勝ったって話」
「いや勝ったというより五条が降参」「ほんとほんと! もー何やっても何してもなーんにも効かなくて! 術式も突破して殴られるし、散々な経験だったよ。なんなら相手して貰えば? 3人とも」
おい。
「へぇ、とてもそうは見えないけどな」
「しゃけしゃけ」
「騙されんなお前ら。こいつの筋肉並みじゃねえぞ。特に腰回り」
五条の煽り文句にそれぞれ戦意を高揚させる血の気の多い高専生。
焚き付けた本人は反省するどころか舌を出して、目隠し越しにウィンクしてきた。
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