イケメン霊媒師によるたった一つの冴えたやり方   作:O•Nホール

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呪胎戴天弍

 部屋を開けて気がついたのは濃い呪力の気配。

 3人が目にしたのは女型の呪霊と、動揺を露わにしながらも求められ呪霊の手を握る人の姿。

「何よ、アレ……」

 そして呪霊の腹の上には──赤子。

 今し方生まれたと思わしきその赤子から濃い呪力は発生していた。

「呪霊が子供を……?!」

「……」

 伏黒は何も言えなかった。逆の場合を知っている。2人はまだ知らないだろうが、同級生の3姉妹は呪霊と人の母から生まれたハイブリットだ。

 呪胎九相図。他6人とも面識はあるが呪物として人に受肉していたら、どうなっていたかはわからない。だが今あの体には毒となる呪霊の血が流れていながら、反転術式で治る体を持っている。

 それと同じか、もしくは。

「ど、どうしよう! どうすんだ伏黒!」

「今考えてるっ!」

 予想だにしない光景。この不測の事態に伏黒は思考を止めない。

 極論、最善はカムイを呼ぶことだ。きっとあの人のことだから呼んで数分もあれば来てくれる。

 だが呪霊に見られている。偽りでなければ、人と同じ顔で疲労した様子が見て取れる。だがその下には明確な敵意を伏黒含めた3人に向けている。

 強く男の手を握り、離さない。人質のつもりだと断ずるのは容易いが……違った場合守るべき対象からの妨害もありうる。

 呼べばたった数分。だが大体解決してくれるその人を待つ、その数分の間に事態が急変したら。

 決断した伏黒はスマホを取り出し釘崎に投げ渡す。

「……祓わず対話を試みる。帳の外にでて俺の電話で伊地知さんに連絡、その後カムイさんに繋いでくれ」

「……了解。気をつけなさいよ」

「ああ」

 

 動揺する俺たちに対して宿儺は淡々としている。

 女の姿の呪霊も、それに与した人間も。生まれた子も。

 なにも悩む必要などない。一切合切殺せば良い。何故その決断ができないのか。

 呆れ果てた顔で宿儺は状況を俯瞰していた。

「……俺は呪術師になったばっかでそんな詳しくないけどさ。……こんな時ただ殺すって決めつけずにさ、できること探すのは別に悪いことじゃないだろ」

 伏黒が両手を挙げて敵意のないことを示し、呪霊に話しかける。男の名前を聞いたようだが聞き取れない。しかし伏黒の反応からして探していた人物で間違いないのだろう。

「それが取り返しのつかない事態を招いてもか?」

「……そん時になってみないとわかんないだろ、そんなの」

「力があれど難しいことだ。力無い者に尚のことその道理は通せん」

 ……言いたいことは理解できる。確かに俺のこれは甘さで、迷いだ。何を捨て何を拾うか。その判断が遅ければ全てを失う。

 鬼人。両面宿儺と恐れられたのは強さから、だけではない。腹心の裏梅さん以外敵しかいなかった宿儺はその判断を迷いなく実行してきた。

 だからこそ呪いの王とまで呼ばれるほどに。

「……迷えないのは、辛いな」

「くだらん感傷をするな。貴様の甘さが移る」

「悪い。でも迷って良いなら迷いたいよ、俺は」

 伏黒が事情を聞き終えたようだ。

「……。つまらん話をした──が、少し面白くなりそうだな。死にたくなければ術式と呪力を寄越せ。構えろ小僧」

 天井を見上げた宿儺と感覚を共有した。

 

 帳の外へ離脱した釘崎は伊地知と合流し事情の説明を終える。

「それじゃ私は戻るから」

「駄目です」

「なんでよっ!」

「非常に申し上げにくいですが……伏黒君がこの役目を貴女に任せたのは避難をさせるためです。虎杖君にはかの両面宿儺がついている……もしもの時の彼の身の安全は担保されていると見込んでのこと。だが貴女は違う。そう彼が判断した以上行かせるわけにはいきません」

「……なによ、それ。私は力不足だって言いたいわけ」

「あの歳で伏黒君は経験豊富です。特級に最も近い、というのは嘘ではありません。重ねて言いますが現場の判断で彼に逆らうのはおすすめできません。……わかってください、釘崎さん」

 異常事態だとは理解している。カムイを呼べと伏黒が言った理由も、正真正銘特級でなければ対応しきれないと判断してのこと。……それでも遠回しに戦力外だと言われた事実が悔しい。

「……ふー、わかりたくないけどわかった。それで、なんで帳の上から帳を下ろしてるのよ。見えにくいけど、あれ帳よね?」

 帳を出てすぐ釘崎は伊地知に電話をすれば良かった。しかしそれをしなかったのは帳により圏外となっていたからだ。

「……知りません。私は、下ろしてません」

 

 

 

 敵意はない。それを示すため玉犬を消して手を上げ、少しずつ歩み寄る。

「あんた、名前は?」

「岡崎、正……な、なあ、なんなんだ今のは、あんたら一体」

 事前に聞いていた男の名前と一致する。

「俺たちの話は今はいい。それよりも確認だ。お前はこの呪霊と関係を持った。……その子はお前の子で間違いないな?」

「で、でも一回だけだぜ!? それにこんな早く……」

「そうだ。あり得ない。夜の独房に女が迷い込んでくるなんてこともな。そいつは呪霊……人間じゃない。そういうこともあり得る。……それから呪霊、お前は言葉は理解できるか?」

『……はい』

「なら話は早い。その子、それだけ大事に思っているなら、ある程度理性はあんだろ。子供とお前を生かしてやれるかもしれない。だが、それには縛りを結んでもらう必要がある。岡崎、アンタにもわかるように言えば彼女と俺で契約を結ぶ」

『……何を、したら』

「それはこれから詰めていく。まずは正式に縛りを結ぶまでお互いに傷つけない。この縛りを結べ」

「……そうしたら俺たちは、殺されなくて済むのか……?」

『結ぶ。だからこの子だけは「伏黒! なんかヤバい!」

「伏せろッ!」

 2人を庇い、影に潜ませていた魔虚羅に背中を庇わせる。同時に天井が破砕し崩れた。

 

 

 

「ケホッ、なんだ、なんなんだ一体!?」

 隕石か何か降ってきたかと錯覚するほどの音と衝撃。突如として飛んできた瓦礫は、宿儺の使う術式によって粉塵に変えられ体に打ち付けられた。

「やっば、やりすぎちゃった……っと、ああ! 式神で守ってくれてる! ラッキー。殺してたらやばかったからね」

 埃の舞う奥に人影がある。天井には穴が空き、配電が断線して火花を散らしている。

 ──咄嗟に屠坐魔を取り出し斬りかかる。

「あー、宿儺の器くん……えっと虎杖君だっけ? 君のことは殺すなって言われてるからあんまり関わりたくないんだ。だから邪魔、しないようにね」

 一瞬だった。刃は届かず、持ち手だけが残った呪具を自分は握っている。

 向けられた殺意に足が笑い、その姿を認めた宿儺は嗤っていた。

 

 サラシと着物、大数珠を身に纏い、額に1対の角を生やしている。

 

「誰だお前……!」

 

 ──ソレは源頼光、渡辺綱をして討ち逃した現代まで生き続けるナマナリ。

 ──祓われた記録のない、分類不明な弩級の大怪異。

 

「ああ、自己紹介がいる? それもそっか。1000年近く経ってるし。私の名前は──」

 

 その名を──

 

「茨木童子」

 

 

 

X指定版は

  • いる(真顔)
  • 書いて♡ 書け(豹変)
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