イケメン霊媒師によるたった一つの冴えたやり方   作:O•Nホール

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伏黒さんpart2



呪胎戴天伍

 ──男の半生は褒められたものではなかった。

 二度の無免許運転。さらには下校中の女児轢き逃げ。

 それらは安易に許されるべきで無い罪。

 だが未成年故に与えられた軽い罰。

 人を轢いたのも捕まったのも運が悪かっただけ。

 反省などなかった。罪の意識も皆無だ。

 院内での序列は余程のことがなければ変わらない。

 何も変わらないまま院を出る。

 

 筈だった。

 

 女に出会った。ゾッとするほど綺麗な女だった。

 誰も入ってくることがない筈の夜の独房に、気がついたらいた。

 無邪気な笑みにひと時見惚れる。

 おかしいと思いはした。

 だが、それでも惹かれる何かがあった。

 獣性は滾ることなく。純粋な興味があった。

 

 話をした。

 女は誰にも届かなかった声で。

 男は自分にしか聞こえない声と。

 

 話をした。

 女は人ではない何かだと。

 男は人でなしだと。

 

 話をした。

 女は家族の愛おしさを。

 子と親の仲睦まじい姿が眩しくて。羨ましい。

 欲さずにはいられないと。

 男は家族の厭うしさを。

 親も子も結局他人だとしか思えない、が。

 ……だからこそ良いのかもしれないと。

 

 一夜、二夜……と夜毎に現れる女との会話はもどかしく。

 湧き上がる感情は経験のないものだった。

 

 そして、その手に触れる。

 それがどちらからだったかは定かでない。

 

 

 

 人外の美女に守られながら、それでも自分が守ろうと手を握る。やっと手に入れた何ものにも変えがたい宝物だった。

 

 だが、恐怖に身はすくむ。

 ただ見ていることしかできない不甲斐ない己が心底情けない。

 

 産後間も無く疲労を露わにしながら、その腕に我が子を抱く彼女は震えながらも気丈に、己への笑みを絶やさずにいる。

 ただの人の身でありながら、目の前の恐ろしい存在たちよりも不気味なはずの己と子を大切にしようとしてくれる。

 

 彼女/彼の強さと己の弱さを自覚する度に、あの鬼から感じる言い知れぬ圧に気をやりそうになるのを踏みとどまる。

 

 小さな我が子と愛するヒトを少しでも守るために、強く抱きしめた。

 

 

 

『待て小僧、どこへ行くつもりだ』

 早速伏黒のいるあの部屋へと戻ろうとした矢先だった。

「何処って伏黒の」

『手も足も出なかった貴様が行ってどうなる? 俺に体をあけ渡すつもりか? それで敵うなら始めからそうしろと言っている』

「じゃあどうすんだよ。……伏黒に全部任せろって言うのかよ! 指だけ喰えって!」

『喚くな。騒ぐな。先も言ったが今の俺では敵わない。奴がその気ならば既に俺たちは殺されている。ただの足手纏いにしかならん。全くもって忌々しい』

 五体満足でいるのは加減されたお陰だ。加えて目的にズレはあっても宿儺が協力的だからと誤認していた。

 茨木童子は今の俺たちでは倒せない。

 それを一番よくわかっているのは宿儺だ。

 見た目に釣られて、保護者のつもりでいた。……一概に違うとはいえない普段の生活状況だが、それでも良し悪しに関わらず呪術師としては1000年も前の先達だ。

『落ち着いたか?』

「……悪い」

『なら良い。よく聞け。この場に限り奴には弱みがある。見てみろ、あの帳だかが見えるか?』

「……よく見えないけど。なんか二重になってる?」

『互いに距離はあるが、内側の一つはあの補助監督だかが下ろしたもの。外側にもう一つ、見えにくいモノが奴めが此処に入ってきた時に下ろしたものだ』

「え、帳って高専の人しか使えないんじゃ」

『あの帳というものは誰にでも使えるよう基盤が用意されている結界術だ。あの人間の使った帳は視覚効果と呪霊の炙り出しを優先しているが、対してアレは外との連絡、人の出入りを禁ずる効果を持たせている。常人の10年20年で身につけれる芸当ではない』

「じゃあアイツの結界術ってわけか」

『さあな。そこまでは分からんが、どうやら起点はあるようだぞ。……おそらくは結界の中心。それを破壊さえすればあの帳は解ける。内と外とを隔絶したい奴にとって無視は出来ないだろう』

 つまり茨木童子には来てほしくない誰かがいる。

「でもそれで来るのがカムイさんだったら、ダメなんじゃないか?」

 自分にやろうとしたように指を取り出そうとする。

 だがそれは宿儺にとっても付け入る隙はなく望ましくない。

『腹立たしいがそうだ。俺にとってもあの男には来てほしくない。故に帳を解いて、奴が退き、カムイがくる前にあの赤子から指を回収する』

 どう回収するのか。やはりそれには言及しない。

 俺としては出来れば殺す以外の方法で、宿儺の指をあの子から取り除いてあげたい。

「この結界の中心付近を探してなんかそれっぽいのがあったら壊す、んで伏黒のとこに戻る。で、良いんだな」

『正確には指のあるところだがな。それで良い』

 

 虎杖と宿儺は行動を開始した。

 

 

 

 防勢に凪いでいた呪力が一転、発散された攻撃的な呪力。

 ただその呪力の漏出は一瞬だけですぐに戻る。

「おっと、ごめん。駄目だね。術式反転を使うとどうしても気分が荒ぶる。まあこんな感じで式神を幾ら出そうと壊そうと思えば一瞬だから、あんまり梃子摺らせないでよ。さっさとその赤子渡してくれない? 別に君のこと好き好んで殺したいわけじゃないし」

「残念だが俺にも引けない事情がある。この呪霊と縛りを結んでいてな」

「じゃあ殺すしかないわけかぁ……めんどくさいなあ」

 結んだ縛りは正確には傷つけないだけのもの。だがこの場に留まり──時間稼ぎをするためのブラフと自分に課した縛り。

「改めて言っとくが、呪力の有る無しに関わらず今の俺に素手での攻撃はほとんど効かない」

「あっそ。その頭の上の奴、正確には君の影に潜んでいる式神のおかげでしょ? 面倒臭いことこの上ない。誰だよそんな術式作った奴」

「さあな。1000年も生きてるならお前の方が詳しいだろ」

「いやあ九種しか使わない十種影法術の術師は知ってるけど、そんな美少女付き従えてる術師に心当たりはないよ」

 知ってるんじゃないかと内心舌打ち一つ。

「もう一つ俺の術式について教えておく」

「いやそんな説明せずさっさと使えば良いじゃん」

「影は自分を模る。この術式を使う俺にとって影はもう一人の自分だ」

「何が言いたいわけ?」

「こういうことだ。脱兎」

「ああ逃げるつもりね。でも後ろのを抱えて逃げるのは……は?」

 伏黒の後ろにいた式神が黒くどろりと解かしたその姿を無数のウサギに変える。そして術師自身も一拍遅れてその姿をウサギに変えた。

 濁流となった脱兎は茨木童子の足元を駆け、逃げ去った後に残る筈の赤子とその親二人が跡形もなく消えている。

 隠れた、わけではない。この場から完全に消失している。

 伏黒は自分の影を媒介にした式神は自分だと言った。

 式神と本体。その入れ替え。

 一時的でも自己の定義を式神の影と同一だと拡大すれば、離れたところへの瞬間移動も可能なのではないか。

 そうだとするならあの後ろに控えていた式神の影も、他の式神の影につながっていて、他者を送ることも不可能ではない。

 油断したわけではない。相手が伏せ札を持ち、一枚上手だっただけのこと。

「……あっちゃー。……やられた」

 その呟きは逃げられたことに対して、だけではなかった。

 常時発動型の術式反転中はその限りではないが、普段は逃げることが得意な己にとって苦手な、誰かを捕らえ留める結界術。

 それを補うため、協力者に与えられた嘱託式の帳が上がったことを茨木童子は感じ取る。恐らく要を破壊したのは宿儺とその器。

 事前に器と繋がっていると聞いていた。だが煽られてさえいなければあの器をこの場から退場させていなかったことに思い至る。

「あんのメスガキ、最初から……クソ!」

 潮時。

 強烈に感じ始めた危機感に従うも、腹を据えかねる茨木童子は入ってきた時と同じく天井の穴から跳び去った。

 

X指定版は

  • いる(真顔)
  • 書いて♡ 書け(豹変)
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