「───最初に言わせて欲しい。ありがとう、リーアた…リアスは救ってくれて。魁斗くんが居なかったらと思うと肝が冷えるよ」
(……どうしてこうなった?)
オカルト部の部室、魁斗はそれなりに来た事のあるその場所を異世界の様に感じていた。魔王サーゼクス、眼前にいる悪魔の表側のトップの一人がその原因だ。三大勢力の会談が始まる前の空き時間に折角だからと招かれたのである。残念ながらリアス達は冥界に一時避難済み、自身とサーゼクス、そして給仕をしているグレイフィア以外いない密室は完全にアウェイな環境だ。
「……自分一人の力ではありませんよ。団結ありきの薄氷の勝利でした」
「聞いていた通り謙虚な子だね」
おまけに相手は世界でも屈指の実力者、自身が知る
「色々と話したい気持ちはあるが時間が多分にある訳でないから単刀直入に聞かせて貰うよ───君はリアスの事をどう思ってる?」
そんな中に軽く投入される爆弾を前に生唾を飲む。返答一つ間違えれば命はない(誇張表現)、うちの妹の何処が不満だと思われれば終わりだ。そうでなくとも下手な言質を取られたらと考えれば答えにくい。
「ああ、すまない。別に圧をかける気は無いんだ。ただ純粋に疑問でね。身内贔屓抜きにしてもリアスは魅力的な子だと思う。それが中々口説き落とせてないのは予想外なんだ……医者を紹介した方がいいかな?フェニックスの涙ならいくらか融通出来るよ?」
「…………いや、そういうのは大丈夫です」
(あんたの意図は関係ないんだよ、立場考えろ。つーか何でどいつもこいつも下半身が使えないと思うんだよ!困るぐらいに元気だわ!)
色々と出かかった言葉を脳内で堰き止める。リアスやソーナ相手に失言するのとは訳が違うのだ。当人にその気が無くとも報復の一つや二つあってもおかしくない。魁斗は細心の注意を払いつつ、何を話すか思考を巡らせていた。
「因みにリアスは今幼い姿を維持する練習をしているが効果はあるかな?よく分からないがお腹周りの再現が意外と難しいらしい」
「ありのままの姿が一番魅力的だとお伝えください。いや、あらゆる意味で損失になるんで」
なお、結局出てきたのは素直な感想である。ソッチの趣味が無ければ今のボンッ!キュッ!ボンッ!のスタイルが失われるとか許されないからね、仕方ないね。
「……リアスの想いに応えないのは極めて個人的な理由です、自分はただ傷つきたくないだけ。よく理性が強いとか言われますが方向性が違うだけで俺もしょうもない普通の人間なんです」
一度ぶっちゃけてしまえば口は軽くなる。下手な取り繕いは何とかの考えだと本音をオブラートに包みながら話し出した。
「仮にリアスと付き合ったとして辿り着く未来は二択しかありません。夢見た程素晴らしい男で無かったと
全ては自身の情けなさが元凶である、それが魁斗の認識だった。半端な気持ちで応えるべきでないとか通すべき筋があるとか色々と理由はつけれるが根本は揺るがない。やたらと自分が評価される現状は居心地の悪さすら感じていた。良い結末などあり得ないのだから他にもっと良い相手を探して欲しいと。
「なるほど、君は童貞を拗らせてるんだね。リアスは過去に拘る子じゃない(嫉妬しないとは言っていない)しサクッと卒業してきたらどうかな?なんなら相手を手配しようか?」
「貴方そういう事言うタイプだったんですか???」
まあ、いくらか経験を積んだ既婚者からすれば若気の至りとしか捉えられないのだが。多方面から罵詈雑言を浴びせられるだろう余計なお世話だが、足踏みしている若者の背を押してあげたい老婆心もあっての発言である。
「私も生まれ持った力や周りとの差異で悩んでいた時期もあったんだ。自分は生まれるべきでは無かったのか、受け止められない世界が悪いのか、なんてね。まあ、一発サクッと卒業したら全部吹き飛んだよ。初めてというのは特別でね、グレイフィアとも違ったあの感触は中々忘れられなバァ!!!」
「失礼、手が滑りました」
グレイフィアが大きく振りかぶって投げたナイフは見事にサーゼクスの脳天に直撃した。何の変哲もないナイフなので滅びの力の塊であるサーゼクスにぶつかった瞬間消滅している。だが、音速を超え半ばプラズマを発生させるまで高まった運動エネルギーはサーゼクスにもんどり打たせるには十分な物だった。
「も、勿論今はグレイフィア一筋だよ?」
「ええ、愛人どころか異性との付き合いも絞って私との時間を確保してくださっているのは重々把握しております。何分結婚当初から裏切り者の分際で貴方を独占していると散々陰口を叩かれておりますもの。ミリキャスが生まれてからはマシになりましたが今でもまだあるのですよ?愛人なり側室なり取る事も出来たでしょう?いや、そもそもとして何故私を正妻としたのか。誠実に愛されるのは女として嬉しい気持ちはあるのですが加減出来ませんか?ひたすらに恵まれた身でありながら文句をつけるなど不敬にも程がありますが私にも立場があるのです。リアス様に政略結婚を押し付けるの気まずいってレベルじゃありませんでしたよ?我が儘言わずにハーレムの一員になりなさい。私には一途に愛してくれるダーリンがいますが受け入れなさい。青春を謳歌するよりさっさと結婚して子供つくりなさい。全ては種族の将来の為です愛人も受け入れなさい。うちには居ませんけど。そりゃ反発の一つや二つされますよね!どの口で言ってるのかって自分でも思いましたもの!リアス様の実力不足といえばそれまでですが実力をつける間もなく話が進んだのは我々の責任の一端があるのですよ?フェニックスなり他所の家なりから側室を受け入れればもう少し時間は出来てた筈でしょう?大体貴方はいつもいつも───」
「…………あい、全くもっておっしゃる通りです」
夫婦のパワーバランスがありありと分かる光景だった。日々溜め込んでいる物を出し切ろうかという勢いである、他人である魁斗の居心地は極めて良くない。
「あー、まあなんです。一回経験しておくといいってのはよく聞く話で一定の理があるのは分かってるんですがね。何事にも絶対はない訳で、万が一子供が出来たら大変じゃないですか?」
す
「ああ、大変
「えっ?」
話を変えようとして話すと斜め上な答えが返ってきた。文脈から話を理解出来る知性はある筈なのに発言がズレている。サーゼクスから揶揄う様な意図が感じられないので一層困惑は強まった。
「いや、そりぁあ目出度い話なんですけど。責任とかそっち方面の問題というか……」
「子孫繁栄は生物としての義務では?……まさか避妊するつもりで?魁斗様、そんな無責任な事をするのは如何なものかと」
「そうだね、命が産まれる機会を奪うのは命を取るのとそう変わらないと思うよ」
「…………価値観が違〜う!!!」
人間と悪魔は寿命差が100倍以上で生命のサイクルもそれに準じた差がある。それだけ差があれば価値観が異なるのも当然だ。血を残し次世代に託す、生殖能力の低い悪魔に取ってその責任の重さは計り知れない。それに比べれば人間が最近考えだした責任の類は天秤に乗せる選択肢すら無かった。
「……ふむ価値観、価値観か。確かにそれは重要だ。リアスは優しい子に育ったと思うが価値観のズレはあるかい?」
「……まあ、多少世間知らずだとは思いますが不快感や疎外感を感じる様な物はありませんね」
うんうんとサーゼクスはその返答に喜んだ。妹の恋路の障害が減ったのは勿論喜ばしいが、その返答にはそれ以上の価値があった。
「リアスやソーナちゃん達の様な若い世代は悪魔の希望だよ。悪魔が生まれつき邪悪な存在ではない、教育さえ全うなら人間の様な倫理観を持てる事を証明しているんだ」
サーゼクスは声を張り上げるでもなく普通に話しているが言葉の節々から誇らしげにも喜ばしげにも取れる感情が溢れていた。
「私はね、悪魔と人間が手を取り合う未来を目指してるんだ。私個人の願望はあるが悪魔の為にもなる筈さ。人間の発展性は素晴らしい!人間と良き隣人となった未来こそ悪魔の目指すべき未来だと思っているよ」
サーゼクスが幼い頃、人間は空を飛ぶ事すらままならなかった。それが現代では世界中の空を飛行機が飛び回り、星々の海にすら一歩踏み出している。悪魔とて悪魔の駒を生み出したが社会全体に影響を与える物は他にない。個体としては圧倒的に劣りながらも悪魔を遥かに超える可能性に光を見たのだ。
「……ただ、私の不徳故に道はまだまだ遠い。倫理観を共有出来ているのは殆どが若い世代だけで同年代以上には響いていないんだ。干渉を嫌がる家には何も関与出来ていないし……倫理観を共有出来た筈の子達を引き摺り戻される事もある」
蜂蜜は人類にとって有用だから蜂に人権を認めましょう。そう言って同意する者がどれだけいるだろうか?悪魔にとって人間は蜂なのだ。生み出す物に価値を見出す者はいる、安定した利益を得ようと保護する者もいる、僅かながら自分達の命を脅かす存在だと知っている、だが友達になろうなどという狂言を回す者は稀だ。その最たる者であるサーゼクスへの感想は子供に変な思想を押し付けるなとしかならない。
「歴代最強の魔王などと呼ばれても為政者としては並以下に過ぎない。政治力も威厳も足りちゃいないんだ……おまけに彼らの心もよく分からないときてる」
サーゼクスの為政者としての能力面が不足している事は否定出来ない、だが心がよく分からないというのは少し違う。他の悪魔もサーゼクスと同じ立場なら近い判断をする可能性がある。発想が異なるのではない、基準が異なるのだ。
「人間には人間の強みがあるというのに何故ああも蔑めるのか。私には理解出来ないんだ」
サーゼクスは
「私でも出来た……その理論を持ち出すのは良くないと分かっているのだがね。もどかしさはどうにもならないよ」
他の悪魔にその土壌はない、そこまで
「だけど諦めるつもりはないよ。今回の三大勢力の同盟を結べば人間との関わりも増えるだろう。そこから人間を知っていけば私と同じ視点を持つ者も現れる。問題は山積みだがこの機会を逃す気はないさ」
敵対していた者達が脅威を前にして手を取り合う、それは大層見栄えの良い物である。長い戦いの中で計り知れない程積み上げられてきた恨み辛み、それを乗り越えて結ばれる同盟なのだ。創作ならば多方面から凡ゆる方法でその経緯を書き記す一大イベントになるだろう。
(……機会とするにはちと横着し過ぎじゃないか?原作通り上層部同士でしか話通してないっぽいし現場は交流どころじゃないだろ。いや、オーフィスがいるから早急な対応が必須なんだけどさぁ)
だが、そうはならなかった。必要だから、時間が無いからと同盟を結ぶにあたって通すべき筋は悉く無視されている。問題を起こした堕天使から技術の供与を行うのはいい。それらは悪魔と天界の問題の多くを改善出来る物であり、それで手打ちとするだけの価値がある。だが同盟までするなら話は別だ。現場で血を流してきた者達は血の流れない
(人間を殺めた悪魔や堕天使の処刑どころか罰則もありません!無理矢理眷属にされた人間の解放もしません!人間から抜き取った神器を子供に使わせます!…………全力で人間の神経を逆撫でしてて笑えてくるな)
だが、この判断は極めて合理的だ。異形は強者が多く千年先でも生きている、逆に人間は大半は弱い上に百年もせず土に還る。恨みを買うならどちらがマシかなどバカでも分かるだろう。その場凌ぎとしても未来を見据えたとしても人間を蔑ろにするべきである。一部の強者さえ抑えておけば反乱を起こされようがさほど痛くもない。サーゼクスとて苦渋の判断をせざるを得なかったのだろう。これは差別ではない、差異だ。
(さてさてこの同盟を周りがどう受け取るやら。記憶からは消えようと記録には残る。貴方は将来ソレに向き合わなければいけない)
この同盟はサーゼクスの理想に傷を入れた。気にしない者もいる、忘れる者もいるだろう、そもそも知らない者だっている些細な傷である。だが、その傷は本気で人間と悪魔の友好を築こうとする者に対しては致命的だ。伸ばした手を引っ込めて握り拳を作る理由になり得る。
(個人的に貴方の事は嫌いではありませんよ……ただ期待も出来ませんがね)
この後、魁斗は失言一つせずお茶会を乗り切った。
サーゼクス「もうさぁッ無理だよ!余裕無いんだからさぁ!」
サーゼクスも同盟が色々と危ういのは理解してますがオーフィスが敵方にいるっぽいので目を瞑ってます。理想がどうとか言う前に今を乗り越えないと未来が無いから仕方ない、本当に仕方ない。
同盟に関しては考える程に人間不利な内容で笑っちゃいますよね。人間の大半に何の価値もないので仕方ありませんけど。原作通り強い奴だけ囲って後はポイが一番楽。可哀想な人間、テメェらが弱いせいだが。
魁斗と曹操達が三大勢力のサイドにいるのは今が一番三大勢力と有利に交渉出来るタイミングだからです。どうせ向こうから不義理かまされるので今のうちに取れるもん取らなきゃ。
次回もお楽しみに。