TSした俺は、ヤリチン時代に堕とした妖達に攻守一転、百合百合される。   作:ホクホクなタイプのポテト

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我々は、雪女の○内の温度について話し合わなければならない。

 

 

 

「うぅ……。うぇーん……。」

「ちょっと!泣かないでよ、みっともない。」

 

 

 任務を終え、少なく無い被害を受けたリンドウは、帰路の道すがら泣いていた。男の頃であれば、何があっても涙等流さなかった彼も、女の子の姿になった為か、心が躰に引っ張られて仕方ない。

 

 レンカは、普段であれば天と地がひっくり返っても一緒に帰る事など有り得ないと考えていた。しかし、実際天と地が返るような出来事が起きてしまっては仕方無し、如何にも捨て置く訳にもいかず、肩を並べる。

 

 

「あー!もう!調子狂うわね!」

 

 

 レンカは、鼻水や涙、涎と液体に塗れた少女の顔を拭う。こうしていると、世話の焼ける妹のようであった。尤も、彼女に妹は居らず、腹の立つ姉ばかり。だから、歳下を構うというのは新鮮で、不安で。勿論、仕事柄、祓い屋の家系の少年少女達とは関わって来たが、今のリンドウとは何処か違うように感じた。

 

 其れは、自分が居ないと壊れてしまいそうな不安定さだったのかもしれない。もしくは、母性本能を擽ぐるような愛らしさだったのかもしれない。けれど、答えが出る事は無かった。

 

 

「もう!鬱陶しいわね!くっつきぼうみたいに引っ付いてないで、離れなさい!ほら、アンタん家着いたわよ!!」

 

 

 自身の袖を離さないリンドウに、レンカは冷たく遇らった。其れでも、彼女が家まで送り届けた事から、根は優しい少女である事が察せられる。

 

 男……否、元男の家は木造の一軒家だった。立派な門構えや、整えられた庭園、大きく広い旧家の日本建築。リンドウ一人であったなら、持て余していただろう。しかし、今、此の家には確かに明かりが灯っており、生活の気配が有った。

 

 

「報告はアタシがしておくから、今日はもうゆっくり休みなさいな。」

「……うん。……()()()()()()()()。」

「——っ!?」

 

 

 リンドウが礼を述べるだなんて、レンカは考えても居なかった。予想外の返答に、ほんのり頬を染めたレンカは、リンドウに悟られないよう顔を背け、歩き出す。彼女なりの照れ隠しであった。

 『此れなら、永遠に少女のままでも良いのではないか?』と思惑する彼女だが、『此の男なら明日にはけろっとして男に戻る方法を探すか』とも思った。

 

 

「——まぁ、頑張りなさいな、()()()()()()。」

 

 

 レンカがリンドウを呼ぶ際の、昔の呼び名。仲違いしてからは距離を置いて来たものの、二人は同い年の、幼馴染の祓い屋。同じ立場にあった彼等は何処に行くにも同じであったが、其れも又、過去の話。

 

 レンカの細やかなエールは、誰に届くわけでもなく、宵の闇に混じって消えてしまったのだった。

 

 

***

 

 

「帰ったぞ……。」

 

 

 リンドウの帰宅を待つように、点けられていた玄関の灯り。暖色の光は、窶れた少女の心を優しく包み込むようであった。

 

 旧家らしく広い玄関の、三和土を見れば、少女サイズの下駄が一足、丁寧に揃えて置かれている。其の様子から、持ち主は几帳面な性格であると想起する事は容易であった。

 

 

「はい、旦那様。お帰りなさいま、せ……。」

 

 

 主人を待つ良妻のような、鈴の音を想わせる少女の声がする。木造の廊下を音を立てる事も無く、歩んで来た少女は、自身の待ち人の姿を見て絶句した。

 

 

「どちら様で御座いましょうか……?」

 

 

 怪しむ少女。意気消沈している少女と警戒心剥き出しの少女の睨み合いは、側から見れば滑稽だっただろう。

 

 

「俺!俺だよ!信じてくれ!」

「本人来訪型の新手のオレオレ詐欺で御座いますか……?」

 

 

 少女はあまりに俗世に疎く、鈍感で、自身の主人を詐欺師扱いしてしまう。しかし、其れも仕方ない事である。

 

 そう。八神家に住まう少女、彼女も又、“リンドウによって堕とされた大妖の一人„であるのだから——。

 

 

「信じられないとは思うけど、俺がリンドウなんだ!八神リンドウなんだよ!!頼む!信じてくれ、ユキハレ!!」

「——っ!!?」

 

 

 目の前の少女は、自身の名を呼んだ。他の誰も知り得ない、主人から与えられた少女の大切な名前を呼んだのだ。そうまでされて、如何して此れ以上疑えよう物か。

 ユキハレと呼ばれた少女は、理屈は理解出来ないが、認める。自身の主人が如何様にも女の子となってしまった事を。

 

 

「おいたわしや、旦那様。ユキハレは、悲しゅう御座います。」

 

 

 リンドウを旦那様と呼び慕う少女。

 

 汚れ一つ無い白い着物に身を包む、背丈の低い女。純白の艶の有る長い髪は、シルクのような一種の芸術品であり、生気の無い、何処までも白く透き通る肌は、陶器のようであった。

 大きな瞳、長い睫毛、少女を構成する其の何れもが魅力的であり、女好きのリンドウが隣に置いておくのも納得出来る美しい可憐な娘だった。

 白、白、白。全てが白く、淡雪のような少女。

 

 ——少女の名は、雪晴(ユキハレ)。大妖として知られる『雪女』其の者である。

 

 

「あぁ、あぁ、こんなにも気落ちしてしまわれて。悲しかったでしょう、苦しかったでしょう。ユキハレは旦那様がどの様な姿に変わろうとも、お慕いしております。」

 

 

 まるで、自分の事かのように悲しむユキハレ。彼女を知らない人物であれば、偽善者や同情しいと揶揄しただろうか。

 けれど、リンドウは知っていた。一番近くに囲っているからこそ、彼女が其のような紛い物では無い事を知っていたのだ。

 

 最近は彼女をぞんざいに扱ってしまっていたが、其れでも尚、自分に愛想を尽かさず着いて来てくれたユキハレの存在に救われる。

 

 

「ユキハレぇ……。お前が、お前だけが俺の支えだ……。」

 

 

 リンドウの弱くなった心には、ユキハレの処女雪のような優しさはあまりにも効く。

 

 

「さぁさ、何時迄も其のような所に立っていませんで、御入りくださいませ。」

 

 

 ユキハレは、リンドウの手を引く。ユキハレの小さな手と同じ大きさ程の掌。此れが自身が『旦那様』と仰ぐリンドウの、現状なのかと思うと、彼女の胸は痛んだ。

 

 リンドウは、というと……繋がれた手の温もりに、嘗ての記憶を思い起こすと同時に、雪女であるユキハレの手だというのに、此れ程まで温かいのかと再認識したのだった。

 

 

「今夜は偶然にも、以前旦那様から御好きだと御伺い致しましたムニエルで御座います。」

 

 

 自宅だというのに、余所余所しく座るリンドウに、ユキハレが安心させようと告げる。「今日のは美味いな。」程度の些細な感想であったが、彼女は其れは嬉しく思い記憶していた。

 リンドウは人前で感情を露わにするような人ではなかったからこそ、時折ふっとユキハレにだけ見せる想いを、彼女は忘れる訳にはいかなかったのだ。

 

 

「美味しい……!」

 

 

 リンドウは、歓喜の表情を包み隠さなかった。幼い少女の姿に変えられて、想いが素直に露出してしまったようだった。

 

 顔を綻ばせて、黙々と食べ進む元男であったが、顔は忙しなく移ろう。其の姿は微笑ましく見守るユキハレも、自然と笑顔になっていた。

 

 

「美味かった!」

「御かわりも御座いますよ?」

 

 

 ぷはー、と息を吐いたリンドウに対して、ユキハレが言う。

 

 

「ちょっと……流石に、な……。」

 

 

 苦しそうに腹を摩る少女。男であった時は飯の一杯や二杯では満足出来ない、燃費の悪い躰であったが、今は其れも変わる。少女の胃では、男の為に用意された一人前の料理さえ手一杯であった。更に、口も小さくなってしまった故に、小さく遅く咀嚼した為、満腹感は当に限界だったのだ。

 

 

「も、申し訳御座いません旦那様。ユキハレ、失念しておりました。そうですよね。」

 

 

 旦那様の笑顔が嬉しくて、ついつい、促してしまったユキハレも、状況を察して申し訳無さが募る。

 

 

「ご、ごめんな、ユキハレ。残った分は、明日の朝に回してくれ。」

 

 

 傍若無人を地で行っていた彼も、流石に良心が痛んだようだった。自分に尽くしてくれるユキハレの存在の重要性に気づいたのだ。

 

 

「ふわぁ……。」

 

 

 男のものではない、可愛らしい欠伸が漏れる。腹が膨れて、眠くなってしまったようだった。

 

 

「今日はちょっと、疲れちゃったな。ごめん、ユキハレ。俺、もう寝るわ。」

 

 

 とぼとぼ歩くリンドウは、小さな手で眠気まなこを擦りながら、自室に進んでいく。其の後ろ姿に、ユキハレは気が気では無く、心配して止まなかった。しかし、主人の悟られたくないと思う強がりを察して、黙って見送るのであった。

 

 そうして、ユキハレが後始末をしていると、廊下を急いで走るような、忙しない足音が聞こえて来た。

 

 

「うわーん、助けてくれユキハレ!自分の布団だっていうのに、男臭くて眠れないよぉ……。」

 

 

 そう、弱音を吐くリンドウを、ユキハレはそっと抱きしめた。少女の躰となった為か、自分の臭いにすら敏感になってしまって、眠るなかった。其の事実が、自分がもう昨日迄とは違う存在なのだと認識させられて二度苦しんだ。

 

 

「そうですね。旦那様、今宵はユキハレと共に一緒の布団で寝に就きましょうか。」

 

 

 まだまだ作業は有ったけれど、自身の主が言うのなら仕方無し。ユキハレは、手早く寝巻きに着替えると、リンドウと共に床に就いた。

 

 情事の果てに、同衾する事は有ったが、何も無しに二人で寝る事は無かった。男と女、二人でなら狭く感じたであろう布団も、少女二人なら其れ程苦には思わない。

 

 

「ユキハレ、もう寝たか……?」

 

 

 明かりを消し、目を閉じ、数刻ほど流れた時、リンドウが口を開く。元男であれど、精神が引っ張られて、僅かながらも心許なさを抱いてしまっていたのかもしれない。心細い様子だった。

 

 

「まだ寝ておりませんよ。」

 

 

 旦那様が寝る迄は寝ないで居ようと考えていたユキハレは、不安を払拭しようと安心させる。

 

 

「そ、そうか。ユキハレ寝てないか。……それは良かった。」

 

 

 夜の闇によって、リンドウがどのような顔をしているのかは判らなかった。だがしかし、其の声音からは少なくとも、安堵やら気恥ずかしさやらが窺えたのだ。

 

 

「もう少し、近づいてもいいか……?」

 

 

 其のような、可愛らしい提案にユキハレは驚いた。其れと同時に、『いっそこのまま戻らなくとも、其れは其れで……。』等と邪な考えも過ぎってしまったのだった。

 

 其れ程までに、リンドウの今の姿は魅力的だったのだ。

 

 

「ユキハレは、温かいな。」

 

 

 リンドウが、ぼそりと噛み締めるように呟いた言葉を、ユキハレの耳にしっかり届いていた。

 従前迄は投げられる事の無かった類いの言詞に、ユキハレは嬉し悶える。そうして、数分後に隣から鳴り始めた、くぅくぅと小さな寝息に、再び悩ませられたのだ。

 

 

 ——ユキハレの旦那様、可愛すぎる!!

 

 

 其の夜、ユキハレは眠りに就く事が出来ずに、翌朝珍しく欠伸をしてしまったのだとか。其れは又、別の話。

 

 

 

 





 実際、温かいのかな?冷たいのかな?(サブタイトル)

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