管理人、職員に転生   作:ナチュラル7l72

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冒頭の値段について変更しました。
1000→3000
どれだけ円高が進んだとしても25ドルが1000円には絶対ならないので…



本編
転生


『オリヴァー』

 

耳に取り付けられた無線からそう呼びかけが聞こえる。それがここでの俺の名前だ。

 

初めはわけがわからなかった。

 

せっせこ肉体労働をしクソ安い賃金を貯めて買ったノートパソコン。

 

自分の肉体を虐めることに嫌気が差していた俺は路端に落ちていた胡散臭い雑誌の情報を元に、ネットで働かずに稼ごうという随分と崇高な思いでパソコンを買ったのだが、もとより知識も技術もない俺には土台無理な話だと気づいたのは買った後だった。冷静に考えりゃそりゃそうだろと今更ながらに思うがそれ程までに俺に冷静になれる時なんてのは無かったって話だ。

 

無力感と共にやってくる苛立ちを抑えるために俺が手を出したのがゲームだ。既に楽天アコムモビットアイフル等有名金貸し企業から名前も聞いたことのない所までクレカを上限額まで使い切っていた俺は今月の支払いの事も忘れプリペイドカードを買うためコンビニに走った。

 

「ロボトミーコーポレーション」

 

三千円程度、それなりに安くないがかなり評価が高かったのを覚えている。たまたま目に映ったとはいえ一度プレイしてみるとすぐに俺はのめりこんだ。

 

一か月間一心不乱にマウスを動かし職員をこき使ってエネルギーを溜めたりその過程で得た戦利品を用いて化け物を殺したり。時には化け物同士を殺し合わせたり、そして内容の濃さと難易度の割に一度もニューゲームすることなく俺はクリアした。

 

もちろん一度クリアした程度で満足しきれるようなゲームではない。一週程度では全ての化け物を収容することはできないのだ。エンサイクロペディアの内容も出来のいいSCPをみているような気分になれ楽しみの一つだった。

 

思えばこのゲームをプレイすることがこの時から俺の人生の意味になっていた。なんのために働き生きているのかわからなくなっていた俺には「このゲームをプレイできる環境を維持する」ことが仕事の意味になっていた。

コンビニの無料wifiでプレイしていたのを止め家に設置し必ず毎月電気代を払えるようギャンブルに金を使うこともやめた。

各種金貸し企業へ俺は毎月10万円払っていたがこの生活を維持するためならそれも苦にならなかった。

 

ゲームをするための行動。

ストレスばかりが溜まる俺の生活が変わった瞬間だった。

 

二か月がたちロボトミーコーポレーションの続編として「ライブラリーオブルイナ」が発売された。もちろん買った。一か月で全クリし中々考察のしがいもあった。ややストーリー性が生まれた事で俺は初めてネットで色々世界観や用語などをロボトミーと合わせて調べたが、あんなにプレイしたのに知らなかったキャラクターの背景や設定が次々と明らかになり酷く衝撃を受けたのを覚えている。

 

消えぬモチベーションが俺を行動させる。もう一度最初から「ロボトミーコーポレーション」をプレイしようと起動する。

 

独特のロゴと共に出現したニューゲームに俺はカーソルを合わせ、そしてクリック。

 

 

 

 

 

俺の記憶はそこまでで、気が付けば俺は初めて着るスーツと警棒片手にここに立ちすくんでいた。

 

『0-00-00に愛着作業を実行しろ』

 

ブチっと雑音と共に無線が切れる。そこで俺は気づいた。ここはロボトミーコーポレーションの世界だと。

 

胸に歓喜の情が沸くのを感じる。上がるテンションと流れるドーパミンが俺の四肢に活気を滾らせる。薄汚れた壁に掛けられたマップを見て本日収容された[0-00-00]…教育用 ウサギロボの収容場所を確認し駆け足にそこへ向かう。

鉄扉が開き中にいたのは俺の想像していたどうりの化け物、アブノーマリティがそこにいた。

 

俺はそれはそれは喜んだ。ハマったゲームの世界に転生、あるいは憑依したのだ。これに喜ばないゲーマーはいない。

加えて俺はこの世界「ロボトミーコーポレーション」をよく知っていた。それこそゲームシステムや裏技、特異点を持つ企業の秘密なんかも。

 

「ロボトミーコーポレーション」はいわゆるシミュレーションゲーム。それも神視点からのだ。命令を下すだけのゲームともいえるかもしれない。だからゲームだけでは楽しみ切れない世界を俺自身がプレイするのだ。

 

子供に戻ったように俺はわくわくし、書類に書かれた通りに愛着作業をし始める。

 

今はまだ戦闘なんてまともにできる段階ではない。でもこれから作業しやすい幻想体からPE-BOXを抽出し武器防具を着込むのだ。

 

俺はいつか必ずくるその日を待ち望みながら観測日誌を付け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出してくれ!!管理人!!もうダメージが限界だ!!俺の、俺の腕がもう千切掛けだ!!見えるだろ!!認知フィルター越しでも俺のダメージは見えてるだろ!!管理人!!!」

 

 

俺は死んだ。幻想体への作業を舐めていた。ダメージを受けて死ぬのは鎮圧作業でだけだと思っていたんだ。日本においてのスーツと違い、多少頑丈なものを着ていたとはいえ俺は作業で生ずるダメージに耐えきれず、殺人鬼からの人外染みた腕力により殴り倒され頭蓋を粉砕された。

 

死ぬとしてもアブノーマリティとの戦闘、華々しい殉職。

 

そう考えていた馬鹿な俺はぐちゃぐちゃのミンチにされ惨たらしい死を迎えた。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

そして俺はその日、5日目に戻っていた。俺が殺人鬼に殺される日の最初へ戻っていた。夢かとも一瞬思ったがそれにしては実感が俺の体中に残っている。肌が破け血肉が飛び散る様を俺は確かに見ていた。

 

TimeTrack社。

 

時間固定及び時間逆行の特異点を持つ通称T社。明言はされていないがおそらくこの世界を牽引する「翼」の内の一社だ。

 

「翼」に属する会社はどれも凄まじい技術を、「特異点」を持つ。

今回俺を死亡前までに戻したのもT社による技術、TTプロトコルだ。

 

元々はごく短時間しか巻き戻せないかったがこのプロトコルにLobotomy社はアブノーマリティから抽出できる大量のエネルギーをぶち込みTT2プロトコルへと改良し長時間の時間逆行を可能にしたのだ。

 

俺は死ぬかもしれないと覚悟していた。当たり前だ。こんな典型的なディストピア。救済になり得る程死が身近に満ち溢れているこの世界じゃ「死ぬわけがない」とそう簡単に高をくくれるわけがない。

 

だがどこか高慢な思いがあったのだろう。ありとあらゆるゲームの仕様や設定、幻想体共への対処法やらを知り尽くしていた俺に敵う者などいないと。そう思っていたんだ。

 

俺は馬鹿じゃないか?そこまで知っていたなら俺たち職員が所詮使い捨てだという事もわかっていたはずだ。俺は管理人じゃないんだ。決して安全地帯から眺めるだけのお高い職種じゃない。カルメンの理想のためなら管理人は平気で俺を切り捨てる。必死の叫びが黙殺され見殺しにされたのがその証拠だ。

 

無線でまた俺に指令が下る。

先ほど俺を殺したことを自覚しているはずだというのに。よくぬけぬけと命令できるもんだな。

 

…そりゃかつて俺がやってきたことだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは。

ハハハハハははあひゃひゃ!あひゃひゃは!!!あひゃひゃひゃは!!はひゃあはひゃはひゃひゃひゃは!は」

 

俺は死んだ。馬鹿な管理人はどう見ても自制が3以下な俺をポーキュバスのとこによこし棘に撫でられた俺は頭が破裂するほどの快感に身を焼かれ死亡した。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

目が覚めた時には俺が死亡した日の朝に戻っていた。

 

また死んだ。今度は感じたこともないような快感に脳がやられ死んだ。

 

幸いにも依存症は時間逆行では引き継いでいないらしく「快感に身を躍らせる俺」の記憶だけが残っている。

涎を垂らしあへ顔を晒す俺。全身の筋肉が弛緩しているらしく糞尿を地面に垂らしているがそれすら気づかず快感の余韻を楽しんでいた。

 

俺の背中にいやな汗が流れる。whiteダメージをくらっていないにも関わらずMPが減少した気がする。殺人鬼の時とは違って特殊能力で死亡するパターンは初めてだ。言いようのない気持ち悪さに身を蝕まれる、もう二度と味わいたくないというのは確実だ。

 

だが今回わかったこともある。それは管理人がクソだという事だ。

[O-02-98]の番号は流石に覚えていなかったがあの特徴的な、元ネタが明らかに野菜のあの容姿はよく覚えていた。職員の死亡シーンも中々すごかったしな。

 

だから作業を行うために収容室に入れられた時は必死に管理人に進言した。まだほとんど鍛えられてない俺に自制が4もあるとは思えなかったからな。触れられれば即死。それを訴えたにもかかわらず帰ってきた言葉は「本能作業を実行しろ」。ゴミ野郎にもほどがある。

 

配られた少量のエンケファリンを飲み込み精神を落ち着かせる。少しの高揚感と失われていた集中力が戻ってくる。

 

そもそも、俺はなんでTT2プロトコルの実行前のことも覚えているんだ?

時間逆行がなされているはずなのに記憶として俺は死んだことも、さらにその前のことも覚えている。アンジェラやXのように俺も記憶だけは時間逆行しても残っているのだろうか。

 

いやそれだと俺と同じ職員である奴らも記憶を保持していないとおかしい。が特段気にしたような素振りもなく俺が死んだ時、それ以外の日と同じようにふるまっているように見える。

 

訳がわからない。

 

だがそんなこと、わかるわからない関係なしに俺は作業命令を下される。理由なんてどうでもいい。さっさとXをクリアへ導きこのループを終わらせる。俺の平穏はそれしかないのだ。

 

俺が管理人だった時は気づかなかったが、職員は常に危険と隣り合わせだ。パソコンを閉じて一時休憩。なんて唯の職員の俺にはそれが許されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い。痛い痛い痛い!!出してくれ!全身が溶けるように痛いんだ!!ああ…!視界が!瞼が溶けて目を閉じることも出来ない!!いだいいだいだいだいだいだいいだいだ」

 

俺は死んだ。「何でも変えて差し上げます」に放り込まれた俺は全身をエネルギーに変えられ死ぬまで出る事が出来ずに痛みに耐えきれず悶死した。ポーキュバスよりは良いかと考えてしまっている俺はおかしくなっているのかもしれない。死に良いも悪いもないはずなのに。

 

おそらくゲームの知識から察するにエネルギーを取りつくされた俺は干物ようになって出てきたんだろう。そうなる前に死ねた事に俺は安心した。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

俺が目覚めた時、日付は一日目になっていた。渡されていたソーダは消え片手に警棒を握っていた。

 

間違いない。ニューゲームだ。俺が死んだあと、どこかのタイミングで詰んだ管理人が一日目まで逆行したんだ。

 

予想はしていたが、俺は俺が死んだあとの世界には行けないようだ。

今回俺は十日目で死亡したわけだが俺の意識が戻ってこれるのはその以前まで。それより未来へ進んでしまえば俺はついていくことができないらしい。

 

だとしたら、俺が死んだ状態で管理人がクリアしてしまったら?

 

笑えない話だ。その時俺は本当に死ぬんだろうな。

警棒の使い方にもいい加減慣れ始めくるくるとバトンのように振り回しているとまたも無線で[O-03-03]に洞察作業を実行しろ。と伝えられる。相も変わらず無線の奥から聞こえる管理人の声は無骨だ。職員の危機が迫ってる時、貴方はどうしますか。っつー質問をアンジェラからされた時選択肢として職員を助けるがあったから俺らに無関心ってことはないと思うんだが。

 

さてさっさと作業しに行くか。おいおい罪善さんじゃあないか。ZAYIN唯一の癒し枠。いや全アブノーマリティ唯一の癒し枠の担当になれるとは今日は運が良いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イヒヒヒ!アハっ。アヒャハハァ!』

 

「おーおーテンション高えなお前」

 

五日目。俺はいつかのきゅうりことポーキュバスに本能作業を行っていた。

 

ポーキュバスは甲高い笑い声を上げながら棘で俺を撫でる。ぞわっとした違和感と共に耳かきをされているような快感を得るが、それだけだった。

 

またもポーキュバスを収容した管理人は学ばないのだろうかと諦観に近い念を抱いていたが初っ端ポーキュバスの作業を行うように指示されたのが、まさかの俺。管理人はそんなに俺を殺したいのだろうか。五日目で自制レベル4もいってるわけがないというのにそれでも指示する馬鹿野郎に立場上逆らえるわけもなく俺はポーキュバスの収容部屋へ入室する。本当に酷い話だ。もし俺が命令に逆らって逃げ出したならその場で「終了」させられていただろうよ。まだ処刑弾とか研究されてないから少しは逃げ回れそうだが。

 

憤りと死への恐怖で足元おぼつかぬまま俺は作業を行ったわけだが、なぜか未だに俺は死んでいない。

作業中何度もきゅうりの棘に愛撫されたが依存症になる程の快感をもたらされたわけでもなく今もなお作業を続けられている。

 

これはどういうことだ?まさか管理人が俺にLOBポイントを振ってくれたのか?いや、五日目じゃそれほどLOBポイントをもっていないだろう。それに俺だったらLOBポイントは未来を見据えて能力強化をアブノーマリティでの育成で補って新たな職員を採用に回す。初期の職員育成に便利な罪善さんもいるしな。

 

なら考えられる可能性は一つ。俺というイレギュラーだからこそ起こった現象と考えるべきだ。

俺はTT2プロトコルによって戻った時、てっきり記憶だけが引き継がれるもんだとばかりに考えていたが、まさかステータスも引き継がれるのか。

俺はどうやら強くてニューゲームができるらしい。管理人は俺ら職員のステータスをのぞき見することができるからな。俺が異常に自制が高いことを知っていたからこそポーキュバスを収容したのか。

 

ポーキュバスの作業が終わり部屋を出る。そしてなんともなしに首に手をかけるといつの間にか赤い宝石のペンダントが首にかけられていた。

 

「ギフトか…」

 

ゲーム的にはアブノーマリティの作業を終えた際確率で付与されるもの。程度の説明しかなかったはずだ。だから俺もそれ以上の設定はないのだろうと思っていた。

 

だが、俺は俺が俺じゃなくなる感覚を感じていた。ただのペンダントに俺という存在が塗りつぶされていく感覚。魂が一部置き換えられるような感覚。気持ちが悪くて仕方がない。

 

ペンダントを外し投げ捨ててみるが渦巻く違和感は拭えることなく俺の中に残留し続ける。

 

ロボトミーコーポレーションでは同じ部位にギフトを一つより多く付与することが出来ない。さらに非表示にしてもそのギフトの効果は適用される。

 

前者は付けすぎると魂がアブノーマリティに支配されるからで、投げ捨てても違和感が残り続けるのは後者のせいか。

 

そんな考察をしていると俺に指示が入る。最近はどうも他の職員より作業の回数が多い気がしてならない。ステータスが高いから当たり前なんだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!!もうダメージが限界だ!さっさと回復弾を寄越せ!ないならさっさとクリフォト暴走でもなんでも起こして再装填しろ!…いつまで俺に戦闘させるつもりなんだ!早く退避命令を出せ!!管理人!!!」

 

俺は死んだ。憎しみの女王のビームに焼き払われ遂に与えられた防具諸共肉が割かれ焼かれ黒焦げにされた。

 

WAW相手にHEの防具武器で戦う事自体無茶なんだ。相手の攻撃はよく効くくせして俺の渾身の斬撃は切り傷一つにしかならない。

 

肌が炭化しひび割れる指先を見ながら俺はそう思った。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

「ボタンを押すな!!絶対押したらやばいフォルムしてただろ!!アブノーマリティ相手に好奇心を顕にするなクソ馬鹿!!!」

 

俺は死んだ。馬鹿がボタンを押したせいで全てのアブノーマリティが逃げ出し施設は阿鼻叫喚。魑魅魍魎が跋扈する地獄と化していた。

 

俺はすぐに事態を察し近くにワープしてきたポーキュバスを殺害の後その収容室に逃げ込みとりあえずは事なきを得ている。がこんなもの焼け石に水。もはややり直すしかない。

 

それに、俺の予想が正しければ俺はこの後…

 

突如爆発音と共に施設全体が揺さぶられる。いや、俺自身も振動している。ぐちゃぐちゃと俺の肉同士が擦れ潰れ混ざっていく。今にも爆発してしまいそうなエネルギーが俺の内部から湧き出るのを感じていた。

 

ああだよな一回ボタン押してもはややり直すしかないってなったらもっかいボタン押してみるよな馬鹿野郎が。

 

俺は血飛沫とケバブの様になった身を撒き散らしながら死んだ。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

「はははははああはははははは!!!トリガーハッピーだあああああ!!お前ら全員死ねええええ!!!」

 

俺は死んだ。大してblack耐性がない装備で規制済みのサギョウを行ったからだ。

収容室に入った瞬間、悪寒と恐怖、絶望に身を包まれる。形容できるような姿形ではない。生きたメキシコやタイヤネックレスを見ているような、この世の恐怖を凝縮したような存在だった。

 

一瞬で発狂した俺は鉄扉を破壊し不調和を振り回す。

 

かつての同僚を切り刻みその死体を足蹴にして嘲笑う。この施設に俺を止めれる者はもう誰もいない。どいつもこいつも俺より格下ばかり。全員袈裟斬りして完全食の餌にしてやる。

 

処刑弾に撃ち抜かれた俺の思考はそこで止まり、大量の死体の山の一つとなった。この後どうなったかなんて想像したくもない。

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

「管理人?」

 

死亡回数が3桁を超す位だろうか。朝目覚め出勤時間になり赤と緑色の樹木のような手触りをしたクリスマスを着てレティシアを掴み背中にかける。

いつ作業命令が下されてもいいよう俺は少量のエンケファリンをコップに注ぎつつソファに腰掛けた。

 

だが命令はいつになっても下ることはなかった。

 

メインルームから出ていく人影がないあたり俺だけではないのだろう。ここにいる全員が音沙汰のない管理人へ不安を募らせていた。

 

だが俺は薄々段々と察してくる。

 

萎え落ち。俺達プレイヤーがストーリー半ばでプレイすることを止めてしまう。ゲームを作るうえで誰でも想定できる事だ。しかしその想定を設定に組み込むゲームは数少ない。

 

ロボトミーコーポレーションはその少ないゲームの一つだ。プレイヤーの萎え落ちにも設定が存在する。

 

俺が一日目や五日目と形容している「日目」とは単純に朝昼晩の事を指しているわけではない。主人公ことX、いやAはTT2プロトコルによりこの支部一帯の時間固定を可能にした。そして固定した時間はAが進む意思を持つことで時を進めることできる。そして逆も然り。時間を遡ることでやり直すこともできる。

 

しかし、Aは、管理人は度重なる職員の死。何度繰り返してもたどり着くことのない理想。管理人は進む意思を捨て自殺や精神崩壊を起こすことになる。

 

それがプレイヤーの萎え落ちだ。

もはや俺達職員は捨てられたペット同然。飼い主がいなくなった時その飼い犬がどうなるかなんて想像に難くない。

 

未だ雑音のみが垂れ流される無線を投げ捨て自室に溜め込んでいたウェルチアースを一缶空け飲み干す。エンケファリンだけでは補えない程の精神疾患が発症した場合のために運ゲーしてでもため込んだジュース達だったがもはやなんの意味もない。がぱがぱ備蓄していた分をすべて飲み干した。

 

俺はもう限界だった。何度も死に何度も殺されその度時間が戻り俺を捉えて放さない。俺は職員。故に管理人が目標を達成しない限り俺は進むことも戻ることも出来ずに停滞し続ける。

 

オールアラウンドヘルパーの斬撃を身に受け地に倒れ伏す。背中にいた後輩は涙ぐみながら俺に謝る所で俺の意識は途切れたが気づいた頃にはまたもとに戻っていた。俺はそんな華々しい最期すら許されない。それら全てがなかった事にされる。

 

そんなのあんまりじゃないか。管理人は一日一日目標に向かい確実に歩んでいるというのに俺にはそれすらもないだぜ?何度も何度も進んでは戻り、一日が明けたと思ったら振り出しに戻される。

 

数百の死の中で俺の中の「進む意思」とやらはとっくに消え去りあるのは本来塵芥の価値に等しいはずの終わりたいという欲望だけ。

 

管理人が死に時間逆行が消えた今。成す事全てが無意味な俺のやることは一つだ。

 

歌う機械の収容室に入り本能作業を行う。半年以上作業を繰り返し続けた俺は既に勇気ランク4以上だ。

 

「はは、ははは…」

 

自分が狂っていくのを感じる。狂気に染まり無性にこの機会に飛び込み自分の肉で奏でる音楽を聴きたいと本能が叫んでいる。面白いことにこれから起こることを俺は楽しみにしているらしい。それが狂気によるものなのか。それとも人生の終止符を打てることへの喜びからなのか。もう判断もつかない。

 

だが、狂っていく中でも俺は深い絶望と死という希望が心を満たしていた。

音楽を聴きたいという欲求よりも疲れた。という一心で俺は歌う機械に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

システム初期化…

 

 

TT2加速…

 

 

TT2復元確認

 

 

 

俺には自殺の権利すらないらしい。クソッタレ。

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