管理人、職員に転生   作:ナチュラル7l72

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懲戒

「貴様がオリヴァーか」

 

27日目。コーヒー片手になんとはなしにダラダラと歩くその時、高圧的な声にて俺の名前が呼ばれる。

最近じゃめっきり同僚も管理人も俺のことを呼ぶことがなくなり明らかに避けていることが見て取れていた。

人を使う役職である管理人でさえコレなのだ。だから今みたいな俺を見下す「貴様」*敬称略での呼び捨ては非常に珍しい。

重い頭をぶらんと揺らして振り返ってみれば燃えるように赤い着色料で塗られた直方体の鉄の塊が俺を睨めつけていた。

 

セフィラ「ゲブラー」

 

ああ…27日目になってから妙に落ち着かないなと思っていたが、こいつ等が出張ってくる時期だったか。デジャビュってやつ?

 

懲戒チーム。

 

その名の通りこいつ等は戒律を破る者を懲罰するチームだ。戒律を破るとは収容違反のことだけではない。職員もまた同様にルールに則らないものを罰してくる眼鏡委員長集団。

 

職務怠慢、規律違反、義務放棄。

その他諸々をしでかした奴らには懲戒チームからのキツいお仕置きが待っている。

 

そしてその他諸々を含めて俺は大体の罰則事項に当てはまってしまっている。むしろどの罰則から外れているのか知りたいぐらいだね。

 

「貴様の悪行は既に知り尽くしている。債務不履行無断欠勤業務命令違反協調性不足。職務規程のほぼ全てに違反している」

 

「おおーよく知ってんな。俺の武勇伝が広まってる証拠かねこりゃ」

 

「言葉と態度を慎め一職員風情が。広まっているのは貴様の悪態だ」

 

ぶちりと何かが千切れる音が聞こえた気がした。セフィラ共は機械の体で構成されてるからそんな筋が切れるような音はしないはずなんだがな。いや調律者の脳みそを箱の中に入れてるシーンとかあったし案外筋とかあるのかもな。

だが確実に激怒しているという事だけは表情筋のないセフィラの顔面からでも察せられた。きっと認知フィルター越しなら切れた範馬勇次郎の如き表情をしているのだろう。

 

「今日まで懲戒部門がなかったからお咎めなしにしていたが、貴様にはこれまでに働いた罰則分を全て清算させてやる。覚悟しておけ」

 

「へえ」

 

俺は無感動に、応答とも呼べない力のない言葉を返す。

ゲブラーは少し驚いたように、いや機械の表情なんて読み取れないからなんとなくだが、そんな気配だった。

 

あーこりゃ勘違いさせてるのかもな。俺のこの無気力っぷりを「諦め」だと勝手に認識する奴らが多いがそれは違う。確かに俺は色々と諦めているが、この無気力の根源は諦観ではなく「飽き」だ。

もうすでに俺とゲブラーのこの会話は1000回を超している。

 

「セフィラという役割に縛られたてめえごときに、俺をどうこうできるとでも?」

 

「貴様…」

 

俺のこの無気力を=抵抗の意思なしと勝手に解釈したであろう鉄塊を睥睨する。睨むという漢字が入っているが俺は白けたような目をもって見下しているだろう。俺はゲブラーになんの興味もない。meltdown時のゲブラーとタイマン張るにはまだ力が足りていないがこの状態の鉄塊風情に負けるとは到底思えない。

 

その空間だけが切り取られたかのように、数秒、されどにらみ合う俺たちの間には無限にも思える時間が流れていた。

 

「…幻想体共を効率よく殺している所を評価して今回は不問にする」

 

結果、折れたのはゲブラーだった。というか俺が折れる気がない以上どう転ぼうとも折れる理由を作れるゲブラー側が折れるのは当然ともいえる。

ガシャガシャと胴体の割に細い手足をウゾウゾさせながら懲戒チームメインルームにでも帰っていく。

俺が管理人の時は認知フィルター越しのあのボンキュボンな容姿に魅了されたもんだが、口調が似てるだけの鉄塊には流石に愛着とか友好の念を送るのはやっぱ無理だな。っぱ人間容姿がヒャクパーよね。ま性格ブスな奴とは付き合いたくはないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のE.G.O精製能力には限界がある。

 

E.G.Oを装備するとは、他人の殻を借りるとも揶揄されることがたまにある。

俺はその意味をこの世で一番理解していると言っても過言ではない。

 

心の壺に書き足されていく他人の色や装飾。

 

全ての芸術家が一斉にその一つの壺に対して芸術を込めていったらどうなるか。

 

完成するのは元の壺の造形が塗りつぶされたテセウスの船とも呼べない何かだ。

 

だから俺の心のキャパまでしかE.G.Oを取り込めない…

 

とばかり考えていたが真実は少し違っていた。

万を超えるループを重ねて、様々なギフト、E.G.Oを借りてなお、俺に搭載されていくE.G.Oの種類は底を尽きない。

弱すぎて今後二度と使わないであろうソーダから並みの耐久なら一撃で破壊しその中身まで粉砕するミミックまで。

 

残念ながら白夜やらなんやらは俺個人の力では討伐困難な事もあって失楽園を取り込むことはできていないがそれでも多種多様な装備は俺に力を与えている。他人に渡そうとすると、どうやら俺の手から離れると消えてしまうようで装備を渡すことは不可能だが俺だけ使う事が前提ならなんらの支障はない。

 

というわけで今日も今日とて。

 

「死ねゲル野郎。何回てめえに施設が壊滅させられたのかもう覚えちゃいねえよ」

 

赤い見た目の割にブラックダメージでもってその巨体を振り回す溶ける愛。レッドは吸収されるため笑顔を振りかざし叩きつける。

 

豁サ̴́̈̚縲?҉̠̜̤̗̦̲̜̩̙̲̤̲͑̈́̑̏̋́͌͌̄̚諢帙?̵͕͉͕̟̔͛̓̓̎́̍̓̉?̵̞͋͊̍̏̌͗̂̉̾̈̐蜈ア̶́縺ォ

 

「今なら苛めっ子の言い分が分かるな…。弱いほうが悪いと思わないか?」

 

その余波をモロに喰らった周りの眷属の中でも一段と大きいそれは形を崩し中身の頭蓋を露出する。

それと同時に溶ける愛は咆哮し崩れかけていた腕を瞬時に回復させ俺に向かいその汚い腕で殴りかかってきた。

 

諤̴偵?̸͖̮̮͓̣͈͔̰̰̲̦̅̍͆̾̐̉?̴̙̟͕̱̞̦̀͑̔̓̾̄̀͗ͅ谿コ҉̪̦̪͈̭́̃̽̏͊̾̓̀̐縲҈̙̟͖͉̗̣̟̜͚̟̦̫́̒̅͂͌̿?̸̙̱̙̩̝͈͚̯̪̠̲͊͛͗̏͆ͅ豁҈̣̖͇͚͙̲̥̝̇̓̓͗̎̊͋͊͋サ҈̬̦̤͍͕̮̰͉̬̝̣̒̽͛̔́̑͑̽ͅ縺҈͎̱͔̠̞͍͓̖̱͐̃̓̓͑̔̚̚ュ

 

「20%に減衰するからまるで痛くねえな」

 

かつての同僚で造られたこの装備は使徒のブラック攻撃でさえ通しはしない。収容が面倒なだけな攻撃性能の低いゴミが俺に傷一つ付けられるわけがなく。

 

謔イ҈͖͇͕͈̦̙̩̩̩̥͈͍͌̽̍̈́縲҉̯̳̦̞̬̫̰̘͌̄͆̃͒͗́̏̐̽̾ͅ?҉̱͍͖͇͕̝̖̈̃̈́̀́̚繝槭Μ҈̤̠̫͖̟̘͍͉͍̬͚͉̂̋̌͛̌̍繝シ縲҈̜͍͙̠̜̪̖͉̳̈́́̽̒̔̌̑̃?̵̳͖̰̗̩̣̖̃̐̋͌̂̃͋蜈ア縺̶̌̌ォ...

 

「…」

 

なんの感慨もなく潰れていくそれとその眷属達を見ながら壁に背をつけため息を吐く。

 

「無駄だとわかってはいたんだがな」

 

時間が戻されていくのを感じる。俺が本体を殺したとて、施設が壊滅していることには変わりがない。

 

施設に在籍している職員の内半数以上は眷属になり今力尽きた。

残った者はきっと笑う死体の山か大鳥に食われているのだろう。そこかしらから人ならざるものの足音が聞こえてくる。

 

だから嫌なんだ。俺が何かをしたとて何も変わらない。死にたいわけではなかったから眷属を無限に生み出す溶ける愛は潰したが結局のところやはり何も変わらないのだ。

 

乾いた壁からずり落ちケツを地につける。

そこで俺の記憶は閉ざした。

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