「ああ…こりゃ駄目だな」
頬に触れるとぬらりとした感触。銃身の金属部分を傾け自分の姿を見てみれば体全体、至る所に赤い何かがくっつき、いや、生成されている。
立ち上がろうと片手に力を込めるが、どろりと片腕が溶けべチャリと落ちる。感染が侵攻する前に未だ収容室内で少女の面を被った本体を殺しに行こうかとも思っていたがもう手遅れなようだ。
あと数十秒もしないうちに俺もドロドロに溶けてあいつらの仲間入りか。
全身溶け落ちて骸骨姿のまま這い回ることを恐ろしく思った俺はレティシアを口内に当て、引き金を引く。
下顎から生える歯より上部が吹き飛び露出した咥内から垂れる舌。その光景を吹き飛ぶ脳みそと共に見ていた俺は鈍い痛みと共に意識を失う。
俺は死んだ。
システム初期化…
TT2加速…
TT2復元確認
"汝、私の教えに続きなさい。汝は肉を捨て、再誕する。"
「…あー、クソ。ついに引いちまったのか。収容できないバケモンを収容しないでほしいもんだがなぁ」
"加護"を受け取った連中がついに十二人目に達し白夜が覚醒した。
俺が所属している部門とは違う部門に収容されていたため俺がそれを感知することはできなかった。だが、妙にスッキリした、この職場には不相応な気味の悪い表情をして作業からメインルームに帰っていく職員たち。蒼星を収容していないにも関わらず何かを信仰するようなあの輝いた目つき。今日ばかりは無気力に周りを観察し考察してこなかった自分が恨めしいな。
すぐさま小部屋を出て自動扉の機構を無視した閉め方をし目の前で異形の宣教師と成り果てた同僚を閉じ込める。
廊下に出ればやはりそこも地獄絵図。
赤い目を宿し槍を前方に向けその柄を握っている使徒が一人。身の丈より巨大な槍を構え、一閃。それだけで射程にいた同僚はぐちゃぐちゃに粉砕されオーバーキル気味の攻撃をその身に受けていた。
だがそんな事はどうでもいい。白夜をワンチャン殺せる千載一遇のこの機会、俺が鎮圧に走らないわけがない。
これはチャンスだ。白夜を殺せば最強武器の生成ができるようになるからな。今までのループではこいつと当たっても武器防具が弱すぎて何もできずに虐殺されてきただけだったが、もしかしたら今回ならばループを突破出来うるかもしれない。
数秒立ち止まり、白夜を殺す算段をつけメインルームを出る。本当はもう少し考えをまとめておきたい処だがさっさと行動しなければいずれ来る全体pale攻撃でお陀仏だ。本来なら全職員をかき集めて挑みたいところだが残念ながら俺は管理人じゃない。俺一人でどうにかしなければならない以上、施設中を駆けずり回り勝算を集めなければいけなかった。
誰かもわからない程原型がなくなった同僚をピシャピシャと踏みつけながら長い廊下を走る。道中出会う使徒共には使う武器に応じて防具を変化させ無理やり耐え抜き押し通る。だが『星の音』ですらも安くないダメージ与えられ傷が黒く膿み今もなお痛みを発している。奴らは200point前後のダメージを平気で出してくるからこれでもまだマシな方だ。職員のHP多くても120とかだっつーのに馬鹿すぎる。
エレベーターに乗り込み瞬間移動しマップを見つつ次の目的地へと向かう。唯一俺が干渉できない懸念である時間逆行だが、未だ時間が巻き戻るような感覚はしない。俺が初見でこの光景見た時はどんな反応をしていたんだっけか…。とっくに諦めて再挑戦しそうなものだが。いや確か開き直って職員がポコポコ殺されていくのを笑いながら眺めてたんだっけか。我ながらクソ野郎だな。
そうこうしている内に目的としていたもの全てが集まりそれらを身に着け奴がいるであろうメインルームの扉に手をかける。
扉が開き、眩い光の先には情報チーム中央を陣取り水色に輝く瞳で俺を出迎える2体の使徒。その中央で鼓動する胎児のような神。
矯正されているかのように歪な弧を描く口元。骨格が剥き出しになったような姿。そのうちの一体が俺を感知し余裕綽綽な足取りでゆるりと迫ってきていた。
肉も筋もないのにどうやってその力を引き出しているのか不思議でならないが、その恐るべき剛腕は余すことなくその手にある十字架を模した鎌のみに使われる。
輝く刃を携え、使徒は上段に構えて振りかぶる。それに対し俺は『天国』を中段に構え鎌の振り下ろす瞬間を死ぬ気で狙っていた。
「はぁッ、はぁッ、はぁ…。クソ、馬鹿、カス、ゴミ…。」
俺の母国である日本での剣術といえば剣道。剣道におけるカウンター技といえば応じ技が挙げられる。
相手の打突の力を利用して打ち込むその技術は多岐にわたり面返し胴や相小手面等。決まれば格上にも通用する、というか今の武具じゃ俺にはカウンターしか択が存在していない。
だが相手の放つ択は複数ある上に相手の振り下ろす速さは俺の反射神経を超えている。はっきり言ってこれら応じ技を決めるのは無謀だった。
だが
使徒の構えるモーションがクソ遅い故に面への応じ技のみに絞れ、
各部位に一つのみしか着けられないはずだったにも関わらず重複していく大量のギフトにより飛躍的に増加した攻撃速度に加え、
熱望する心臓を装着し異界の肖像に姿をディスプレイさせ行動矯正し、
さらに勇気が一番高い事を自覚している俺は、
「はぁッ、殺す…!。手前をゼったい殺ス…!!」
『月光』を自分で自分の体に叩きつけ発狂していた。勇気ランクが一番高い職員は殺人性パニックを引き起こす。理性がはじけ飛び脳内のドーパミンが暴発し俺の攻撃速度を50%跳ね上げていた。
これらが組み合わさった俺の身体能力は使徒共にも勝る。てめえらの攻撃後にできる無駄にでかい隙を突き出た首と共に掻き切ってやる…。
ヒュッ
一太刀。
なぞるように『天国』ごと鎌が身体を通り抜けていく。
ずるりとずれていく左目と右目の光景。やがて片側は黒くなりもう片側は血で濡れ赤く染まり始める。
べちゃりと体が左右に分かれて、そのどちらもが地に落ちて冷たいタイルに顔をうずめていた。
(ああ…。そういやこいつら即死攻撃持ってたなぁ…)
意識がなくなる瞬間。須臾の中俺は一瞬戻った理性が冷静に考察していた。
次からはヒット&アウェイを主軸にしようと心に近い、
俺は死んだ。
システム初期化…
TT2加速…
TT2復元確認
パチリと目を開ければそこはメインルームに置かれているソファの上。
まだ業務は始まっていないらしくエンケファリンを摂取していたり壁に腰掛け眠っていたりと同僚たちが各自自由な時間を過ごしていた。
(なんで今、こんな昔のループの事を…)
俺がまだ数千だかしかループしていないある日の記憶。死ぬ間際の記憶を突如思い出すの、慣れていても勘弁してほしいな。何万回死んだかわからん今でも気分が悪くなる。フラシュバックってやつか?なにが原因なんだか。
けどまあ、興味はないが。
ぐりっと首を限界までかしげ、ごきごきと音を鳴らす。
(そういや俺、コントロールチーム所属のはずなのに情報に移されているな…流石のマルクトも傍若無人な俺の態度に耐え兼ね追い出したか)
それを腕、胴、と順々にやっていったところで施設に警戒音のような騒音が鳴り響く。
セフィラコアの抑制が必要
ああそうか。あのループの日もセフィラコア抑制してたんだったか
追記:誤字直しました。暴虐武人→傍若無人。ty