管理人、職員に転生   作:ナチュラル7l72

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職員のランクと能力値の関係難しくてよくわかんないので違ってたらごめんなさい。後で修正入れるかも


MALKUTH

コントロール部門が崩壊し耳に痛い警戒音がそこら中で鳴り響く。

管理人目線では俺ら職員をコントロールする機能のほとんどが停止している事だろう。その証拠に無線からは雑音しか垂れ流されず緊急事態が発生した場合それを伝えてくれるCCTVは壊れたようにRGB三色が点滅し続けクソの役にも立ちやしない。

 

何度も見てきた光景だ。

 

「な、何が起こってるんだ?」

 

「自動ドアはいつも通り開閉するから施設全体の機能が停止したわけじゃないみたいだけど...」

 

「も、もしかして、'爪'が来たんじゃないか!?」

 

んな早くからは来ねえし怯える程そんな強くないし正直崩壊赤い霧の方が絶対強いだろ。装備揃ってる状態だったら全員でタコ殴りすればすぐ膝つくしなあの薬厨。

 

チャレンジした回数ならこっちの方が多いだろうさ。もう覚えてもいないが。

 

<*コントロール部門セフィラ崩壊を確認。これより抑制プロトコルを開始します>

 

施設内放送でそう一方的に伝えられるや否や大理石のような材質の壁が機械的に開き腕時計のようなもの…コントロール部門に頼らず俺等職員に管理人からの命令を与えてくる伝達装置が職員分流れ出てくる。

 

知らん職員がそれを一つ手に取り裏の金属部を腕に付ければ自動でベルトが縮まりピッタリと腕に張り付くのが見える。

この腕時計はアンジェラがこの時の為だけに造ったほとんどのループで使われることなく産廃になっている伝達装置だ。常時使うには機能性がゴミすぎて使い物にならないがコントロール部門に頼らず管理人の大まかな指示を受け取るには十分の代物。

具体的には俺等職員の各装置に幻想体の識別番号を表示することによりどいつを世話するかの命令をすることができるが、何故か愛着、抑圧、洞察、本能の欄がランダムに置き換わっている。いやまあ何故かもクソもそこだけマルクトに弄られてるからだろうが。コントロール部門に頼ってないのにそこのセフィラに制御乗っ取られてるの意味わかんねえな。

 

つまり、俺が管理人していた時と全く同じだ。一見、いやどう見ても欠陥品なコレでも最初のループの方と比べりゃまだマシな方だ。なんせ最初のループではセフィラが崩壊するという概念すら想定されてなかったからな。この機械すら渡されずなんにもできなかったんだよな。あのときと比べれば余程良い。そん時の俺は今と違ってクソ弱かったから記憶している幻想体の作業を独断専行することもできなかったし。あのときは普通に命令違反で処刑だからな。

 

そん時から何千ループ後かで俺と唯一境遇が同じアンジェラがやっとこさこの装置を造ったんだっけか…。妙に都合が良いのはこれが原因か。

 

まあ、だから何だという話だが。

 

アンジェラの機械のような音声がメインルーム中に流れる中、コーヒーの自販機に手を伸ばしボタンに触れる。無機質な鉄塊から排出された200ml缶の蓋を開け口元に傾ければケセドが煎れるそれとはまるで違う雑な味が喉に通っていく。

 

この味も何度味わった?両指両足全身の産毛の数より遥かに多い事は確かだろうさ。そして何も変わることはない。酸味が増すことも苦みが足されることも減ることも。何も無い。

 

俺がここに転生してから、今が何回目なのかはもうわからない。時間間隔という概念すらわからないほどにそれは希薄になり自分が今生きているのかも朧気だ。もしかしたらせいぜい1万ループ目なのかもしれない。もしかしたら時間にして一億年経っているかもしれない。数多のXが挑戦し、諦めたこのループはずっと変わることがない。俺は人間だ。だからアンジェラみたく全てを記憶し始まりから何年経っているとかも自覚することができない。昔のことはほぼ全部忘れちまったからな。

 

だからこの崩壊も、何も変わらない。抑制できるかもしれないし、何度挑戦してもマルクトの暴挙に施設全てが破壊され諦めるかもしれない。

どちらにせよいづれまた別の壁にぶつかり俺は進めも引くこともできずに時間の迷宮に囚われ続けるだろう。

だから俺は何もしない。無駄だと散々味わってきたから。

 

一人一人と情報チームの同僚が部屋を出ていき、メインルームにいるのは俺だけになる。この後はどうなるだろうな。戦闘なら負ける気はしないがそれイコール死なないというわけではない。ピアノと相対すれば強すぎる自身の本能が俺を殺すし粘液に感染すればそのうち俺はドロドロのピンクに変わる。チビにプレゼントを渡されれば俺の肉体を生贄にバケモンが生まれてくるし使徒に選ばれれば問答無用で肉が消え骨格ズル剥けの下僕にさせられる。

 

だから俺は何もしない。…やる気がどうしても起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ一日目に戻っていない、ってことはまだ諦めていないのか」

 

エビ共から奪ったソーダの蓋を開け、口に付ける。

味を確かめる前に俺はベッドの上に横たわっていた。まさに今起きた。みたいな感じの睡魔加減をしている。

掛け布団を引っぺがし顔面や頬、頭にべたべたと張り付いている大量のギフトを外し床に投げ捨てていく。特に笑顔と規制済みは臭い上に顔面をめちゃめちゃ覆うためとてつもなく邪魔だ。とても常用できる装飾じゃない。

 

時間が逆行するといつもこれだ。毎回体が再構築されているのかそれに付随して全てのギフトが定位置に全て集まってくるので物凄く邪魔だ。本来なら重複する場所のギフトは一つしかつかないが、この時ばかりは俺の謎体質が途轍もなくうっとおしい。

 

がしゃりと小さい山になったギフトを部屋に置いていき部屋を出る。

 

管理人がセフィラコア抑制を行ってから通算8回目のループ。さらに今回はメインルームからではなく自室での目覚めだったのでもしや遂に心が折れたかと思ったが、どうやらチェックポイントに戻っただけみたいだな。

ならきっと今日は残業をえぐいくらいするんだろうな。同部門になった同僚の能力値かなり低かったしまだ取れていないE.G.Oもあるみたいだしな。俺からしてみれば新しい職員・幻想体が来るたびにランクVにして全情報開示させろよと思うけど。

 

今日は久しぶりにホドにでも泣きついてエンケファリンでも貰ってくるか。長くなる日を短くするのは気持ちのいい過ぎ去ってほしくない時間だと相場は決まっているからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<*コントロール部門セフィラ崩壊を確認。これより抑制プロトコルを開始します>

 

コーヒーを自販機から取り出し200mlの缶を取り出す。その手をブランと下げたままソファに腰掛け溜息をついた。

 

5度目だ。

チェックポイントに戻り装備と人員の強化を済ませて挑むセフィラコア抑制は今回で5回目。一向にクリアの兆しは見えやしない。

 

まず入れている幻想体がゴミだ。具体的な収容状況は知らんが施設の崩壊の仕方が俺が管理人してきた時によくみた光景だ。施設中スライムまみれになったり団子の足早すぎて一瞬で3つになったり列車が駆け抜けて行ったり泣き声が聞こえたり…

この錚々たる面子を集めた管理人には頭が上がらない。何故ピンポで害悪どもを引き当て続けるのか。これがまるでわからない。クリフォト暴走がそれこそ胎児に掛かったらどうすんねんゴミ。

 

あと強い武器防具が抽出できる幻想体を多く置いていないのもダメだ。何もないとか蒼星とか。HEとか言うクソゴミリスクレベル置くぐらいならせめてWAWとかをもっと配備してほしい所存だ。戦力になる同僚があまりにも少ないのが試練鎮圧速度に影響しその結果オフィサーが死にまくって死体の山が脱走。団子3兄弟ENDに繋がってしまいやすい。

俺ならとっくに観測情報そのままに初日に戻ってるだろうな。まあここをクリアできたとて49日目をどうしても突破できずあと一歩、いやあと百歩ぐらいのところで諦める管理人もかなりいる。そしてまた全ての記憶が吹っ飛び同じことをこうやって何万回もやっているんだ。

 

だが。正直これは仕方がないんじゃないかとも思う。

 

ここの管理人はどこか妙に人間臭い所がある。俺の助言を無視してポーキュバスに突っ込ませたり絶対単騎じゃ勝てないであろう装備で憎しみの女王に突撃させたり死ねと思う行動を多々してきたが、罪悪感からにじみ出たであろう謝罪や懺悔が時折雑音と共に無線から零れる事がある。

ここの管理人は俺ではない。プレイヤーではない。残酷に職員を本当の意味で駒としか見ていない俺らではない。

だからこそ管理人は自らを縛り付け、職員を無情にひたすら犠牲にして、崇高な目的のため役目が終わるまで永遠にループし続ける。それが本当に完遂できるかもわからないというのに。

 

それを知っているから、知ってしまっているからこそ俺はずっとどこか諦めきれないずにいるのかもしれない。

 

「全員口を止めろ」

 

思わず口に出てしまう言うつもりのなかったその言葉。か細く一迅の風に掻き消されてしまったのなら俺は何も無かったことにしてまたコーヒーの缶を開けていただろう。

だが小鳥の囀りよろしくざわついていたメインルーム内は嘘のように静まり返り全員が俺の言葉の真意を怯え測っていた。

 

…やっちまったか。なんで俺はまたこんな事を。

だが、そうだな。久しぶりにやる気が出てきた。コーヒーをひたすら開け続けるのも飽きてきたからな。

手に持っていた缶を机の上に乗せ肺に溜まっていた空気を吐き出す。

 

「今からこの部門の最高責任者は俺だ。ついでにチーフも俺だ」

 

紫色の衣を着た彼らの怯えを帯びている視線を一つ一つ睨みつけそう宣言する。

 

「その腕につけたゴミを捨てて俺に従え」

 

数千ループ越しにようやく俺は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

「この部門に収容されてんのは"雪の女王"、"胎児"、"規制済み"、"歌う機械"…。入ってる幻想体の割に人選が意味不明だな?規制済み作業できる奴いない上に戦闘力カスな奴しかいねえじゃねえかよ」

 

とりあえず元チーフのくせに全体的に能力値が貧弱な奴にクリフォト暴走が掛かっている歌う機械に作業を行わせどかりとソファに大股で座る。各職員の能力値が登録されている評価シートとにらめっこするがどうにもどうしようもない連中しかいないようだ。

 

最高でもランクIV(4)。いやこれが使いやすいランクIVならマシなんだがどいつもこいつも正義だけVで他全部IIだったり一点特化の職員しかいない。いや一人二人がこれならまだ適材適所できるが全員がこれだと普通に困る。ワンチャン作業で死ぬしな。この辺本能作業できるやつがいないせいか全然勇気育ってないし。しかもこいつらの持ってる武器防具【悲鳴】とか【氷の欠片】とか【夢中】とか…舐めてる?せめてランクIVならもっと強い物つけてほしかったぞ管理人…!

 

「とりあえず慎重そうなお前は別部門まで走って"クモ"に本能作業だ。間違えても床に居るちっちぇえの踏みつぶすなよ。その隣のお前は"雪の女王"に慎重作業だ。頬に氷付いてるならお前作業経験あるんだろ?一番弱いお前はずっと女王の作業室の前に居ろ。こいつが戻ってこなかったら俺に伝えるのがお前の仕事だ。勇気ランク馬鹿低いお前は間違っても作業室に入るなよ?元チーフのお前も同じ仕事だ」

 

職務規程違反で処分されるのでは?と問われるが知るかよんなもん。今日が駄目でも何度も日にち跨いで繰り返せば管理人も察するんじゃない?もしかしたらフィルター越しにこの状況見てるのかもしれないしな。

 

最高効率で作業を進めるためにプロットを考えつつ人の死骸の山で作られた防具を身に纏う。俺にしては本当に珍しいが最高効率で作業を進める以上俺がサボるわけにはいかない。かつて見ただけで即死したあの恐怖そのものに対面すべく扉を開け廊下に出る。

 

「"愛をください"対策でメインルームにはいるなよ。後基本的に試練が始まったら団体行動しろ。もちろんオフィサーも含めてな。ついでに胎児の収容室に入ろうとする奴がいたら俺が代わりに作業するから俺に伝えろ」

 

そう言いつけ彼らの言葉も待たず自動扉を手動で閉める。ガキンと歪な音を立てて閉まった扉を背に紫色の煤汚れた壁を通り抜けた。

数秒もしないうちに作業室にたどり着き作業室の扉に手をかけ開く。"規制済み"を見ると大抵の奴は発狂してカウントをバカスカ下げて脱走させちまうらしいが認識崩壊に対して最高レベルの抵抗力を持っていたらしいどっかの職員でも耐えられるレベル。俺が耐えられない由が無い。

 

入室した途端ぞわりと来る不快感。人間強度が限界突破している俺ですら感じる僅かな恐怖心。

そいつを洞察し続けるのは一般職員ではかなりの苦痛だろうと他人事のように思う。残念ながら情報チームにはランクV職員がいないので俺以外がここに入るとその時点でほぼ発狂だ。

 

菴薙?̷̥̱̜͓͍̰̣̖̖͖̥̒͑̐̏͊̔́̑͑̎̉?̷̦̪̰̖͔͚̗̳́̏̌̓̑̑̚ͅ逕溘?҈̖͓͉͓̪͈̾̋̃͑̽̅̚̚縲̴́̇?҉̰̪͔̲̲̙̲̍̐̍̆̽̒́̑̓̌?̴̮̥̞͕̤͍̟̘̳͈̿̃̄͑͊́̎̄̅驛ィ?̴̜̰̤̞̭͒̋͛̀̽̎̋́莠コ髢

 

 

「…近づくんじゃねえ気持ち悪い」

 

寄生しようとしてくるゴミの腕とも呼べぬなにかを蹴飛ばし洞察作業を続ける。こいつは何の条件か知らんが相応しいと判断した職員を宿主としようとしてくることがある。そんな条件ゲームじゃ管理方法に記載されてなかったがストーリー内には一応匂わされている。時々俺が管理人だった時の記憶と噛み合わないのはバックストーリーのせいだろうな。ここじゃバックストーリーも現実だし現実的に考えて意味不明なボタンも健在。当たり前だが。

 

そんな事を考えているうちに作業は終わり扉を開き外に出る。

 

情報チームの部門内に赤子の鳴き声が鳴り響いていた。

 

「…まあ一回じゃクリアできないか。そりゃそうだよな」

 

たぶん見張りの職員は殺処分されたんだろうさ。

ちょうど、俺の記憶じゃたしかランクVだったはずの職員が泣きながらその施設内に入っていくところだった。

 

時間はまた逆行する。

 

 

 

 

 

「活動範囲この部門だけじゃ駄目だな。手足にするのはこの部門だけでいいが試練をさっさとクリアしないと団子でいつの間にか壊滅してやがる」

 

とりあえず、ずっと情報チームを顎で使っていたらそのうち命令違反をしても処刑されなくなったので胎児のクリフォト暴走問題はクリア。作業成功率もほぼ百パーだからな俺。

 

普通ならセフィラコア抑制中に発生する試練は二つ。黎明と白昼なら俺がいずともクリアできるはずだが運が悪いければ芋虫や石像によって大量に職員が踏み潰されめちゃめちゃに死体がでる事になるだろう。だから取れる手段は事前にオフィサーを全員避難させとくか試練終了まで団子の前に居座って速攻殺すかの二つに一つ。

 

だがオフィサーはゲーム画面じゃなにもしてないゴミな様に見えるが、その実結構色々な作業をしているようでその業務を妨害するとその部門の停電、さらに再生リアクターが使えなくなったりと結構な弊害がある。まあそれを考慮した上で隔離させた方が良いと俺は思うがこれ以上管理人を混乱させてもあんま良くないだろう。これでダメならやぶさかでもないが。今の時点でも大分手段選んでないのにこれでまだ取捨選択できないってんならもっと暴れる他なくなるが。

 

 

 

 

 

333..1973

 

「死ねゴミが」

 

鍵爪での斬撃を放つ赤い目をした掃除屋を奥にいる他二体まとめて踊るようにダ・カーポによって斬殺し刃に付いた血糊を遠心力で引き剥がす。

その衝撃で掃除屋の背に掛かっている赤いボンベがガランと音を立てて廊下の端まで転がっていく。

 

その様子を見守ることなく次の敵対個体のいる現場まで急行しまたも惨殺。無駄にしぶといこいつらの液体状の肉体を完全に原型がなくなるまでぐちゃぐちゃにし、被害が出る前にまた次の現場へ。

 

上層のコア抑制において最低通過しなければならない試練は2つ。順調にエネルギーが溜まっているならば、白昼の試練が起こったという事それすなわちもう終わりは近いはずだ。

 

と考えた瞬間汽笛が施設内に鳴り響き俺のいる場所を含めたメインルームに向かって電車が爆走し駆け抜けていく。若干の痛みを感じる暇もなく施設中に非常事態レベル2の警報が鳴りさらに死体の山が動き出す。

 

クソが。忘れてたな管理人…。

 

その思考を置き去りにまたも時間は逆行していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オリヴァーさん!胎児と規制済みにクリフォト暴走が来ました!ど、どうすれば…」

 

「チッ、俺しか安定しない幻想体が両方来やがったか。なら自体が収束するまで周囲の職員をここから遠ざけろ。言われずともわかってると思うがオフィサーもだ。多少停電しようが再生リアクター止まろうがどうにかなるだろ」

 

時間的拘束が短い胎児を先に処理してからPE-BOX量の多い規制済みに、だな。それに規制済みのクリフォトカウンター0になっても周囲にカスがいなけりゃ痛くも怖くもなんともないゴミになり下がるしな。

 

 

 

 

 

「そこのお前。お前の今日の仕事はずっと列車の切符を切り続ける事だ。いいな?」

 

「え?!いやしかし管理人からはそんな事、」

 

「黙れ。指示を待つばかりで脳みそを回転させないゴミが口答えをするな」

 

「それがここのルールなんですが…」

 

知るかんなもん。今日は俺がルールなんだから元より関係ねえよ。

 

 

 

 

 

 

GAAAaAaAAAAAaaAAA!!!!!

 

 

「もう二つ目じゃねえか。俺が作業してる合間を縫って脱走しやがってなあ…!死ねやボケぇ!!!」

 

俺らの同僚で築かれた圧倒的な質量が俺を潰しその肉を喰らおうと迫りくる。それに対し俺は両手でその柄を握り赤い刃でもって切り裂こうと腰を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に…疲れたな」

 

疲労などとっくに残っていないはずだがソファに座るその姿はまるで連勤疲れのサラリーマンの様。当然精神も超人のそれになっているはずだが、そもそもの話能力値が高ければ完璧に成れるわけではない事は幾度のループに擦れてやる気を失ってしまった俺を見れば明らかだ。

 

現在白昼の試練を終え極力不確定要素を取り除き安定した作業のみの実施をしている。もうクリフォト暴走も起こらないので管理人が罪善かなんかで全部の作業がどれに入れ替わっているか確認して順次作業していけばクリアになる、はずだ。

 

列車に永遠と切符を渡し続ける窓際職員も作ったしギフト渡されても能力発動しない能力値の職員に歌う機械の本能作業をクリフォト暴走の度にさせたし団子は出るたび殺して胎児は一番作業成功率の高い俺が直々に作業したし試練は速攻で片したしスラカスに専用職員付けたし…。

 

これでダメならまた諦めるか。

 

俺が尽力したおかげで良くなった部分もあるだろうが俺の存在がノイズになっていた場面もあるだろう。それに一番は管理人の力だけで50日を超える事だしな。それが正史なわけだし。…それがいつまでもできないから俺はいつまでも囚われたままなんだが。

 

それにどうせ俺は諦めが悪い。このループがダメでも今回の管理人が諦めても数千、数万ループ越しまた一念発起してまた施設中をかけずり回るんだろうからな。どうせ遅かれ早かれさ。

 

だが、今回は流石にクリアしてほしいもんだな。

 

疲れに頭をやられた俺はその顔を天井に向けぼーっと口を開けたままよしなしごとも考えずひたすらに無言でソファに腰掛ける。

 

 

 

 

"そうか... 私には才能が無かったんだ..."

 

 

「…ようやくかよ」

 

聞きなれたそのセリフ。だが今回だけは酷く俺の心を満たし始める。

 

時間はようやく進みだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日にちが進み、抑制の恩恵である移動速度強化のおかげか幾分と職員の足取りが軽く見える。報酬LOBが増えるのでこれからはさらに職員の強化をしやすくなるだろう。

だから何だという話ではあるが。

 

前日、あれだけ熱い決意と行動をしていたというのに今日の俺は前と同じく、それ以上に怠惰に死にかけのセミよろしく柔らかいソファに横たわってせかせかと動く同僚たちを尻目に眠気と現実の間を反復横跳びしてた。

 

昨日激しく動き回った分、今日はいつも以上に動きたくねえなあ。コーヒーとかエンケファリンとかを摂取したいと思えるほどの行動力も沸いてこないし。だれか自販機から缶コーヒー出して俺に渡してくんないかなあ。

 

ふと俺が常飲しているコーヒーの柄が目の前に現れる。遂に超能力にも目覚めたかと思ったがよく見ると缶を握っているのは黒い機械のような腕だった。

 

「昨日は随分と働いていましたね」

 

「…マルクトか」

 

我が上司マルクトがそこに立っていた。

 

缶を渡してきているので素直にそれを受け取り横向きにソファに倒れ伏しながら蓋を開け飲もうとする。

 

「…汚いですよ。ちゃんと起きて飲んでください」

 

「今日は体の筋一本も動かせる気がしねえよ。燃え尽き症候群て奴かもな」

 

ぼろぼろと茶色の依存物質を口や缶の中から垂れ流しつつ我ながら器用に言葉を話す。口に飲料を含みながら話すってのはこれが意外と難しい。スキルが無い奴は大抵がらがらしちゃうからなあ。

 

「そうですか。なら少し私と同じかもしれませんね」

 

「ああ?」

 

ここ最近のループでは聞いたことのない内容に眉を顰める俺に対しマルクトはガシャリとその体をソファの空いたスペースに移動させ座る。俺はソファの座高が少し沈むのを感じた。

 

「私は、いつも躍起になっていたんです。時にアインさんの研究を手伝う事に。時にその成果を出しアインさんに"見て"もらう事に。時に管理人の邪魔をする事に」

「でも、私にはその才能がなかった。熱意だけが先行してもどうにもならなかった。自分の能力さえ把握できていなかった私は向かうべき道さえ分からなくなっていたんです」

 

「知ってるよ。お前がクリフォト暴走レベル6に到達したときにクソでかい声で諦めの辞世の句を詠んでいたの聞こえてたからな」

 

「改めてそう言われると恥ずかしいですけど、それをようやく理解した私は…そうですね、燃え尽き症候群にいるのかもしれません」

 

暴走前と比べ幾分か落ち着いたような口調。いや実際落ち着いているのだろう。欲に先走って自分の部門だけで試練を突破しようとしたセフィラはこの場にいなかった。

 

「だから管理人に押し付けちゃいました。私の苦しみと痛さを。彼が超えるべき痛さはかつて私に下したもので、とっくに私は受け入れたものだから。彼だけが受け入れずうじうじするのはずるいですよね?」

 

…何を言っているか八割方わからなかったが、まあつまり職員の死とか後悔とか懺悔とかワイらが向き合ってきたことを手前が逃げてどうする!逃げるな!ってことだろうな。たぶん。

 

「正直言って、貴方が少し羨ましかったんです」

 

「…んん?俺が?」

 

「いつも私を困らせてくる貴方のその態度。真っ直ぐと立てる意思が在ると言うのに全てを諦めているかのような怠惰で傍若無人なその在り方。そしてそれが通用する力。…熱意に身を焼かれた私に足りないものだったのはそれだったんです」

 

少し体を翻し俺の頭側で細い脚を地につけ心なしか俯いているような体と顔面。表情のない顔をいくら見てもそれが冗談かわからない。

 

「だから私より見えているモノが多い貴方には管理人と同じくらい苦しんでほしいんです。…頑張ってほしいんです」

 

丸くオレンジ色に輝いた瞳で俺を覗きながらそんな言葉を若干の雑音と共に体のどこかについているスピーカーから口に出す。表情の顔からでもその言葉が真意だという事は俺でも理解できる。

 

だが。

 

「ねえよ。今日で俺はまた何もしなくなるだろうさ」

 

この程度で50日を超えられるなら。俺はまだ諦めていないかったろうさ。

 

マルクトが去った後も、俺はソファに横たわり続けていた。

 

 

 

 

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