管理人、職員に転生   作:ナチュラル7l72

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春休みも終わってしまった...


YESOD

イェソドと会話した記憶はほとんど残っていない。

 

というのも彼のセフィラは職員との交流を酷く嫌っているからだ。

いや、嫌っているというよりその戒めを強く自己暗示しているからというべきか。

 

管理人にとって職員は手足だが、彼らセフィラにとっては良くも悪くもダイナマイトのようなものだ。

自らに与えられた部門のセフィラとしての仕事を全うするのに必要な物資ではあるがいつか爆発して施設に損害を与えるかもしれない危険物質でもある。

 

俺がマルクトのコア抑制中、情報チームのメンバーをこき使い明らかに規則に反した行動をしたその時にもイェソドは何も言わず関わろうとしなかった。だが別に何も思っていなかったわけではなくその鬱憤はおそらく管理人に向かったんだろう。イェソド目線だと大暴れする俺の行動に何も言わなかった無能管理人だっただろうからな。

 

ネツァクも同じく自分の部門の職員と会話を全くしないセフィラだがその方向性はまるで違う。

そんな()と交流を図るのはセフィラの立場を考えれば正気じゃない。交流は情を生じさせ立場を忘れさせる毒。

過去の過ちの因果をソレだと断じたイェソドはさらに深くまで自らを覆っていった。

 

 

ガブリエルは絶望の原因を"規則に反したから"だとわかりやすく、安直で、客観的に見ても正しい結論にたどり着いた。

そのわかりやすい原因は愚直なまでにガブリエルを脅迫し、腐食させ、そして…

 

俺が管理人だった時、その辺りのバックグラウンドを聞いて思ったことは特になかった。所詮ゲームの設定だったからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

セフィラ崩壊によるクリファ顕現

セフィラコアの抑制が必要

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報チームの毒蛇が崩壊したらしいぜ?」

 

「その割にあんま変わんないよな。マルクトさんのときとは違って管理人とも通信繋がるし」

 

「これを機に処分してくんねーかなー」

 

警戒音が鳴り響きランプが赤く光る中暇つぶしにエビ共からジュースを攫おうと廊下を渡っている途中、オレンジ色のワッペンを肩に着けた教育チームの職員が会話していた。

 

まあ確かにあいつらの会話の通り今のところ変わった様子はない。マルクト戦と違いわかりやすく異常が出ているわけではないことは確かだ。

だがどうにもエネルギー効率が悪い。見る限りではあるが行われている作業の数に対するエネルギー獲得量が常時と比べかなり悪い。

理由は明解、リスクレベルの低い作業ばかりが行われているからだ。罪善やエビ、ババアのようなどの作業、どんなステータスの職員がやってもリスクの低い幻想体ばかりが作業されている。

 

だから当然の事ながらまったくエネルギーが溜まっていない状態でクリフォト暴走はやってくる。

 

「おいっ!蜘蛛の作業をしに行ったロンドンがずっと帰ってこないぞ!」

 

「何かあったんじゃないか…?」

 

ジュースの蓋を開けて匂いや色を確認するとそれの中身はオレンジジュースのようだ。それをグビグビ飲みつつメインルームに戻る。

ドスンといつものソファに腰掛けて尻を落ち着けているとそんな声が聞こえてくる。

 

(非脱走なんだからほっときゃいいのに)

と今管理人の愚痴を思うのは元管理人だった時の癖だ。こればっかりはループし始めの頃からまるで変わっていないな。俺が管理人だった時の生活や親の事とかはもうまるで思い出せないがその業務だけは未だに頭にこびりついているのはロボトミーやってる時が余程楽しかったからか。それともこのループの中で精神を壊さないためにやってる無意識の行為なのか。

 

管理人にはきっと見えているはずだ。自らのミスでぐるぐる巻にされた俺の同僚の姿が。

その事実さえも伝えられていない仲間たちはメインルームを駆けだしていく。俺はそれをソファに腰掛けながら眺めていた。

 

 

 

 

システム初期化…

 

 

 

 

 

TT2加速…

 

 

 

 

 

TT2復元確認

 

 

 

 

 

一幕の暗転、そして目を開ければまたいつもの天井が広がっていた。ソファの背に頭の後ろを付けていたので顎を引きメインルームを見渡せば彼のロンドンなる職員が何事もなかったかのように遠くの方で煙管にてタバコを吸っていた。その代わりさっきまで俺の口に広がっていた安っぽいオレンジ味が後味もろとも消え去っているが。

 

イェソド戦は暗記力、もしくは管理人としての練度が必要なコア抑制だ。情報チームのセフィラであるイェソドは自分に与えられている権限を乱用しまくり管理人が映像として見ている情報UIの解像度を落としたりピクセル化させてくる。幻想体の情報はもちろん、職員の性能、クリフォト暴走が進めば画面が色褪せさらに見にくくなっていく。

必要な技量として前者は言わずもがな、後者が有れば暗記せずともなんとなくでどの作業、どのステータスの奴は作業させちゃ駄目だ、ってのがなんとなくわかってくる。少なくとも蜘蛛に作業して死なせるような指示を出した管理人にはどちらもないようだが。

 

だがそれもまあ仕方ないだろう。プレイヤーと違い管理人は心が折れる毎に記憶が初期化されるし業務を楽しんでいる俺らと違い文字通り死ぬ気で与えられている役に徹している管理人にそんな情緒は沸いていないだろう。それこそ時々面白い殺し方をしてるアブノーマリティを見て笑みを浮かべる俺らと違って。

 

クリフォト暴走が起こったであろう警戒音がフロア全体に鳴り響きまたも誰かがメインルームから出て作業室に向かっていく。

「非脱走の奴は覚えるまで作業しないのが吉だ」

手元にあった無線に一報だけいれソファに寝転がる。けたたましい警戒音が鼓膜を揺らすが数秒で意識は暗闇に落ちていった。

 

 

 

 

システム初期化…

 

 

 

 

 

TT2加速…

 

 

 

 

 

TT2復元確認

 

 

 

 

ループものあるある。暇つぶしの仕方がだいたい猟奇的。

自認だが俺の暇つぶしはそれに該当しないと思っている。最近の暇つぶしは幻想体共が所持している武器を奪って自分でも使えるのか試すことだ。抽出したものより強いこともあれば弱いこともある。そもそも使えないこともあったりその違いを楽しむわけだが幻想体から武器を奪うと大抵青筋ブっちして襲い掛かってくるのだが倒さない程度に殴り倒して気絶させると武器持ってた武器は消滅しないで残存してくれる。そうなったらあとは使いたい放題やり放題。

今のところ一番使い勝手が良かったのは赤ずきんの傭兵の拳銃だな。職員が持っているモノより少し巨大で威力が高い。手斧は俺が殴った方が切り裂くより早いし重いから論外だが、拳銃は俺が殴れる範囲の外の敵も攻撃出来てそこそこ火力があるから好印象だ。走って近づいてから殴れば同じだけど。

今日は魔弾の射手のあのでかい銃を、と腰を上げる。

 

『愛をください』

 

「ぃ…ったあ…」

 

紫色に光る石碑が俺を押しつぶす。そいつを押しのけ床と石碑の間から抜け出そうとすると石碑のひび割れの間から生えた鋭利な触手が切りかかってくる。

妙にメインルームに職員がいないと思ったら、なるほどそういうね。

 

「言ってくれたら退避しろくらいは言ったんだがな」

 

音符の様な鎌を出しオフィサーの血で濡れた石碑をなぞるように刃を振るう。床はグラグラと揺れだし誰かの叫び声が聞こえてくる。死体を匂いを貪欲に嗅ぎ出す幻想体が目覚めたのだろうか。

せっかく白昼まで来たんだから是非とも突破してほしいもんだが。

 

 

 

 

システム初期化…

 

 

 

 

 

TT2加速…

 

 

 

 

 

TT2復元確認

 

 

 

 

「…まあ、俺が管理人だった時はズル(wiki)使ったからな」

 

だから一旦記憶貯蔵庫使ってリスポーン地点まで戻ってそっから頑張ってメモしていけば、いやそれだとマルクト戦ごと消えるか?いや俺ん時は保存されてたが…というか今日は諦めて次の日に抑制回せばいいだけじゃね?それともセフィラコア抑制の発生日もこっちだと操作できないのか?クソ、管理人が阿保丸出しなのか俺ん時と違うからか、状況がまるでわからないな。それはずっと前からではあるが今こうして気にしてみるとその辺の事情がまるでわからない。

 

今までは時々頑張って見て、結局ダメで、諦めて無気力になって、時々頑張って...のループだったからな。俺が管理人だった時と違うかもしれない。その可能性に気付けなかった。

 

「けどそれも結局、無駄だと思ってどうでもよかったからなんだが」

 

だが今は違う。少なくとも今は、少しは進んでほしいもんだと思ってない事も無い。無い。

 

「ズルを使った身として、少しは手伝うか」

 

まそれもマルクト戦よりかは自分の力でがんばってもらうが。

 

「おい」

 

セフィラ暴走中にのんきに会話を交わしている男二人の肩に手を置き後ろから声をかける。この二人は俺がマルクト抑制中にこき使った同部門の職員なので話は早い。

 

「ちょっと手え貸せよ」

 

肩をちょっと揉んだだけのつもりだったのだが、酷く顔が歪んで引きつっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"何も見えていなかったのは私だったのですね..."

 

 

 

突然その言葉が脳内で響き渡る。指示を終えてやることのなくなった俺は起き上がり周りを見渡す。警戒度合を示すファンファーレもなくなり同僚たちが思い思いに過ごしていた。抑制が終わったという事だろう。寝てからというもの今に至るまで起きていないからこの一日で勝負をつけたようだ。

 

作業をミスると一発アウトの幻想体の前で待機させてそれの作業に来た奴に正しい作業法を確認させる。それを同じチームの同僚達と協力して行ってそれでも収容違反したら俺がボコりに行く。そのローテーションを白昼まで組んで勝ちを確定した俺はソファで船を漕いでいた。

安定して作業できる幻想体がいた事が時短になったんだろう。俺の予想ならもう数回ループを挟むものかと思っていたが意外とどうにかなったな。まあクリフォト暴走どうにかできれば理論上罪善を永久に回し続けていつかはクリアできるからな。中層まで開いてるからそこそこ大変だった。

 

見ての通り俺はあまり行動をしていない。マルクト戦の時も思ったがここで躓いてしまっては話にならないのだ。この後今回とは比にならないくらいムズイ試練がやってくる。希望なんて擦り切れているが、それでも俺は期待を捨てきれていなかった。

 

 

 

人間というのは普通7時間くらいしか眠れないらしい。九時間も十時間も寝るのがおかしいのではなくおかしいからそれだけ長時間睡眠をしてしまうとバイト生活に明け暮れていた時に聞いた気がする。

少しも寝つけず夜更かしして迎えた次の日。眠いような眠くないような眠気を携えて暇つぶしに適当な幻想体の作業に向かう。いつも作業は種類問わず雑に済ましているが臨界突破した自制力なら余裕でにこちゃんマークだ。

 

だがその企みは暗紫色のテープでぐるぐる巻きされた立方体に阻まれる。

 

「どこに行く気ですか。貴方に命令は下っていませんが」

 

「ああ…」

 

そういや、俺まだ情報チームに在籍中だったな。

メインルームの扉の前、そこにはガリと頭をかき(めんどくさ...)という雰囲気を隠さず垂れ流す俺と需要の無い男委員長キャラのような性格のセフィラが対面していた。

 

「暇を潰しに行くだけだよ」

 

「基本的にあなた方職員は自由行動が許されていません。持ち場に戻ってください」

 

「見逃してくれよ。お前が皆に嫌われても俺だけは仲良くしてあげるからさ...。」

 

ピクリと組んでいた腕が少し動く。ロボットのクセに人間らしい無意識の体の反応が備わっているのはバグかなにかだろうか。デリカシーの無い冗談に不快感でも感じているんだろう。

 

「…何故それを貴方が?」

 

「あん?」

 

嫌味だけ言ってさっさと場を離れようとする俺に抑揚のない声で問うてくる。

その反応に俺は少し困惑していた。なぜなら俺の経験則では嫌味を言われたイェソドはここで引くはずだったからだ。

 

「その出来事は管理人が着任する前、施設の準備期間に起こった出来事です。貴方は管理人の着任した後に雇用されたはずでは?」

 

「さあ、いつ聞いたか俺も忘れたよ。そんなどうでもいいこと」

 

「どうでもいいこと、ですか。確かにどうでもいいことなのかもしれませんね。貴方のその堕落を体現したかのような性格からしてみれば」

 

随分機嫌が悪そうだな。俺が知っているイェソドよりも悪口を言う口が軽い気がするのは気のせいか?

それとそういえば俺の、セーブ地点?みたいなものが最低でも一日目からだから管理人が来る前のロボトミー社を知らないんだよな。ベンジャミンが必死に逃げ回ってた時のことも知らないしな。

 

「虫の居所が悪いわけではありませんよ。むしろ機嫌は良い方です。悪かったら貴方とこうして会話することなどありようがないですからね」

 

「俺ら職員からじゃ実感ないが随分大暴れしていたみたいだからな。珍しく管理人が頑張って指示だししていたのを聞いてたよ」

 

「珍しいのは貴方の方では?」

 

自分で自覚できるくらいに普段と大違いな行動ぶりだと自覚はしている。

 

「本当にイラつきましたよ。普段は職務放棄している貴方がこの時ばかりは真面目に解決に取り掛かるのは」

 

「さっき機嫌良いとか言ってなかった?ご機嫌斜めだろお前」

 

その時はの話です。今は特に貴方に負の感情は抱いていません。そう前置きを置いてようやく本題を話しだす。

 

「規則も指示も命令も守らない。その貴方が何故状況を好転させられているのか私には理解できません。いえ、というより受け入れがたいと言った方が正しいですね」

 

そりゃそうだろうな。記憶している限りこいつと仲良く会話できた試しがない。規律を重んじるこいつと色々適当な俺。本質的に性根が合わないのだろう。

 

「規律の一つも守らない貴方を見て虫唾が走るのと同時に私は悟りました。規則は正しい道へと導くが、正しい事を成すには規則を守る事に収着してばかりではいけないという事を」

「理性的に考えていた私が一番理性的でなかった。絶望する(いとま)さえなかった私には何も見えていなかったみたいです」

 

 

 

「そうかよ」

 

俺の対面にいるのは鋼鉄でつくられたロボットだ。まるでうごかないその表情からではイェソドの中身がどれほど腐蝕しているか俺にはまるでわからない。それにもう俺は同情する段階を過ぎ去り飽きている。こいつが絶望する暇がないのなら俺は飽きてしまう暇しかなかった。

 

「…それだけです。いつ見ても絶望している貴方に伝えたかったのはそれだけですよ」

 

組んでいた腕を下ろし俺に背を向けどこかに去っていく。結局何をしにきたのかよくわからなかったが、暇つぶしをする気が失せどうせ使わないであろう無線を外す。

壁を背に目をつぶれば飛ばしたはずの眠気がまた俺を襲い、意識が暗闇に落ちていく。

 

絶望しているのなら狂気と踊ってしまえばいいのに。いつまでも変わらない情景を瞳から締め出した。

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