管理人、職員に転生   作:ナチュラル7l72

8 / 10
積み作品多すぎる。その代表作がこれ


NETZACH

この会社じゃ娯楽なんてものはほとんどない。

ビールや麻薬、コーヒーはあるが、逆に言えばそれしかない。人によってはアブノーマリティの管理を犬か猫の世話かなんかだと勘違いしているのか、業務が楽しいと言い仕事を趣味にしている奴もいるが残念ながら俺にはバケモン相手に「かわいい」と趣ある心情を出せる気がしない。

 

だから俺の暇つぶしは寝るか快楽物質に手を出すかに限られる。そのうちの一つが酒を呑む事だった。

 

「…ああ、オリヴァーか。最近会話しなくちゃいけなくなった管理人かと思ったよ。…っヒク」

 

セフィラの仕事を意図的にサボるネツァクは彼らセフィラの中でかなり嫌われていた。上層のはケセドとかと違って真面目な奴ばっかだからな。

他のセフィラの我が強すぎて相対的に嫌われ度は下がっているがティファレトに「廃棄してくれ」と言われるぐらいには嫌われていた。

 

そんな感じで大勢に嫌われているネツァクだが俺と彼の仲はそんなに悪くなかったと思う。イェソドと俺は頗る険悪だが、それと反比例するようにネツァクとはそこそこ仲が良かった。

ネツァクから酒を渡され、その缶のフタを押し込む。金属の擦れる音と炭酸独特の音が混ざりカシュと聞き心地の良い音が響いた。

俺から渡せるような物は何もなかったがそれなりに口上手だった俺は適当に話題を出しその日の終わり、はたまた施設の崩壊まで微睡ながら会話を続ける。

 

「管理人はどんな奴なんだ?俺は無線越しでしか声を聞かないが」

 

「…さあ?俺もよくわからないよ。…俺の方から嫌ってるからな。この地獄を運営している奴がまともだと思うか?」

 

ネツァクはその部門の職員とほとんど会話をしない。いつも草臥れたような顔で何も喋らず、その体は自分で手入れをしていないのかいつも煤汚れて黒ずんでいる。時々緑色の何かが付着していることもあった。

周囲はネツァクを嫌っているがそれはネツァクが周囲を遠ざけているからこそともいえる話だ。まったく想像つかないがネツァクが愛想よく「今日も一日頑張ろうぜっ」とか言うやつならここまで嫌われていないだろう。

 

そんな無愛想なネツァクが、何故俺とは会話を交わしているのだろうか。

 

これまでその理由をほとんど考えてこなかったが今思えば俺がどんな事があろうとも確実に死なないと思えるぐらい、強かったからだろう。

 

「本当はこんな所、絶対に安全になれない」

 

ネツァクが俺の前で気分の悪そうな声音を出しながらそう言ったのはそれきりだ。

せっかくの酒の場を汚くしたくなかった故。俺もそれがわかっていたためにそれ関連の話題を出すことはそれきり避けていた。

 

ネツァクは何もかもを投げ出したかった。誰かの命を預かる事もその責任を背負う事も生き続ける事も。

 

それに対し「逃げるなこの卑怯者!」とか責任逃れを追及するような心情は沸かなかった。だってそれってかなり普通の事だろ?誰かの命を~を抜きにすりゃ中間管理職のおっさんが考えそうな事とだいたい一緒だ。

だから俺はこんな狂った世界にいるにもかかわらず未だ普通の苦悩を背負い続けるネツァクに小さいながらも同情を抱いているんだろう。時間に圧殺されて無理やり狂気に慣れさせられた俺と違って、ってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

セフィラ崩壊によるクリファ顕現

セフィラコアの抑制が必要

WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING WARNING

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うううぅ、血が止まらねえ。なんでリアクターが停まっているんだよぉ...」

 

「オフィサー共てめえらちゃんと仕事してんのか!!」

 

「わ、私たちのせいじゃないわよ…回復システムが誰かに乗っ取られているらしくて…」

 

ならこいつ(オフィサー)らいよいよ本当にお荷物にしかならねえな。仕事しなくても業務に致命的な被害出るわけでもないらしいし頼むから引きこもっててほしいんだが。

 

倦怠感がようやく体から抜け出し返事に答える位は難なくできるようになった俺はコントロールチームのメインルームに置いてある何時ものソファに腰掛け耳に痛い警戒音を発し続けるスピーカーを呆けて眺める。

 

ネツァクのセフィラコア抑制と言えば…回復できなくなるやつか。

再生リアクターは勿論、HP、MP回復弾も撃つだけ意味ないし列車は収容するだけリスクを孕むだけの置き物と化しハートの粘液は周りに粘液を振りまくだけのゴミになるし樹液はマジのゴミになる。素からではあったが。

 

だが逆に言えばそれだけだ。アンジェラの計らいかは知らんが暴走入るたびに全回復するしな。試練を与えてくるセフィラ共の中じゃあかなり簡単な部類だ。まあ本領を発揮してくるのはもうちょい後なんだが。

 

だがその事を把握せずポコジャカと職員を酷使し続けたらいつの間にか死んでた。みたいな事態にときたまなるのもまた事実。初見の時は死体の山に連続で作業させたら負傷+作業ダメージによる死亡でクリフォトカウンター減少をツーパン喰らって速攻壊滅したっけ。

だから初見で突破できるとはまったく思ってないが、まあマルクトん時よりかは時間かからず、俺の手もいらずにクリアできるだろうな。マルクト戦じゃ最高装備がWAWとかで弱すぎだったし。

 

「そういや、なんでどっかのセフィラが崩壊したら他のセフィラ共って職員の死亡とかパニックとか幻想体の脱走を誰も伝えてくんないんだ?お前らが急に無口になるせいでセフィラコア抑制が難化してるんだが?」

 

「何故一介の職員である貴方がそれを知っているのかは疑問ですが、セフィラはみな同等級の権限を持っているので一人が暴走すると一気に機能を奪われちゃうんですよ」

 

欠陥システムすぎないか?まあそれもアインさんの台本通りなんだろうけど。古びたバインダーを片手にガシャガシャと細い手足を動かしてメインルームを行ったり来たりするマルクトに疑問を投げれば帰ってくるはなんともふざけた回答。アインはマゾ寄りなのか?カルメンのあの受動的な性格的にも拗れててSの方向だと思ったんだが。

 

「貴方も今日ぐらい働いたらどうですか?どうせ傷つけようにも微々たる軽傷しか負わないんでしょう」

 

よれよれのスーツから適当な防具に履き替えていると後ろのマルクトからセフィラとしてはあり得ない発言が飛んでくる。

 

「俺は管理人になんにも指示されてないぜ」

 

「そうですね。指示されてないことを勝手にやるような人じゃないですよねー」

 

なんか抑制前と比べて抑制後のこいつ、なんか態度が砕けて不遜になるな…。話しやすいから別にいいが。

 

「んじゃま、指示されてない事を勝手にやらせてもらいますか」

 

いつも通りな。

 

 

 

 

 

そういうわけで適当に廊下をぶらついているわけだがすれ違う職員の腕や腹や足に包帯がちらほらと見える。いつもならリアクターの回復に任せていれば流れ出る血は自然に収まり傷も閉じていくが今回はそうはいかない。作業するだけでも怪我をする職場だ。回復リアクターなんて便利なものがなければ傷だらけになるのは想像に難くない。そしてそれが現実になったってわけだな。

上層程度の抑制で何故こんなに苦戦しているのか。それはひとえに装備不足故だ。マルクトの時は本当に酷かった。一番強くてWAWって…舐めすぎな上に管理人はその状態で挑戦しすぎだ。もう少し装備を整えてから挑んでりゃ簡単だろうに。

マルクト戦を最初に突破したこともあってこの時期になれば流石にALEPH装備の一つや二つはあるしV職員もいるがそれでも雑多が多すぎ犠牲が多すぎ。そのくせ少し死人が出たらすぐにやり直すせいで展開の進みがかなり遅い。ならセフィラコア抑制をもっと後ろ倒しして装備を…と文句は無限に出てくるがこの際それはいい。

 

依然として命令違反だけど俺にしては珍しく自主的にセフィラコア抑制に向け動いている。割と最近のトレンドではあるが、こうも自分で動く訳は単純で娯楽が減るのが嫌なだけだ。ネツァクとは今周、そこそこ良い関係を気づけているが毎回がこうなわけではない。そもそもネツァクとまったく知り合わないこともあるしネツァク側が拒絶する場合もある。ネツァクも自覚してるだろうが捻くれている俺らがそうも毎回仲がいいわけがない。

ないとは思うがここで詰まって一からやり直しする可能性も無いわけじゃない。だからその可能性を極力ゼロに…というのも暇つぶしに対するただの動機付けでしかないんだがな。

 

"目を閉じたいよ。 一度でいいからまともに眠りたい"

 

「悪いが死ぬ覚悟より生き続ける勇気を持ってくれ」

 

愛しき人のために決めた覚悟が無為に帰した奴には言いたくないがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"息は止まってるけど、また生きられるなら..."

 

 

 

適当に誰かの殻の借り物を着て作業をする。それだけで抑制は終了した。無気力の代名詞のようなセフィラの抑制だ。苛烈な訳も無しだな。

 

まあ、抑制後からはその肩書は薄れていっているみたいだが…。

 

「…ああ。回復リアクターの改善案を提示する。アンジェラに繋いでくれ」

 

くたびれた雰囲気はそのままだが半眼の瞳が常時よりわずかではあるが見開かれている。

こびりついていた緑色の液体は消え機体部分の手入れがなされているようだ。

 

「オリヴァーか」

 

話しかけるつもりはなかったが目が合う。ネツァクの片手には書類があった。

 

「酒を飲む暇は無さそうだな」

 

「…悪いな。そのうち空いた時間を作るよ。俺もオリヴァーも、聞きたい事は積もってるだろうしな」

 

少し申し訳なさそうに声を落とし片手に持っている紙束を少し上げる。

疎外感やら閉塞感は感じない。ネツァクとは話しやすいセフィラというだけであっていつどのループでのこいつと毎回友好を結んでいるわけじゃないからな。どうせ今周もあってないようなものだ。

 

「いや、しばらくはやめておく。あん時のお前になにがあったかもだいたい知っているしな。薬のやりすぎには気を付けろよ」

 

ただしかし、結局抑制を終えたとて、管理人が諦めて別周に行ったとてあまり関係なかったな。

俺は堕落している。でも一人だと暇だからその仲間が欲しかった。

 

つまらなく、落ちぶれていて、けどそこそこ楽しかった小粋なトークはもうできない。

勤勉な奴らが多い安全チームメインルームから俺は外へ出て暗がりへと身を落とした。




なんかネツァクの試練には諸説ありますが初めから回復手段がない方向で行かせてもらいます。
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