入学式の翌日、達也と深雪は体術の先生である九重八雲の寺へ挨拶に行った。
達也の体術の基本は八雲から学んでおり、私が教えたりすることは殆ど無い。とはいえ、八雲とは関係性が全くないかと言われるとそうでもない。何処からか仕入れて来る彼の情報はある時では役に立った。彼もまた、達也の裏の顔を知っているし、私や咲那の裏も知っている。表は学生、裏はジェダイという事を。そして、八雲と道場の僧侶たちは日本に駐留するジェダイの密かな鍛錬の相手でもあった。
朝の弱い咲那は早朝に起きて行動出来ない為、穂波さんに任せて私は達也たちに同行して八雲の寺に。
僧侶たちと乱取りをする達也を見ながら終わるのを待っていると深雪の背後に気配があった。
「久しぶりだねぇ、深雪君」
「せっ、先生!?気配を殺して忍び寄らないでくださいとあれほどっ!」
「それは難しい注文だね深雪君。」
「相変わらず、忍者のような事をしていますね、八雲殿。」
「おおっ、紫音君。君も久しぶりだね。」
「分かっていた癖に白々しいね。だけど、妹を脅かそうとするのは程々にした方がいいぞ。」
「それは・・・どういうこt!?」
「少し落ち着いてください、それと深雪や紫音姉に手出ししようとしないでください師匠」
話している八雲の背後を突くように達也が振り落とした手刀は、難なく八雲に防がれたが、達也はこのまま話していては次に八雲がやろうとした行動が何故か手に取るように分かった。分かったからこそ、背後を突いたつもりだったのだ。
「やるねぇ達也君、僕の背後を取るとはっ!」
そこからは達也と八雲の組手になったが、やはり八雲の方が2段上だった。
それでも十数分も長引かせ、何度も勝ちをもぎ取ろうとした達也の持久力が先に限界となった。
「じゃあ次は紫音君もやるかい?」
「いえ、私の場合だと実戦的な組手だと対ライトセーバー戦が多い上、手持ちにライトセーバーが無く、相手が持っている又はブラスターライフルを持っている状態での戦闘方法も体得済みですので。」
ツタミニスというフォースを使ってエネルギーを吸収する技、熟練であっても習得が難しいこのフォースの技は失われた技術ともジェダイオーダーでは言われていた。だが、マスターレヴィナスが体得しており、使える事が分かるとマスターヨーダを始め複数の熟練ジェダイがこの技の習得に成功していた。
私は、マスターレヴィナスが作り出した時空間の中で何度も死にかけながら習得した。
今では起動したライトセーバーを素手で掴み撫でるような事も出来るが危険だからするなとマスターからは言われている。
「へぇ、面白い技だね。」
「マスタークラスでも習得が難しいそうで、私も習得には時間が掛かりましたよ。」
因みに私も習得したことについてはまだ習得していなかったマスターウインドゥから渋い顔をされた。
その後、学校に行き入学式の後に指定されたクラスへ・・・・
深雪は、まだ残念そうにしていたけど、こればっかりは仕方ないと割り切って昇降口で分かれてからクラスに入っていった。
カリキュラムは普通科と魔法科の2つで普通科が普通の高校で学ぶ内容、魔法科が魔法そのものを学ぶ内容となっており、それぞれ大学のような単位制になっていた。
達也は早々に席に着くと履修登録をし始めていた。
相変わらずのタイピングでしかも凄く早い。
席が達也たちとは離れてしまっているが、達也と席が近い千葉さんと柴田さんそして其処に達也のキーボードオンリー入力に驚いたのか一人の男子生徒が乱入した。西城レオンハルトと言うようだ。私は生憎席から離れているので耳を傾けながらキーボード入力で履修科目を決めていく。
履修登録の途中だが、予鈴が鳴りモニター画面にはオリエンテーリング5分前の表示が出た。
そして、一人の教師と思しき女性が教室に入った。
この学校では基本的にオンライン授業、個別指導があるのは一科生だけ。二科生の実技項目の指導は一科生に比べても遥かに少ない。魔法師不足が魔法教育者の不足を産んでいるという状況だが、信春さんに聞いた時はそんなことは無いと言っていた。
なるべく多くの生徒に個別指導がされるようにと文部省が各教員の派遣を行っていると聞いた。が、その制度は一高のみが使っていない。知らないのか、それとも意図的に使って無いのか。
「皆さん、入学おめでとう。この学校の総合カウンセラーの小野遥です。」
担任制度が無い分、第一高校はカウンセリング体制が充実しているのがセールスポイントというように、この教師も相談相手となり専門的なカウンセリングが必要な場合、それを紹介する仲介者的な役目を担っているという。
「(でも試験に落ちてからこのカウンセリングは一切使用できなくなり、直ぐに退学にさせられると元生徒副会長は言っていた。其処は一科、二科関係無いようだ。さて、どうしたものか。)」
カウンセリングを充実させていると謳っているが、恐らくその相談が必要な段階は試験に落ちて退学させられる瞬間だろう。必要な時に使えないのでは、カウンセラーの存在がよく分からなくなる。
履修登録を終えてから端末で調べられるだけの注意要項を探し、確認する。
少なくとも、オリエンテーリング時の説明や履修登録時の注意書きにも単位を落とした場合についての注意書きが一切無い。
はてどうしたものかと考えている間にオリエンテーリングは終わっていたらしい。傍に咲那が立っていた。
「姉さん、どうして朝起こしてくれなかったのですか?」
「咲那は朝が辛いでしょう?」
「むぅ~。」
「寝顔は可愛かったから堪能させてもらったよ。深雪と。」
「むぅ~、うぅ~!」
顔を紅くさせながらポカポカと力無く叩く咲那に私は自然と笑みを零していた。既に先ほどまで悩んでいた事はまた後でも考えられると隅に置いて、達也たちが工房見学に行くのに合わせて私たちも向かった。達也が時々振り向いて合流しないのか?と視線を送ってくるが、私はそちらのグループで楽しんでと視線を送った。魔法技師となる為の授業は、魔法を使った繊細な作業の繰り返しのようだったけど、見学して見た限りでは面白そうな内容だった。
食堂でお昼ご飯を食べる頃には合流して6人で8人用のテーブル席に座って食べていた。後から深雪が合流する想定で、であったのだが・・・。
「お兄様、御姉様!」
「深雪?」
少し駆け足の深雪は今まで一緒に同行していたであろう一科のグループに断りを入れて合流しようとしていた。だが、一科のグループはそんなやり取りを気に入らず水を差してきた。
「ウィードと相席なんて駄目だよ。」
「一科と二科のケジメはつけないと。」
入学して間もないというのに、彼ら一年の一科生グループは既に選民思想を持って動いているようだった。選ばれし人間だと勘違いしているのだろうか?
「・・・・・・・・」
「一科、二科とあれこれ言っているようですが、誰が何処で何を食べようと、その人の勝手では?貴方方は深雪の何ですか?深雪をあれこれ指図出来る程の位でも高いので?」
咲那から発せられたド正論に今まで粋がっていた一科生たちは、反論しようとして口を噤んでいた。言い返そうにも言い返す為の言葉を用意していなかったようだ。若しくは二科生側からの反論がある事を想定してなかったか。
「深雪、ご飯を取っておいで。私たちも食べ始めたばかりだから急がず焦らずにね。」
「はい!」
達也は立ち去ろうとしていたようだけど咲那が、あのように言って自分だけ立ち去るわけにも行かなくなったのか座ったまま黙っていた。
その後、一科生たちのグループはそのまま突っ立っていたが、他の生徒から邪魔だと言われて退散していった。
これで終わるわけも無く、例の一科生グループは下校時にも現れた。
私たちと帰りたい深雪を一科生グループは親交を深めたいからと引き留めようとしていた。
彼らからすれば深雪は高嶺の花、二科生のグループには行かせたくないというより一科生という優越感に浸る彼らからすると二科生に混ざるのは相応しくないというところだろうね。
「同じ新入生なのに、現時点でどれだけ優れているっていうのですか!」
「知りたきゃ教えてやるさ」
「面白れぇだったら教えてもらおうじゃねぇか」
売り言葉に買い言葉で挑発に乗った両者。
こうなっては双方の怒りを鎮めるのは容易じゃなかった。火中の深雪は達也に擦り寄っており、その2人を咲那が守るように立っていた。
「いいだろう、よく見るがいい。」
男子生徒は怒り任せという訳では無いようだが、腰に隠していた拳銃型CADを早撃ちの要領で抜き、照準をレオに合わせた
「これが、才能の差だ!」
魔法構築は意外と早い。させまいと拳銃型CADを掴もうとするレオと男子生徒の間に咄嗟に滑り込んだのはエリカだった。手に持った警棒でCADを弾き飛ばしたエリカは男子生徒を一睨み。
動きで分かった、エリカは武道を嗜んでいる動きだ。身のこなしからして剣術に通ずるものがある。一連の状況で私が動かなかったのは、動く必要が無かったから。
何しろ、私の場合。こういう状況でも秘策があるから。
「この間合いなら、身体を動かした方が早いよね。」
エリカの行動に助けられたレオだが、自身の手ごと引っ叩かれたかもしれない状況に抗議していた。だが、起動中のCADを素手で掴むというのは推奨しない。対応する魔法を用意した上で行動しなければ怪我をするだけだからだ。
「ちょっと出来るからって甘く見ないで!」
「身の程が過ぎるんだよ!」
だが、やられた事に怒る男子生徒・・・だけでなく、取り巻きの生徒らも次々に魔法を発動しようとした。数人一斉に発動しようという動きでは流石のエリカも手詰まりのようで、達也も自分の魔法を出すか迷っているようだった。だが、発動する直前に飛来した魔法弾によって一人の女子生徒の魔法式は吹き飛び、続いて他の生徒の魔法は発動する前に何かに破断されたかのように霧散した。
「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反以前に犯罪行為ですよ!」
女子生徒の魔法式を吹き飛ばした魔法弾の放たれた方からの響き渡る声がその後の一科生グループの動きを止めた。
既にそれなりの問題行為を働いているだけでなく、やっているのが昇降口付近である為多くの生徒の目に付いている状況だった。其処に通報を受けて駆け付けたのは入学式にも居た七草生徒会長とパンフレットにも載っていた渡辺風紀委員長が現れた。
「君らは1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞こう。だが、起動式は展開済みだ。抵抗すれば即座に魔法を放つ。」
風紀委員長の発言に一科生グループは意気消沈としたが、私としては疑問があった。
「その事情とやらは公平に耳を傾ける気はあるの?」
「当然です、そもそも魔法が放たれただろう?」
「いいえ、放つ前に無力化しています。対処していないのは魔法弾で吹き飛ばした方だけ。」
「ほう?言い訳のつもりか?」
「・・・・・・はぁ。」
この人、風紀委員長の癖に何も知らないのか?昇降口周囲に視線を向ければ何があるかで丸分かりの筈だろうに。
「なんだ、その溜息は。」
「呆れてモノが言えないのですよ。そんなんじゃ話す事も無いですね。帰るよ。」
「待て、逃がすと思うか?」
「魔法が発動したら何が起きるか知っていますか?況してや昇降口、それらのセンサーは飾りなので?」
私が指差した方にある魔法探知センサーの機器。それは、魔法が発動した瞬間を記録する機械。種類まで特定出来なくとも、この日、この時間に発動したという事を常時記録する訳だが、どういう訳か、2人の内、どちらかが飛ばした魔法はセンサーに検知されなかったようだ。
「なっ!?」
「多少の諍い、意見の行き違いはありましたが、魔法の発動は何れも寸でで抑えています。魔法の発動もありません。さて一体、何を処罰しようと?」
「では、後ろの1-Aの女子生徒は?攻撃性魔法を発動させようとしていたようだが?」
私が風紀委員長と話をする中に達也も加わった。場面としては私が背中を向けたまま話を続けるシュールな状況が続いているが。
「彼女の魔法はただの閃光魔法です。威力もかなり抑えられていました。」
「それに、発動する前に無力化すれば発動した事にはならない。」
「君は起動式が読み取れるようだな、珍しい事だが。どういうことだ?君は二科生だろう?」
「試験結果が・・・ってだけでしょう?やろうと思えば、」
そう言って、私はセンサーを無力化して生徒会長と風紀委員長の周囲に多数の起動式を展開させた。
「こんなことも出来るのですよ。まあ、発動する気も無いですがね。」
多数の円形起動式は、先ほどと同じく指を軽く鳴らしただけで霧散して消えた。
その状況に風紀委員長も生徒会長も驚愕して私を見つめて来た。
「目に見える結果が全てと考えているようじゃ魔法への理解も浅い部分で終わってしまうものですよ。」
「まっ、待て!君は、名前は!」
もう用は無いと言わんばかりに立ち去ろうとする私を風紀委員長はそう引き留めた。
「名乗る必要ある?ウィードだウィードだと選民思想に引っ張られ、眼に見える物が全てだと断ずる貴方方に名乗る名は持ち合わせてないので。」
そう言って、私は足早に去った。その後を咲那がそして深雪と達也が、次いでエリカ、レオ、美月も2人にお辞儀をしてから続いた。
言われるだけ言われて目的の人物に帰られた2人。ただ、2人にとって衝撃的だったのは、魔法発動の瞬間はおろか、CADの使用も見れてないのに起動式を展開し且つ、あれだけ多くの起動式を展開しながら指パッチンで簡単に霧散させた技量。普通に考えても一科生じゃないのが不思議な程だった。
とはいえ、騒動の問題の引き金を引かせた一科生グループには厳重注意だけして帰らせて、2人は生徒会室に戻った。
「誰だ、あいつは?」
「恐らくだけど・・・多分この子ね。」
そう言って、生徒名簿を見せた七草生徒会長。
名前に心当たりがあった。父から名指しで要注意すべき人間として言われた人物。九條紫音。裏を調べているが、経歴上後ろめたいような内容が全く出てこない人物でもあった。
「誰なんだ?」
「九條紫音、九條宗家の娘で、あの四葉家とも繋がりが深い人物だわ。」
真由美は、紫音から言われた言葉を脳内で繰り返していた。
『眼に見える結果が全てと考えているようじゃ魔法への理解が浅い・・・・・』
「(恐らく彼女は私たちが思っている以上に魔法への理解が深い、そして二科生なのはわざと・・・なの?いえ、もしかすると、本当に学校の試験評価項目に無いところで優れているのかもしれない。だとしたら、・・・・・いえ、勝てない筈は無いわ。)」
魔法をいとも簡単に無力化した光景は、どう考えても突破をすることは難しいと言えた。
「摩利、あまり突っかからないでね。この人には私から接触するわ。」
真由美からそう言われて摩利は静かに頷くしか無かった。
校門付近で一旦立ち止まり、間隔を空けてやってきた友人たちを待って合流すると、咲那からジト目で見られた。
「いいんですか?あんなことをしたら逆に注目を浴びますよ。」
「いいの、生徒会長・・・ね。十師族がどう動くか、この学校の実態に関わっているのか探りを入れているだけだから。」
「まったく、マスターはいつもそうなんだから。」
「頼れる時は咲那にも一杯頼るからその時は、だよ。」
「むぅ。」
咲那はしょうがないとと思いながらもその身を批判に晒されるような行動をする自身のマスターを支えていくと誓ったあの時から思いは変わるつもりは無かった。昔からこういう人だというのは、よく知っていたから。しかし、マスターレヴィナスからも学校生活は楽しんで行けと言われたというのに、どうしてこうも仕事脳になってしまうのだかと内心呆れながらもマスターの腕に縋る。
「ごめんなさい、御姉様のお手を煩わせてしまって。」
「いいのよ。随分と好き勝手言う奴らにも現実が見えてないようだから、何処かで分からせないといけないと思っていたし。」
「しかしよう、魔法が消えたのってどうやったんだ?」
追いついてきたレオが率直に聞いてきた。
「ただの指パッチンじゃないのか?」
「馬鹿ね、ただの指パッチンな訳無いでしょう?」
「まあ、指パッチンじゃなくても出来るのだけどね。そもそも起動式って、魔法師がCADへサイオンを流し込んでCADは流し込まれたサイオン波を記録されたデータに従って起動式を信号化して、魔法師へ返している訳だけど、私のこれは遮断しているわけ。つまりCADに流し込むサイオンを流し込めないように流れを遮断したって事。」
「はっ!?」
「何それ、普通じゃないわ。」
「ってか、そんな魔法ってあったか?」
驚く美月に呆れるエリカ、疑問を呈すレオに対しては・・・
「私のオリジナル魔法な上、外には漏らしてないわ。そうでなくても、使い手は選ぶようだからね。」
「私でも再現出来ないのですよ。」
咲那でも再現どころか同じようには出来なかった完全に私のオリジナル。まあ、フォースの流れを断ち切るような技の応用みたいなものだからかなって思いながらも帰路に着こうとした瞬間、先ほどの一科生グループに居た光学魔法を発動させそうになった女子生徒を含む2人が走って来た。
「光井ほのかです、先ほどはすみませんでした!」
そして、物凄い勢いで謝罪してきた。
「は!?」
「北山雫です、ほのかを庇ってくれてありがとうございました。事が大事に至らなかったのはお兄さんとそちらのお姉さんのおかげです。」
「(庇ったつもりは無いのだが、言わなくていいか。)これでも同じ一年なんだ、お兄さんはやめてくれ、達也でいい。」
「分かりました。」
身長差があるから、深雪と同じく兄妹と見られてもおかしくない構図になっているのは、黙っておこうと思考する紫音は、何ゆえに恥ずかしそうにしている光井さんの方を眺めていた。
結果から言うと、一緒に駅まで帰りたかったらしいが、彼女の表情を見る限り一目惚れした恋する乙女のようなそんな感じが見受けられた。
教員の派遣制度は魔法師の中から教員を目指す者が少ないが為に大学の教授や助教授、准教授に加え、文部省魔法教育科職員に特例で魔法科高校での教員を許可した制度。一定期間の教員としての指導試験後に各校が魔法科教員を確保出来るまでの補助要員という位置づけである為、基本短期派遣(1~3年)となっている。