美少女に転生したので配信者になりますっ! 作:Senana..
「はあ…」
東京都文京区にあるとある出版社のオフィスにて、赤毛の天然パーマがチャームポイントの雑誌記者は、パソコンのモニターに映る黒髪の美少女の花が咲くような笑顔を見ながら深いため息をついた。
ああ、俺を困らせている元凶だというのに、彼女の笑顔を見ているとただただ癒されてしまう。
モニターの中で眩しい笑顔で歌っている圧倒的美少女の名前は七海七瀬。昨年の春頃に突然現れ、そのあまりに整いすぎた容姿とそこに可愛らしさをプラスする声や仕草から、瞬く間に絶大な人気を得て"ネットに舞い降りた天使"などと呼ばれている少女だ。
たびたびメディアでも取り上げられてきた彼女だが、先日、彼女のYouTubeチャンネルに投稿された彼女の初の自作楽曲『蒼星』のMVが爆発的な人気と注目を集めたため、今まで彼女に触れてこなかったテレビ局や出版社も慌てて彼女の特集を組んだ。
この『蒼星』のMVは、その楽曲の素晴らしさや映像の美しさもさることながら、その制作背景が話題を呼んでいる。
なんとこの楽曲『蒼星』は、YouTube上にMVが投稿される前日、投稿からちょうど24時間ほど前にニコニコでの生配信上で制作された曲だったのだ。
彼女のYouTubeチャンネルにはその楽曲制作の過程が残った生配信のアーカイブも投稿されており、『蒼星』がどのようにできたのかを後から知った人も見ることができ、彼女の才能が多くの人に知られることとなった。
その容姿ひとつで芸能界のトップにさえ簡単に上り詰められるだろう彼女だが、それに加えて信じられないほどの圧倒的な歌唱力と、人々を笑顔にするキャラクターまで持ち合わせている。これで人気が出ない方がおかしい。
そして現在、日本の芸能界、音楽業界、出版業界など様々な業界が彼女に注目しており、どの業界関係者も我先にと彼女の情報収集に必死になっている。
まあ、調べても無駄だろうが。
というのも、俺の会社は他社よりもひと足早く、『蒼星』が投稿される数ヶ月前から彼女に目を付けて調査を行っていたのだが、数ヶ月間調べて得た収穫は、彼女はおそらく都内に暮らしている、ということだけだったのだ。
七海七瀬という名前が本名で、7月7日の誕生日が事実であるとしても、彼女が公開している彼女自身の情報は本当にこれだけである。
配信はいつも同じ部屋で行われており、プライベートについてもあまり話さない彼女は、本当に出回っている情報が少ない。
あれだけの容姿であれば、これまでにどこかの芸能事務所からデビューしていたり、オーディションを受けていたりしないかと思って調べてみたが情報はゼロ。
それなら街や学校で有名な美少女として話題になっていないかと思って全国から情報を集めてみても、やはり情報は得られなかった。
唯一我々がほぼ確信している都内在住という情報は、残念ながら調査によって得たものではなく、彼女の配信から分かったものだ。
"今日は雨すごい雨でした〜"だとか、"あっ、いま雷なった!"だとかいう彼女の天候に関する配信上での発言と、その配信の日時を照らし合わせて、おそらく都内に住んでいるということを突き止めたのだ。
まあつまり、彼女の情報は彼女の運営するニコニコとYouTubeのアカウントですべて完結しているということだ。今のところ彼女のSNSのアカウントも見つかっていないし、本人以外から彼女の情報が出たこともない。
我が社の社員の中には、もはや本当にネット上に現れた天使なんじゃないかと信じ始めた者もでてきたくらいだ。
そういうわけで、彼女は見つかりっこないと今までの調査で分かった我が社の社員たちは、今さら彼女を必死に調べている他社を"無駄無駄"と鼻で笑っている。まあもし彼らが有力な情報を見つけたとなったら、土下座してでも情報共有をお願いするだろうが。
さて、ここまで出版業界に属するいち記者として彼女のことを語ったわけだが、仕事関係なしに俺は彼女、七海七瀬の大ファンである。
俺が彼女を初めて知ったのは昨年5月、七海七瀬の名前がゲーム界隈にもとどろき始めた頃だ。
仕事帰りに大学時代の友人と飲みに行った時、その友人から彼女の話を聞いて興味を持った。
信じられないくらい可愛くて、信じられないくらいゲームが上手い、なんて聞いたらそりゃあ誰だって気にもなるだろう。
友人と別れて家に帰った俺は、すぐにパソコンを開いて彼女の名前を検索し、出てきたYouTubeの動画を見漁った。
実際に見た彼女は、友人から話を聞いて想像していたより何倍も、いや何百倍も可愛らしく美しい少女だった。どうやったらこんな造形に生まれてくるのだろうと理解に苦しむレベルだ。
そしてさらに、ゲームも死ぬほど上手かった。初見のゲームではときどき苦戦することもあるが、マリオカートやモンスターハンター、バイオハザードなどプレイヤースキル、所謂PSというものが要求されるゲームでは、瞬く間にコツを掴んで上達しスーパープレイを連発していた。
ジャンルに囚われず様々なゲームで世界記録にも挑戦し、そしてそれを次々と更新していた。まさに真のゲーマーだった。
見ているだけで気分がいいスーパープレイに、これまた見ているだけで日々の疲れが吹き飛ぶ美少女。俺はあっという間に彼女に夢中になっていた。
そんな俺がまたも衝撃を受けたのは、俺が彼女の配信を見始めて数ヶ月が経った頃、初めての歌配信だった。
配信タイトルにゲーム名がないなと思ったら、ギターを取り出し歌いだす彼女。
少し前に流行った歌だったが、正直本人が歌うのより断然いい歌だと思った。耳に柔らかく響く透明感のある歌声に、曲のもつ魅力を最大限に引き出す抜群の歌唱力。初めて聴いた彼女の歌に俺はさらにいっそう彼女のファンになった。
今まで好きだった女優も、好きだったゲーマーも、好きだった歌手も、すべてが彼女に置き換わっていた。
歌を披露したことで世間的な知名度を獲得した彼女について、会社から情報を集めるように、あわよくば取材してくるようにと言われたときは驚いたが、彼女が世間に認められていくようで嬉しかった。
一緒に調査をしていた同僚もいつの間にか彼女のファンになっていて、休憩時間や仕事帰りにはいつもみんなで彼女の話で盛り上がった。
今は、なかなか彼女の情報が得られないので調査の手は少し緩められているが、もし彼女がメディア出演するようなときは、俺も絶対取材を取り付けようと決めている。
そして言うんだ、俺が養うから俺のものになーー
「おい、お前手動いてるか?」
気づいたら真横に上司が立っていて俺を見下ろしていた。
「あ、すみません!すぐ始めます!」
どうやら彼女のことを考えるのに夢中になりすぎて昼休みが終わったことに気づかなかったらしい。
俺はモニターに映る彼女の姿を動画を止める瞬間までしっかりと目に焼き付けてから、自分の仕事に戻った。