美少女に転生したので配信者になりますっ!   作:Senana..

46 / 54
ストリートライブしますよ!

 

 

12月24日・オーストリア -- ウィーン

 

今日はクリスマスイブ、俺の初めてのストリートライブ当日である。

 

ホテルの自室でシャワーを浴び着替えを済ませた俺は、部屋にあるドレッシングテーブルの前に座って軽くメイクを施す。

 

今まで化粧というものは、雑誌の撮影やテレビ出演のときにメイクさんにしてもらったくらいしか経験のなかった俺だが、そろそろ自分でも少しは出来てもいいだろうと思い時々練習を行っていた。

 

化粧なんてしなくても世界一美しいと自信を持って言い切れる俺の顔だが、今日のようなライブで少し距離のある場所から見られるようなときは、メイクで少し色をのせたりアイラインなどで目もとをくっきりさせるとより美しく見えるのだ。

 

このことは初めてテレビ出演をしたときから気づいてはいたのだが、"元男の俺が…"という抵抗感が拭えなくてなかなか自分で化粧をすることに1歩を踏み出せないでいた。

 

今回のストリートライブを行おうと決めたとき、そろそろこの身体になって長いことだし、抵抗感も時間とともに薄れてきたので、これを機に練習してみるかと思ってやっと練習を始めたのだった。

 

「よし、これでいいかな」

 

薄いアイラインで涙袋に影をつけ、もう少し濃いアイラインで目尻に影をつける。黒いアイラインでまつ毛の根元をなぞり、ピンク色で少しだけラメの入ったアイシャドウをまぶたにのせる。仕上げには艶のある桃色のリップを唇に、薄めのチークを頬にのせた。

 

俺は鏡から少し離れて、きちんと相手からの距離を意識したメイクになっていることを確認すると、部屋を出る準備を始めた。

 

現在の時刻は11時30分。これから1度警察署に向かいお世話になる方々に挨拶したあと、少し打ち合わせをしてから遅めのお昼を食べて、17時頃にシュテファン大聖堂に向けて出発する予定だ。

 

俺は支度を整え、スマホに表示された昨日のお知らせツイートに143万件のふぁぼが集まっているのを見て満足気に頷くと、ホテルから警察署に向けて移動を開始したのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

「初めまして、七海七瀬です。今日は突然のことにも関わらずご協力いただけるということで、本当にありがとうございます。よろしくお願いします」

俺は警察署に到着し、今日のストリートライブで警備や交通整理をしてくれる方々を前に、顔合わせの挨拶をしていた。

 

「初めまして七瀬さん、私は本日の参加メンバーのリーダーを務めさせていただく〇〇といいます、よろしくお願いします。ここにいるメンバーはみな参加を希望した者たちですから、どうか気を遣わないでくださいね。

 

というか、他の署からも希望があったりと参加したい人が多すぎて抽選になったくらいですから、申し訳ないと思う必要はありませんよ」

 

俺の前に並んだ方々から1歩前に出てきた長身美人な〇〇さんは、そう言って優しく笑った。

 

「そうだったんですね、ふふふ。それだけ私の活動を応援してくださる方が多いのはありがたいことです。持ち場によってはあまり聞こえない方もいらっしゃるかもしれませんが、頑張って演奏するので仕事中とはいえ楽しんでいただけると嬉しいです」

 

俺はペコッと軽く頭を下げてそう言った。

 

「それじゃあ、顔合わせはこれくらいにして、本番の流れや機材のセッティングの打ち合わせに入りましょうか」

 

長身美人の〇〇さんがそう言うと、後ろに並んでいた警官の方々はそれぞれの打ち合わせがあるのか警察署内に散らばっていった。俺の前には〇〇さん含め6人の方が残った。

 

「ここにいる5人には七瀬さんの付近の警備と機材の設置を任せますので、演奏時にトラブルが起こらないよう打ち合わせをお願いいたします」

 

〇〇さんはそう言ってお辞儀をすると、警察署の奥に入っていった。

 

その後、俺は残った5人と現地での警備についてや、マイクや照明などのセッティングについて念入りに打ち合わせを行った。

 

その打ち合わせのときに聞いたのだが、どうやら今回のストリートライブ、国のお偉いさんや有名なスポーツ選手、芸能人などの著名人もたくさん見に来てくれるらしい。

 

俺はそれを聞いて"このライブについて誰かに告知したっけな?"と首を傾げていたのだが、どうやら最初にこの警察署に来たときにライブの場所や日時についての話し合いが行われ、この国の警察組織のトップや国のトップなどにもシュテファン大聖堂前の使用などについての確認が取られていたらしい。

 

そこから様々な権力者や芸能人などにも情報が伝わり、今回のライブの舞台となる広場の周囲にある建物は、一時的にそのほとんどがそういった方々の観覧席として使われることになったそうだ。

 

いつの間にかかなり大きなイベントになってしまっていて驚きを隠せない俺だった。

 

ーーーーー

 

 

17時55分、シュテファン大聖堂前。

 

俺は広場から少し離れたところで、広場の様子を窺いながら最終準備を行い待機していた。

 

大聖堂前には大きなグランドピアノが設置され、協力してくれている警官の皆さんの手によってマイクや照明もセッティングが完了していく。

 

ピアノの周囲はベルトパーテーションで簡易的に囲われており、小さなステージが出来上がっている。

 

囲いの周囲には既に多くの人が集まっており、これから何が始まるのかと期待の視線を寄せている。

 

そりゃ、普段は使われない大聖堂前の広場にステージが出来上がっていって、警官やピアノ専門店の方など多くの大人が関わっているのが見てわかるのだ。誰が演奏をするのか知らなくても気になってしまうだろう。

 

「そろそろ始めましょうか。皆さん、今からは発言禁止でお願いします」

 

俺の言葉に周りにいた警官の皆さんが無言で頷く。

 

俺はそれを確認すると、ビデオカメラの電源を入れて配信を開始した。

 

 

 

 

「こんばんは〜、皆さんお久しぶりです〜、七瀬の配信のお時間ですよ〜、こんばんは〜」

 

・きたーー!!

・こんばんは!!

・ななちゃんお化粧してる!?

・こんばんは〜!

・ななちゃんがさらに異次元の神々しさになっとるww

・待ってた〜!!

・美しすぎるwww

・待って、チラッと見えてる服装それドレス!?

・久しぶりのななちゃんだああああ

 

スマホで確認した配信のコメント欄は、あまりのコメントのはやさにスマホの処理が追いつかないのかカクカクしてしまっている。

 

「ふふふ、すごいコメントのスピードですね。皆さんお集まりいただきありがとうございます〜。指摘してくださっている方もいますが、今日はかなり気合いが入っていますよ〜、何をするでしょうか??」

 

久しぶりの配信でテンションがMAXになっているコメント欄に思わず笑みが零れる。

 

・まずどこの国だろう??

・綺麗なドレス着てるからまた豪華列車みたいな高級な何か?

・後ろがただの壁だから分からんなあ

・これどこだ??

・どっかのホールで演奏会かな?

・ヨーロッパっぽい雰囲気はある

・情報が少なすぎるなww

・ニコニコななちゃん可愛い

 

「まあさすがにこの段階で分かる方がいたら驚きですね。ではそろそろ時間なので移動しましょうか」

 

俺はそう言うと、持っていたビデオカメラをカメラのセッティングを担当してくれる人に手渡した。

 

・お!?!?

・カメラマン!?

・なんだなんだ!?

・誰がカメラ持ってるの??

・その後ろの荘厳な建物はいったい…??

・後ろの建物がでけえww

・教会とかかな

 

俺は大聖堂の壁際に作られていた待機所から歩いて移動を開始する。

 

待機所から広場のグランドピアノまではベルトパーテーションで道が作られており、人に塞がれていて通れないということはない。

 

『え!?七海七瀬!?』

『うそ!ほんものなの!?』

『ええええ!』

『七海七瀬って実在したんだ!!』

『ななちゃんだ!!!』

『七瀬が演奏してくれるの!?』

 

俺が待機所を出て道を歩くと、パーテーションの付近からピアノのあるステージを見ていた人たちが俺に気づき始める。

 

・待て待てすごい人の数なんだがwww

・何が始まるの!?

・なんかのイベント?

・これはヨーロッパっぽいね

・周りの建物がすごいw

・みんな"ナナチャン!?"って言ってるww

・ここにいる人たちもななちゃんが来ること知らなかったのか

 

俺はたくさんの人の視線を集めながら広場を歩き、やっとグランドピアノの前までやってくる。

 

広場は俺の登場に対する大歓声で包まれている。

 

「皆さん、私はオーストリア・ウィーンのシュテファン大聖堂にやって来ました。そして、突然ですがこれから初めてのストリートライブを始めます!聖なる夜のコンサート、ぜひ楽しんでいってくださいね!」

 

俺はビデオカメラが撮影用の三脚に取り付けられたことを確認すると、カメラに向かってコンサートの開始を宣言した。

 

俺はカメラにニコッと笑顔を見せてから振り返り、グランドピアノに座ると、目の前に取り付けられたマイクに向かって声を出す。

 

『こんばんは、七海七瀬です。クリスマスイブの夜という特別な時間にこのような場をいただけたこと、とても嬉しく思います。皆さんのクリスマスを彩る素敵な思い出となれるよう、精一杯楽しんで演奏しますので、どうぞよろしくお願いします』

 

俺はそう言って広場に響く拍手の音を聴きながらすぅっと息を吸うと、このときのために用意してきた魔法を行使した。

 

風魔法を使い外部からの風を弱め、炎魔法で温めた空気を風魔法で循環させることで、気温を上げて快適な気温に調節。

 

この場にいる人たちは冬で厚着をしているので、それを考慮して気温は上げすぎないように注意する。

 

そして、広場の周辺に特殊な魔法障壁を展開し外部へ出ていく音波を反射させて空間に反響させることで、まるで巨大なコンサートホールであるかのような音響を実現した。

 

俺はたった数秒間で魔法による理想のライブ環境の構築に成功すると、吸った息をそのままに、初めてのストリートライブを開始した。

 

 

ーーーーー

 

 

「〜〜♪〜♪〜〜〜♪」

 

・美しい…

・屋外とは思えない音響の良さ。これが音楽の都か…

・リストか〜、いいねぇ

・音の美しさとななちゃんの美しさが合わさってもう…

・聴いたことある曲だな〜

・曲に入り込んでるなぁななちゃん

・カメラ切り替わるのすごすぎないかww

・初っ端から癒されるわぁ

 

今回初めて導入している複数のビデオカメラを使用した視点を切り替えながらの配信は、駄天使たちに喜ばれているだろうか。

 

今回の配信ではライブ中のコメント確認はできないので、駄天使たちの反応は想像するしかない。後でアーカイブを見てニヤニヤするとしよう。

 

目の前にいるお客さんたちの方を見ると、惹き込まれるようにこちらを見つめる女の子と目が合った。

 

うん、ちゃんと俺の音楽は届いているみたいだな。

 

俺がいま演奏しているのは、ドイツロマン派の偉大な作曲家の1人、フランツ・リストの『愛の夢』である。

 

豪華列車での演奏からクラシック曲の魅力を再認識した俺は、音楽の都であるここウィーンでのライブの始まりはクラシックからと決めていた。

 

フランツ・リストはウィーン音楽院で音楽を学んだ作曲家であり、その彼の代表曲のひとつである『愛の夢』は美しくも儚い雰囲気を持った曲で、その中でも華やかさを増す中盤はこのクリスマスイブのウィーンの街にピッタリで、始まりの曲に相応しいと思ったのだ。

 

「〜〜♪〜♪〜。」『ありがとうございます』

 

・88888888

・生で聴きたかったああああ

・めちゃくちゃ良かった!!

・相変わらずの表現力…

・途中ななちゃんが空を見あげたところが曲の盛り上がりもあいまって美しすぎて泣いた

・888888

・弾いてる姿も含めて音楽なんだよなあ

 

俺は1曲目『愛の夢』の演奏を終えると、聴いてくれた感謝を短く言葉にして次の曲へと移った。

 

「♪♪♪!♪♪♪!〜〜〜♪」

 

・おおおおなんか死ぬほど難しそうな曲きたwww

・指の動きどうなってる!?

・かっこいいww

・弾き姿が優雅すぎて踊ってるようにすら見えるw

・超難曲をちゃんと自分のものにしてるな…

・ほんとこんな優しく触れるようなタッチでこの表現力ってのがすごい…何もかも美しい

・なんかこの曲の雰囲気もあるけどななちゃんラスボス感あるw

 

俺が2曲目に選んだのは、世界中で知らない人はいないだろう音楽の巨匠・ベートーヴェンの『月光・第3楽章』だ。

 

"月光"と名付けられた楽曲の中で最も激しく情熱的な色を持つこの第3楽章は、低音から高音へと駆け上がるはやいパッセージから始まり、ところどころで挟まる強烈な和音や少し不気味さを感じさせるような高速で進行する低音域など、印象的な側面をいくつも持っている幻想曲である。

 

「〜〜♪…〜♪〜〜♪!〜♪」

 

俺は目をつぶって自分の音楽に集中する。

 

・夜の大聖堂が背景として合いすぎてる

・ななちゃんの手がゲームしてる時以上にえげつない動きしてるんだけどww

・恋愛の曲とも聴いたことあるけど、これはどんな感情を表現した曲なんだろうか

・ななちゃんが弾いてるのを見てると、天使の覇道の物語、みたいな曲にも思えてくる

・恋愛の曲とするなら、ドロドロとした嫉妬とか焦りとかどうしても手に入れたいっていう気持ちとか?

・横からのアングルのときのななちゃんの横顔が綺麗…

・目閉じてる、ほんとに集中してるんだねななちゃん

 

「…〜〜♪〜〜♪〜♪!♪!♪!ーーーー」『ありがとうございます、ベートーヴェンの月光・第3ーーーー』

 

 

俺はその後、今回のライブの最後のクラシック曲としてショパンの『エチュード10-4』を演奏すると、自作楽曲の演奏に入ったのだった。

 

 

ーーーーー

 

 

『たくさん拍手ありがとうございます、『family』でした!それでは、次がこのゲリラライブの最後の曲となります!皆さん、何の告知もなかったのに、こんなにたくさん集まってくれてありがとうございました!』

 

・familyサイコ〜!!

・ウィーンの人も俺たちで作ったこの曲知ってるんだな…!なんか嬉しい!

・ニュースでこのライブのこと報道してるけど、マジでえげつない人の数だよww

・告知無しで集まる人数じゃないww

・素敵なライブありがとう〜!!

・推定12万人だとか…

・大聖堂の周りの道が全部人で埋まってるwww

・もう最後の曲か〜!はやい!

 

無数の人に埋め尽くされた大聖堂のある街、インネレ・シュタットは、私の声に呼応して街を揺らすような大歓声に包まれている。

 

ネットで情報が広がったのだろうか、最初、広場を適度に埋める数千人ほどだったお客さんの数は、今や広場に留まらず、ここに繋がる全ての道を数百メートルにわたって埋め尽くす数万人の規模に膨れ上がっていた。

 

幸い、途中でケルントナー通りに限らず付近のあらゆる通りが人で埋まってきていることを察知した俺は、魔法で音波に干渉して音の減衰を減らし、付近1km以内にいれば歌詞を聞き取れるくらいには鮮明な音が届くようにしたので、後から来て広場に近づけなかった人でも音楽を楽しむことは出来ていると思うが。

 

まあここから見えないものを心配しても仕方ない、俺は最後まで自分の音楽を楽しむだけだ。

 

『この後も、クリスマスの夜を楽しんでくださいね!それじゃあいきます!このライブのために作った新曲!『Sleigh ride to tomorrow』です!』

 

俺は最後の曲にのぞむ気持ちを整えると、大きく息を吸って歌い出した。

 

 

「〜♪〜〜〜♪〜〜♪」

 

 

ああ、なんて楽しいんだろう。

 

こうやって自分の世界を音楽を通じて表現して、たくさんの人と繋がる。

 

前世では数人の同僚と、たまに会う家族しか繋がりのなかった俺が、いまは数万人の人と音楽という媒体を使って繋がっている。

 

こんな機会を、こんな幸せな機会を得るに至らせてくれた身体を、こんなに楽しい新しい人生をくれた神様、ありがとう…!!

 

俺は数年前から寝る前に欠かさず行っている神様への感謝を、歌いながら心の中で叫んだ。

 

 

その場にいた人たちはそのとき、七瀬のことを孫を見るような優しい目で見つめ頭を撫でる老人の姿を幻視していたのだった。

 

この七瀬のゲリラライブは、そのゲリラとしては多すぎる動員数と、街中を響かせる音響、寒さを忘れさせ音楽に集中させるありえないレベルの一時的な気温上昇などから、"天使の奇跡"などと呼ばれることとなる。

 

しかし、神の手によって人々を蝕んでいた病が癒され、未来に降りかかることとなる不幸が退けられていたという本当の"奇跡"は、その病の良化がゆっくりと時間をかけたものであったこと、退けられた不幸が未来のものであったことから、人々に認識されることはなかったのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。