美少女に転生したので配信者になりますっ!   作:Senana..

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紅葉さんとの電話

 

 

1月・スイス -- ツェルマット

 

 

『もしもし、七瀬ちゃん、聞こえてる?』

 

耳に当てたスマートフォンから、数週間ぶりに話す友人の柔らかい声が聞こえてくる。

 

「はいっ、聞こえてます!紅葉さん、あけましておめでとうございます!」

 

『ふふふ、七瀬ちゃんあけましておめでとう〜。元気にしてた?』

 

電話の向こうの紅葉さんの声はとても機嫌が良さそうだ。

 

「とっても元気ですよ!さっき年越し配信で年越しそばを10人前食べたところです!」

 

『実は私も配信見てたんだけれど、七瀬ちゃんあなた食べすぎよ…』

 

少し呆れた声でそう言われた。

 

「えっ、見てたんですか!?」

 

『ええ、というか割とななちゃんの配信は見てるわよ?少なくとも後からアーカイブは見るようにしてるわ。ななちゃんが元気にしてるか心配だもの』

 

「知らなかったんですけど!?紅葉さんが見てると思うと少し緊張するかもです…」

 

紅葉さんが俺の配信を見ていたのは知らなかった。今までもMVの感想くらいしか聞いたことがなかったし、あまりネットに触れない人だから俺の配信も見ていないものと思っていた。

 

『なんでよ…もう、ふふふ。そういえば、ウィーンでのライブ、すごかったわね。こっちでもしばらくずっとニュースになってたわよ?』

 

「そうなんですか?たしかにかなりたくさん来てくださってたみたいで」

 

『たくさんどころじゃないでしょう。告知無しで街中に10万人以上も集めたのよ?ほんとに七瀬ちゃんの人気は規格外よね』

 

「ははは、そう言われるとすごい気がしてきますね」

 

俺がクリスマスイブの夜に行ったゲリラライブは、最終的に約13万人もの人が集まっていたのだと後からニュースで知った。周囲の道が全て人で埋まっていたから数万人規模にはなっているだろうと思っていたが、予想以上だった。

 

『はあ、あんまり分かってなさそうね、まあいいわ。配信で今はスイスにいるって言ってたけど、あのライブからすぐに移動したのね?』

 

「そうですね、ライブの準備もあってかなり長い期間オーストリアに滞在してたので、年越しは別の国に行こうと思いまして。ライブを手伝ってくれた方々との打ち上げが終わった次の日には出発しましたね」

 

『ほんと七瀬ちゃんは行動力がすごいわよね。次から次へ違う国に行って』

 

そう、今の俺は、先週まで滞在していたオーストリアからみて西の隣国、スイスにあるツェルマットという街にやって来ている。

 

オーストリアで年を越すことも考えたが、既に1ヶ月近く滞在していたうえ、国内で行ってみたかった場所は制覇済みであったので、次の目的地であったここツェルマットに移動することに決めたのだった。

 

「色んな景色を見るための旅行ですし、あんまり長く同じ場所に留まることはないですね」

 

『まあ、七瀬ちゃんが元気ならそれでいいわ、安全には気をつけて楽しむのよ』

 

「はい、ありがとうございます」

 

いつも俺の身の心配をしてくれる紅葉さんには感謝している。国外旅行に1人で行くと言った時もひどく心配されたし、旅行中は定期的に安否確認の連絡をしてくれている。

 

友人としては少し過保護な気もしないではないが、俺はこちらの世界に家族というものがいないので、こうやって個人的に気をかけてくれる彼女は姉のように思っている。

 

いつだったか2人でご飯に行って彼女から家族について聞かれた時、両親も親戚もいないと言ったら心底驚かれた。事務所に所属する時に俺の親類関係について知ったレーベルの人もかなり驚いたようだったし、神様がくれたこの捨て子という設定はなかなか人に心配をかけてしまうようだ。

 

紅葉さんが姉のように接してくれるようになったのも、今思えばその話をした時くらいからだった気がするし、彼女にはそうとう気を遣わせてしまっていたのかもしれない。

 

『それでね、ここで七瀬ちゃんにひとつ報告、私の経営してるお店『Maple』の2号店のオープンが決まったわ』

 

「ええ!!2号店!?」

 

俺が今までのことを思い出しながらそんなことを考えていると、紅葉さんがめでたい報告をしてくれる。

 

「すごいです!おめでとうございます!」

 

『ふふ、ありがとう。まだまだ小さいブランドではあるけど、お客さんの数も増えてきたしネット販売の方も軌道に乗ってきたから、そろそろいいかなと思ってね』

 

紅葉さんの営む洋服屋さん『Maple』は、いまでオープンから約1年半が経過している。たった1年半で2号店を出店できるというのは、個人経営のお店としてはかなりすごいんじゃないだろうか。

 

「さすがです!紅葉さんのデザインする服の魅力に気づく人が増えてくれて嬉しいです!この前送ってくださった新作も可愛くてお気に入りですよ!」

 

『そう言ってもらえると私も嬉しいわ、これからも可愛い服を作って送るわね。そういえば少し前にお客さんのひとりが、"もしかして七海七瀬さんの着てる服ってこのお店の服ですか?"って聞いてきたわ。ようやく気づく人が現れたわね』

 

「おお、ついに!私の普段着はほぼ全て紅葉さんに送ってもらったものですから、私を知ってる人が『Maple』に行ったら見覚えがある服ばかりで驚くでしょうね、ふふ。逆になんで今まで言う人がいなかったんですかね」

 

そうなのだ。俺が着ている服のほぼすべて、寝る時に着るジェラピケとコンサートや高級レストラン用のドレス以外のすべての服が、紅葉さんの運営するブランド『Maple』の服なのだ。

 

これだけずっと同じブランドの服を着ていればネットで話題になったりもしそうなものだが、いかんせん『Maple』はまだできて2年も経っていない小さなブランドであるので、俺の服からブランドを特定する人は今までいなかったのだった。

 

『まあ確信がないとなかなか聞いてくることはないわよね、小さなお店だから気のせいと思うのかも。2号店ができたら気づく人も増えるかもね』

 

「そうですね〜。あ、そうだ、紅葉さん、毎月『Maple』のホームページに新作の発表でモデルさんの写真が載ってますよね」

 

俺はいいことを思いついたとばかりに紅葉さんに話をふる。

 

『ええ、新作を知って見に来る人も多いから宣伝のために載せてるわね。それがどうかしたの?』

 

紅葉さんは俺がなぜその話を始めたのか不思議そうだ。

 

「その新作の写真のモデルに、私、七海七瀬を使いませんか??」

 

『え…??』

 

俺は、少し前から考えていて、そしてついさっき2号店の話を聞いて絶対にやろうと決めたことを紅葉さんに提案した。

 

『七瀬ちゃんをモデルに??ええと、それはすごくありがたい提案ではあるのだけど、さすがにズルな気がするというか…ね?』

 

紅葉さんは俺の人気を利用するのに罪悪感があるらしい。

 

「そんなことないです!まずはどんな形であれ1度見てもらう必要があると思うんです!どんな会社やブランドだって有名なモデルさんに着てもらって宣伝してるじゃないですか!

 

たくさんの人に見てもらって、そこから『Maple』のお客さんとして服を買ってもらえるようになるかどうかは紅葉さんのデザインした服の魅力次第ですよね?見ても買おうと思うかどうかは別ですから、ズルなんかじゃないです」

 

『そうかしら…』

 

あと一押しかな?俺としては紅葉さんへの日頃の感謝というところが大きいので、このまま押し切りたい。

 

「はい!だから、私はその紅葉さんの力が試されるまでの最初のステップのお手伝いがしたいんです!たくさんの人に見てもらうっていう最初の段階まで、いつも服を送ってくださってるお礼も兼ねて、ぜひ私にやらせてください!」

 

『もう。ふふふ、分かったわ。七瀬ちゃんがそこまで言ってくれるなら、是非よろしくお願いします』

 

「やったー!任せてください!」

 

良かった、紅葉さんは乗り気になってくれたようだ。実際、彼女のデザインする服はどれも素敵なものばかりだし、日頃のお礼というのを置いておいても、たくさんの人に知ってもらいたいと思うのだ。

 

『それじゃあ、2号店オープンに合わせて作った新作がいくつかあるからそっちに送るわね。今からヨーロッパに送るとなると到着は来週以降になりそうだけど、どこに送ればいいの?』

 

「スイスでお願いします!紅葉さんのための大事なお仕事なので、撮影が終わるまではスイスにいることにします」

 

『分かったわ、ありがとう。さっき同じ場所には留まらないって言ってたばかりなのにごめんね、明日までに言ってくれたら送り先は変えられるからね』

 

「いえいえ、これは私が望んですることなので謝らなくていいですよ!それに、今いるスイスのツェルマットってすっごく綺麗な街なんです。スタジオでの撮影が終わったら、屋外での撮影もしてみるつもりです!」

 

ツェルマットは経済の大部分を観光で支えているような観光都市だ。夏場は透明度の高い湖や青々とした山など美しい自然が魅力で、冬場は白い雪に覆われオレンジの灯りに暖かく包まれる街並みが多くの人を魅了している。

 

今は1月、外にはツェルマットの美しい雪景色が広がっている。ここなら写真撮影にピッタリの場所だろう。

『冬は雪景色が綺麗で有名なところよね、きっといい写真になるわね。ちなみに、カメラマンとかはお願いできる人がいるの?全部1人でやるつもり?』

 

「カメラマンさんとスタイリストさんは、事務所の方にこちらで頼めそうな人を探してもらうつもりです。以前事務所の方に連絡したら、"何もしてないのに莫大な利益だけ事務所に入っている状態だから、何でもいいので仕事ください!"って言われたので…」

 

俺は楽曲のリリースのための音楽レーベルと、アルバムやグッズ、メディア出演をサポートしてくれるプロダクションに所属しているが、今までのアルバム2つのリリースと写真集の発売など以外はほとんど何もサポートを受けていない。

 

元々配信が本業であったからそれも当たり前なのかもしれないが、俺の楽曲や写真集の売上は相当なものになっているので、事務所としては"必要ないから辞めます"となっては困るのだろうし、何か頼ってほしいのだろう。

 

『七瀬ちゃんの楽曲の売り上げなら事務所の数%の取り分でもかなりの額になるんでしょうね…まあ、それなら心配は要らないわね。服ごとのデザインのコンセプトなんかも後から送るから、あとは七瀬ちゃんが自由に撮ってくれて大丈夫よ』

 

「分かりました!紅葉さんのお洋服の魅力を伝えられるように頑張ります!」

 

『ありがとう、お願いね。楽しみにしてるわ』

 

 

自分のために動いてくれる友人の可愛さに、声しか聞こえないにも関わらず目を細める紅葉だったが、"これは大幅な増産が必要だな…"とこれからの仕事のこともしっかりと見据えていたのだった。

 

 

 

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