美少女に転生したので配信者になりますっ! 作:Senana..
面接しますよ!
2018年 3月・東京
桜の蕾が徐々に色付きはじめ、陽の光にだんだんと暖かさを感じるようになったとある昼下がり。
駅前のオフィス街に居を構える、ガラスの光沢が高級感のある大きなビルの34階、会議室2と表札を付けられたとある部屋には、緊張した面持ちの5人の少女達が集まっていた。
「……。……」
静まり返った部屋で、彼女たちはこれから始まる面接でいかに自分をアピールするかの最終確認を脳内で行っていた。
これからこの会議室で行われるのは、YouTubeでの配信活動をメインとしたタレントをプロデュースする、とある事務所の最終面接である。特殊であるのは、この事務所のタレントは2次元のアバターを用いて配信活動を行うということである。
数年前までの配信者といえば、配信者本人が自分の姿を映しながらゲームや音楽を配信するか、画面にゲーム画面や楽器の手元だけを映し、配信者本人を全く映さないかのどちらかであった。
しかし、この事務所が専門とするのは、イラストなどの2次元のアバターを用いて配信を行うバーチャルYouTuber、俗に言うVTuberである。
昨年あたりから少しずつその存在が知られ始めてきたVTuberというジャンルであるが、まだまだその数は多くない。これから市場がどんどん大きくなっていくのか、それともニッチなジャンルとして細々と続いていくのか、まだ誰にも分からない。
しかし、ここに集う少女たちは、VTuberというコンテンツに夢を見たもの達である。採用タレントにはなんと美麗なアバターが無料で提供されるという好条件であり、VTuberというものに人生をかけることに不安を持ったもの達も、試しに受けてみるかと応募者はそれなりの数がいた。しかし、やはり熱意が違ったのか、最終面接に残ったのはVTuberという職業に大きな希望を持つ決意の固い少女たちだけだった。
会議室の壁にかけられた時計の短い針が数字の2の真上に移動しようというとき、少女たちの左手にある会議室の扉がゆっくりと開かれた。
最初に現れたのは、肩のあたりまで伸びたツヤのある暗めの茶髪が印象的な、おっとりした雰囲気の女性であり、少女たちは最終面接の面接官が今までの2度の面接と同じ人物であることを確認すると、ホッと肩の力を抜いた。
採用者を自由に選べる面接官としての立場に驕りを感じさせない、優しい口調で丁寧に面接を行う彼女は、少女達にとってとても安心感のある相手であった。
しかし、少女たちが一瞬リラックスした空気を出すと同時に、扉からはもう1人の人物が現れた。
それは先に現れた面接官よりも少し小柄な女性であり、ただそれだけの特徴であれば最終面接ということで面接官が1人増えたんだなと納得できたであろう。
ところが、その女性を見た少女たちは明らかに困惑した顔で、その内心は疑念に渦巻いていた。
というのもその黒髪の女性の顔には、そこらの100均で売られていそうな、サングラスと立派な口ひげが着いた鷲鼻の変装グッズが装着されており、どう考えてもこの最終面接の場にはそぐわない装いであった。
応募者の緊張を和らげるためのおふざけなのか?何かのドッキリだろうか?面接官のお子さんが入って来ちゃったの?ただただ変な人なのだろうか?
最終面接ということで気を張っていて、茶髪の面接官の登場でようやく肩の力が抜けた少女たちの精神は、謎の口ひげ(?)面接官の登場によって一気に不安に塗りつぶされることになった。
「では、これから最終面接を始めさせていただきますね。面接官は1次、2次面接と同じ私、美山 紅葉 が担当させていただきます。よろしくお願いします。
皆さんを少し混乱させてしまったかもしれませんが、こちらに座っているのは当社の社員で、今回は最終面接ということで私たち2人で行わせていただきます。
えーと、この方の格好は一時的にこうなっているだけですので、一旦気にしないで面接に臨んで頂けるようお願いします。」
「「「「「は、はい…」」」」」
面接官の紅葉の言葉に、応募者である少女たちはなんとか返事を返したが、未だ混乱が抜けないまま最終面接はスタートしたのだった。
ーーーーーーー
「では、これで最終面接を終了させていただきます。皆さん、お疲れさまでした。もう面接の時間は終わりですので、リラックスしていただいて大丈夫ですよ」
少女たちのまえに置かれた長机で書類をトントンとまとめた紅葉は、少女たちを安心させるためににっこりと微笑んだ。
「で、みんな採用で大丈夫よね?あなた結局何も話さないじゃない」
紅葉は右隣に少し距離を空けて座る女性に声をかけた。サングラスに口ひげの変装をした姿はこの会議室では異質であったが、もう1時間ちかくその場で面接をした後だ。みなその違和感に慣れてしまっていた。
「はい!それで大丈夫です!みなさん採用です〜!いや〜、とってもいい人たちが来てくれて安心しましたっ」
安っぽい変装をした女性は突如としてその口を開くと、透き通るような声で嬉しそうにそう言った。
「みなさんなら、一緒に楽しく活動できると思います!よろしくお願いしますね!!じゃあこれは外して、と。」
続けてその女性が言うと、彼女は何でもないかのようにサングラスと口ひげの変装アイテムを外した。
それをみた面接の参加者である少女たちは大きく目を見開いて息を飲んだ。なぜなら、その少女が今やこの世界で知らない人はいないとも言われる超のつく有名人であったからだ。
「良かったわね、七瀬ちゃん。とっても可愛くていい子たちが来てくれて。急に『会社を立ち上げるので、社長になってください』なんて言われたときは本当に驚いたけど、こうやって準備が整い始めると、とってもワクワクするわね」
面接官の女性、紅葉はそんな少女たちの驚きをみて微笑みながら、ニコニコと隣で嬉しそうにしている友人に声をかけた。
「えっ、えっと!あの、あなたは七海七瀬さん、で、お間違いないですか…!?」
すると、いつまでも黙ってはいられなかったのか、応募者の中の1人の少女が声をあげた。
「はい、そうです!私が世界の歌姫(照れ)をしている、七瀬さんですよっ!本物です!」
「「「「「ええええーーーっ!!」」」」」
ついに変装をした変質者、あらため七海七瀬が自ら名乗ったことで疑念が確信に変わり、少女たちは大きく驚きの声をあげた。
「えっえっ、え!七瀬さんって、今は海外を旅行中なんじゃないんですか!?だって、つい先日の配信でもトルコのカッパドキアで気球に乗って配信してましたよね!??」
そう、七瀬といえば3年前のちょうど今頃、5周年記念配信で彼女のファンである駄天使たちに強烈なトラウマを植え付けた事件、引退未遂事件を起こして以降、1ヶ月に1度あるかないかという頻度で配信をしながら世界を旅しているのだ。
この面接をしている日の少し前にも、1ヶ月ぶりの配信をトルコで行ったばかりであった。
そのため、少女たちは旅をしていてしばらく日本にいないはずの七瀬が目の前にいることが不思議でならなかったのだ。
「その通りですよ?まだまだ私の世界旅行は終わってません!でも、今日は昔立てた計画を進めるために一時的に帰ってきたのです!それに、今後は定期的に帰ってくる予定ですよ?世間には秘密にするかもですが…」
VTuberになるために、未だ一般には知られていない謎のVTuber事務所に面接を受けに来たところに、まさかの世界の歌姫の登場である。少女たちの脳内はかつてないほどに混乱していた。
「わっわたし!七瀬さんに憧れて配信活動をしてみたいと思ったんです!で、でも、身バレとか将来に対する不安とか色々あって!それで、それで、VTuberという形でなら私にもできるかなって思って!それで、ここに来たんですけど、そこにまさか七瀬さんが!ほんとに、ほんとにっ!」
その混乱が彼女を動かしたのか、少女たちのひとりは、感極まった様子で、急にここに来た経緯を早口で話し出してしまった。
「と、とりあえず落ち着きなさい!分かった、分かったから!ほら、七瀬ちゃんもウンウン頷いて聞いてないで、この場を収めなさいよ!」
それぞれが情緒不安定に陥ってしまった少女たちを見て慌てながら、紅葉は七瀬に助けを求めたのだった。