ヒスイカズラは今日も咲く   作:いわば体液

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主人公:水を撒くタイプの実質植物族

アクティ:水が大好きな実質植物族

ヒスイカズラちゃん:最近水が無くても生きていける気がする


水道水のアクティ

 

 

 暑い夏。

 夏休みを謳歌する学生という立場にある俺だが、来年受験を控えている高校3年生である。「3年の夏を制する者は受験を制する」なんて使い古されたフレーズを我が校の教師達も例に漏れず使い続けている。

 

 今日は学校が実施している無料の夏期講習で受験勉強中である。せっかくの夏休みに面倒くさいという思いと、夏休みの間も授業をしてくれる先生達にはご苦労様ですという思いも無くはない。

 

「……であるからして、デュエルモンスターズ第10期のルール変更はリンクモンスターを売り込みたいリンク社とデュエルのゲームスピードを落としたいデュエルモンスターズ委員会の利害が一致した事により施行されたと言われている。ここは重要だから覚えておけよ」

 

 社会科の先生が黒板に書くデュエルモンスターズに関する歴史をノートに写し、重要だと言われた部分に赤ペンで線を引いていく。

 先生の声と生徒たちが板書を書き写すシャーペンのカリカリという音だけが響く教室の中、俺には別の音が聞こえている。

 

『暑いよぉ……もう溶けちゃうんだから……』

 

 デュエリストたるもの常にデッキは携帯している訳で、メインデッキに採用しているアクティも未だにエアコンが設置されていないオンボロ高校に連れて来られている。

 

「……」

 

 周りに人が大勢いるうえ、授業中であるため声を出せない俺はノートの端に「うるさい」と書き加えて隣でブツブツ言っているアクティに見せる。

 そんなに暑いのが嫌ならわざわざ表に出てこないでカードの中に籠っていたら居たら良いのにと思うのだが、彼女にも何らかの拘りがあるのだろう。

 

『あー……そう言う事言うんだぁ……じゃあもう溶けちゃうから、私』

 

 アクティはそう宣言すると椅子に座る俺の真横に立ち、有言実行とばかりに身体全体をドロドロにしていく。普通の人間だったらスプラッタ物だが、スライム人間みたいな彼女がやるとゲームに出てくるスライムモンスターのバリエーションみたいでしかない。

 原型を留めている部分が頭くらいしか無い位溶けてしまったアクティは恨めしそうなジト目でこちらを見つめてくるが、そんな顔をしたって俺にはどうすることも出来ないのである。

 

『……』

 

 今度は四白眼のニヤケ面でまじでゲームの敵キャラみたいな顔をしているが、どう反応しろというのか。

 

「てな訳で、第10期でのルールは不評の嵐。みんながよく知る現行の第11期ルールに変更される事になる」

 

 先生が一通りの説明を終えたとほぼ同時に学校のチャイムが鳴り、65分の授業が終了したことを告げる。

 

「ん。丁度時間も来たから今回の授業はここまでだな。この一連の流れは試験でよく聞かれるから覚えておくように」

 

 ヤベ。

 変なことをしているアクティに気を取られて授業の話を途中から聞いていなかった。

 幸い大事なところは板書でも文章と違う色でラインが引かれているので、その部分を急いでノートに書き写す。

 夏期講習であるため、一度授業でやった部分ではあるのだが、一体どれだけの学生が受験生でも無いのに勉学に励むというのだろうか。勿論、早くから将来を見据えて勉強する人は居るし、そういう人を俺は尊敬するが、自分がそういう人間かと言われると、答えは「No」だ。

 

 尻に火が点いてから勉強を始める俺みたいな人間にとって先生の「ここ出る」情報は貴重なのだ。

 

「さてと……」

 

 夏期講習と言ってもうちの学校のそれはかなり緩く、午前中に終わってしまう。

 このまま暑い教室で自習をする勤勉な奴もいれば、さっさと家へ帰ろうとしている奴もいる。

 俺はそのどちらでもなく、所属している部活である園芸部の部室に立ち寄る事にした。

 

『!』

 

 アクティもそれを察したのか、四白眼ニヤケ面溶けスライム状態のまま俺の後を追ってくる。

 

 普通に怖いから止めてほしい。

 

 

 ☆

 

 

 学校の敷地の端に位置する文化部棟。そのさらに端っこの角部屋に居を構えているのが園芸部だ。

 部と言っても所属部員は俺ともう後輩のもう一人だけという廃部寸前の過疎部活だ。

 

『は~……。生き返るぅ~』

 

 部室の横にある花壇に水を撒いた後、蕩けたチーズみたいになり始めたアクティに放水用のシャワーを向けて水をかけてやる。すると、見る見るうちに身体を取り戻して見慣れた姿になっていった。

 斜め上方向にシャワーを向けて水が降り注ぐ形でアクティに浴びせているため、彼女は恵の雨に舞い上がる少女のようにくるくると回りながら全身で水浴びをしている。まあ、実体のない彼女にとってはあくまで気分の問題だろうが。

 

 それに確か彼女の身体は氷水(ひすい)で形成されていると聞いたことがあるのだが、そこら辺の水道水で代替しても良い物なのだろうか? ふーむ、彼女と日々を過ごすたびに『氷水のアクティ』という少女の生態は謎を増すばかりだ

 気持ちいつも緑色がかっている彼女の体色がいつもより真水の透明感が強い気がするのは水道水成分が強まったからだろうか。

 

『相変わらずこの土地は私達には生きにくい所ね』

「それが俺たちにとっても最近は生きるのに辛い土地になって来たんだよなー」

 

 普段外では精霊のアクティと会話をすることはしないのだが、ここは人がほとんど居ない文化部棟のその端。しかも花壇は文化部棟で陰になる位置といういい具合に人目を遮ってくれる場所であるため、ここは学校でアクティとよく話をする場所でもあった。

 

「地球温暖化は嘘! 地球目線で見れば今は寒冷期! なんて言ったって暑いもんは暑い」

『どこか涼しい所に行きたいねー』

「涼しいところか……プールにでも行こうか?」

『プール? ああ、あの人工のおっきな水溜まりね。いいね』

「あら? 先輩は誰かとプールに行くのですか?」

「!」

 

 予想していなかった俺とアクティ以外の声。

 それは聞き覚えのある人物の物だった。

 

「や、やすみんか。今日も花壇の水やりか?」

「はい。毎日お水をあげなければ花壇の皆が枯れてしまうので。先輩は夏期講習ですか? 今年は受験ですものね。お疲れ様です」

 

 彼女は遊佐(ゆさ)保美(やすみ)

 俺が所属する園芸部のもう一人の部員だ。彼女は園芸部の活動として夏休みに入っても毎日花壇の水やりをしに学校へ来ている。去年はその役目は俺のものであったが、新しく後輩として入ってきた彼女が今はその仕事を継いでいる。

 

 ちなみに、「やすみん」とは彼女のあだ名であり、彼女が愛用する『アロマージ』カテゴリーに属する『アロマージ-ジャスミン』に由来するものだ。

 やすみんがアロマージデッキを使用しているという事もあるが、彼女と『アロマージ-ジャスミン』の容姿が髪の色こそ違えど何となく似ていることと彼女の保美という名前をもじって呼ばれているので俺もそれに倣っている。

 

「先ほど誰かとお話ししている様でしたけど、お電話中でしたか? ……あ! もしかしてお邪魔してしまいましたか?」

「……ああ、いや。もう通話は終わったから大丈夫だよ」

 

 アクティとの会話を他の人間が聞くと俺の独り言のように聞こえるため、彼女の勘違いに乗っかる事にした。ブツブツと独り言を言う気持ち悪い先輩と思われたくない俺に選択肢は無いのである。

 

「ところで、先輩はどうして何もない所にお水をあげているのですか?」

「えっ、あー……これは……」

 

 独り言を言っている気持ち悪い先輩認定は回避できたようだが、何もない所に水をぶちまけている変な先輩としてはしっかり認識されてしまっていたようだ。

 当然、俺から見ればシャワーの先にはアクティが居るのだが、そんな事をやすみんが知る由はない。

 

「これは、あれだよ。流れる水を見ていると涼しいから……かな」

「気持ちは分かりますが、お水の無駄遣いは良くないですよ?」

「ははは……そうだね」

 

 まるで「めっ!」とでも言うかのような仕草を見せる後輩に資源の大切さを説かれた俺はアクティに向けていた放水を止めざるを得なくなる。

 そうすると当然、アクティの方からは不満の声が聞こえてくるのだがこれ以上唯一の部活の後輩に変人と思われたくはないので黙殺する。

 

『ぶー! ぶー! まだまだ物足りないよー! そうだ、プール! プールに連れて行ってくれないと一生溶けてやるんだから!』

「話は戻るのですが、先輩はプールに行く予定があるのですか?」

「いやまあ、プール行きたいなーって話をしていただけだよ」

 

 電話をしていたという設定を思い出した俺はさも話の流れで「プール良いよね~」的な会話をしていたという事にした。

 

「でしたら、今度……私と一緒にプールへ行きませんか?」

「やすみんと?」

『プールプールプール!!』

 

 完全に頭がプールになってしまったアクティのことは置いておいて、俺はやすみんの提案について考える。

 後輩の女の子と二人でプールってそれはもう……

 

『プール行くの!? わーい! プール! プール!』

 

 ああ、2人でじゃないね。アクティも合わせて……あ、いや待てよ。やすみんが出かけるという事は「あいつ」も一緒に来るな。

 そういう事であれば後輩の女の子と一緒に遊びに行く気恥ずかしさとか緊張感とかそういった思いはしないはずだ。

 

 であるならば、彼女のお誘いを断る理由は全く無い。

 

「はい……その……どうでしょうか?」

 

 俺と小柄なやすみんとでは身長差があるため、上目遣いでお願いされているような状況だ。

 

「いいよ」

「え? 本当に? 本当ですか?」

「うん」

 

 何故か誘ってきた方の彼女の方が意外そうな表情をしているが、この頃の夏の暑さでやられた悲しきモンスターを助けるためでもある。

 それに何だかんだ平日は毎日夏期講習でそろそろ息抜きをしたいと思って居た所だ。

 

 こうして次の土曜日はプールへ行くことが決定した。

 

 

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