ヒスイカズラは今日も咲く 作:いわば体液
やすみんの夢:お花屋さん
アクティの夢:平和で平穏な日々
今日も今日とて元気に熱を振りまく太陽さんの下を歩き、目的地である市民プールへと到着する。その入り口には二人の人影があった。
「よっすー」
『よっすー』
俺以外には聞こえてはいないだろうが俺の雑な挨拶を真似て向こうに見える二人に声を掛けているのは隣でダルそうにフワフワと浮いているアクティだ。
「あ、先輩……」
一人は俺の部活の後輩であるやすみん。普段は学校でしか会わないため見慣れた学生服ではなく、私服姿なのがなんだか新鮮だ。
「おう、遅いぞ」
彼女と一緒にいるもう一人はやすみんの兄である遊佐
そして、やすみんと一緒に付いてくるであろうと確信していた男でもある。
「ん? 別に約束の時間には遅れてないだろ」
「5分前行動は基本だろ?」
「そんなにプール楽しみだったのか?」
「まあそれもある」
緋色も俺と同じ高校3年生という事で将来について色々考えている時期のはずだ。たまの息抜き位したかったのだろう。
「ていうか、なんで兄さんまで来るんですか……」
「え? こいつと遊びに行くなら俺も行っていいでしょ?」
「……」
と、兄妹でそんな事を話しているが、シスコンのあいつが妹のお出かけ(しかも同伴者は知り合いである俺)に付いて来ない訳がない。簡単に予想できた事だ。
『ねえ……、早く中に入らない?』
「そうだな」
遊佐兄妹が何やら言い合いをしているようだが、外で待ちぼうけを食らってしまっているアクティがじわじわと溶けだしているのでそろそろ限界だろう。
という事で俺は二人の話し合いを中断させ、さっさとプールに入場する事にした。
☆
男、いや漢の着替えは早い。
上はTシャツ、下は半ズボンを脱ぎ捨てれば準備完了だ。
何故なら水着は着て来ているから。
「なあ、お前は学校卒業したらどうするんだ?」
さっさと着替えを終えた俺達は涼む意味も込めてシャワーを浴びてからプールサイドでやすみんを待っていたところで緋色がそんなことを言い出した。
ちなみに、アクティは謎の力で人感センサーを起動させて地獄のシャワーを満喫している。かなり冷たいシャワーのはずだが、アクティからするととても丁度いい具合なのか、ずっと浴び続けている。
誰も居ないのに何故か起動しているシャワーに職員さんたちが慌てて機材を調整している様子が見えるが、申し訳無いと思いつつも傍観することにした。
「んー。取り合えず大学に行って考えようかなと思ってる」
「進学か。まあ、そうだよな」
「緋色はどうするんだ? やっぱりプロデュエリストにはならないのか?」
「うーん……」
この緋色という男は非常にデュエルモンスターズが強い。
小学生時代から使っているという『HERO』デッキを使う彼は小学生のデュエリストが集うジュニアクラスで5年連続優勝を飾り、「ヒーロー使いのヒイロ」として名を広めていたし、その後は推薦でデュエルアカデミアの中等部に通っていたと聞いている。
強いデュエリストを目指す人間たちが集まるデュエルアカデミアはその性質上どうしても落ちこぼれと呼ばれる人間も出てしまうが、そんな場所でも緋色は優秀な成績を収めていた、と本人は言っていた。
本人からの話でしか知らないが、それは全くの嘘ということも無いだろう。何故なら彼は中学生時代でも中学生以降の少年デュエリストが戦うジュニアユースクラスはもちろん、その中から成績優秀者のみが昇格出来るユースクラスでも存分に戦えていたのだから。
ジュニアユース、ユースクラスの大会は全国放送でも放映されているので、彼がそこに出場していたことを実は以前から知っていた。
そんなプロデュエリストも決して無謀な夢ではないこの男がエスカレーター進学出来たであろうデュエルアカデミアの高等部を蹴って普通科高校を選び、普段の言動から即断即決しそうな彼が言葉を濁している。
何か心境の変化があったのか、プロデュエリストを選べない理由があるのか。
3年目の付き合いになるがそこだけは教えてくれなかった。
「なんというかプロっていうのはさ、負けを割り切って次は勝つって思える強い心か、負けを割り切れないから死ぬ気で勝って勝って勝ち続けるっていういかれた精神が必要だと思うんだよ」
「まあ勝負の世界だしな。でもお前にはそのどちらもあるだろ?」
「無いとは言わねーよ」
プロデュエリストは誰もが必死だ。
勝てない人間から辞めていく。そんなシビアな世界だし、簡単な決意で入れる世界ではないか。
「やっぱデュエルは勝って嬉しい、負けて悔しい、でも双方どちらも楽しい、ってのが良い」
「それはそうかもな。じゃあ進学か?」
「……でもやっぱりデュエルモンスターズとは関わりたいと思っちゃうんだよなぁ」
プロデュエリスト以外の職業デュエリストと言えば勝ちを至上とするのではなく、プレイスタイルや技術・戦術で観客を魅せるエンタメデュエリストと言うものもあるが、彼のデュエルモンスターズとの向き合い方を考えるとプロデュエリストの方が合っているように思える。
「面倒くさい奴だな」
「うるせぇ。お前こそ結構デュエル強いんだからプロ目指したら良いじゃんかよ」
「え? 俺? うーん……やっていける気はしないな」
とは言ったものの、将来やりたい事がぼんやりとは言え方向性が定まっている緋色の方がとりあえず大学に行って考えるなんて思っている俺よりはしっかりしているのかもしれない。
「お待たせしました~」
高校3年生特有の不安な将来への鬱話を終わらせてくれたのは水着への衣装替えが終わったやすみんだ。
白のビキニがいくらか夏の暑さを和らげてくれるかのような錯覚を覚える。思わず「かわいい」だとか「いいね」だとか口を滑りそうになったが、流石にそんなことを口走れば気持ち悪がられると思うので踏ん張った。
自制した自分を褒めてやりたいところだ。
「おーし行くかー」
「おー」
「おー」
『あっ、待ってー』
緋色の掛け声に俺とやすみんが合わせる。
シャワーをずっと楽しんでいたアクティもそれに気が付いて慌ててこちらに駆け寄って来た。
『スンスン……なんだか変な感じの水だね。違和感があるよ?』
「あー、消毒のせいかね」
プールという大勢の人間が共有する水場で細菌が繁殖すると大変なことになるため、塩素系の消毒剤が入れられることが多い。そして、塩素系の消毒剤には独特の匂い等があるため、普段キレイな水場で生活していそうな氷水のアクティには少し変な感じがあるのは仕方がないだろう。
……人間が入っても問題の無い程度の濃度の消毒剤だし、大丈夫だと思うんだが、アクティは大丈夫だろうか?
『はぁ~~~~。大きい水場サイコ~~~~』
どうやら大丈夫そうだ。
俺の心配もよそにさっさとプールに飛び込んで水と一体に成るかのようにぷかーっと浮いている。
「? お前誰と話してるんだ?」
「ん~。夏の妖精?」
「なんじゃそりゃ」
一応小声で会話はしていたのだが、緋色に少し聞かれていた様だ。でも、聞かれたのは細かいことは気にしない緋色だったため、適当に答えてあしらうことにした。
まあ、生足が魅惑かは知らないが、正に水を得た魚とばかりにプカプカ浮いているアクティは魅惑のマーメイドとも言えなくはないだろう。
……マーメイド? まあ、うん。あいつ別にじゃぶじゃぶ泳いでたりはしていないけどマーメイドの仲間みたいな物でしょ。多分。
その後はメインの流れるプールで3人で適当に駄弁りながら流れに合わせて遊んだり(アクティも流されながら付いてきた)、25mプールで緋色とスピード勝負をしてみたり(アクティはプールの端で留まる水の如く浮いていた)、市民プールにしては気合の入った目玉のウォータースライダーでは俺の後に滑り始めたやすみんにゴール地点で激突されてちょっと気まずくなったり(アクティはウォータースライダーが気に入った様で10回くらい遊んでいた)していたらプール点検のための10分休憩が訪れた。
夏休み中の市民プールという事で当然俺達以外にも大勢の利用客が居る。そんな彼らも昼時の休憩時間という事で多くの人が売店に集中する。
「うげ……みんな考える事は同じだな」
「丁度昼時だしな」
緋色がぼやくのも仕方がない。売店を始点にそこから多くの人が並んで結構な列を形成している。
「ねえ、これ見てくださいよ」
売店の列が進まないため、暇つぶしに辺りを見回していたやすみんが何かを見つけたらしい。
「なになに? 市民プール主催のデュエル大会?」
「開催日は今日のこれからで飛び込み参加大歓迎、か」
「面白そうじゃないですか? 景品はここのシーズンパスとレアカードだって」
「いいねぇ」
普通科高校に通っているとはいえ、俺たちは皆デュエリスト。着替えを仕舞っているロッカーには当然愛用のデュエルディスクと信頼するデッキがそこにある。
そしてデュエリストならば誰しもレアカードという魅惑の言葉を無視する事は出来ない。
「じゃあ決まりだな」
緋色はニヤリと口角を上げながらそう言った。
「全員で参加して誰が優勝するか勝負だ!」
突如参加が決定したデュエル大会。
俺達は急いで参加申し込みをしに行った。
緋色君は前作主人公的な?