ヒスイカズラは今日も咲く   作:いわば体液

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主人公:好きな飲料水はコーヒー。大人っぽいから。

ヒスイカズラちゃん:好きな飲料水は水。生活の必需品。

アクティ:好きな飲料水は炭酸。クソ強カードみたいになれそうだから。


飲料水のアクティ

 

 

 デュエル大会の優勝賞品であるレアカードが入っているというポチ袋と副賞のシーズンパスを俺は手に入れることが出来た。

 これで今年の夏は好きなだけプールに入り浸れるって訳だ。まあ、一人で市民プールに遊びに行ってもあまり面白くはないが、好きな時に水浴びに行けるというのは今年の酷暑を乗り越えるための心の余裕となってくれるだろう。

 

 プールでの遊び、デュエル大会と身体と脳に程よい疲労を与える日程をこなした俺達は帰宅の途へと就く。

 日が暮れ、気持ち気温が落ち着いてきた。

 吹く風がしっとりと濡らした髪を撫でると火照った身体の熱を取り去ってくれる。

 3人そろってプール特有の塩素の香りを振りまいているので横を通った人は俺達がプール帰りだという事に気が付くだろう。

 

『スンスン……ねえ、私から何か変な匂いしない?』

 

 俺の横ではアクティが顔の横に流れる髪の房、右腕、左腕を忙しなく鼻の前に持って行っては自身の匂いを嗅いでいる。

 そりゃまあ、あれだけプールと一体に成っていたらもう全身消毒済みのプールと化している事だろう。

 心なしか一番プールの香りを発しているのはアクティな気がするので、彼女には頷くことで肯定の意を返しておいた。

 

『ガーン……』

「あーあ、勝ち筋はあったはずなんだけどなぁ~」

「兄さんはまだ言ってるんですか?」

 

 何やらショックを受けてしまったアクティは口をあんぐりと開けて立ち止まってしまっているが、彼女のカードが入ったデッキを持っている俺から一定の距離以上離れることが出来ないため、そのままズルズルと引き摺られるようにして付いて来ているから大丈夫だな。

 

「今回は俺の運が良かったんだろ。ところで、2ターン目のドローカードは何だったんだ?」

「ああ、『オネスト』だよ」

「あー」

 

 オネストは光属性モンスターが戦闘を行うダメージステップ開始時に墓地へ送る事でモンスターの攻撃力を戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする戦闘補助カードだ。

 2ターン目の緋色のモンスターゾーンには光属性が居なかったから手札で腐っていたのか。

 それに、ワンダー・ドライバーが破壊されたときの効果が使われなかったのも大きい。もう一体モンスターが居れば俺のライフを削り切るには十分だっただろうからな。

 

「まさかあそこで『氷水のアクティ』がゴリラになって殴りかかって来るとはな」

「今引きした『墓穴の指名者』でギリギリ攻撃力を合わせた形だから全然勝った気がしねぇよ」

「何言ってんだ。それがデュエルモンスターズじゃねーか」

 

 まあそれはそうだが……。

 何とも不格好な勝利で納得しているかいないかで言えば納得していないのだけれど、それもまたデュエルモンスターズの醍醐味か。

 

「ところで、優勝賞品のレアカードって何だったんだ?」

「そういえばまだ先輩開けていませんでしたね」

「おお、そうだった」

 

 優勝賞品のポチ袋の中身を確認することを忘れるくらい遊び疲れていた俺だったが、二人の発言でようやくその存在を思い出した。

 雑にセロテープで閉じられた封を切り、中に入っている1枚のカードを取り出す。

 

「『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』か」

 

 そのカードは闇属性・魔法使い族の上級モンスター。自分フィールドのモンスター1体とフィールドのカード1枚を対象として発動でき、このカードを手札から特殊召喚し、対象のカードを破壊するという汎用カードとしての側面を持ちながら、このカードがフィールドから墓地へ送られたら自分の墓地のモンスター1体をデッキに戻して自分のデッキ・墓地から植物族・レベル1モンスター1体を選んで手札に加えるという植物族サポートとしても使うことが出来る。

 

 希少なカードという訳ではないが十分実戦で使うことが出来る有用カードだと言えるだろう。

 

『ねぇねぇ、そのカード強い? 私のお陰? 私の頑張りのお陰じゃない?』

「おー。結構良いカードじゃん。でもよぉ」

「ああ。強いモンスターではある、んだが……」

 

 アクティの質問に答えると同時に緋色が考えているであろう懸念点にも肯定を返した。

 

「確かに能動的に自分のモンスターを破壊する事が出来るってのは氷水モンスターとのかみ合いはそこまで悪くは無いんだが、植物族サーチの方は専用に相性の良いカードを入れないと使いづらいな」

 

 エジルとコスモクロア以外の氷水のモンスターは共通効果としてフィールドで表側表示の水属性モンスターが破壊されたときに墓地から除外する事で氷水モンスターを手札・墓地から特殊召喚することが出来る。

 つまり、フルール・ド・サージュの効果で自分と相手フィールドのカードを破壊する事になるが、墓地にアクティ達が居る状態で自分は水属性モンスターを選べば自分への被害を減らすことが出来るという訳だ。

 

「最初の効果だけを目的に入れるのも悪くは無いと思うけど、うーん……どうなんだ?」

「正直わからん」

 

 この特殊召喚が相手のターンにも出来ればかなり奇襲性の高い戦法も取れただろうが、それは流石に強すぎか。

 

「う────ん。やすみん、これ要る?」

「え!?」

『え!!』

 

 俺は少しだけ活用方法を考えた結果、フルール・ド・サージュをやすみんに譲る事を提案した。

 彼女のデッキはアロマージであり、アロマージにはレベル1の植物族モンスターである『アロマージ-ローリエ』が居る。少なくとも俺より上手く活用出来るのは明白だ。

 

「で、でも、折角の優勝賞品ですのに、良いんですか?」

 

 公式大会で貰えるような限定のプロモカードとかだったらスクリューダウンに入れて飾ってたんだが、こいつはバリバリの実戦級カードだ。

 折角強いカードなのに家のストレージボックス送りにしてしまうのは可哀そうというものだ。

 

「なんで俺には聞かないんだよ」

「お前のHEROデッキに入れる余地があるのか?」

「まあ、無いな」

 

 緋色のHEROデッキも俺と同じようにこのカードを万全に使えるようなテーマではない。むしろ俺が使う氷水デッキよりもシナジーは薄いかもしれない。

 だからやすみんに提案したのである。

 

『私、頑張ったんだけど!』

 

 アクティが珍しく大きな声を出している。

 まあ、実際アクティが逆転のカードを引き込んでくれたのは確かなことであり、それは素直にすまないと思う。

 後でオレンジジュースでも買ってあげるから許して欲しい。

 

『うーん、ならいっか』

 

 良いらしい。

 

 ちなみに、彼女は人間世界の物体に物理的に触れたりする事は出来ないのだが、液体に関しては色々と融通を利かせる事が出来る。

 やはり彼女自身が氷水という液体に由来するモンスターであるというのが大きいのだろうか。

 

 知らんけど。

 

 その特性のため、しばしばジュースやコーヒー、紅茶等を味わいたいがためにそれら飲料水を要求して来る事がある。

 もしかして、今回の活躍報酬として元々何か飲料水を要求するつもりだったからやたらと自分の頑張りをアピールしていたのだろうか?

 

「でも、先輩には色々と貰ってばかりで心苦しいです……」

「ん? そんなに何かあげてたっけ?」

「ヒスイカズラの種子とか。あれってとても貴重な物なのでは?」

「あー」

 

 うちのヒスイカズラちゃんはどういう訳か結実する。本当にどういうことなの。

 本来、ヒスイカズラが実をつけるためには受粉を媒介するオオコウモリの存在が必要であり、オオコウモリが生息していないこの国ではヒスイカズラの結実は非常に難しい。勿論、人工授粉という手段もあるのだが、俺はそんな事をした覚えはない。

 だからヒスイカズラをこの国で増やすためには挿し木をするのが基本である。

 

 話が逸れたが、何を言いたいのかというと、俺からすればヒスイカズラちゃんの種子は別に貴重な物でもなんでもなく、労力すら割かずに手に入れたものであり、友人にプレゼントする物としては下の下と評価されても仕方のない物だ。

 

 うちで花を咲かせるヒスイカズラを見た花好きのやすみんが羨ましがっていたのでその種子を渡すというのは不思議な事ではないだろう。

 

『ふっふっふ……世界中ヒスイカズラ生息計画は順調そうでなにより』

 

 え? アクティ、今なんて? 

 

「いや、あれは勝手に出来た種子だから気にしなくていいんだぞ?」

「えっ、そんな事あり得るんですか?」

「実際に実が成ったんだからあり得るんでしょ」

「あり得るんだぁ……」

 

 あり得るんです。

 

「まあ、気にしなさんな。使っても使わなくてもいいけど、俺が持ってるよりやすみんが持ってる方が活躍の機会がありそうだし。選択肢が一つ増えるのは悪くないでしょ」

「そこまで言うのでしたら……。ありがとうございます」

 

 半ば押し付けるような形になってしまったが、フルール・ド・サージュのカードはやすみんの手へと渡る。

 あんまりこういう押し付けみたいなのは良くないと言うのは分かっているが、カードがストレージの肥やしになるのは心情的に耐えられないので許して欲しいところである。

 

「と、そろそろお開きだな。今日は遊べて楽しかったぜ」

 

 分かれ道。

 それは俺の家と遊佐兄妹の家とを分ける交差点だった。

 

「俺も良い息抜きになったよ。やすみんも誘ってくれてサンキューな」

「いえ、私も大変楽しみました!」

 

 二人とはまた学校で会う事が分かり切っているのでお互いに曖昧な挨拶を交わして別れる。

 こういう時、別れ際に変な空気が流れない間柄というのは気易くてとても良いものだ。

 

『さ、オレンジジュースとメロンソーダを買いに行きましょ』

「なんか増えてね?」

 

 人通りの少ない細道で、二人と別れて人目を気にすることなくアクティと会話が出来るようになった俺は彼女の要望に応えるためにコンビニへ立ち寄るのだった。

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