ヒスイカズラは今日も咲く 作:いわば体液
まさかあの子達と はぐれちゃうなんてェ……
急いで追いつきたいけど
もう疲れちゃって 全然動けなくてェ……」
「……もう帰らないか?」
『え~~~~~???』
目的の参考書と問題集を購入した俺達はショッピングモールを歩き回る事にした訳だが、ここで失念していたのは荷物の重さである。今回購入した参考書が過去問集も含めた物であるため、1冊1冊がとんでもなく分厚い。
それを志望校の数だけ買えば中々の質量を誇る。
最初は俺の用事を済ませてからゆっくり回ろうなんて考えていたが、こんなに荷物が重くなるとは想像していなかった。
購入したものは肩掛けカバンにぶち込んだおかげで俺の肩が凹んでしまいそうだ。
そんな訳でショッピングモールに来てまだ1時間も経っていないにも関わらず俺がアクティとエジルに提案する事になっていた。アクティが非難の声をあげる気持ちも十分理解できるが、すまん……もう俺の体力が限界なのだ……
『……そうですか……』
「……」
だがしかし、今回はいつもと違う事がある。
連れがアクティだけであったなら彼女の非難の声なんて聞こえないふりをしてさっさと家へ帰っていたところだが、今日はエジルが居る。
「……冗談だよ」
『冗談だったんですか! よかったぁ』
『本当にエジルちゃんには甘々じゃん』
「あの子にあんな悲しそうな顔されたらさ……無理じゃんッ」
『じゃあ私が悲しそうな顔してたら?』
「え? そりゃあ……」
……
「ちょっと疲れちゃったからカフェにでも行こうか」
『カフェ……ですか? それはどういう場所なんですか?』
「飲み物を頼んで休憩する場所かな」
『なるほどー』
『ねえ? 私が悲しそうな顔してたらどうしてくれるの? ねえねえ?』
ピエンって感じの顔をしながらこれ見よがしに俺の目の前を往復するのをやめなさい。鬱陶しいだけだぞ。ていうか、それがお前が考える悲しそうな顔なのか? そうだとしたら俺は今後アクティに泣き落とされる心配はなさそうだ。
☆
適当にアイスキャラメルマキアートの大きい物を頼もうとメニューを見たら想像以上の値段に尻込みしつつも折角だからと購入を決定。
何とか空いているテーブルを確保して筋トレ道具と化したカバンを横に置くことでようやく一息つくことが出来た。
本来であればこんな高価な飲み物を1人で休憩するためだけに注文なんてしないのだが、今回は俺の飲み物を狙う同伴者が2人も居ることを忘れてはならない。
『甘くて美味しいです!』
『たまにはこういうのも悪くないね』
謎の力で人間界の飲み物を堪能する精霊2人は身体の色を淡いキャラメル色に変化させながら俺が注文したはずのキャラメルマキアートを飲みまくっている。大きいサイズを買っていなければ今頃自分が飲む分は残っていなかっただろう。
このまましばらく3人でゆっくりとした時間を過ごして居たい所だったが、どうもそれは許されなかったらしい。
「!?」
『なんですか!?』
『何かが爆発した?』
この大型のショッピングセンターを揺さぶるような大きな音が鳴り響いた。その音を聞いたのは当然俺達だけではなく、周りの人達にも聞こえていたようで、大きな騒ぎとなっている。大人も子供もパニック状態で店の出口へと向かっているようだ。
「何だか知らんが、俺達もさっさと逃げた方がよさそうだな」
『さっきの揺れ方、まるで何かが爆発したみたいだったね』
トラックでも突っ込んで来たのだろうか? 原因はショッピングモールの中に居る状態の俺では解らないが、少なくともここに居続けるのは拙そうだ。
緊急事態であるため荷物を持って行くのは良くないのだろうが、重いカバンを忘れず手に引っ掴んでから、人の流れに乗るようにしてショッピングモールから外へ出ると、何故か一部を囲む様にして人だかりが出来ていた。その中心には向かい合う2人の人物とリアルソリッドビジョンによって実体化したデュエルモンスターズのモンスター。
「あれは『終焉の覇王デミス』と『破滅の美神ルイン』? すげぇ……あの2体を同時に並べているのか」
終焉の覇王デミス。攻撃力、守備力共に3000でレベル10の最上級儀式モンスター。さらに1ターンに1度、2000LPを払って発動できる。フィールドの他のカードを全て破壊し、破壊した相手フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与えることが出来る。
そして、破滅の美神ルインもデミス同様最上級儀式モンスター。こちらはデミス程派手な効果は持っていないが、条件を満たせば2回攻撃が出来る上に戦闘破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える。
だが、この2体が同時にフィールドに並んで居るという事はデミスの効果によって戦闘破壊耐性を、ルインの効果によって効果破壊耐性が付与されているという事だ。この盤面を返すには少々骨が折れるだろう。
勿論、壊獣やラヴァゴーレム、バウンスや墓地送り、除外などの破壊ではない除去が出来れば良いのだが。
「しかし、デミスとルインか。中々渋いデッキだな」
俺が生まれるよりも前の時代。まだ終焉の覇王が終焉の王で、破滅の美神が破滅の女神だった時代はデミスドーザーという型のデッキが活躍していたという話を聞いた事があるが、年々新しいカードが発売され、流石にパワー不足となっていった。そこで過去テーマ強化の流れが起こり、リメイクカードとして登場したのが『終焉の覇王デミス』と『破滅の美神ルイン』である。
リメイクと新たなサポートカードによって現代デュエルでも戦えるデッキになっていった。だが、カードプールが広がり続けて様々な選択肢が存在する現代でデミスとルインを両方採用したデッキを使うデュエリストは中々の物好き……いや、熟練度の高い猛者だろう。
「って、あれはプロデュエリストじゃねぇか!」
『知っている人なんですか?』
「まあ、あまり詳しい訳じゃないけど……確か以前はダイヤランクでもデュエルしていた人だった様な……」
『???』
そんな俺の言葉を受けて頭にハテナを浮かべている。まあ、人間界のシステムや制度についてはあまり詳しくないだろうから仕方ないか。
「プロデュエリストってのはな、言ってしまえばデュエルの強さでお金を稼いでいる人の事さ」
『ほえ~、とても強い人なんですね』
「それもダイヤランク、つまりプロデュエリストの中でも上位の実力者って事だ」
実はプロデュエリストという身分を手に入れるだけならそれほど難しいことは無い。
名前、生年月日、住所を書類に記入してカードを40枚持っていることをプロ協会の受付で確認してもらえばそれだけでルーキーランクの証明書が発行される。そこから年4回実施されるデュエリストカップや各地で開催されるデュエル大会で好成績を残す等の実績を積むことでブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、そして最高位ランクであるマスターランクへと昇格していくことになる。また、ルーキー以外のランクではさらに5段階のティアに細分化されている。
『上から2番目って事ですか!』
「そういう事だね。でもダイヤランク以上って言うのには大きい意味があるんだ」
ダイヤランクとプラチナランクの間にある壁。
それはデュエルだけで食っていけるかいけないかの差である。ダイヤ、マスターランクのデュエリスト達のデュエルは基本的にテレビで放映される。テレビにその姿が映し出されれば人目に触れる機会が増える。そうすればスポンサーになってくれる個人や企業も出てくる。
そうする事でようやくデュエリストとして余裕をもって生活出来る額の金を手に入れられるという訳だ。
所謂俺達がプロデュエリストと呼ぶ人間はこれらのランクに所属している人達の事を指す。
まあ、プラチナランクでも活躍できれば生活出来るくらいの金を手に入れる事は出来るだろうが、半分以上の人はバイトもしくは副業をしているんじゃないかな。
そしてゴールドランク以下となると得られる収入としてはそこらへんのバイト以下だろう。
これは余談だが、デュエルアカデミア高等部を無事に卒業できれば自動的にゴールドランクの証明書が発行されるし、ジュニアユースやユースクラスの大会で好成績を収めていれば協会が成績を加味したランクの証明書を発行してくれるのでルーキーランクから始める人たちより大きなスタートダッシュを決めることが出来る。
「だけど、プロの世界って言うのは厳しいらしい。かつてダイヤランクで活躍していたあのプロも今はプラチナランクの下位ティアにまで落ちてたはず」
『大変な世界なんですね……』
『あれ? あの人って?』
俺とエジルがデミス&ルイン使いのデュエリストに注目していたところ、アクティが相手のデュエリストの方を指さして叫んでいた。
「え? 緋色?」
対戦相手は俺の友人である遊佐緋色だった。だが、奴の表情はいつものデュエルを楽しむ顔ではなく、どこか余裕のない苦しそうな様子だ。
スランプ気味とはいえ実力のあるプロデュエリストを相手にすれば当然楽しんでそうなものだが……?
「くっ……アンタ程のプロまでそんな力に頼るなんて……」
「……私は……変わるんだ……この……力で……もう一度ッ!」
デュエルをしている二人で何かを話しているようだが、ここまで少し距離があるためよく聞こえない。
「……ん? あれ? まさか今って後攻1ターン目なのか!」
緋色のフィールドががら空きだったためプロの先攻1ターン目かと思ったが、ソリッドビビジョンで表示されている緋色のLPが3000にまで減っている。そして手札の枚数は2枚で俺のデュエルディスクの観戦機能を介して見られる公開情報の墓地にはHEROデッキの主力カード達が存在している。
LPが3000という事は、『ヒーローアライブ』によるコストに加えて何らかのダメージを負ったのか。
「そうか、終焉の覇王のバーン効果」
恐らく、以前俺が緋色とデュエルした時と同じ盤面でターンを返したが、HEROデッキの弱点である全体破壊を食らわされたという事か。アブソルートZeroの破壊効果で妨害しようにも破滅の美神ルインの効果でモンスターを効果破壊する事は出来ない。
あれ? ダメージを受けたなら墓地に居たであろう『V・HERO インクリース』が魔法&罠ゾーンに表側表示で置かれているはずだが……まさかそれも対処したのか? 『墓穴の指名者』だろうか? 徹底的だな。
しかし、ダーク・ロウがフィールドに存在していたであろう状況で何もさせずにここまでの展開をしたという事は相当手札が良かったのだろう。
「バトルだ……デミスでダイレクトアタック!」
終焉の覇王デミスの攻撃力は3000。緋色のLPも3000。このダイレクトアタックを通せば緋色の負けだ。
「手札から『バトルフェーダー』の効果を発動! このカードを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」
「耐えたか……ターンエンド」
バトルフェーダーの効果で緋色は首の皮一枚繋がった。
それにしても、バトル自体は行われなかったが、今のデミスの圧力はいくらリアルソリッドビジョンとはいえ異常だった。まるであのまま攻撃を受けていたら本当に怪我をしてしまいそうなほどだ。
「俺の、ターン。ドローオオォ!」
「たった2枚の……手札で……一体何が出来る……?」
緋色の場にはもはや壁にしかならないバトルフェーダーのみ。手札は今引いたカードと合わせて2枚だけ。
対して相手の場には戦闘でも効果でも破壊出来ない上級儀式モンスターが2体。どちらかを処理できればその耐性に穴を空ける事が出来るが……。
「……いや、なんとかなりそうだ」
「何?」
ドローカードを見た緋色の表情は勝ちを見据えている様だ。
儀式デッキは手札消費が激しい。デミスとルインを合わせてフィールドに召喚したのは見事だが、そのせいでプロの手札は0枚。手札からの妨害は考えなくて良い。
「手札から、『ミラクル・フュージョン』を発動!」
「2枚目……!?」
HEROデッキでは『E・HERO サンライザー』の効果でデッキから『ミラクル・フュージョン』をサーチすることが出来る。1ターン目で使ってしまうのが鉄板ルートだが、緋色のデッキには『ミラクル・フュージョン』が2枚採用されている。
「墓地の『E・HERO サンライザー』、『E・HERO アブソルートZero』、『M・HERO ダーク・ロウ』を墓地から除外して融合召喚! 勝利のヴィジョンはここに見えた。お前のVは
V・HERO トリニティー
ATK 2500 レベル8 闇
「トリニティの効果。このカードが融合召喚に成功したターン、このカードの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる」
V・HERO トリニティー
ATK 2500 → ATK5000
『お~すごい攻撃力だ~』
「トリニティは直接攻撃出来ない代わりに1度のバトルフェイズ中に3回攻撃する事が出来る。これなら戦闘破壊されない効果を逆手にとって大ダメージを与えられるが、デミスとルインの攻撃力だと3回攻撃してもライフを8000削り切ることは出来ない」
だが、緋色もそんなことは分かっているはずだ。なら、おそらく最後の1枚の手札は……
「バトル! トリニティで終焉の覇王デミスを攻撃! この瞬間、手札の『ダーク・オネスト』の効果発動! このカードを手札から墓地へ送る事で、相手モンスターの攻撃力はターン終了時まで、トリニティの攻撃力分ダウンする!」
終焉の覇王デミス
ATK3000 → ATK0
「な、なんだと……!? ぐっ……」
プロ
LP8000 → LP3000
「これで終わりだ! トリニティで終焉の覇王デミスに二度目の攻撃!」
「ぐおおおおおおおおおおお!!」
プロ
LP3000 → LP0
『わお、あの人勝っちゃった』
『すごいです!』
「うーん、流石のドロー力と言った所か」
「あれ? お前もここに来てたのか」
「買い物でね」
デュエルが終わったので緋色に近づいた事でようやく俺もデュエルを観戦していたことに気が付いたらしい。
緋色はデュエルを一回しただけとは思えない程の疲労を顔に浮かべていた。
「ところで、なんでプロデュエリストとデュエルするなんて事態になってたんだ?」
「ああ、それは……あれだ」
「あれ? ……ん? んんん?」
緋色が指を指したのは今まで緋色が相手をしていたプロデュエリスト……の右手の甲。そこにはバッテンの様な模様をした入れ墨? が存在していた。
「これはな、一部で聖痕なんて呼ばれている代物なんだ」
だが、そんな事よりも今注目するべきは本当にそこなのか?
俺と緋色が話している傍で、どこからか現れた現実離れした姿の少女がデュエルに負けて倒れたままのプロデュエリストの横に立っていた。
『あらあら……こんな所に居たのですか。しょうがない子ですね』
白い肌に白い髪。赤い瞳に黒の衣。そんな少女が街を歩いて居ればどんな人間でも振り返ってしまいそうだが、ここに居る人間で俺以外は誰も彼女に注目していない。
少女がプロデュエリストの右手の甲に描かれた聖痕と呼ばれた模様に手を翳すと初めから聖痕なんて無かったかのようにゆっくりと消えていった。
「消えた?」
「ああ、デュエルに負けたら何故か聖痕は消えるんだ。この力を宿したデュエリストは敵を倒す力を手に入れることが出来るそうだ。具体的には先攻では初期手札が良くなったり、後攻なら欲しいカードがドロー出来るようになったりな」
緋色は何事も無く聖痕の説明をしてくれるが、やはり彼女の行動については触れられていない。何故か消える、と緋色は言っているが、今のは明らかにあの謎の少女が何かをしていた。
「何だかデュエルアカデミアに伝わるって言う死神のカードみたいだな」
「おお、そんな大昔の伝説をよく知ってたな。まあそんな感じだ。だが聖痕はドロー力以外にもリアルソリッドビジョンの衝撃の増幅なんて効果もあるようだ」
「衝撃の増幅。するとさっき建物が大きく揺らされていたのは……」
「終焉の覇王デミスの破壊効果を使われた時だな」
「なっ!? モンスターの効果破壊の余波であのレベルならダイレクトアタックなんて食らったら大怪我で済まないぞ!」
「ああ。だから聖痕を宿したデュエリストと戦う時は大ダメージを受けないように立ち回る必要がある」
なるほど。だから緋色のデッキで見たことがないバトルフェーダーが使われていたんだな。
俺と緋色が話している間もプロデュエリストの傍に付いていた少女に対してびくびくしながらもエジルが声を掛けに行く。
『あのぉ……あなたは?』
『これは失礼致しました。
『あ、はい。エジルです。こっちはアクティさんです』
『どうも~。それであっちにいるのが私達の
『よろしくお願い致します』
エジルやアクティ達と会話しているという事はクエムと名乗った彼女も精霊なのかだろう。しかし、一体何のモンスターの精霊なんだ? 俺が全てのカードを把握しているなんて言うつもりはないが、それでも全く見覚えが無いモンスターというのもそうは無いはずだ。
「そんなものをプロデュエリストが?」
「この人は最近結果が出せていなかったからな……。こんな力に手を染めてしまったんだろう」
プロの世界は厳しい。
一度上位の世界を経験したからこそ耐えられないものがあったのだろう。
『この子達は優しいから、頼られてしまうとつい手を貸してしまうんです。特に、弱い子は助けたくなってしまう』
アクティとエジルと一緒にこちらに来たクエムが両手を皿の様にして見せてくれたのは赤い目玉に手足が生えた変な生き物だった。心なしかしょんぼりとした雰囲気を醸し出しているのは気のせいだろうか?
「そして、これが俺がデュエルアカデミア高等部に進学しなかった理由、そしてプロデュエリストを目指すのを躊躇う理由さ」
「まさか、この力がデュエルモンスターズ界で蔓延っているのか!?」
「ああ、それもかなりの数だ」
『お恥ずかしながら、666人の子達と一度逸れてしまいまして』
「えぇ? そんなに多いのか」
「ああ」
『はい』
ちょ、ちょっと待て。緋色とクエムが一緒に話しかけてくるせいで会話がおかしな事になりそうだ。けど何故か何となく会話が噛み合っているから余計に困る。
「だが、俺が中等部に居た時にある人と協力して事態を沈静化する事が出来た。デュエルアカデミア内部は俺が、そしてプロ界はプロデュエリストの「鉄翼」が」
「鉄翼って……マスターランクティア1、それもランキングデュエルで国内ナンバーワンの最強デュエリストじゃないか! そんな人と繋がりがあったのか!」
鉄翼は
「あーまあ、ちょっと目を掛けて貰える機会があってな」
『大体600人以上の子達は回収できましたね』
「いや、すっご」
他にも協力者は居たのだろうが、それだけの人数のデュエリストを負かしたという事だろう。一日一デュエルだとしても2年近くかかる計算になる……とんでもないな。
「だが、あの人と協力してもまだこの世界には聖痕に頼るバカ野郎が残っているんだ。俺はもうデュエルアカデミアから離れたが、今もこうして機会があればあの人の手伝いをしている」
「そうだったのか」
『ええ、はい。残念ながらまだ逸れてしまった子は居るのです。ですから、私はあの子たちを探しに行かなければなりません。私はこの辺りで失礼させていただこうと思います』
『え、もう行っちゃうんですか?』
『ふふふ、またいつか、どこかで会いましょう。みなさん』
「お、おう」
「ん? お前誰に返事してるんだ?」
「ああいや、それは……まあ、気にするな」
それだけ言うとクエムは忽然と姿を消してしまった。
ただの休日の買い物のはずだったのに、変な事に巻き込まれてしまったな。まさか今後聖痕に関わる事件にまた巻き込まれる事に……
『ねぇ、明日はどこに遊びに行く? 山の上の渓流とか良いんじゃない?』
「いや、明日は月曜日だし夏期講習に行かなきゃいけないからそりゃ無理だ」
『えーえーえー』
いや、そんな事にはならないだろう。
緋色はともかく、この事件には国内最強のデュエリストが動いているんだ。精霊が見えるから聖痕が消える絡繰りを知る事は出来るが、それだけである。
俺が出来るのは精々聖痕をばら撒いている存在を回収しているクエムを応援してあげるくらいだろう。
「来週行こうな」
『え? 本当に? やったー』
俺の知らなかった世界の問題を垣間見た休日だったが、結局俺はただの受験を控える高校生なのだ。