迷い人と星の子 作:ポテチバタースキー
前回同様、☆♡☆♡以降がアイ視点です。
内容も前回同様、短いながらもアイ視点がメインとなります。
では、どうぞ。
俺が転生してから3度目の12月を迎えた。
俺の誕生日を知ったアイは、「私の方がお姉ちゃんだったんだねっ」と得意げな笑みを浮かべ胸を張っていた。
誕生日を迎えた時に、別途アイからも誕生日プレゼントを貰うことになるとは思わなかったな。アイから貰ったボールペンとメモ帳は大事に使わせて貰おう。彼女の想いが
それと、
幼少期に筋トレをするわけにもいかず、さりとて何もしないわけにもいかずで、妥協案として皆が寝静まってから、突き、蹴り、手刀、
トントン拍子で事が進まないことに歯がゆい思いはあるが、今は基礎能力を引き上げて身体エネルギーの覚醒を待つ他無いのかもしれない。
さて、現在はというと、風呂上がりでアイの髪を乾かし終わったところだ。ヘアオイルもやったとも。
「くちゅんっ」
「アイ、大丈夫か?」
「大丈夫ー。少し寒い? ような気もするけど」
湯船に長いこと浸かっていたから、体が芯から温まっていないと
「アイ、風邪引いたかもしれないな。急ごう」
「えっ?……う、うん」
着替えも既に終わっているため、アイの手を引いて直ぐに節子お姉ちゃんの所へ向かう。いつも通りならキッチンに居る
「おっ、
「節子お姉ちゃん、アイが風邪を引いたかもしれない。場合によっては病院に連れて行って欲しいんだ」
俺の言葉を聴いて、節子お姉ちゃんは、普段の朗らかな表情から引き締まったものへと変わっていく。
節子お姉ちゃんは屈み、アイに目線を合わせた。
「アイちゃん、どこら辺が具合悪い?」
「えっと、……少し寒い? かなって」
「そっかそっか……。支翠、話は分かった。
インフルエンザだと恐いからな、と付け足した節子お姉ちゃん。
インフルエンザにはタ○フルやリレ○ザ等の治療薬があるものの、決して舐めていい病気ではない。発熱等の症状が辛いということもあるが、インフルエンザ脳症を起こせば死にかねない病気だ。
「ありがとう、節子お姉ちゃん。それと、病院に行く時は俺もアイに同伴したいんだ。お願いっ」
俺は、節子お姉ちゃんに頭を下げた。
そうした不安や孤独感を少しでも和らげる。
闘病経験者として、また、お兄ちゃんポジとしての務めだ。
「支翠……。分かったよ、アイちゃんを連れて行く時は支翠も一緒に連れて行く。アイちゃんもそれで良いか?」
「うんっ」
「重ね重ねありがとう、節子お姉ちゃん」
アイの弾んだ返事を耳にしながら、俺は頭を上げる。
「気にするなって! アタシが
そう言って、顔を
俺は勿論のこと、アイも自然に受け入れている。
節子お姉ちゃんとアイが積み重ねてきた時間は1年にも満たないが、ここまでアイが心を許しているのは節子お姉ちゃんの人徳故だろう。
「さて! 2人とも風呂上がりの
「俺は
「私も同じのがいいー!」
「はいよ。それじゃお茶
撫でるのを止めた節子お姉ちゃんは茶葉を取り出して、お茶を淹れる準備を始めた。
それから節子お姉ちゃんのお茶を飲み終えた俺達は、いつものように夕食やその後の歯磨きを済ませ、寝床に入る。
布団に
どうか俺の
※※※※
往々にして、嫌な予感というものはよく当たる。
翌朝になって、アイは熱を出した。彼女のおでこに手を当ててみたところ、微熱ではなく本格的な発熱。それも恐らく38度台の。
俺は、直ちに節子お姉ちゃんを俺の部屋に呼び、アイの容態を説明。節子お姉ちゃんとアイ、おまけの俺は、病院に急行することになった。
「コホッ、うぅ〰〰……寒いぃ〰〰……」
「そろそろ病院に行くけど、ベッドから起き上がれる?」
「うぅ〰〰……シスイ君、だっこしてー……」
「了解。それじゃ、俺の首に手を回してな」
「んぅー」
アイに覆い被さるような姿勢になった俺の首に、アイが手を回した。それを視認した俺は、アイの背中とベッドの間に腕を差し込み、アイを抱き起こす。
「シスイ君、ありがとー……」
抱き起こされたアイは礼を言ってから、どこか名残惜しそうに手を離した。
抱き起こした際に、アイの体は湯タンポのように熱を持っているだけでなく、それなりに汗ばんでいた。最悪、パジャマの上からコートを羽織る形で病院に行くのも
そう考えた俺が手早くアイの着替えを準備しているところに、スポーツドリンクと紙コップ、ストローを持った節子お姉ちゃんが入ってきた。
「アイちゃん、着替えるのが辛かったら、上はコートを羽織って下だけ着替えようか」
「いや、結構汗
「分かった。アタシがやろう」
アイを何とか説得して、普段は自分で着替えるようにして貰っているが、体調を鑑みるに今日は難しいだろう。
スムーズに節子お姉ちゃんとバトンタッチをして、アイが着替え終わるまで部屋の隅で壁を見つめて待とうと、腰を上げたその時。
「シスイ君……行かないでっ……」
アイの弱々しい懇願が聴こえた。振り向くと、アイは涙目になりつつあり、唇を震わせていた。
「……大丈夫、どこにも行かないよ」
アイに微笑み返してから、俺はアイの頭を一撫でして、彼女の手が届くベッド脇で背を向けた。
当然ではあるが、入浴を始めとした日常生活において、アイの着替えや裸を極力見ないようにしている。
アイが引っ付き虫なため相当に大変だが、今日に至るまでお兄ちゃんポジとしての
少しして、衣擦れする音が途切れた。着替えが終わったらしい。
「
「おまたせー……」
二人の声を聴いて、俺は振り返る。
アイは外出着に着替え、白色系の厚手のダウンジャケットを上から着ていた。
ただ、アイの顔は、いつもの
「アイちゃん、病院に行く前にアクエ○アス飲んでおこう。熱出してると汗掻くからな」
「んっ……」
ペットボトルにストローを差して、アクエ○アスを飲み始めたアイ。500ミリペットボトルの半分程度まで飲んでいった。最低限の水分は補給できたと考えて良いだろう。
「ごちそーさまぁ……」
「おっし。それじゃ、病院に行こう」
節子お姉ちゃんの掛け声に従い、俺とアイも移動を開始する。
少しふらついているアイの手を取った俺は、先導するような形で階段を下りていって、玄関にて待機。
その後、幸燦園の門扉に横付けされた節子お姉ちゃんの車にアイを乗せてから、俺も乗り込んだ。
※※※※
アイの発熱について、医師の診断結果はインフルエンザではないというものだった。念のためインフルエンザの検査だけでなく血液検査も受けたが、CRP(炎症の度合いを示す指標)が平常時と比較して少し高い程度で、風邪だろうとのこと。
そうして俺達は、医師から処方されたカロ○ールを薬局で回収して、
夕食等を早々に済ませた俺は、ベッドで眠っているアイの様子をちらちらと見つつ、ベッド脇に腰を下ろして読書している。
読んでいるのは、山崎○子の不○地帯。
不朽の名作だな。
「……」
すぅすぅと穏やかな寝息を立てているアイの横顔に目を向ける。
その経験もあって、俺はリスクヘッジを重視して動いたのだが、周囲からは過剰反応気味に映ったかもしれない。
内心で少しだけ安堵していると、ガチャリと俺の部屋の扉が開く。毛布を抱えた節子お姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「支翠。支翠もそろそろ寝な」
「あれ? もうそんな時間?」
ベランダ側の窓を
なん……だと……?
最後の月牙○衝の修行なんてしてないんだが……。
「支翠。……アタシが代わりにアイちゃんを
「いや、俺もここでアイを看るよ。出来ることは少ないけど」
「風邪移っちまうぞ?」
「それでも、ここに居たい」
俺と節子お姉ちゃんの視線がぶつかる。節子お姉ちゃんの気遣いはありがたいけども、俺もこればかりは譲歩するつもりはない。
「はぁ〰〰……支翠は、もっと自分を大事にしないとなぁ……。仕方無いかぁ」
諦観を
客観的に見て、俺は
俺が転生する前の
「それじゃ、アタシらもとりあえず寝よう。少しは寝とかないと、いざって時に動けないからな」
「うん、一旦おやすみ節子お姉ちゃん」
「支翠もおやすみ」
パチンッという音と共に、部屋の電気が常夜灯に切り替わる。
ベッドの縁に、上半身だけ伏せるようにして体を預け、俺は
☆♡☆♡
お母さんと暮らしていた時、私が風邪引いちゃっても誰も助けてくれなかった。家に1人ぼっちで、恐いなぁ、寂しいなぁって思いながら我慢していたの。ぽろぽろ泣いちゃったけどね。
今、私は
お母さんは今も迎えに来てくれないし、シスイ君や節子お姉ちゃんも居なくなったら、私はずっと1人ぼっち……。
嫌なこと考えちゃったなぁ……。
お薬飲んで寝てたら、真っ暗な時間に目が覚めちゃった。
誰かが私の右手を握ってる。少し横を向いて見ると、節子お姉ちゃんとシスイ君が机で居眠りするみたいな格好で寝てた。
私の右手を握っているのはシスイ君。
良かったぁ……。やっぱり、シスイ君と節子お姉ちゃんは私の事をちゃんと見てくれてる。節子お姉ちゃんは
まだ体が熱っぽいけど、それとは別に胸が温かくなる。
シスイ君を見てると何でか胸がきゅ〰〰ってなるの。
でも、それは嫌じゃなくて。
何でだろう?
「……父さん、……母さん、……ユナ、……カンナ、……ごめん……」
いつもとは違うシスイ君の辛そうな声が聴こえた。寝言みたい。
シスイ君のお父さんとお母さんは死んじゃったって聴いてたけど、ゆま?、かんま? って誰のこと?
それに、シスイ君はお父さんとお母さんの事を「血が繋がってるだけの他人」って言ってたよね?
……シスイ君、何を隠してるの?
ゆま? と、かんま? って人、シスイ君の……『大事な人』なの?
夢で見るくらいに?
私よりも?
……嫌だ。
……嫌だ嫌だ嫌だ。
もう1人ぼっちになりたくない!
やっと私をいつも見てくれる人と出会えたのに、また1人になんて絶対に嫌っ!!
「ごめん……なさい……」
泣きそうな声で誰かに謝るシスイ君。
聴いている私も悲しくなって泣きそうになってくる。
悲しみって伝わってくるんだぁ……。
「……よしっ」
決めたよ、シスイ君。
私が
シスイ君が私を一番に見てくれるように。
私がシスイ君の一番の助けになるように。
『お母さん』をしてくれてる節子お姉ちゃん以外の人は
「んぁ?……ありゃ、アイちゃん起きちゃったか。具合どうだ?」
節子お姉ちゃんが起きた。でも、眠そうな目をしてる。節子お姉ちゃん、疲れてるのかなぁ。
「まだ熱っぽいけど、さっきよりマシな気がするー」
「そっかそっか、とりあえず
節子お姉ちゃんは、机に置いてあるペットボトルと紙コップを取って、すぽーつどりんく? を紙コップに注いでいく。
「アイちゃん、どうぞ」
「ありがとう、節子お姉ちゃん」
私は空いてる左手で紙コップを受け取り、ゴクゴク飲んだ。
甘いけど、あっさりしてて
「
「とーぜんっ。だって、シスイ君は『私の特別』だから」
そう、特別なんだよ。
優しく抱き締めてくれるし、頭を撫でてくれる。
困ってたらいつも助けてくれるし、受け入れてくれる。
そのままの私を見てくれる人なんだから。
だからシスイ君も、私を『シスイ君の特別』にして欲しいなぁ。
……あっ、私の方がお姉ちゃんだから、『シスイ君の特別』は私だって、
「ねね、節子お姉ちゃん」
「ん?」
「シスイ君って、おっぱい好きなのかな?」
私もシスイ君の事、全部知らないとダメだよね。
プールに行った時に、シスイ君は教えてくれなかった。
まだ子どもの私でも、栞お姉ちゃんのおっぱいが凄いのは分かる。
……今の私じゃ勝てないよー……。
「ん?……んんっ!?……ど、どうだろうなぁ」
節子お姉ちゃんも知らないみたい。節子お姉ちゃんのびっくりした顔初めて見た。
「おっぱいって、どうやったら大きくなるの?」
「よく食べてよく寝る事さ。だからアイちゃん、今は寝な。まだ熱あるんだから」
「むぅ〰〰……」
シスイ君も栞お姉ちゃんも教えてくれなかったから、節子お姉ちゃんに
しょうがない……。今は節子お姉ちゃんの言う通りに寝よう。
私はシスイ君の手を握り返して、目を閉じた。
私の胸の中に、病気とは違う、ぼーぼーと火のようなものが生まれたのを感じながら。
2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。
本文中の人物名について、
ユナ→シスイ君の前世の妹
カンナ→シスイ君の前世の幼馴染み
です。(1話にてちょろっと名前が出てます)
以下、補足です。読み飛ばして構いません。
■補足
アイが愛が重い系女子になり始めた事について
アイの場合、自分を救ってくれた人に執着するのは必然かなと考えています。
そもそも、アイは毒親の元に生まれ落ちて悲惨な経験を既にしているんですよね。
(原作アイよりはまだマシではあります)
一般的な家庭環境の子とは違って、『愛されている』事が当たり前では無く貴重である事を幼いなりに知っているわけです。
そういう前提事実の上で、自分を救い、常に自分に気を配って愛情を注いでくれる人(シスイ君)が居たら、まぁ執着するよなぁと。