迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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お気に入り、感想、評価始め、皆様ありがとうございます。
拙いなりに今後も書いていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
今話は前話の補完的なサムシングです。
☆♡☆♡以降はアイ視点になっています。ご注意ください。
では、どうぞ。





第6話:一夜明けて(アイ視点込み)

 

 

 

 

「お~い、2人とも! もう昼だぞ~! いい加減起きろ~!」

 

 間近から聞こえた節子姉さんの声に、ハッと目が覚めた。

 すぐさま状況確認をする。

 寝ている俺の正面には、いつも通りコアラ状態のアイが熟睡していて、横を見遣れば、節子姉さんが手を腰に当てて立っていた。

 

「せ、節子姉さん、おはよう。今何時?」

支翠(しすい)、おはよう。今は12時過ぎだな」

「もしかしなくても、寝過ごしちゃった……?」

「ああ、ばっちりな」

 

 証拠だ、と言わんばかりに、節子姉さんは学習机に置いてあった置き時計を手に取って、俺に見せてきた。

 

「支翠が寝坊するなんて、珍しい事もあったもんだ」

「い、いやぁ……昨日、遅くまで起きてたからかも」

 

 昨夜、久し振りに使った須佐能乎(スサノオ)完成体や、神威(かむい)の連続使用で、思いの(ほか)疲れたのだろう。キャプテン・アイの指揮の下、神威の時空間内を結構な時間飛んだ上に、マーキング地点を転々と移動したからな。

 まぁ、彼女にとって楽しい一時になったようだから、別に良いんだけど。

 それにしても、日光が射していても気づかない程に深く寝入ってしまうとは。鬼軍曹な井伊直政が見れば、どう反応するだろうか。

 

「夜更かしも程々にな。体調崩したら嫌だろ?」

「うん、これからは気をつける」

 

 節子姉さんの忠告に素直に頷く。

 

「さて、……アイちゃんも起きろ~!」

「むにゃ〰〰……」

 

 毎度同じく、節子姉さんは掛け布団を取っ払った。

 昨日よりマシではあるものの、冷たい空気が肌を刺激する。

 

「すぴぃ〰〰……」

「……今日は寝た振りしてなさそうだな……」

 

 眠っているアイは暖を取ろうと俺にしがみついているが、起きそうに無い。

 結局、昨夜――正確には今日、俺達が寝たのは午前3時前だった。未だ夢の中に居るのは、さもありなん。

 

「ししゅい……君、……おっぱいぃ……」

「……」

 

 本当に(たぬき)寝入りしていないのだろうか……?

 俺イコールおっぱい好きと思われてる?

 ……いや、その、あの、個人的なあれとしては、大は小を兼ねるというか、何と言いますか……。はい、黙秘権行使します!

 

「支翠はおっぱいじゃないぞ~! アイちゃん、起きな~!」

 

 節子姉さんは、何処(どこ)からともなく取り出した鍋とお玉でカンカンカンッ!! と、けたたましい音を鳴らした。

 

「んにゅ〰〰……」

「……起きないな」

「だね。……まぁ、アイが起きるまで待つよ。無理に起こすのも可哀想だし」

 

 昨夜、彼女に苦痛を与えてしまった事に比べれば、抱きつかれて身動きが取れない事なんて些細なものだ。

 そうして俺は、時折むにゃむにゃと口元を動かしながら(よだれ)を垂らしているアイの目覚めを、のんびりと待った。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 1時間程してアイが目を覚まし、身なりを整えた俺とアイは昼食という名の遅めの朝食を済ませた。

 そして現在、俺達は節子姉さんの私室前でちょっとした打ち合わせをしている。

 何故かと言えば……。

 

「そんな改まってする必要あるかなー?」

「いやいや、交際報告は真面目にやるものじゃないか?」

「何かさー、ドラマでやってた『僕に娘さんをください!』みたいな感じだよねー」

「いや、まぁ、その、……結婚とか前提の真剣な交際になるわけだし」

「っ! シスイ君っ!!」

 

 感極まった様子で、アイが抱きついてきた。

 まだ過去に折り合いがついていない状態であるものの、昨夜アイにディープキスをされた事は紛れもない事実だ。

 その責任を取るべきなのは言うまでもない。

 時間が経って冷静に考えてみたら、『事情がどうあれ、既にベロチューされてるのに、交際は少し待って(但し具体的な時期は不明)とか、ただのクズじゃね?』と、猛省した結果でもある。

 ……俺が幸せを感じて良いと思えないのは変わり無い。だからといって、俺には勿体無い感情を向けてくれているアイに、報いなくて良い理由にはならないだろう。

 

「……それじゃ、ノックするぞ」

「うんっ」

 

 俺の左腕を抱き寄せているアイの返事を聴いてから、コンコンと扉をノックした。

 

「節子姉さん、少し話があるんだけど、今良い?」

「ああ、良いぞ~。入ってきな~」

「お邪魔します」

「おじゃましまーす」

 

 扉を開けて、俺とアイは節子姉さんの私室に足を踏み入れる。

 パーフェクトママンな節子姉さんの私室は、整理整頓された部屋の手本そのもので、散らかった物が何一つ存在しない。

 窓枠のレールを、つぅーっと指でなぞっても、(わず)かな(ほこり)も付かなさそうだ。

 当の節子姉さんは、椅子に背を預けて読書していた。足はベッドに乗せていて、リラックスモードの様子。

 

「おっ、アイちゃんも一緒か。どうしたどうした? ご飯の時もそうだったが、いつも以上にイチャついて」

「やっぱ、そう見えるー? えへへっ」

「はは~ん、……そうかそうか。皆まで言わずとも分かったぞ~」

 

 『熱々ですね~』と言わんばかりに、ニヤッと口角を上げて応じた節子姉さん。

 まぁ、見る人が見ればバレるよな。

 

「こほん! あの、節子姉さん」

「何だぁ、支翠(しすい)?」

「昨日、アイと交際する事になったんだ。それで、『義母さん(かあさん)』の節子姉さんに、きちんと報告しようと思って」

「支翠……」

 

 節子姉さんの顔は、面食らったそれへと変わっていった。

 俺には前世(忍時代)にて、等身大の俺を見て、親子以前に対等な人として接してくれた善き両親が居た。そして、今世では節子姉さんが、そんな善き親代わりになってくれている。節子姉さんは、(まさ)に『第2の母親』と言っていい人だ。何も可笑(おか)しな事は言ってない。

 

「そっかそっかぁ……。いやぁ、……アタシも歳かな?」

 

 読んでいた本を作業用デスクに置いた節子姉さんは、目頭を押さえて天井へと顔を向けた。

 無粋な事はせず、俺とアイは静かに待つ。

 少しして落ち着いた節子姉さんは、居ずまいを正してから、穏やかな表情で俺とアイに話し掛けてきた。

 

「ごめんな、アタシも歳みたいでさ……。とりあえず、支翠、アイちゃん、おめでとう。それで、どっちから告ったんだ?」

「私ー!」

 

 喜色満面なアイが、左手を挙げて答えた。

 右手は俺の腕をガッチリホールドしたままだ。

 ぎゅむぎゅむと乙女の体を野郎の腕に押し付けるのは良くないと思います、はい。

 

「薄々そうだろうなぁとは思っていたけど、やっぱアイちゃんからかー。支翠を振り向かせるの大変だったろ? アイちゃんがあんだけくっついてて、ピクリとも反応しないし」

「ほんとにねー、トーヘんぼくなシスイ君には困ったものだよー」

 

 節子姉さんと俺の腕から離れたアイが、各々腕を組んでうんうんと頷いている。

 な、何かいきなり女子会的な雰囲気が醸成されつつあって、肩身が狭いんだけど……。

 

「あんまり()くのもどうかと思うけどさ、どうやって支翠を振り向かせたんだ?」

「えーっとね、……キスしたのっ」

 

 チラッと俺を見てから、頬を染めてカミングアウトしたアイ。

 俺は直ちに天井を見上げた。

 俺は路傍の石だ、と自己暗示を掛けながら、天井の()みでも数えよう。

 あっ、天井の染み……無いじゃん……。

 

「おぉ〰〰っ! 思い切ったな、アイちゃん!!」

「頑張ったよぉー! 心臓(しんぞー)が口から飛び出るかと思ったっ」

 

 ガタッと椅子が動く音がしたので目を向けてみれば、アイと節子姉さんは熱い抱擁を交わしていた。サッカーで例えれば、後半終わり際に逆転ゴールを決めた時にやるような。

 アイの様子を見ていると、昨夜のキスが『チュッ』ではなくて『じゅるっ、ぬぷっ、ちゅぱっ……』の方だったのは、俺の気のせいだったと思えてくる。

 今、あんなに(ほが)らかに笑っているアイが、俺の口内を蹂躙(じゅうりん)するわけが無い。

 

「それでね、『私にキスして』ってねだったら、シスイ君もキスしてくれたんだよーっ!」

「へぇ〰〰っ! ()()支翠がかぁ」

「ぶっ!!」

 

 アイの不意打ちに、思わず吹き出してしまった。

 目を丸くしている節子姉さんと無邪気に笑っているアイの視線が、俺に集中する。

 

「あ、あの、アイさん?」

「だって、()()シスイ君がキスしてくれたんだから、節子お姉ちゃんに報告(ほーこく)しておかないとっ」

「いやいや、そうは言ったけどもね……? って、……『あの』って、俺、何か噂になってんの!?」

 

 アイにキスした一件が暴露された事よりも、『あの支翠』の『あの』が気になって仕方が無い。

 幸燦園(ここ)に住み始めて以降、噂になるような事をやらかしていない……筈。

 あっ……。

 小学1年生の時、不可抗力とはいえ(しおり)姉さんにパイタッチしてるわ。

 ギルティー。

 

幸燦園(ここ)の女子会で、話題になってるんだよ? 『(しおり)お姉ちゃんのおっぱい触っても、男の子みたいな反応しなかった(オギャろうとしなかった)よねー』とか、『私と食べさせ合ってても照れないー』とか、『どうしたら男の子っぽい反応するんだろうねー』とか」

「そうそう。後は『アイちゃんと一緒に寝てても、思春期らしい行動を全くしない』とかな。勿論(もちろん)、したらしたで不味(まず)いんだけど。……アタシが聞いた限りだと、『不惑の支翠』『女泣かせの支翠』なんて二つ名がついてたような」

「こっわ! 女子会こっわ!!」

 

 俺の知らない所で、プロファイリング擬きが行われている件について。何時(いつ)何処(どこ)で開催していたのか、全く見当もつかないんだが……。

 今後、幸燦園(こうさんえん)に入所してくる男子は大変だな。女子に対して何かやらかしたら、総スカンを食らいかねない。

 (もっと)も、その時は節子姉さん達がフォローに入ると思うけども。

 

(なん)にせよ、遂に支翠もアイちゃんと付き合うわけだ。支翠を見てて少し心配してたから、良かった良かった」

「節子お姉ちゃん、心配って?」

 

 節子姉さんに抱きついたままのアイは、きょとんとした顔で節子姉さんを見つめる。

 

「昔、アイちゃんが熱を出した時の事、覚えてるか?」

「うん」

「その日の夜、アイちゃんが寝てる時にな、アタシが『支翠にも風邪が移っちまうかもしれないぞ』って言っても、支翠は『眠ってるアイを()る』って言って聞かなかったんだ」

「ふぅ〰〰んっ」

 

 それを聴いたアイは、口元が緩むのを抑えようとしても抑えきれないような、ニマニマした笑みを浮かべていた。

 一方俺は、顔と耳が急速に火照(ほて)っていくのを自覚した。両手で顔を覆って、現実逃避――天岩戸(あまのいわと)作戦を開始しよう……。

 

「そんな自分の事そっちのけな支翠が、自分にも目を向け始めたかと思うと、ほっとしてなぁ」

「だいじょーぶっ! シスイ君は私が幸せにしてみせるからっ!」

「おっ、頼もしいなぁ! でも、アイちゃんも幸せにならないと駄目だぞ? アイちゃんと支翠、2人とも幸せにならないとな」

「うんっ!」

 

 指の隙間から(のぞ)けば、節子姉さんが、男前な宣言をしたアイの頭を優しい手つきで撫でていた。

 2人とも、柔らかい笑顔を向け合っている。

 血の繋がりなんて表面的なものに過ぎない。互いに尊重し真摯(しんし)な想いがあれば、親子よりも親子らしい関係を築けるのだ。

 

「さて、そこで顔を隠してる支翠もこっちに来な」

「あっ、シスイ君の耳、(あか)くなってるーっ!」

「そりゃあ、紅くもなるって。節子姉さんも言わなくていいのに」

 

 俺は顔から手を離して、手招きしている節子姉さんの前に移動した。

 左隣に居るアイは、即座に俺の腕に抱きついてくる。

 

「でも、アイちゃんは嬉しいよな?」

「勿論っ! やっぱりシスイ君は『私の特別』だなって」

 

 華やいだ表情で頷くアイ。

 俺には分不相応な彼女からの信頼に、こそばゆく感じる。余計に顔の熱が引かない。

 

「って、アイちゃんも言ってるからさ。支翠、結果オーライって事で、な?」

「まぁ、事実だし……別に良いけど」

 

 両手を合わせて、茶目っ気たっぷりにウインクしている節子姉さんから目を逸らす。

 別に怒っているわけではない。どうにもこういう状況に慣れていないだけで。

 

「別に照れなくて良いのにー。私は嬉しかったよ? すぐにキスしたくなるくらいに」

「いやいや、ここ節子姉さんの部屋だから。節子姉さん目の前に居るから」

「じゃあ、2人っきりなら良いんだ?」

「うぐっ……」

 

 アイに(のぞ)き込まれて、言葉が詰まった。

 一般論として、カップルならばイチャついたりするのは当然だろう。

 正直、キスとかは早過ぎると思うのだが、既にやっちゃっている分、否定しづらい……。

 

「くくくっ! 支翠が手玉に取られてるところを見れるとはなっ」

 

 笑いを(こら)えるように喉を鳴らしてから、節子姉さんは俺とアイの頭を抱き寄せた。

 

「2人とも、さっきも言ったけどおめでとう。初めてだから戸惑う事もあるだろうけど、お互いに想いやっていれば何が起こっても大丈夫。アイちゃんと支翠ならな」

 

 それから、と節子姉さんは俺達の耳元で続ける。

 

「困った時は遠慮せずにアタシや(しおり)達を頼る事。2人で背負い込まなくて良いんだ。アタシ達大人は、アイちゃんや支翠を助けるために居るんだから。人生の先輩からの、ちょっとしたアドバイスさ」

 

 そう言って、節子姉さんは俺達の頭から手を離した。

 いつもの人好きのする笑顔を俺達に向けている。

 格好良い大人だと思う。前世(忍時代)の俺が(つい)ぞ得ることが出来なかった、心の強さを感じられた。

 

「ありがとう、節子姉さん」

「ありがとっ、節子お姉ちゃん」

「アタシのお節介なのに、2人とも礼儀正しいなぁ。……ほらっ2人とも、お風呂や夜ご飯の時間まで遊ばなくて良いのか?」

 

 節子姉さんが指差した置き時計は、午後3時過ぎを指していた。夕食や入浴まで約2時間の猶予がある。

 

「何して遊ぶー?」

「そうだなぁ……部屋でゴロゴロするとか?」

 

 成長期真っ只中だからか、それとも昨夜の須佐能乎(スサノオ)で多量のチャクラを使ったからか、さっき起きたばかりなのにもかかわらず眠くなってきた。

 前世(忍時代)では徹夜なんてザラだったんだがなぁ……。

 アイには申し訳無い事この上ないのだが、意識が強制的にシャットダウンしそうな眠気に勝てそうにない……。

 

「それじゃあ、私もゴロゴロするーっ! お部屋デート♪ お部屋デート♪」

 

 アイは鼻歌交じりにはしゃいでいる。可愛い。

 

「それじゃ、俺とアイは部屋に戻るよ。また後で」

「節子お姉ちゃん、じゃあね~!」

「ああ、 また後でな!」

 

 そうして、俺とアイは節子姉さんの部屋を出た。

 俺の左腕を抱き寄せているアイに半ば引き()られるような格好で、俺の部屋へと向かう。

 (ほお)を上気させた彼女の横顔を見て、昨夜の俺の選択は間違いではなかったのかもしれないと思った。

 

 

 

 

☆♡☆♡

 

 

 

 

 シスイ君の部屋に着いて、シスイ君とベッドでゴロゴロしながら抱き締め合ったりしてたら、あっという間にシスイ君が寝ちゃった。

 すさのー(須佐能乎)? って、結構ちゃくら? を使うんだって。

 『もうっ、カレシカノジョになってから初めての正式なデートだったのに!』って思わなくもないけど、『シスイ君のカノジョ』だから許してあげるっ。

 

「……」

 

 私と向き合う姿勢で、すぅすぅと穏やかに寝ているシスイ君。

 ……昨日の夜の出来事を思い出す。

 何か隠してるなぁって思ってたけど、まさか転生(てんせー)していて前世は忍者だったなんてねー。

 シスイ君の修行(しゅぎょー)も見学したけど、ドラマのアクションシーンとは比べ物にならないような素早い動きをしてたし、エメラルド色のすさのー(須佐能乎)? も、電気をバリバリって体に(まと)ったりするのも、黒い炎をトゲトゲにしていたのも凄かった。

 まるで魔法の世界だなぁって。黒い炎なんて初めて見た。それに、すさのー(須佐能乎)? に乗った感動は、他では味わえないよ。ジェットコースター、楽しめなくなるかも。

 現実世界ですさのー(須佐能乎)? に乗ってみたいってお願いしたら、「それは駄目だ。後々アイにも危険が及ぶから」って断られたのは残念だったけどね。

 

「ふふっ」

 

 シスイ君の事を本当の意味で知っているのは、この世界で私しか居ない。

 『シスイ君の特別』

 色々あったけど、やっと手に入れた大事な大事な称号。

 勿論、それに甘えるつもりは無いよ。

 今までシスイ君がしてくれたように、今度は私がシスイ君を救って、シスイ君と一緒に幸せになるんだ。

 

「っぁ……」

 

 シスイ君が苦しげに眉をしかめ始めた。

 すかさず私は、シスイ君の頭を優しく撫でてあげる。少しでも安心できるように。

 彼の金色の(くせ)っ毛がふわふわしていて、触ってて気持ち良い。

 ストレートな私の髪じゃ、このふわふわ感は味わえない。

 シスイ君本人は、「天パはなぁ、湿度が高いとスチールウールになるんだよぉぉおおお」って、両手で(ほお)を挟んで嘆いてたけど、私は良いと思うなぁ。髪に顔を埋めて匂いも()げるし。

 

「シスイ君は真面目(まじめ)過ぎなんだよ……」

 

 ……シスイ君の過去の話を聴いて、『シスイ君の一番』になる事を目指すのは正しかったんだって思った。

 シスイ君は、前世のお父さんとお母さん、妹のユナさん、幼馴染みのカンナさんを亡くした事を深く後悔している。

 ううん、後悔どころじゃない。

 罪として、自分の心に突き刺してる。心がボロボロになっても何度も何度も。

 それだけシスイ君にとって大切な人だったんだろうなぁって思うし、私もシスイ君と同じ立場だったら、同じようになるかもしれない。私で言えば、シスイ君と節子お姉ちゃんを亡くすようなものだから。

 でも、……でもさ、自分で自分を傷つけてるシスイ君を見てて、黙っていられると思う?

 無理だよ、そんなの。

 

「これからも、ず〰〰っと一緒に居ようね」

 

 昔の私が味わった苦しみを本当の意味で理解してくれるのは、そして1人になる恐さを消し去ってくれるのは、転生(てんせー)前に同じような経験をしたシスイ君だけだ。

 そのシスイ君と一緒に居るのは当然だよね。

 

「そういえば、心臓の音を聴くと気持ち良く寝れるってテレビで言ってたっけ……」

 

 今の姿勢なら、私が少し動けば私の胸にシスイ君の頭を()(かか)えられる。

 恥ずかしいけど、ちょっとやってみよう。

 

「んしょっと……」

 

 シスイ君の顔が私の胸に当たるように抱き抱えてみた。

 私の心臓の音、聴こえてるかな?

 何か、シスイ君が大きな赤ちゃんになったみたい。

 私がシスイ君のお母さんだねっ。

 

「おおっ」

 

 思わず声が出ちゃった。

 シスイ君の髪の毛が目の前にある!

 匂い嗅いじゃおっ。

 くんくんっ。きゅんってする匂いで良い匂いだぁ……。

 

「ぅぁ……ユナ……カンナ……」

「……」

 

 『カノジョ』の私が居る前で、他の女の名前を出すのはNGなんだよ、シスイ君。

 ……なんてね。

 昨日の夜、シスイ君が折れたのは分かってる。

 シスイ君は、自分の過去の事が(なん)にも解決してないのに、私を優先してくれた。私を『愛してる』って言ってくれたし、胸がきゅ〰〰ってなって、嬉しかった。

 でもシスイ君の抱えてる問題が解決していないという事は、私がまだ完璧な『シスイ君の一番』じゃないという事でもあるんだよね。

 だからね、シスイ君?

 私がシスイ君の心を解放してあげる。

 私がシスイ君の心を癒してあげる。

 私がシスイ君の心を満たしてあげる。

 それでシスイ君は、私の隣で一緒に前を向いて歩くんだよ。

 後ろを振り返って戻る隙なんてあげない。

 私は――星野アイは欲張りなんだから。

 そんな決意を新たに、私も(まぶた)を閉じた。

 

 

 

 








2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。

尚、目覚めたシスイ君は、アイの胸に顔を埋めて寝ていた事にテンパる模様。
(R区分的に大丈夫なのか不安だったのでカットしました。皆様のご想像にお任せしますという事でご容赦ください)

以下、補足兼個人的な解釈です。読み飛ばして構いません。毎回あとがきが長くて本当にごめんなさい。

■補足

・原作アイとの相違点について

原作アイは『結婚願望なし、結婚のビジョンが見えない、相手が好き→相手と結婚したいになる理由が分からない』という旨の発言を過去にしていました。(45510の小説の方で)
その理由について、嘘のフィルター越しに考えているから、年齢故に漠然としたイメージしか抱けないから、という理由もあるかと思いますが、原作アイの生活環境を鑑みるに、根底に(無意識含めて)、結婚というものに対してネガティブなイメージ(毒親等)を持っていたからだろうと個人的に推察しています。
即ち、『相手が好きで相手と一緒に居るというプラスの状態なのに、何でマイナスである結婚をしたいって思うの? 結婚しないでそのままでいいじゃん』みたいな感情が一部分あったのではないかと。
その点、拙作のアイは、『ありのままの星野アイ』を見てくれる人(シスイ君、節子ママン達)が居る事、幸燦園での平穏な生活の影響で、結婚へのネガティブなイメージが無くなり、漠然としているものの結婚=幸福な出来事と認識するようになりました。


補足は以上となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
ではでは、次話にてまたお会いしましょう。
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