迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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10月14日更新分の2話目です。
前話が1話目ですので、ご注意ください。
又、♤♤♤♤以降は、3人称?っぽい感じになっています。
では、どうぞ。






第9話ー②:二次交渉本番 10/14更新

 

 

 

 

 俺の体を(いじ)り倒して満足したアイから解放され、居住まいを正して待つ事、約10分。

 誰かが近づいてくる気配を感じた。

 斉藤壱護が遂に来たようだ。

 カラオケボックスの扉を2回ノックする音が響き、扉が開く。

 

「本日、再びお話する機会を設けていただき、ありがとうございます。……支翠君、だったか。この前は申し訳無かった」

 

 斉藤壱護は謝罪の言葉と共に、深々と頭を下げた。

 いきなり謝罪とはな。

 どういう意図があるのやら。

 チラッとアイを見遣れば、アイは首を横に振っている。

 彼の言葉に嘘は無い、と。

 

「とりあえず、頭を上げてください。話の結果次第で、その謝罪は受け入れましょう。それと敬語は要りません。手早く話を終わらせた方がお互いにとって良いでしょうから」

「……わかった。その言葉に甘えさせて貰おう」

 

 頭を上げた斉藤壱護は、俺達とは反対側のソファーに腰かける。

 少しばかりの沈黙。

 互いに相手の出方を(うかが)う場で、斉藤壱護が口火を切った。

 

「それでは早速本題に入るが、……お宅のお嬢さん、星野アイさんと契約を結ぶにあたっての条件とは?」

「ああ。それはこの紙にまとめてある」

 

 節子姉さんは、手提(てさ)げバックの中から折り(たた)まれたA4サイズの紙1枚を取り出し、斉藤壱護に手渡した。斉藤壱護は、紙に箇条書きで書かれている条件へ目を通していく。

 節子姉さんと一緒に原案を考えた俺が言及するのも変な話だが、まともな経営感覚がある人なら確実に()まない条件だ。より正確に言えば、呑んではいけない条件。

 俺としては、幻術を掛ける前に、もう少し斉藤壱護の素のレスポンスを見ておきたい。

 幻術を掛けても契約成立の確率は()()だろうが、万が一契約成立した場合、この男の経営手腕の影響をモロに受ける事になる。それは即ち、斉藤壱護の経営能力次第で契約成立直後に此方(こちら)側が動かなくてはならないという事でもあるからな。

 ……数分程して、斉藤壱護は紙から目を離し、節子姉さんに向けて口を開いた。

 

「結論から言うと、この条件は呑めねえな。……苺プロ(ウチ)への不信感が有るのはご(もっと)も。お宅のお子さん達を本当に大事にされているのも理解できる。特例的に交際を認めるからには、条件の『星野アイの専属マネージャー兼付き人に陸路(りくじ)支翠(しすい)を就ける事』も呑む余地はある」

 

 だがな、と斉藤壱護は続ける。

 

「条件にある『内波(うちは)(みどり)とも星野アイと同内容の契約を結ぶ事』の、内波翠が誰か知らねえってのもあるが、特にこの2つ――『星野アイ及び陸路支翠が、一方的()つ無条件の契約解除権を有する事』、『星野アイ及び陸路支翠は、職業上及び職業に関連する法的責任、道義的責任を一切負わず、当該責任は全て苺プロダクションが負う事』というのは無理だ。苺プロダクションという組織の上に、お宅の子ども達が存在する事になる。当然、芸能マネジメントにも支障を(きた)す上に、その2人が事務所内で浮いた存在になるぞ」

「ま、呑めないだろうな、()()()。だが、この前アンタとの話が決裂しても尚、アンタは此処(ここ)へ来た。それだけ事務所にとってアイちゃん(この子)が必要だって事だろ? それに、その紙にも書いたが、『契約内容の完全な秘匿』も条件だ。社長マター、つまりアンタが事務所内外で漏らす事は許容しないって事さ。別にアンタらの所と無理に契約するつもりは無いんだぞ? というか、アタシは賛成、反対で言えば反対だし」

「ぐっ……」

 

 詰まった声を漏らした斉藤壱護。

 言うまでもないが、斉藤壱護の言は正しい。

 所属タレントが芸能事務所よりも力が強いなど、組織運営において(もっ)ての(ほか)だ。事務所内で必然的にダブルスタンダードが生じる事になり、組織崩壊へ一直線なのは明白である。

 しかも、ドア・イン・ザ・フェイス――最初に厳しい要求を吹っ掛けてから少しずつレベルを下げていき、此方の要求を呑ませる交渉術――ではなく、 YES又はNOしか選択肢が無いという無理難題。

 通常はNO一択で交渉打ち切りだろう。

 だが、斉藤壱護は交渉打ち切りにしようとしない。

 それは、それだけ彼も苦しい状況下にあるという事を意味していた。

 

「……確かに俺は、お宅のお嬢さんと何としてでも契約したい。だが、苺プロダクション(ウチの事務所)を潰すわけにもいかねえ。夢もあるし、これでも従業員抱えてる身なんでな」

「それで?」

「恐らく、小学生でも金を稼げる仕事を探してるから、話が決裂したのにもかかわらず俺に電話してきたんだろ? この無制限の契約解除権と責任免除規定を条件から取り下げてくれれば、アイドルグループの給料に加えて、俺経由で金をこっそり上乗せする。勿論、その生前贈与の贈与税は、俺が全額払う。だから頼む。契約して俺達に協力してくれッ」

 

 そう言って、斉藤壱護は深々と頭を下げた。

 斉藤壱護の視界から外れたタイミングで、俺は(あらかじ)め決めていたアイコンタクトをアイと節子姉さんへ送る。

 此方(こちら)は条件のハードルを下げるつもりが全く無い以上、ここから先は押し問答だ。

 斉藤壱護が前世の仇――志村ダンゾウのような外道畜生の類いなら、心置き無く術を掛けれるんだがな……。

 まぁ、仕方無い……。

 恨むなら俺を恨め。アイの幸せのためなら、この身で憎悪でも何でも全て引き受けるさ。

 俺は眼を万華鏡写輪眼に変え、眼にチャクラを集めていく。

 

「斉藤さん、頭を上げて下さい。頭を下げても意味無いので。正直申しまして、節子姉さんがこの場に来る条件が、()()()()先の2つの条項を入れる事だったんですよ。その意味、分かるでしょう?」

「っ……」

「ですから、頭を上げて下さい」

 

 俺に再度促された斉藤壱護が悄然(しょうぜん)とした様子でゆっくり頭を上げ、俺を見た瞬間。

 

「なっ――」

「俺の眼を見ろ」

「な……にを……」

 

 斉藤壱護はビクンッと1回だけ体を跳ねさせた(のち)、脱力して虚空を見つめ始めた。

 斉藤壱護の目の前で手を振っても反応無し。

 『幻術――万華鏡写輪眼』、何とか成功したようだ。

 それから再び斉藤壱護の眼を(のぞ)き込み、斉藤壱護の深層心理に干渉。指示を与える。

 

「此方の要求を全て呑んだ契約書を用意して貰いたい」

「……ああ」

「その契約書以外では契約しない。交渉余地も存在しない。前言を繰り返すが、契約内容は他言無用だ」

「……ああ」

「それから……」

 

 口には出さないが、幻術を通じて更に指示とギミックを付け加えていく。

 苺プロダクションに居る()()向けのメッセージだ。

 

「以上だ。もう帰って良い。カラオケ代は此方で払う」

「……わかった」

 

 紙を(ふところ)にしまった斉藤壱護は、幽鬼の如きのろのろとした動きでカラオケボックスから出て行った。

 それを見届けて、ほっと一息安堵の溜め息を(こぼ)す。

 

「あれが支翠の言う、幻術に掛かった状態ってやつかぁ……。使うのが支翠で良かったわ。悪用されたらヤバイよな、それ」

「だね。もっと幻術が上手い人なら、あんな放心した状態にならないで幻術に掛かった事すら自覚出来ないから。……まぁ、もう暫くしたら斉藤さんも元の人格みたいになるよ。違和感を覚えながらも、何故か最優先で契約書を作り始める精神状態だけど」

「うへぇ……少しだけ、あのオッサンに同情しちまうな……」

 

 俺の幻術は、瞳力によるゴリ押しだ。

 前世の(ユナ)からも、「お兄ちゃんって、自分では否定するけど結構な脳筋だよねー。こう、女心が分からない男子みたいな感じ?」と不本意な評価をされたくらいには、幻術の機微がよく分からず、苦手のまま。

 ちょっとした認識阻害系統の弱い幻術はともかく、人を傀儡(かいらい)の如く操る系統の強い幻術をやると今回の斉藤壱護のようになってしまう。しかも、周囲の人に違和感を覚えさせるようなボロをポロポロ出すオマケ付きで。

 この現実世界だと、幻術の出番が多くなりそうなんだよなぁ……。はぁ……。

 内心で自己の不出来に少し落ち込んでいると、アイにクイクイッと(そで)を引っ張られる。

 

「シスイ君」

「ん?」

「私のワガママ聞いてくれて、ありがとう」

「礼を言う程の事でも無いぞ。そもそも上手くいくかは分からないし」

「それでも、だよっ。本当にありがとっ! アイドルになったら、私、頑張るよっ」

「頑張り過ぎないようにな。大事なのは、そのままのアイで居る事なんだから」

 

 屈託のない笑みを浮かべているアイは、俺の右腕を抱き(かか)え、俺の肩に頭を預けてきた。

 座っている状態で腕を抱かれているため、このままでは必然的に俺の手がアイの大事な場所に当たってしまいそうだ。

 早急に手の位置を変えねば。

 あっ、……いかん。

 アイの内腿に手を挟まれた。

 スカート越しとはいえ、内腿のふにふにした柔らかさが感じられて、犯罪臭がぷんぷんするよぉ……。

 焦り気味に隣に目を向けてみれば、したり顔のアイがそこに居た。

 

「ふふっ、逃がさないよ!」

「いやいやいや、これ不味(まず)いから! ギュッて腕を抱き締められるのもそうだけど、手が非常に不味い所に当たりそうだからぁ!!」

「じゃあ、良いよねっ」

何処(どこ)ら辺に、OKな要素あったの!?」

 

 微かな望みを掛けて手を引き抜こうとするも、案の定、ピクリとも動かせない。

 次いで節子姉さんへ目を向けて助けを求めるが、節子姉さんは苦笑を浮かべるばかりで、先程のようにアイのストッパーになる事は無く……。

 

「ふふっ」

 

 アイのはにかんだ笑顔を見て抵抗を止めた俺は、カラオケの利用時間が満了するまで、彼女の望むままに彼女の頭を撫でたり、デュエットで歌を歌ったりして、ささやかな、けれども尊い一時に身を委ねた。

 このような幸せな時間を過ごす権利は無いと分かっているのにもかかわらず、結局流されていく自身の醜悪さを自覚しながら。

 

 

 

 

♤♤♤♤

 

 

 

 

 斉藤壱護は電車を乗り継ぎ、最短ルートで帰宅した。

 2週間前、苺プロダクションの事務所は栗林(くりばやし)節子の理解不能な超能力で内壁や床に深い亀裂が入ったものの、新入りの活躍によって幸運にも住宅瑕疵担保(かしたんぽ)責任保険で対応して貰える事になっている。

 即ち、工事の費用負担はゼロで済む可能性があるという事だ。

 それはともかくとして、大至急、星野アイと陸路(りくじ)支翠(しすい)内波(うちは)(みどり)の契約書を作成しなくてはならない。

 

「あれ? 社長、どうしたんですか? そんなに慌てて」

「ああ、結奈(ゆな)か。星野アイの契約が何とか(まと)まってな」

「へぇっ! よく纏まりましたね。この前、『ひでぇ事言ったのは間違いねえし、俺、もう終わったわ……』って、白く燃え尽きてたのに」

 

 廊下でばったり(はち)合わせたのは、家波(いえなみ)結奈(ゆな)。先述した新入りである。

 (からす)の濡羽色のようなセミロングの黒髪に、黒曜石を思わせる黒い瞳を持った18歳の少女だ。

 ミヤコが外で見かけてスカウトしたのが切っ掛けで、数ヵ月前に従業員として雇用する事になった。

 芸能人と比較してもトップクラスの美貌を誇っているだけに、彼女が芸能界入りしない事に皆勿体無(もったいな)く思っている。

 

「どんな契約内容になったんですか?」

「それは言えねぇな。そういう条件になってるから」

「えっ? 今ここなら大丈夫じゃないですか。相手の保護者にもバレませんし」

「駄目だ。()()()()()()()()()契約を纏めねぇと」

「……はっ?」

 

 そう。この事務所を潰してでも、とにかく契約、契約、契約だ。

 自分でも変だと自覚しつつも、壱護は熱に浮かされたように契約書の作成に取り掛かろうとする。

 ぽかーんとアホヅラを浮かべている結奈の横を通り過ぎようとした、その時。

 結奈の手が壱護を掴んだ。

 その細腕からは想像も出来ない強い力で、壱護は思わず顔を(しか)めて立ち止まる。

 

「痛え。いきなり何しやがる、結奈」

「……社長。私の()を見て下さい」

 

 結奈の眼を見た途端、壱護は1回だけビクンッと体を跳ねさせて電池切れのロボットのように動きを止めた。

 まるで、()()()()()()()()()()ように。

 

「……どういう事? まだ月読(つくよみ)を掛けていないのに、私の万華鏡写輪眼を見た直後に反応するなんて」

「……」

 

 今の結奈の瞳は、いつもの黒いそれではなく、特殊な4枚刃の手裏剣状の模様が浮かぶ赤い瞳になっていた。

 それは()しくも、何処かの金髪の少年が有する万華鏡写輪眼と瓜二つの模様。

 不審に思いながらも結奈は瞳術・月読を使い、壱護から情報を()き出す事にした。幸いにも、他のメンバーは皆出払っていて事務所に居ない。

 

「社長、誰にやられましたか?」

「……金髪の……少年」

「名前は?」

「……陸路……支翠」

「しすい……シスイ……。やっぱり、お兄ちゃん……?」

 

 思わぬ情報に、結奈は目を見開いて驚く。

 壱護に()じ込まれたチャクラの色は、前世の兄のそれと同じ。力ずくの幻術で大雑把なのもそう。

 (いや)が応でも、兄の姿が結奈の脳裏にちらつく。

 前世の両親亡き後、自身と義姉のカンナのために、身も心も犠牲にしていった兄の姿が。

 

「……ぐすっ。……まだ泣く時じゃないぞ、私。……私は家波ユナなんだけど、メッセージは何かありますか?」

「……俺の名前は、陸路支翠。斉藤壱護を介してメッセージを送る。俺のかつての妹、家波ユナならば、俺への恨みは色々とあるだろうが、今回の契約成立に力を貸して欲しい。此方(こちら)の条件を全て遵守する限りは、俺も星野アイも誠実に仕事をしていく所存だ。……もし違うのならば、契約書を破棄する方向で進めて貰って構わない。ただし、以後、星野アイと幸燦園(こうさんえん)に手出しするな。手出しされた時点で、相応の対応をする事になる。……(ちな)みに、此方の条件についての紙は、斉藤壱護のスーツジャケットの内ポケットに入ってる……」

「別に私は、お兄ちゃんを恨んだりしてないんだけどなぁ……。さて、社長ちょっと失礼しますね」

 

 そう言って、結奈は、斉藤壱護の懐から折り畳まれた紙を取り出して、紙に書かれた内容をその場で一読する。

 

「はぁ〰〰……。この内容は、確かに苺プロにはキッツイ内容だよね。前代未聞レベルだよ、これ。……ていうか、この内波(うちは)(みどり)って、お兄ちゃんの事じゃないの? 昔、女性に変化(へんげ)する時、よくミドリって名前使ってたし。……そこまでして、この星野アイちゃんを護りたいのかな?」

 

 前世の兄を優先するのか、それとも苺プロを優先するのか。

 結奈は紙を手に持ったまま、その場を行ったり来たりして悩み始めた。

 壱護はといえば、(いま)だに虚空を見つめている。可哀想な事に放ったらかしだ。

 

「う〰〰ん……。よし、決めた! 契約はこのまま進めて、近い内にお兄ちゃんの所へ行って話してこよう。そうと決まれば、まずは、お兄ちゃんが幸燦園のどの部屋で生活しているのか調べないと! 待っててね、お兄ちゃん!」

 

 一見すると快活な笑みを浮かべている結奈。だが、その瞳には、粘着質でいて猛り狂う炎の如き激しい感情が(にじ)み出ていた。

 

 

 

 








2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。

会話文や地の文が長くなったりしていて、読みづらい部分が多々あったと思います。ごめんなさい。

以下、読み飛ばしても構いません。補足です。

■補足

・幻術周りの話はオリ設定です。NARUTO本編で詳細が明らかになっていないためです。

・拙作のミヤコ女史は、現時点でまだ未婚という事にしています。

原作1巻のアイの話しぶりを鑑みるに、壱護と結婚したのは、B小町がそれなりに売れてきてからのように見受けられるためです。

・シスイ君が契約成立の確率が低いと考えている事について

幻術に掛かった壱護が普段ではあり得ない言動をする。
→周囲の人間がそれを訝しみ、アイとの契約内容を確認等する。
→周囲の人間が壱護の行動を止める。
→契約不成立
という流れを予想していたためです。

・住宅瑕疵担保責任保険とは、入居者の行動が原因ではなく、そもそも建物の重大な欠陥が発見された場合に適用される保険です。
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