迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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お気に入り、感想始め、皆様ありがとうございます。m(_ _ )mペコリ
今話はセクシャルな描写ありな上、暗めな要素ありですので、その点について予めご理解の程よろしくお願いします。
では、どうぞ。






第10話:吐露 10/28更新

 

 

 

 

 斉藤壱護との第2次交渉から10日経った。

 あの日以降、苺プロダクション側の動きは特に無い。

 電話連絡すら無いという事は、苺プロダクションの従業員に斉藤壱護の行動を止められたか、又は、苺プロダクションの異物――前世の妹らしき人物に何かしらの手段で幻術を解かれたか、のどちらかだろう。

 つまり、俺達に都合の良い契約書の作成は失敗に終わり、このまま破談になる確率が高いという事だ。

 (いま)だ予断を許さない状況であるが、心の中で何処(どこ)安堵(あんど)している自分が居る。

 第一に、俺個人の感情としては節子姉さん同様、アイが苺プロダクションへ所属する事に反対であったし、加えて、……苺プロダクションの従業員である『家波(いえなみ)結奈(ゆな)』が前世(忍時代)の妹の『家波ユナ』だった場合、どんな顔して会えばいいのか分からなくなったから。

 罪を背負っているだの、幸せになる権利は無いだの、罰を受け入れるだの、と御託(ごたく)を並べて過去と向き合う覚悟が出来たと思っていても、その時が少しずつ少しずつ迫ってきているという実感を得た途端、……怖気(おじけ)づいてしまった。

 前世の妹であり大切な人の1人であるユナから恨みや憎しみを向けられる――その現実を突きつけられる事が恐くなってしまったのだ。

 頭の中では、それが浅ましい自己保身、現実逃避の一端に過ぎない事も、俺のミスが原因で死なせたユナに対して最大限の贖罪(しょくざい)をすべきだという事も分かっている。分かっているのだが……。

 

「シスイ君、大丈夫?」

 

 俺の部屋で広げている座卓の対面から、アイが心配そうに(のぞ)き込んできた。

 俺は、知らず知らずのうちに暗い表情をしていたのかもしれない。

 努めて笑顔を浮かべ言葉を返す。

 

「……ああ、ちょっと考え事しててさ」

「……ふぅーん? ()()聴かせてね」

 

 何かを察したような表情をしたアイは、再び小学校の宿題に取り組み始めた。

 アイに心配を掛けまいと振る舞っていたつもりだったのだが、何かしら感づかれたようだ。

 小学校の勉強では思考のリソースに余裕が有りすぎて、目下の懸案事項へ意識が向いてしまう。俺に限ってではあるものの、これは転生のデメリットと言えるだろう。

 

支翠(しすい)ぃ〰〰、そろそろ風呂入りな~」

「分かったぁ、今行く~。……アイ、俺呼ばれたから、風呂入ってくる」

「んっ、分かった。()()()()()

 

 階下から聞こえてきた節子姉さんの声に返事をした(のち)、俺は立ち上がってバスタオルや着替えの準備を始める。

 クローゼット内の引き出しを(あさ)っていて思ったのだが、最近、部屋着が少なくなっているような……。

 部屋着が残り3着しかない……。

 おっかしいなぁ……他の人のところに紛れ込んだか?

 そんな少しばかり釈然としない気持ちのまま、入浴セットを持った俺は1階の浴室へと(おもむ)いた。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

「ふぅ……風呂は命の洗濯、か」

 

 湯船に()かって、月に代わってお仕置きしそうな声をした汚部屋美女の言葉を独りごちた。

 勿論、事前に体を一通り洗ってから浸かっている。

 特殊性癖の人を除いて、洗っていない体で湯船に浸かる事を喜ぶ人は居ない。

 

「すぅぅ……はぁぁっ……」

 

 目を(つぶ)って体の深奥へと意識を集中させ、深呼吸を繰り返す。

 すると次第に、体とお湯との境界が曖昧(あいまい)になっていき1つになるような感覚が生じてくる。

 この状態になると仙術チャクラを練る事が出来るようになるが、今は練らない。自身の精神を()いだ海のような状態にして、混線状態の思考をリフレッシュする事が目的だからだ。

 瞑想(めいそう)を始めて数分程経っただろうか、ガラガラッと脱衣所の引き戸を開ける音が聞こえてきた。

 俺に限らず誰かしらが入浴している時は、緊急事態を除き脱衣所と浴室に立ち入らないルールになっているのだが、もしかしたら節子姉さん辺りが脱衣所の乾燥機から衣服を回収しているのかもしれない。

 俺やアイは手伝いの類いを積極的にやってはいるものの、節子姉さんを始め幸燦園の職員の人達に世話になりっぱなしで、足を向けて寝れないな。

 

「あれー? シスイ君、寝ちゃってる?」

 

 浴室の扉が開く音と同時に聞こえてきた、聞き慣れた声。

 ……あれー?

 お、可笑(おか)しいなぁ……。

 今、聞こえる(はず)の無い声が……。

 

「シスイくーん、寝ちゃダメだよー」

「……いや、寝てないよ」

 

 瞑想(めいそう)を止めて、おそるおそる目を開くと、そこには――。

 

「てへっ、来ちゃったっ」

 

 タオルを手に持った、一糸(まと)わぬアイの姿があった。『ドッキリ大成功!!』と言わんばかりに、ウインクしながら悪戯っぽく舌を出していて、可愛らしい事この上ない……が!

 がががが!!

 

「ちょっ、ちょちょちょぉぉおおお!?」

 

 慌てて再び(まぶた)を閉じて、アイに背を向ける。

 アイの裸体を見たのは、ほんの一瞬だけ。

 けれども、その姿が鮮烈に脳裏に焼きついていて、目を(つぶ)っていても意味が無かった。

 白雪のように白い肌、女性的な柔らかさを現し始めた太腿(ふともも)やお腹、チャーミングなおへそ、そして……、丸みを帯び始め、将来有望そうな――。

 ……。

 ……いかん、あっという間に煩悩(ぼんのう)で支配されてもうた。

 と、とりあえず、理由を()かないと……。

 まだ……、まだ引き返せる……っ!

 せ、節度ある、清く正しい交際をするんだ……!

 

「な、なしてぇぇえええ!? なして来てもうたのぉぉおおお!?」

「えっと、どうして来たのかって事?」

 

 どうも俺は、自分で思っていた以上に動揺しているらしい。

 背後から聞こえたアイの声に、頭が()げそうな勢いで何度も(うなず)く。

 小学1年生の時とは違うのだ、誰がどう見てもヤバイ。

 しかも、片方は精神年齢オッサン。

 先程から、『……主文、ロ○コンを亀甲縛りにした(のち)、チン斬りの刑に処する』と、脳内で裁判長のファンファーレが鳴り響いている。

 

「だって、()()聴かせてねって言ったよ?」

「後でって風呂とか諸々(もろもろ)終わってからじゃないの!?」

「違うよ?」

 

 な、何たる事だろうか。

 徳川家康が三河の一向一揆を潰した時と同じような手法を、まさかアイが使うなんて!

 アイちゃん、恐ろしい子っ!!

 

「シスイ君、ちょっと待っててねー。本当はシスイ君に洗って欲しいけど、急いで洗うから。……逃げたりしたら……、ね?」

「……わ、分かった! 待つ、僕待ちます!」

 

 アイの底知れない気迫に呆気(あっけ)なく気圧(けお)された俺は、浴槽の左隅で体育座りをして待つ事にした。

 無論、アイに背を向けて目を閉じたまま。

 アイが使い始めたシャワーの音から意識を逸らす目的も兼ねて、この状況の打開策を思案する。

 ぐぁっ……、俺はどうすれば……!

 俺が先に上がろうにも、アイに妨害される……どころか、逆に引き()り込まれて事態が悪化する未来しか見えない。

 最近起こった、アイにパジャマを()かれた一件を考えれば、この場で童貞を食われる事態は十分に起こり得る。

 『11歳でデキちゃったっ♪』とか、本当に洒落(しゃれ)にならんぞ、俺!!

 とにもかくにも、アイを先に風呂から上がらせる事。それがベストな方法だな!……多分。

 

「ふんふんふーん♪」

「え、えーっと……ア、アイさん?」

「んー?」

「よ、よくバレなかったね?」

 

 1階の脱衣所兼洗面所はキッチンの()ぐ近くにあり、(へだ)てる壁も無い。節子姉さんが夕食の調理をしている時間帯である事からすると、浴室へ潜入しようにも節子姉さんにバレると思うのだが。

 

「先輩達の部屋でね、ゴキブリが発生したんだよー」

「あ〰〰、なるほど、状況把握したわ」

 

 複数のゴキが発生して、それに対応するために節子姉さんが出動する事になったのか。そして、その機に乗じてアイは風呂場に突撃してきたと。

 機を見るに敏だな、アイ。

 

「あ、そういえばさ、シスイ君の部屋ってゴキブリ出てこないよねー。私、1回も見てないよ?」

「ああ、それは俺が見つけ次第、徹底的に燃やしてきたからな」

「ええっ? いつの間に?」

「アイが風呂に入っている時に、2週間に1回チェックしてるんだ」

 

 サーチ・アンド・デストロイ。

 ゴキはマジで許しません。

 前世で平穏な生活を送っていた頃、朝起きたら枕元に(うごめ)く黒い物体が……。

 それ以来、黒きGは不倶戴天(ふぐたいてん)の敵になった。

 いや、誰でもゴキに対しては基本的にそうであるけども。

 

「ゴキブリ退治って、いつも()ぐに終わるの? すばしっこいし、隙間(すきま)に入ったりして大変なのに」

「俺の場合は、何処(どこ)に隠れても見つけられるから。んで、見つけたら、()()を使う」

 

 体育座りで組んでいる右腕を(ほど)いてから、アイが見やすいように右手人差し指を(かか)げ、右目の瞳術・加具土命(カグツチ)を少しだけ発動した。

 発動と同時に人差し指の指先に黒炎が生じ、けれども燃え広がる事無く、蝋燭(ろうそく)の火のように留まっている。

 この加具土命、確かに射程は短いが、視点発火型の天照と同じく『対象が燃え尽きるまで燃え続ける炎』の性質を有していて、瞳術を維持する限り温度も燃やす対象も形も自由自在と、中々どうして使い勝手が良い。

 ゴキ退治でも有用だ。

 やり方はシンプルそのもので、まず、仙術チャクラを練って仙人モードへ移行し、ゴキの位置と隙間の構造を感知。

 その後、加具土命で黒炎をレイピア状に形状変化し、隙間に合わせて黒炎のレイピアを屈曲させ、ゴキを素早く突き刺す。

 そして、ゴキが燃え尽きるのを待つ。

 これでゴキを見ずに駆除できるというわけだ。

 過剰戦力だろうが何だろうが、ゴキを駆除できればそれで良い。

 

「あっ、その黒い炎って修行(しゅぎょー)の時によく使ってるよね?」

「だな。便利なんだ、これ。コントロールすれば燃え広がらないし、形を変えれるから」

「おおっ、面白そうー!……私もやってみたいなぁー」

「残念だけど、万華鏡写輪眼が無いと出来ないからさ……。ごめんな」

 

 そう言って俺は、加具土命で黒炎を消し、右腕を元の位置――体育座りしている脚へと戻す。

 ゴキの話で気が逸れていたが、もう少ししたらアイも湯船に入ってくるんだよな……。

 彼氏彼女な関係でも、俺達はまだ11歳……。

 目を閉じたまま物理的接触をしなければ、情状酌量(しゃくりょう)の余地……あるよね?

 ロ○コンにもぺ○にもならないよね?

 ね?

 ねっ!?

 心の中で誰に対してか分からない言い訳を必死にしている俺の耳に、キュッキュッとシャワーのハンドルを(ひね)る音と共にアイの声が聞こえてきた。

 

「ちぇ〰〰……。ところでさ、シスイ君」

「……ん?」

「いつまで体育座りしてるの? 私があすなろ抱き? してあげるのに」

「……んん?」

 

 ちゃぷんっという音が聞こえたように思えたが、それよりもアイの言葉に気を取られてしまった。

 『あすなろ抱きして欲しい』でなくて、『あすなろ抱きしてあげる』?

 アイが俺をあすなろ抱き……?

 という事は、つまり……?

 アイの上に俺が乗っかり、赤ちゃんみたいにあやされ――?

 

「隙だらけだねっ、よいしょっと」

「ふぁぁっ!?」

 

 浴槽の左隅で体育座りをしている俺に逃げ場など無く、脇腹に手を回されて例の如く凄まじい力で右側へ引き寄せられる。

 気づいた時には、アイの内腿(うちもも)で腰骨を挟まれ、彼女の(ふところ)に背中からすっぽり収まるような体勢になっていた。

 浴槽の(ふち)(つか)んで体を起こそうとしても、アイの両腕が俺の上腹をガッチリホールドしていて全く動けない。

 ……せ、背中に当たる未成熟なコリッとした感触はぁぁあああ!!

 ほぉわぁぁあああ!!

 

「あれ? シスイ君、何で目をつぶってるの?」

「そ、そりゃ(つぶ)るさ! 色々見ちゃうでしょ! デリカシー大事!」

「シスイ君なら見ても良いのにぃ……。私、少しずつ大きくなってきてるんだよ?」

「き、清い交際を――ぴゃっ!?」

 

 突然、俺の首筋に人肌の温度でざらっとした感覚がして、思わず奇声を上げてしまう。

 恐らく……というより、ほぼ確実に、アイが俺の首筋を()めたのだ。

 それだけに留まらず、彼女は俺の右肩に(あご)を乗せてきた。

 余計に、将来の可能性無限大な彼女の果実が俺の背中に押しつけられる。

 

「んふふっ、シスイ君、女の子みたいな反応してて可愛いっ」

「いきなり首を舐められたら、誰でもそんな反応になるって! 前々から思ってたけど、何処(どこ)でそういうの知ったのさ!?」

「先輩達に教えてもらったんだよ。『支翠(しすい)君は逃げる時間を与えなければヤれる!! 童貞(どーてー)チキンを落としたくば、既成(きせー)事実を作れ!!』って言ってた」

「ア、アマゾネス(ども)めぇ……」

 

 (ほお)が引き()るのを抑えられない。

 11歳のアイに何教えてるんだ、あの人達!?

 

「あ、あのぉ……、逃げないからさ、この母親にあやされてる子どもみたいな体勢を変えたいんだけど……?」

()だ」

「そ、その、当たってるし、……て、照れ臭くて死にそうなんだけど……?」

「それでも駄目」

「というか、……俺、重いでしょ?」

「全然っ」

 

 問題ないという意思表示なのか、アイは(ついば)むようなキスを何度もしてくる。

 頬のみならず、うなじや耳の裏にも。

 アイが満足そうなのは喜ばしいんだけど、……この現場を見られたらギルティ間違い無し。

 ロ○コンじゃない俺ですら、理性がゴリゴリ削られていくぅ……。

 将来、大人になったアイに同じ事をされた時、俺の理性は耐えられるのだろうか……。

 

「こほんっ!……それで、シスイ君、悩み事があるんでしょ?」

「えっ? この体勢で真面目な話に入るの?」

「いいからいいから。『カノジョ』で『特別』で『パートナー』な私に話してみなさいっ」

 

 俺を急かすような言葉の真意を示すように、アイは俺の手の甲に自身の手を重ね、指を絡めてきた。

 もしかしたら、いつもより積極的なスキンシップは、彼女なりに俺の心を(ほぐ)そうとした結果なのかもしれない。

 けれども……。

 

「悩みと言えば悩みなんだけど、その、(まと)まりの無いぐちゃぐちゃな感情でさ……。話してアイの負担にならないか……不安なんだ」

大丈夫(だいじょーぶ)だよ、私は。シスイ君が一緒なら何でも乗り越えられるからね! むしろ、黙ったままの方が嫌だなー。シスイ君に苦しんで欲しくないし、『私って信頼されて無いのかな?』って悲しくなる」

「そっか……」

 

 個人的に、精神年齢で(はる)かに年長の俺が、アイに寄り掛かって良いとは(いま)だに思えない。

 大人の良識として。また、彼女が経験してきた辛い過去を鑑みて。

 だが、アイはそれを望んでおらず、アイと交際開始した日に『アイを頼る』との約束もした。

 己の貧弱なメンタリティーに付き合わせてしまう申し訳無さで気が進まないが……。

 

「……分かった、アイに話すよ。ただ、他の人には秘密にして欲しい。俺個人の事情に巻き込みかねないから」

「うん、もちろん」

「ありがとう。……本題に入るけど、苺プロダクションの従業員に前世の妹らしき人物が居るんだ。影分身で調べた時に見つけて、アイや幸燦園(ここ)の皆を危険に(さら)しかねないから黙ってた。ごめん」

 

 『妹』というワードに、アイの腕がピクンッと僅かに跳ねたような気がした。

 ……後戻りできない選択をした自覚がある。

 そして、今この瞬間、アイを巻き込んだという事実。

 本当にこれで良いのだろうか?

 アイに苦痛を感じさせずに済むだろうか?

 今からでも話すのを止めるべきではないだろうか?――そういった後悔にも似た躊躇(ためら)いが俺の心の中で急速に膨らんでいく。

 少しばかりの沈黙を経てアイが口を開いた。

 

「今まで黙ってた事は後でお仕置きするとして、……えっと、確かユナさんだったよね? シスイ君みたいに転生(てんせー)してるって事?」

「……名前はその通り、ユナで合ってるよ。それで、転生してるかは断言できない。同じ姿、同じ氏名の他人の可能性もある」

「えっ? 何で? そこまで一緒ならユナさんじゃないの?」

「転生するなんて事は、俺にもユナにも自力では不可能だから。言い換えれば、前世の妹、『家波(いえなみ)ユナ』は、本来この世界に存在しない(はず)なんだ。だから、苺プロダクションに居る人物が前世の妹なのかどうか、はっきりとは分からない」

「じゃあシスイ君が前に言ってた、りんどー仙人? にやって貰ったって事は?」

 

 アイは至極真っ当な可能性を指摘した。

 俺も、もしユナが転生したのであれば、六道仙人が輪廻天生の術を使用したが故なのだろうと思っている。

 けれども、六道仙人が軽々(けいけい)に転生系統の術を使うだろうか? 

 NARUTOの原作(しか)り、俺の場合(しか)り、『可哀想だから転生させてあげる』というような理由でするとは思えない。

 

「俺もその可能性はあるとは思う。ただ、六道仙人は確かに優しい人だけど、軽々(かるがる)しく転生術を使用するような人じゃない。もし、ユナがこの世界に転生しているなら、何かしらの強い意志や理由があっての事だろうな」

「強い意志や理由かぁ……」

「それで、……苺プロダクションの従業員が他人の空似なら別に良いんだけど、ユナが転生していた場合、……その理由がユナを死なせた俺への恨みや憎しみなんじゃないかって考えたら、顔を合わせるのが恐くなった……」

「シスイ君……」

 

 身を案ずるような声音で呟いたアイは、俺の手を離してから、力強くも優しく抱き締めてきた。

 背中から感じる彼女の(ぬく)もりに(すが)ってしまいそうな自身の弱さに、ほとほと嫌気が差してくる。

 本来、俺が1人で受けるべき罰で、誰かに救いを求める事などあってはならないのに。

 

「恨まれる覚悟は出来ていると思ってた。憎しみが(こも)った視線も、俺を断罪する言葉も、それに伴う暴力も、全て甘んじて受け入れるつもりだった。けど、……けど、実際は(ただ)の我が身可愛さの思い込みで、ユナと向き合う心構えすら出来ていなかったんだ……っ」

 

 過去への未練や自身の不甲斐なさ、訪れるかもしれない未来への恐怖。

 それらが()い交ぜとなった感情を抑えられず、閉じている目の端から涙が(せき)を切ったように(こぼ)れていく。

 ……前世で生を受けて少し経った頃、相変わらず俺は、兎に角(とにかく)親の顔色を(うかが)って(おび)えながら生活していた。前々世での経験故に、『家族』という存在は俺を(しいた)げるものだと思っていたから。

 そんな、前世の善き両親にすら怯えていた俺に、人を信じる切っ掛けをくれたのが当時生まれたてのユナだった。

 両親に言われるがまま赤子のユナを抱いた時、ユナはキャッキャッと嬉しそうに笑って俺に向かって手を伸ばし、俺の頬を()でてくれたのだ。

 赤子だったユナに特別な意図は無かっただろう。ありふれた日常の1コマに過ぎないのも否定しない。だが俺にとっては、初めて俺という存在を受け入れて貰えたように感じた。俺の(こご)えて砕けそうな心に、その小さな手で温かい火を(とも)してくれたのだ。

 年を重ねていってからも、一緒に修行したり、家でのんびりしたり、色々な場所へ遊びに出掛けたり、(まれ)に喧嘩したり……と、両親が殺されるまでは、ありきたりでも掛け替えの無い日常を共に送ったユナ。

 その彼女から、怨嗟(えんさ)や憎悪を向けられるという事は即ち、俺の(いしずえ)となっているもの――前世で幸せに感じた想い出の数々が、黒く塗り潰され粉々に砕け散るという事でもある。

 俺はそれに耐えられそうに無い……。

 

「シスイ君、こっち向いて」

「……いや、でも――」

「いいから」

 

 気が引けるものの、俺の両肩へ置いたアイの手の力に逆らう事無く反転し、彼女と向き合う。

 その直後、アイに頭を掻き抱かれた。

 顔に当たる感触は彼女の……。

 それから間髪入れずに、膝立ちしているらしいアイは俺の頭を()でながら語り掛けてくる。

 

「前も言ったけど、シスイ君は自分で自分を(いじ)め過ぎだよ。何があったのかは分からないけど、今までのシスイ君を見ててさ、ユナさんの時も必死に頑張ってたんだろうなぁって、私は思ってる」

「そんな事は無い……っ。俺が別行動を取らなければ……判断を誤らなければ……っ」

 

 前世の記憶を思い返し、歯が割れそうな程に強く強く噛み締める。

 ……前世で両親が殺されて以降、戦争孤児と大差無い状況に陥った俺とユナ、幼馴染みのカンナは、紆余(うよ)曲折の(のち)3人で身辺警護専門の警備会社を立ち上げた。

 戦争続きの不安定な世情と、(とぼ)しい資金、辺境の地で目立たず生活していても狙われた事を鑑みた結果だった。

 当時、俺とユナは既に永遠の万華鏡写輪眼まで至っていて、カンナは生命力が強く封印術が得意なうずまき一族。

 依頼を受けた時は常に3人一組で行動していた事もあり、危険な職業でありながらも(かす)り傷を負う事すら滅多に無く、評判も上々だった。

 そうして順調に顧客からの信用を得ていったある日、要人からの断れない依頼が同時に2つ舞い込んできたのだ。

 危険な方を俺が、比較的安全な方をユナとカンナが引き受け依頼自体は完遂したのだが、帰路でユナとカンナが襲撃されたらしい。らしいというのは、既に拠点に帰っていた俺と合流したカンナから聞いたから。

 緊急事態に備えてユナとカンナにマーキングしていた俺は、神威(かむい)でユナの元へ急行したが……。

 そこには穴という穴から血を流し、木の根元に(もた)れ事切れているユナの姿。

 完全に俺の失態だった。

 無理矢理でも片方の依頼を断るか、影分身の俺をユナとカンナに同行させるべきだったし、それが出来なくとも前世で存在していなかった高性能な通信機器の代わりをなにかしら用意すべきだった。そうすれば、少なくともユナが死ぬ事は無かったのに……っ。

 

「……シスイ君、自分自身を(ゆる)して良いんだよ。誰も文句を言わないし、私が文句を言わせない。苦しんでいるシスイ君の姿を1番近くで見てきたから。それに、私を救ってくれたのは、私に『愛』を教えてくれたのは、シスイ君だよ? そんな人が一生苦しむなんて、間違ってる」

「っ……。けど、俺は――」

「シスイ君の隣には私が居るよ。だから、ね?」

「ぁぁっ……」

 

 アイの優しさが心に染みて、涙が止めどなく頬を伝っていく。

 俺は自然と彼女の背に腕を回していた。

 アイもそれに応える形で、俺の背を左手でポン、ポンとスローテンポで優しく叩いてくれている。

 罪深い事に、俺はアイに(すが)ってしまったのだ。

 してはいけないと、分かっていたのに。

 ……それから(しばら)くの間、俺はアイの胸元で声を殺して泣き続けた。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 数日経った、土曜日の夜中。

 いつもと同じようにアイと眠っていると、突然、ベランダから人の気配を感じた。

 ほぼ同時に、コンコンと、ベランダ側の窓ガラスをノックする音が聞こえてくる。

 眼を万華鏡写輪眼に切り替え視線を向けてみれば、そこには――。

 

 「やはり、ユナ……なのか?」

 

 俺と同じ眼を持つ家波(いえなみ)結奈(ゆな)が立っていた。

 

 

 

 








2023.12/9:補足以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。

以下、補足です。読み飛ばして構いません。(何でいつも長くなるんだ、私は……)

■補足

・シスイ君の部屋着が減っている事について

拙作のアイちゃんがコレクションしてます。シスイ君が脱いで間もない新しい物が出てきたら、脱いでから時間が経ったシスイ君の部屋着を洗濯機に突っ込み循環させる形で。
こっそり匂いを嗅いでキメてます。

・シスイ君の右眼の瞳術は加具土命(カグツチ)です。

加具土命にしたのは、特に深い理由は無いです。
ぶっちゃけ、便利で格好良いからです。ええ。

・シスイ君の前世周りの話について

会話文の中に散りばめていくスタイルにしようか迷ったんですけど、当時のシスイ君がどういう状況下なのか単話だけでは意味不明になる事と、次話更新まで時間が空いてしまう事を考えた結果、地の文で出来る限り簡潔に書くスタイルにしました。
それでも長ったらしい地の文になってるなんて気のせいだと思いたい……。
小説で過去回想って、どうしたら良いのかわかんねぇ……。

それと、シスイ君の前世における通信機器について、NARUTO原作を読んだ限り、拙作のシスイ君世代(原作の波風ミナト世代)では無線機が存在していないか、存在していたとしても、かなり低スペックな物になっていたと個人的に考えています。

補足は以上となります。お付き合いいただきありがとうございました。
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