迷い人と星の子 作:ポテチバタースキー
前話が1話目ですので、ご注意ください。
では、どうぞ。
暫くして、
「はぁっ、はぁっ、……何なの、この娘っ。
「シスイ君への『愛』が成せる
「こ、こんのぉっ……!」
勝者はアイだった。
俺は左腕をユナの両手で、両脚を淡い赤色の須佐能乎で引っ張られたが、アイに抱き締められたままで引き
薄い本の登場人物みたいにパジャマの前面がビリビリに破れている事にも、俺の左腕と両脚が
「……ユナさんや」
「なぁに? お兄ちゃんっ」
先程までの荒っぽい言葉遣いは
『きゃるんっ♪』という効果音が聞こえてきそうな
女性は生まれながらに女優と聞いた事があるが、それは正しいのかもしれない。
「パジャマ……ビリビリに破けたんだけど……」
「おおっ! パジャマの破け方がエロいっ!!……じゅるっ」
「……」
「わ、悪かったって! お詫びにほら、私の体好きにして良いよ……っ? 恥ずかしいけど、頑張るからっ! お兄ちゃんの秘蔵コレクションにローションビキ――」
「あああああ!! 何でもない、何でもない!! 別に気にしてないから!!」
上目遣いのあざとい表情に反して、再度の爆弾発言をし始めたユナ。
俺は大慌てで、それを
出来心だったんです……。
表紙のデザインが良すぎて、気づいた時には買ってたんです……。
捨てるには惜しい程、素晴らしいクオリティーだったんです……。
「……シスイ君、子ども作ろ?」
「いや、……それは
背後から聞こえる、アイの底冷えするような声にビビりつつも、こればかりはハッキリと言った。
大人の体でも出産は大きなリスクが伴う。
子どもなら尚更。加えて、言うまでもなく倫理的にも大問題だ。
恐らく、ユナの言動に焦燥を抱いたのだろう。
らしくない攻撃的な言動
……もっと早く、会話に割り込んででもユナに言うべきだったな。
また失敗した……。
「不安にさせてごめんな。俺はアイを1人にしないよ。何があっても」
「……」
「最近、アイに助けられてばかりだからさ、たまには俺の上においで」
「……んっ」
俺の言葉に応じたアイは、あすなろ抱きするのを止めて俺の
俺の予想とは異なり、彼女は俺の太腿に
俺の首に腕を回して密着し首元に顔を
「ユナ」
「……何? お兄ちゃん」
「今の俺は、この娘――アイと真剣な交際をしてるんだ。正直、俺なんかじゃアイと釣り合わないと思ってはいるんだけどな」
「……カンナ
ユナは両手を握り拳を作り、次第に
『ユナと交際できない』という
明確に告げるべきかもしれないが、
言葉は時に心を切り裂く鋭い刃になるから。
それに、ユナを全否定するように聞こえてしまうかもしれないから。
「カンナがこの世界に転生しているかは分からないけど、もし会ったら素直に言うよ。ごめんって」
「……そんなに、その娘の事が大事なの? 私達よりも?」
「アイも大事だし、ユナ達も大事な存在だよ。ユナ達と出会わなければ、俺は他人に
今の俺が
それを否定する気は毛頭無い。
そして、現在の関係性と過去の関係性に優劣をつけるつもりも無い。
どちらとも何物にも代え難い宝物なのだ。俺にとって。
「……私が道ならぬ恋をしているのは分かってる。お兄ちゃんが私を妹としてしか見ていない事も。でも、仕方無いじゃんか……。お兄ちゃんが居なかったら、私もカンナ
「……」
「それに、私もカンナ
「……ユナ」
顔を上げたユナの、涙に濡れた赤い瞳が俺を射貫く。
前世で両親が殺されてから間もない頃の話だ。
今と同じ11歳だった当時の俺は、日銭を稼ぐために殺し屋
ターゲットとなった男は典型的な悪代官であったが家族想いの男でもあり、自身の妻と娘の名を繰り返し
当時の選択自体が誤っていたとは考えていない。戦時下で7歳のユナと11歳のカンナを、どんな手を使ってでも養わなくてはならなかったのだから。
ただ、他者の不幸を俺自ら生み出した事と手を汚してしまった事への良心の
無意味と分かっていても、それらから逃げようとしていた無様な俺の姿を見られていたとは……。
「……私が転生した理由、分かる?」
「……いや」
「幸せだった頃の生活を取り戻すため。お父さんとお母さん、お兄ちゃん、カンナ
「……っ」
「だから、私の恋が叶わなかったとしても……っ、そのぽっと出の娘にお兄ちゃんを盗られるわけにはいかないんだよ。お兄ちゃん、私達の所に……帰ってきて……っ」
ユナの言葉に揺らぐ自分が居るのを否定できない。
何もかもを投げ捨ててその日々を欲する俺が、心の中に確かに存在していた。
だが、……それはアイに対する明確な裏切りだ。
アイは、情けなくも
その彼女の
アイと出会った日の夜に立てた誓いもある。
俺は……。
「……っ」
「……お兄ちゃん?」
思わず
……自分で決めた事を曲げちゃいけない、よな。
……ごめん、ユナ。
痛ましい様子のアイの背中を撫でながら、俺は
「……それでも、ごめん。ユナの望みに応えられない。アイを見捨てる選択は出来ない」
「……っ」
アイの震えが止まった事に安堵する一方、ユナのショックを受けた顔を見て心が痛んだ。
いや、……俺よりもユナの方が
せめて、出来る限りの言葉を尽くさなくては。
「ユナ。アイが
「……何となくは」
「ユナが想像している事で外れてない。俺の口から言うべきではないと思うけど、はっきり言って酷かった。……でも、そういう経験があっても、アイは前を向いて生きていこうとしてるんだ。まだ小学生で、俺達みたいな前世の記憶や経験も無いのにな」
「……」
「今のアイはさ、かつての俺がやろうとしていたように、今ある幸せを護ろうと必死なんだよ。アイドルになろうとしてたのも、ちやほやされたいとか、可愛い衣装を着たいとか、年頃の子が思うような理由じゃない。将来への備え、生活資金のためなんだ。しかも、俺と一緒に生活する時の」
「……お兄ちゃんが1人2役で契約しようとしてた理由は、やっぱり?」
「ああ。アイの付き人をやりつつ、
2週間も苺プロダクションから音沙汰が無い状況だ。
ユナが俺の存在を確認する前に、他の従業員の手によって契約書作成が
「……契約書は出来上がってるよ。サインと
「そっか……」
つまり、宙ぶらりんの状態でユナの手中にあるという事、か。
厳しい状況だな。
「それで、……お兄ちゃんがその娘に本気で向き合ってる事は理解できた。その娘に切実な理由がある事も。けど、……やっぱり納得できない。私も薄っぺらい想いで転生したわけじゃないから」
感情を抑え絞り出すように
「ユナ……」
「だから、これからの行動で証明してみせて。星野アイが、お兄ちゃんに
顔を上げたユナは
だが、俺に責任がある以上、それに易々と屈するわけにはいかない。
「ユナッ! それは余りにも――」
「シスイ君、ありがとう。大丈夫だよ」
俺に抱きついていたアイが立ち上がり、ユナに向き合った。
「シスイ君を幸せにするのは私だよ。ユナさんじゃない」
「お兄ちゃんを幸せにするのは私。星野アイ、貴女じゃない」
対するユナも、アイと同じように宣戦布告をした。
少ししてアイから視線を切ったユナは、俺へと視線を向けてきた。先程の凄絶さは霧散している。いつものユナだ。
「……じゃ、お兄ちゃん。またね。お兄ちゃんと会えて嬉しかったよ。……必ず迎えにくるからね」
「じゃあな……俺も嬉しかったよ」
ユナと再会できた事への喜びに嘘偽りは無い。
だが、アイとユナの関係に深い溝が出来てしまった事に、後悔が
俺がもっと上手い立ち回りをしていれば、2人は仲良くなれたのではないか、と。
アイもユナも、性格に難があるわけではないのに……。
「あっ、帰る前にさ、昔やってくれたみたいに頭撫でてよ」
「ああ、良いよ。いくらでも撫でるさ」
ユナが頭を差し出してきたので、優しく彼女の頭を撫でてあげた。気持ち良さそうに目を細めている。
やはり、いつものユナだ。
「んふふっ。……じゃ、今度こそ帰るね。バイバイ……って、ああ、
「
「屋上だね」
「それなら、俺の
「うん」
こうして、……この夜、俺とアイはユナとの
ユナを見送った後、アイが嬉しそうでいてホッとしているような、けれども強い
翌日になって苺プロダクションから契約書完成の旨の電話があり、その週の日曜日に俺とアイは正式に苺プロダクション所属となった。
2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。
これにて、小学生高学年編は終わりです。
ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
深謝深謝m(_ _*)mペコリ
以下、ユナの設定始め、補足です。読み飛ばしても構いません。(結局長くなってるぅ……)
■補足
・ユナの性格について
ユナのキャラクターは、『家族想いの良い子なんだけれども、排他的・盲目的・重度のブラコン・家族愛が限凸して異性愛覚醒・ヤンデレ』系な感じをイメージしてます。
拙作上では、シスイ君もユナも千手とうちはの混血ですけども、ユナの場合、うちはの血が色濃く出ています。
???「兄者も知っているだろう、奴らは悪に憑かれた一族なのだ!!」
本文にも書きましたように、自身が作ろうしている理想(過去の生活のやり直し)にアイを入れないのは、ユナがアイを認めていないからです。
そして、シスイ君を始めとした前世の家族との生活のためなら、他者を殺害する事も平然とやってのけます。(裏設定になりますが、元々
苺プロの面々も、ユナの目的遂行に邪魔になるなら容赦なく殺すでしょう。世話になっている恩を感じながらも、それはそれ、これはこれと割り切って。
あくまで、彼女の目的は、『前世の家族と平穏な生活を送る事』。
それ以外が不幸になろうが、死のうが構わないスタンスです。
うちはの呪われた血よ……。うちは病患者ェ……。
余談になりますが、拙作のシスイ君の背景設定について気になる方は、1話あとがきをご参照ください。ざっくりしたものを載せてあります。
補足は以上となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。