迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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今話は2話編成の2話目です。
前話が1話目ですので、ご注意ください。
では、どうぞ。






第11話―②:ターニングポイント3 11/11更新

 

 

 

 

 暫くして、(ようや)くアイとユナの闘いは小康状態を迎えた。

 

「はぁっ、はぁっ、……何なの、この娘っ。須佐能乎(スサノオ)の両腕まで使ってお兄ちゃんを引っ張ったのに、ベッドから全く動かせないなんて……!」

「シスイ君への『愛』が成せる(わざ)だよっ」

「こ、こんのぉっ……!」

 

 勝者はアイだった。

 俺は左腕をユナの両手で、両脚を淡い赤色の須佐能乎で引っ張られたが、アイに抱き締められたままで引き()られる事すら無かったのだ。

 薄い本の登場人物みたいにパジャマの前面がビリビリに破れている事にも、俺の左腕と両脚が()げかけた事にも、2人ともまだ気づいていない。

 

「……ユナさんや」

「なぁに? お兄ちゃんっ」

 

 先程までの荒っぽい言葉遣いは何処(どこ)へやら。

 『きゃるんっ♪』という効果音が聞こえてきそうな愛嬌(あいきょう)のある声でユナは応じてきた。

 女性は生まれながらに女優と聞いた事があるが、それは正しいのかもしれない。

 

「パジャマ……ビリビリに破けたんだけど……」

「おおっ! パジャマの破け方がエロいっ!!……じゅるっ」

「……」

「わ、悪かったって! お詫びにほら、私の体好きにして良いよ……っ? 恥ずかしいけど、頑張るからっ! お兄ちゃんの秘蔵コレクションにローションビキ――」

「あああああ!! 何でもない、何でもない!! 別に気にしてないから!!」

 

 上目遣いのあざとい表情に反して、再度の爆弾発言をし始めたユナ。

 俺は大慌てで、それを(さえぎ)らざるを得なかった。

 出来心だったんです……。

 表紙のデザインが良すぎて、気づいた時には買ってたんです……。

 捨てるには惜しい程、素晴らしいクオリティーだったんです……。

 

「……シスイ君、子ども作ろ?」

「いや、……それは不味(まず)い。そういうのは大人になってから決めよう。アイの体に負担が掛かりすぎるから」

 

 背後から聞こえる、アイの底冷えするような声にビビりつつも、こればかりはハッキリと言った。

 大人の体でも出産は大きなリスクが伴う。

 子どもなら尚更。加えて、言うまでもなく倫理的にも大問題だ。

 恐らく、ユナの言動に焦燥を抱いたのだろう。

 らしくない攻撃的な言動(しか)り、俺を奪われまいとアイが必死になっている証拠だ。

 ……もっと早く、会話に割り込んででもユナに言うべきだったな。

 また失敗した……。

 

「不安にさせてごめんな。俺はアイを1人にしないよ。何があっても」

「……」

「最近、アイに助けられてばかりだからさ、たまには俺の上においで」

「……んっ」

 

 俺の言葉に応じたアイは、あすなろ抱きするのを止めて俺の太腿(ふともも)の上に腰を下ろした。

 俺の予想とは異なり、彼女は俺の太腿に(また)がって俺と向き合う形で腰を下ろしたため、図らずもアイを抱っこするような格好。

 俺の首に腕を回して密着し首元に顔を(うず)めてるアイの頭を撫でつつ、俺はユナに話し掛ける。

 

「ユナ」

「……何? お兄ちゃん」

「今の俺は、この娘――アイと真剣な交際をしてるんだ。正直、俺なんかじゃアイと釣り合わないと思ってはいるんだけどな」

「……カンナ義姉(ねえ)の事はどうするの?」

 

 ユナは両手を握り拳を作り、次第に(うつむ)いていった。

 『ユナと交際できない』という此方(こちら)の意図は伝わったらしい。

 明確に告げるべきかもしれないが、()えて迂遠(うえん)な言い方を選んだ。

 言葉は時に心を切り裂く鋭い刃になるから。

 それに、ユナを全否定するように聞こえてしまうかもしれないから。

 

「カンナがこの世界に転生しているかは分からないけど、もし会ったら素直に言うよ。ごめんって」

「……そんなに、その娘の事が大事なの? 私達よりも?」

「アイも大事だし、ユナ達も大事な存在だよ。ユナ達と出会わなければ、俺は他人に(おび)えるだけの人生だったから。ユナ達がかつての俺を救ってくれたように、俺もアイを支えていきたいんだ」

 

 今の俺が()るのは、俺が人の善性を信じる事が出来るようになったのは、前世の両親、ユナ、カンナのお陰だ。

 それを否定する気は毛頭無い。

 そして、現在の関係性と過去の関係性に優劣をつけるつもりも無い。

 どちらとも何物にも代え難い宝物なのだ。俺にとって。

 

「……私が道ならぬ恋をしているのは分かってる。お兄ちゃんが私を妹としてしか見ていない事も。でも、仕方無いじゃんか……。お兄ちゃんが居なかったら、私もカンナ義姉(ねえ)も、早々に身売りされて死んでただろうし……」

「……」

「それに、私もカンナ義姉(ねえ)も知ってるんだよ? 私がまだ小さい頃、夜中に帰ってきたお兄ちゃんが泣きながら何回も手を洗ってたの。……危ない仕事で身も心もボロボロにしてまで私達を護ってくれてたお兄ちゃんを好きになっちゃうの、仕方無いじゃん……っ!」

「……ユナ」

 

 顔を上げたユナの、涙に濡れた赤い瞳が俺を射貫く。

 前世で両親が殺されてから間もない頃の話だ。

 今と同じ11歳だった当時の俺は、日銭を稼ぐために殺し屋(まが)いな事を始め、その日、初めて人を殺した。

 ターゲットとなった男は典型的な悪代官であったが家族想いの男でもあり、自身の妻と娘の名を繰り返し(つぶや)いて死んでいった。

 当時の選択自体が誤っていたとは考えていない。戦時下で7歳のユナと11歳のカンナを、どんな手を使ってでも養わなくてはならなかったのだから。

 ただ、他者の不幸を俺自ら生み出した事と手を汚してしまった事への良心の呵責(かしゃく)、そして、命を奪った時の肉を(えぐ)る感触は中々消えてくれなかった。

 無意味と分かっていても、それらから逃げようとしていた無様な俺の姿を見られていたとは……。

 

「……私が転生した理由、分かる?」

「……いや」

「幸せだった頃の生活を取り戻すため。お父さんとお母さん、お兄ちゃん、カンナ義姉(ねえ)と暮らした日常をこの世界でやり直す。そのために転生したの」

「……っ」

「だから、私の恋が叶わなかったとしても……っ、そのぽっと出の娘にお兄ちゃんを盗られるわけにはいかないんだよ。お兄ちゃん、私達の所に……帰ってきて……っ」

 

 ユナの言葉に揺らぐ自分が居るのを否定できない。

 ()りし日の平穏な生活を再び送れるかもしれないという望外の幸せ。

 何もかもを投げ捨ててその日々を欲する俺が、心の中に確かに存在していた。

 だが、……それはアイに対する明確な裏切りだ。

 アイは、情けなくも(すが)ってしまった俺に寄り添ってくれた。する必要も無いのに俺の罪を一緒に背負うと、俺の心に踏み込んできてくれた。

 その彼女の真摯(しんし)な想いと行動に泥を()る事など、絶対にやってはいけない。俺が俺であるためにも。

 アイと出会った日の夜に立てた誓いもある。

 俺は……。

 

「……っ」

「……お兄ちゃん?」

 

 思わず(くちびる)を噛み締めてしまう。

 (ふところ)のアイを見遣れば、アイは絶対に離されまいとしがみつき、震えていた。

 ……自分で決めた事を曲げちゃいけない、よな。

 ……ごめん、ユナ。

 痛ましい様子のアイの背中を撫でながら、俺は葛藤(かっとう)しつつも口を開いた。

 

「……それでも、ごめん。ユナの望みに応えられない。アイを見捨てる選択は出来ない」

「……っ」

 

 アイの震えが止まった事に安堵する一方、ユナのショックを受けた顔を見て心が痛んだ。

 いや、……俺よりもユナの方が(つら)いに決まっている。加害者は俺だ。

せめて、出来る限りの言葉を尽くさなくては。

 

「ユナ。アイが幸燦園(ここ)で生活している意味は分かるだろう?」

「……何となくは」

「ユナが想像している事で外れてない。俺の口から言うべきではないと思うけど、はっきり言って酷かった。……でも、そういう経験があっても、アイは前を向いて生きていこうとしてるんだ。まだ小学生で、俺達みたいな前世の記憶や経験も無いのにな」

「……」

「今のアイはさ、かつての俺がやろうとしていたように、今ある幸せを護ろうと必死なんだよ。アイドルになろうとしてたのも、ちやほやされたいとか、可愛い衣装を着たいとか、年頃の子が思うような理由じゃない。将来への備え、生活資金のためなんだ。しかも、俺と一緒に生活する時の」

「……お兄ちゃんが1人2役で契約しようとしてた理由は、やっぱり?」

「ああ。アイの付き人をやりつつ、内波(うちは)(みどり)としてアイドルグループに入り込めば、内と外でアイを護れるから。金銭面の事もある。……まぁ、今、契約書がどうなってるのか分からないけど」

 

 2週間も苺プロダクションから音沙汰が無い状況だ。

 ユナが俺の存在を確認する前に、他の従業員の手によって契約書作成が(つぶ)れたといったところだろうか?

 

「……契約書は出来上がってるよ。サインと捺印(なついん)して貰えば良いだけ。私が止めてるの。陸路(りくじ)支翠(しすい)がお兄ちゃんなのか、星野アイがどういう為人(ひととなり)で、陸路支翠とどういう関係なのか、を確認してから()()()予定だったから」

「そっか……」

 

 つまり、宙ぶらりんの状態でユナの手中にあるという事、か。

 厳しい状況だな。

 

「それで、……お兄ちゃんがその娘に本気で向き合ってる事は理解できた。その娘に切実な理由がある事も。けど、……やっぱり納得できない。私も薄っぺらい想いで転生したわけじゃないから」

 

 感情を抑え絞り出すように(つぶや)いたユナ。

 (うつむ)いていて、その表情を(うかが)い知る事は出来ない。

 

「ユナ……」

「だから、これからの行動で証明してみせて。星野アイが、お兄ちゃんに相応(ふさわ)しい娘なのかどうか。相応しい娘なら、私達の新しい家族として認めてあげる。もし、相応しくないなら、……私がお兄ちゃんを奪う。別天神(ことあまつかみ)を使ってでも。これが私に出来る最大限の譲歩」

 

 顔を上げたユナは凄絶(せいぜつ)な眼をしていた。先程と同じ万華鏡写輪眼なのに、多くの鉄火場を(くぐ)ってきた俺ですら初めて見る程に強烈で、見ている側に悪寒(おかん)が走るような。

 だが、俺に責任がある以上、それに易々と屈するわけにはいかない。

 

「ユナッ! それは余りにも――」

「シスイ君、ありがとう。大丈夫だよ」

 

 俺に抱きついていたアイが立ち上がり、ユナに向き合った。

 (にら)み合う両者を中心に、重苦しい空気が漂い始める。

 

「シスイ君を幸せにするのは私だよ。ユナさんじゃない」

 

 (おもむろ)にアイが宣言した。いや、ユナへの宣戦布告と言っても過言ではない。

 

「お兄ちゃんを幸せにするのは私。星野アイ、貴女じゃない」

 

 対するユナも、アイと同じように宣戦布告をした。

 不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だと言わんばかりに。

 少ししてアイから視線を切ったユナは、俺へと視線を向けてきた。先程の凄絶さは霧散している。いつものユナだ。

 

「……じゃ、お兄ちゃん。またね。お兄ちゃんと会えて嬉しかったよ。……必ず迎えにくるからね」

「じゃあな……俺も嬉しかったよ」

 

 ユナと再会できた事への喜びに嘘偽りは無い。

 だが、アイとユナの関係に深い溝が出来てしまった事に、後悔が(よぎ)る。

 俺がもっと上手い立ち回りをしていれば、2人は仲良くなれたのではないか、と。

 アイもユナも、性格に難があるわけではないのに……。

 

「あっ、帰る前にさ、昔やってくれたみたいに頭撫でてよ」

「ああ、良いよ。いくらでも撫でるさ」

 

 ユナが頭を差し出してきたので、優しく彼女の頭を撫でてあげた。気持ち良さそうに目を細めている。

 やはり、いつものユナだ。

 

「んふふっ。……じゃ、今度こそ帰るね。バイバイ……って、ああ、(くつ)回収しないと」

何処(どこ)で脱いだんだ?」

「屋上だね」

「それなら、俺の神威(かむい)で屋上に送るぞ。マーキングしてるし。……アイも一緒に来るか?」

「うん」

 

 こうして、……この夜、俺とアイはユナとの邂逅(かいこう)を終えた。

 ユナを見送った後、アイが嬉しそうでいてホッとしているような、けれども強い(しん)を感じさせる表情で俺に飛びついてきたのは、余談だろう。

 翌日になって苺プロダクションから契約書完成の旨の電話があり、その週の日曜日に俺とアイは正式に苺プロダクション所属となった。

 

 

 

 







2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。

これにて、小学生高学年編は終わりです。
ここまでお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。
深謝深謝m(_ _*)mペコリ

以下、ユナの設定始め、補足です。読み飛ばしても構いません。(結局長くなってるぅ……)

■補足

・ユナの性格について

ユナのキャラクターは、『家族想いの良い子なんだけれども、排他的・盲目的・重度のブラコン・家族愛が限凸して異性愛覚醒・ヤンデレ』系な感じをイメージしてます。
拙作上では、シスイ君もユナも千手とうちはの混血ですけども、ユナの場合、うちはの血が色濃く出ています。
???「兄者も知っているだろう、奴らは悪に憑かれた一族なのだ!!」
本文にも書きましたように、自身が作ろうしている理想(過去の生活のやり直し)にアイを入れないのは、ユナがアイを認めていないからです。
そして、シスイ君を始めとした前世の家族との生活のためなら、他者を殺害する事も平然とやってのけます。(裏設定になりますが、元々(こじ)らせ気味なところに、前世で死んで以降、完全に拗らせました)
苺プロの面々も、ユナの目的遂行に邪魔になるなら容赦なく殺すでしょう。世話になっている恩を感じながらも、それはそれ、これはこれと割り切って。
あくまで、彼女の目的は、『前世の家族と平穏な生活を送る事』。
それ以外が不幸になろうが、死のうが構わないスタンスです。
うちはの呪われた血よ……。うちは病患者ェ……。

余談になりますが、拙作のシスイ君の背景設定について気になる方は、1話あとがきをご参照ください。ざっくりしたものを載せてあります。

補足は以上となります。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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