迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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2話編成の2話目です。
1話目は前話ですので、ご注意ください。
では、どうぞ。






第13ー②話:大事な話&星を宿す少年 12/9更新

 

 

 

 

 いよいよ話が始まると思いきや、ユナはミヤコさんに呼ばれて渋々中座した。理由は分からない。

 そして現在、此方(こちら)側に左から俺、アイの順で座り、テーブルを挟んだ反対側にはチンピラ社長こと斉藤壱護が座っている。

 社長は溜め息を(こぼ)してから、真剣な口調で話し始めた。

 

「ふぅ〰〰……。本題に入るがな、アイと支翠(しすい)()てに『劇団ララライのワークショップへ参加しないか?』っつう話が来てる。参加期間は一先(ひとま)ず来年の3月まで。話を持ち掛けてきたのは、プロデューサーの鏑木(かぶらぎ)勝也(まさや)。お前達も以前挨拶(あいさつ)した事あるだろ」

「ふぅ〰〰ん……。桂木さん? 覚えてないなぁ」

「何度か会ってんのに覚えてねえのか……」

「うーん……。名前覚えるの苦手だし、仕方無いよねー」

 

 額に手を当てて思い出そうとしているものの、思い出せないらしい。

 アイ(いわ)く、「才能あるなぁって思ったり、自分にとって大事な人だなぁって思ったりしたら、覚えやすい」との事。

 そういえば、俺もアイと出会った日に死体君って呼ばれたっけか。懐かしい。

 ふと、アイは何かに気づいたように顔を上げ、社長へ質問する。

 

「ミドリちゃんへは?」

「先方はミドリにも参加して貰いたいようだったが、俺が『アイには同い年の付き人が1人、必ずつく事になっている』っつったら、その付き人――支翠にも興味を持ったらしくてな。ワークショップの参加人数の関係上、アイと支翠だけに妥協したって訳だ」

「へぇー。でも私達、高校受験生なんだけど?」

「ああ。だから、毎月最後の週の日曜日に行ってくれ。先方からは『それで良い』とOKを取りつけてある。時間と場所は、午後2時に劇団ララライな。(ちな)みに、本格的な参加は来月からだ。今月は顔合わせの挨拶だけで良い」

 

 話振りからして、もう決定事項か。こういう事態は何時(いつ)か起こると思っていたが……。

 今回、チンピラ社長に外堀を埋められたな。今までは危うい部分はありつつも、事前の話し合いをしてから仕事に移っていたんだがね。やはり『社長』という肩書きは厄介だ。

 

「休み(つぶ)れちゃうのかぁー……」

 

 ポソッとぼやいたアイを横目に、思考を加速させる。

 何にせよ、『はいはい、良いですよ~』っと、二つ返事で了承はしないぞ。(あなど)られて、今後も無茶振りされる原因になる。チンピラ社長に恐れられるか、チンピラ社長が下手(したて)に出ざるを得ないくらいが丁度良い。

 最強の武器となる、無制限な契約解除権を振りかざし行使するのも選択肢ではあるが、収入源を失い今後の生活プランが大きく狂ってしまう。それは避けたい。

 ……よし、大まかな方向性は決めた。

 『チンピラ社長にマネジメント契約違反を痛感させた上で、タダ働きダメ絶対』だな。

 

「俺もアイも俳優になる気は無いですよ? ワークショップへ参加する気も無いですし」

「悪いが、これは断れない話だ。影響力始め力関係で言えば、苺プロ(ウチ)より鏑木の方が上。それに決定済みの話を引っ繰り返したら、悪評が拡散して間違いなく芸能界で干される。支翠なら分かるだろ?」

 

 それは分かっている。

 分かった上でごねているのだ。

 俺とアイの貴重な休日を、興味の欠片も無いワークショップで(つぶ)す事になるからには、それなりの補填(ほてん)をして貰わないと。確実な契約の履行を始めとして。

 

「だとしても、本人達の意思確認の前に無断で決める方が悪いでしょ。自業自得では?」

「それは、……まぁ否定はしねえ。俺に非がある事はな。だが、苺プロ(ウチ)が生き残るには、鏑木とのパイプは必須なんだ。あのプロデューサーのコネクションは使える。……頼む、分かってくれ」

 

 なし崩し的に契約条項を反故(ほご)にされる未来が見えているのに、OKする訳が無い。

 俺は、社長の主張を一刀両断した。

 

「嫌ですね。苺プロが潰れても、俺とアイは幸燦園(こうさんえん)に戻れば良いだけなんで。……そもそも俺達との契約書で、俺達が『職業上及び職業に関連する法的責任、道義的責任を一切負わない。当該責任は苺プロダクションが全て負う』旨、取り交わしましたよね。しかも、社長自身が作成した契約書で。ワークショップへの参加強制は契約違反ですよ?」

 

 正確に言えば、『ユナに操られた社長が作成した契約書』なんだけど。ユナが俺の雑な幻術を尻(ぬぐ)いしてくれたお陰である。

 お兄ちゃん、妹の器用さに鼻高々よ。

 

「ぐっ……。どうか頼む……っ」

 

 痛い所を突かれたと思ったのか、くぐもった声を漏らした(のち)、社長は頭を下げた。

 さて……。

 このチンピラ社長を、ここからどうやって無条件降伏させるところまでもっていくか。

 会話内容、声音からして、自身に非があると認識しているのは確定。

だが、不十分。もっと追い詰めておきたい。2度と契約を(おろそ)かにしないように。

 

「なぁ、支翠(しすい)。俺達、何だかんだ上手い事やってきたじゃねえか……。今回は大目に見てくれ。苺プロのためにも、アイのためにもなる」

「……」

 

 頭を上げた社長の言葉に沈黙を返す。

 やはり、野望最優先の社長とは根本的に考え方が合わない。

 また万華鏡写輪眼の幻術で()めるか?

 いや、……中長期的視点も加味すると、本件で瞳術による傀儡(かいらい)化は無意味だな。

 契約書作成の一件と異なり、今回だけ(しの)いでも徒労に終わる。裏を返せば、責任免除規定の遵守(じゅんしゅ)を継続させる必要があるという事。

 加えて、『職業に関連する』、『法的責任』、『道義的責任』という抽象的なワードに、広範な解釈の余地が生じてしまうのも難点だ。

 それらを考慮すれば、『状況をコントロールするために、幻術で半永久的に社長を支配し続けなくてはならない』という結論に……。

 瞳力もチャクラも有限である以上、現実的では無いな。ユナに頼りっきりも、流石にどうかと思うし。

 

「支翠、そんな考え込むような事じゃねえだろ。アイが他の領域でも花開くように場を整えてやるのが、俺達、周りの人間の責任だぞ」

「……」

 

 今回1度きりで済まないだろうが。アイの事を商売道具としてしか見ていないクソ野郎め。

 ……そうだ、アイに()()()()()()として協力して貰おう。事務所におけるアイの影響力が増す事にも(つな)がる。

 チラッとアイへアイコンタクトをすれば、アイは笑顔を返してくれた。本当、ありがたいね。

 

「アイ。社長が契約違反してるけど、契約解除権を行使するか? 内容証明郵便だの何だの、面倒臭いのはあるけど、後腐れ無く辞めれるぞ」

「なっ――!」

「そうだなぁ〰〰……。迷うよねー」

 

 思惑(おもわく)通り、俺が本気だと思わせる事に成功したらしい。

 チンピラ社長の顔から、さぁーっと血の気が引いていく。最悪な結末が彼の脳裏に (よぎ)ったのだろう。

 コンプラ始め、規律への意識が低いからそうなるんだ。

 少しの間、悩む演技をしたアイは、失望した(てい)を装ってチンピラ社長を非難し始めた。

 

「佐藤社長は結局、私やシスイ君を裏切ったんだよね? 契約書に書いてある事なのに」

「い、いや、そんなつもりは無かった! すまん、本当にすまん!! この通り……っ!」

 

 テーブルに手をついて、再度深々と頭を下げるチンピラ社長。

 それを全く意に介さず、アイは言葉を続ける。

 

「こんな無茶振り、何回もされたくないよねー。辞めて一般人になるのも悪くないかなー」

「だろ? 契約書で取り交わしていながら、これだからな」

「い、以後、気を付ける! 今後は、今までのように必ず事前承諾を得るようにする! だから、辞めないでくれ……っ!!」

 

 顔を上げた社長の必死な懇願を、俺達は無視という形で返答した。

 嘘の仮面を被っての即興劇、案外いけるな。アイの指導の賜物(たまもの)だ。

 

「俺は辞める良いタイミングだと思うぞ。最低限の信用も今、無くなったしな」

「確かにねー。『今度からは気を付ける。必ず事前承諾を得るようにする』って言っても、それを保証する物は何も無いし」

「だろ? それに、ワークショップへ行くのも()()だからな、これ。『自発的に行きました~』じゃないから」

 

 分かりやすく誘導していく。曲がりなりにも社長なら分かるだろう?

 

「わ、分かった! 今回のお()びも併せて、ワークショップ参加の臨時手当を出す! 今月は1人日当2万、以降は1万5千で手打ちにしてくれ……っ! 今回は本当にすまなかった……っ!」

 

 おっ、かなり頑張るな、社長。ポケットマネーか?

 彼の顔に悲壮感が滲み出ている辺り、『このままだと、本当にヤバい!』とは思っているのだろう。

 だが、その様子を見ても直ぐには良しとしない。

 『金でコントロールできる人間だ』と思われるのは侮られるのと同じ。

 そもそも最重要な問題は金じゃない。それが本当の意味で分かってないようなら、また繰り返す。

 それ故、俺はあからさまに顔を(しか)めて、社長に物申す事にした。本音込みの演技だ。

 

「金を貰えば、『はい、仕方無いですね』ってなるとでも思ったんですか? 随分と軽く見られたものですね。ビジネスにおける信用を毀損(きそん)したんですよ? そこのところ、分かってます?」

「うぐぅ……っ」

「ビジネスにおいて、契約遵守は絶対ですからね。……それじゃ、近日中に契約解除する旨の退職届を2通送りますので。では」

 

 俺は席を立つと同時に、アイへ目配せをする。

 それを受けて、アイが俺の服の(そで)(つか)んで引き留めた――丁度その時。

 

「シスイ君、今回だけは――」

「ふぃぃ……雑用疲れたぁ。お兄ちゃん、ただいまぁ……。って、あれ? 何事?」

 

 このややこしいタイミングでユナが戻ってきてしまった。

 目をぱちくりさせて、俺、アイ、社長の顔を順に見ていき、再び俺へ視線を向ける。

 

「お兄ちゃん、帰るの?」

「……ああ。そこな社長がマネジメント契約の履行を懈怠(けたい)したからな」

 

 片眼だけ写輪眼に出来れば社長の死角を利用して瞳術越しに説明できるが、俺には無理な芸当だ。

 表向き、こういう答えを返すしかない。

 アイもアイで、この状況をどうするか思案しているようで、俺の袖を掴んだまま沈黙している。

 

「ゆ、結奈(ゆな)っ、アイと支翠を引き留めてくれ! 2人共、本気で辞めるつもりだ……っ」

「えっ? 社長、今度は何やらかしたんですか?」

「俺がやらかす前提なのか……。いや、今回はそうだけどよ……。簡単に言うと、アイと支翠宛てに、劇団ララライのワークショップへの参加について、オファーがあってな。……相手が相手だった事もあって、2人の事前承諾無く、その場でオファーを受け入れて予定を組んだんだ」

「はぁ〰〰ん……なるほどなるほど」

 

 ユナは(あご)に手を当てて、うんうんと頷き状況把握に努めている。

 契約内容を知っていて、察しの良いユナなら分かってくれる筈……!

 頼むぞ、ユナ!!

 

()ず、お兄ちゃんはぁ……席を立ってるから、辞める気満々?」

「……ああ」

「それでクソアマ(アイ……さん)は、お兄ちゃんの袖を掴んでるから、『少し譲歩しても良いかな?』ってとこ?」

「……うん、今回だけは。次されたら辞めるよ」

「最後に、社長は……まぁ、言うまでもないですね」

 

 チンピラ社長は敬虔(けいけん)な信者の如く両手の指を(から)めて合掌し、(すが)るような眼差しをユナへ送っている。

 ユナが戻ってきた事で、場の主導権がユナへ移ってしまった。

 ユナの結論が本件の結論になり得る状況。

 果たしてユナの結論は――?

 

「……お兄ちゃん。私としてはクソアマ(アイ……さん)と同じく、今回だけは甘めに評価して良いんじゃないかなぁって思うなぁ。サッカーで言うところのイエローカードみたいな?」

 

 ユナの言葉を聴いて、チンピラ社長はホッと安堵の溜め息をついた。

 よしよし、ありがとうユナ。

 出来た妹を持てて、お兄ちゃん幸せ者だよ。

 後は俺が渋りながらも折れる事で、一件落着だ。

 

「けどなぁ……」

 

 ()えて難色を示す振りをした。

 その俺から社長へ視線を移し、ユナは質問する。

 

「社長、何かしらお詫びするんでしょ?」

「ああ、……今後は必ず事前承諾を得る事と、ワークショップ参加の臨時手当をアイと支翠に支給する予定だ」

「おいくらで?」

「今月は1人2万、来月からは1人1万5千」

「おおっ、凄く頑張りましたね!……って事だからさ、お兄ちゃんも今回は矛を収めて欲しいなぁ」

 

 しなをつくって、ワザとらしく目をパチパチさせているユナ。

 わざわざ腕を寄せて胸を強調するポーズをしなくても……。お兄ちゃんは特に何も感じないんだよ、ユナさんや。

 それはともかく。

 俺は立ったまま、悄然(しょうぜん)とした社長へ向き直る。

 

「……社長。今回はアイとユナに従って思い留まる事にします。ただ、次は許容できないです。あくまで俺が優先すべきものは、『星野アイ』の平穏ですので。努々(ゆめゆめ)お忘れ無く」

「……ああ、肝に(めい)じとく」

 

 アイのキラキラした視線を横から受けながら、俺も内心ホッと胸を撫で下ろす。

 何とか予定した話の着地点に持ってこれたな。ユナの察しの良さに感謝だわ。

 ユナ以外の職員が途中で入ってきていたら、100パーセント話が(こじ)れてた。危ない危ない……。

 弛緩(しかん)した空気の中、ふと何かを思いついたように、ユナが社長へ話し掛ける。

 

「社長。今回、私MVPですよね?」

「ああ、そうなるな。……結奈(ゆな)、助かった」

「どういたしましてー。……それでですね、そのワークショップ、私も行って良いですか? 保護者枠で」

「は?」「えっ?」

 

 社長とアイの声が重なった。俺もビックリ。

 ワークショップって、そんな面白いものじゃないだろうに。俺とアイは仕事で行くんだぞ?

 

「いや、結奈(ゆな)。今回枠が決まってるから――」

「参加者じゃなくて、見学するだけなら良いでしょ? ね? ね?」

 

 ユナは満面の笑みを浮かべつつも、『ゴゴゴゴッ!!』という効果音が入りそうな圧を(かも)し、社長に迫っている。

 俺もチンピラ社長も、いまいち事態を飲み込めていない中で、アイだけは何かに気づいたようだ。

 先程の輝きとは正反対の、奈落の如き漆黒の瞳を向け、社長へ釘を刺す。

 

「佐藤社長、OKしたら駄目だよ。私とシスイ君、()()()行くんだから」

「社長? 良いですよね? 社長なら社員の頑張りに報いないと……ねぇ?」

 

 あ、ユナが万華鏡写輪眼で社長に幻術掛けてる!

 そこまでやるの!?

 うわぁ……。『YES』か、『はい』しか答えさせないつもりか。容赦無いわぁ……。

 こっわ……。妹様、こっわ……。

 

「……ああ。今から鏑木(かぶらぎ)プロデューサーと劇団ララライのトップに電話で言っておく。絶対に話を通しておくわ」

「お願いしますね、社長」

 

 幻術に掛かった状態で足早に会議室から出て行った社長。

 その彼を見送ったユナはクルリと反転してアイへ近づいていき、アイも立ち上がってユナと正面から顔を突き合わせる。アイとユナを中心に超重力空間ががが……。

 

「お兄ちゃんとのワークショップランデヴーを独り占めさせる訳ないでしょ? それに、お兄ちゃんの勇姿をこの眼に焼きつけるチャンスッ!! 更に、お兄ちゃんの使用済みタオル(聖遺物)ゲット!! 更に更に、甲斐甲斐(かいがい)しくお兄ちゃんのお嫁さんポジション確立!! (まさ)に、一石四鳥よ!!」

「本当に邪魔なんだけどなぁ。鼻息荒くて顔が気持ち悪いよ、妹婆(ユナ……さん)

「何とでも言いなさい。私の血が騒ぐのよ。『大いなる愛を抱き、お兄ちゃんについていけ。トイレ中だろうが、入浴中だろうが、自家発電中だろうが、どんな時でも離れるな。ペロペロクンカクンカしろ』ってね。これでも、かなり我慢してるのよ? 私、理知的だから」

 

 ひぃっ……、言ってる事がちょっと恐い……。

 ユナって、昔はもっとお(しと)やかで、穏やかな性格だったのになぁ……。

 ああっ!!

 俺の目の前で、またアイとユナがメンチ切り始めてる!

 止められる人は誰も居ない。

 俺はどうすれば……。どうすれば良い!?

 

「やっぱり、シスイ君と子ども作るしか無いかな? シスイ君に告白を断られ続けてても、しつこく付き(まと)ってくるし。転生してもストーカーとか、本当に救いが無いよねー」

「はぁ?……お兄ちゃんの子どもは私とカンナ義姉(ねえ)が産むんだけど? お兄ちゃんの初キスを彼女(仮)の貴女(あなた)に譲ったんだから、満足しなさい?」

 

 そうやってユナが(あお)るから、それに比例してアイがセクシャル方面でエスカレートするんだよ……。以前、ユナに注意しても意味無かったし。

 俺の身にもなってくれ……。夜寝ていたら、突然パンツの中で暴発した時の悲しみなんて、ユナには分からないだろう……?

 

「……横恋慕で本当にウザイし迷惑だよね。私がシスイ君の『最初で最後の最高な彼女』なんだよ? それが分からないくらい頭ボケちゃったのかな?……はぁーっ、さっきも言ったんだけどねー」

 

 『やれやれ……物分かりの悪い奴……』と言わんばかりに、肩を(すく)めて首を振るアイ。

 これ、やられた側はイラッてくるよなぁ。中々の煽り方。

 ユナも例外では無く……。

 

「あ゙あ゙っ!? 喧嘩(けんか)売ってんのか、クソアイドル!! お兄ちゃんの寵愛(ちょうあい)を受けてなければ、とうの昔にぶっ殺してるのが分からねぇのか、クソがぁ!!」

「きゃっ! シスイ君、助けてー!」

「あっ、ズルーっ!! お兄ちゃんを盾にして逃げやがったな!!」

 

 万華鏡写輪眼状態で凄んだユナから隠れるように、アイは俺の右腕に抱きついてきた。口元を吊り上げてワザとらしい悲鳴を上げている辺り、アイも随分タフになったね。素直に喜んで良いのか分からないけど。

 さて、2人の間に立ってしまっている俺は、どうしたものか。

 ……流石に、ユナの言葉が過ぎるよなぁ。いつもはもう少しマシ……というか、周囲の目もあってお互いに一線を越えないようにしているのに。

 俺が仲裁に入ったら余計に(こじ)れそうな予感がヒシヒシとする。でも、止むを得ない、か。

 

「……ユナ、言葉がキツ過ぎ。ユナが今まで抱えてきた想いを考えれば、色々思うところがあるんだろうけどさ。……アイが頑張っている姿はユナも見てきただろう?」

「むっ……。でも……」

「俺にとって、ユナは唯一無二で自慢の妹だよ。俺には勿体(もったい)無いくらいの。だから、な?」

 

 口を(とが)らせて目を逸らしているユナの頭へ左手を伸ばし、そっと撫でる。

 昔を思い出すなぁ。……いけない、元気なユナを改めて意識してしまって、目が(うる)んできた。

 

「くぁっ……!! 私の心を揺さぶってからのソフトタッチ撫で撫で……!! ユナちゃんポイント荒稼ぎ……!? 撫で撫でで妊娠しちゃうっ!? これがぁ、これがぁ!? ふぁぁあああ!?」

 

 撫で続けていると、ユナは表情を七変化させて、次々と変顔を(さら)していく。

 白目を()いたユナなんて、初めて見た。

 体感で数分程経っただろうか。

 恍惚(こうこつ)とした表情で(よだれ)を垂らしていたユナは、ハッと我に返ったようで。

 

「くっ!……お、お兄ちゃんに免じて、今日はここまでにしてあげるっ! 感謝なさい! さ、さらば!!」

「今日はありがとうな。気をつけて帰るんだぞ」

 

 俺が言い終わる前に、ユナは会議室から飛び出して行った。

 残っているのは俺と、俺の右腕を抱き寄せ、ぶすーっと不満げなアイだけだ。

 

「……シスイ君、私の頭も撫でて。妹婆(ユナ……さん)にやった時間の3倍」

「ああ、勿論。アイは俺の『彼女』で『パートナー』だからな。さっき、俺のアドリブに合わせてくれてありがとう」

「……分かってるなら、よろしい。良きに計らえー」

 

 アイと向き合った俺は、アイの背に右手を回し、彼女の頭を左手で優しく撫で始める。

 すかさず、アイも俺の背に手を回して抱き締めてきた。

 俺の胸板に顔を押しつけてグリグリしてきた彼女。

 その状態のまま、時折、くぐもった笑いを漏らしている。

 

「んふふふっ」

「気持ち良い?」

「んふっ」

 

 彼女の耳元で(ささや)くと、アイは顔を押しつけた状態で(うなず)いた。

 彼女の柔らかい肢体を感じて改めて思う。

 こんな華奢(きゃしゃ)な体で、今まで頑張ってきたんだよなぁ。俺という重りを引っ張って。

 

「スゥ〰〰……ハァ〰〰……スゥ〰〰……ハァ〰〰……んふふっ」

 

 現在進行形で何やらご満悦中のアイへ、日頃の感謝と、(あふ)れ出そうな愛情を伝えたくなってきた。

 行動で示したいけど、……い、一応、俺は彼氏だし、(たま)には俺からやっても良いよね?

 ざっと周囲に視線を飛ばし、人が居ないのを確認。人の気配も感じない。

 ああっ、何か緊張してきたぁ……!

 心臓の鼓動が早くなってるの、アイにバレてしまう……!

 

「ア、アイ、ちょっと顔を上げてくれる?」

「スゥ〰〰……んへへへっ……。ん゙、ん゙ーっ! こほん。……どうしたの、シスイ君?」

 

 彼女の頭を撫でていた左手を、そっと彼女の頬に添える。今、不思議そうにしているアイは、この後どんな反応をするだろうか。

 

「『俺の1番』はアイだけだよ」

「んむっ……!」

 

 ソフトだけれども、深い感情を込めてキスをした。

 奥手な俺が会議室でキスをするとは思ってなかったようで、アイは目を見開いている。

 長いようで短いような、曖昧な時間。心と心が繋がり、満たされていく心地良い感触。ずっと浸っていたいけど、……家に帰らないとな。

 キスを終えると、アイは頬を(あか)く染めて名残惜しそうにしていた。

 

「んむぅ……シスイ君のいじわるぅ……。生殺しっていうやつだよね。焦らしプレイ?」

「えっ?……いや、抱き締めててさ、アイへの想いを行動で伝えたいなぁって思って」

「ふぅ〰〰ん、……シスイ君は私の色香に(まど)わされちゃったんだね。私って罪な女」

 

 まだ頬を火照(ほて)らせているものの、アイはニンマリと笑っている。

 

「そりゃ、チキンな俺の心を奪ったのはアイだからな。必然さ必然」

「ふふっ、家に帰ったら続き、しよ? さっきのだけじゃ15点で赤点だよ?」

「採点が厳しい!……まぁ、帰ってからな」

 

 そうして、俺とアイは帰路についた。

 といっても、人目につかない場所へ移動してから神威(かむい)を発動し、時空間経由での帰宅だったりする。

 自宅の玄関に着いた途端、アイから「やっぱり私からする。キスの仕方、じっくり教えてあげるね」と、押し倒され――。

 (しばら)くの間、俺達は心の(おもむ)くままに唇を重ね合った。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 9月も最終週になり。

 とうとう、ワークショップの日がやってきた。

 既に、俺とアイ、ユナの3人は目的地付近に移動済みで、これから劇団ララライの建物内へ入っていく事となる。

 今は人気(ひとけ)の無い場所――劇団ララライ近くの路地裏――で、最後の確認中だ。近くを飛ぶ(からす)の鳴き声がカモフラージュに一役買ってくれている。

 

「ユナさんや。繰り返しになるけど、『お兄ちゃん』呼びは止めとくんだぞ? 支翠(しすい)君か、支翠呼びで頼む。俺もユナさん呼びにするから」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「はい、アウトー」

「……あっ」

 

 指摘されて、初めて気づいたような反応をするユナ。

 お兄ちゃん呼びが習慣になってしまっていて、修正が難しいのだろう。

 その様子を見て、アイは不安げに俺へ話し掛けてきた。

 

妹婆(ユナ……さん)、本当に大丈夫なの? シスイ君にトリップしてて頭ガバガバだし」

「あ゙? それはクソアイドル、お前もだろうが。お兄ちゃんの匂い()いでトンでるの、知ってるんだからな。(うらや)ましい事しやがって……ッ」

「私は良いんだよ。シスイ君の『カノジョ』で『パートナー』だから」

「はい、ストップ! 2人共、(にら)み合わないの」

 

 額と額がぶつかりそうなくらい、至近距離でメンチ切るの止めてぇ……。

 俺の胃が持たないのぉ……。

 プロレスやボクシングの会見場じゃないんだからね……?

 チラッと背後の表通りへ視線を飛ばす。人の気配も無いし、人通りも今のところ無い。

 気を取り直して、話を進めよう。

 

「とにかく、最後の確認な」

「「うん」」

()ず、代表の金田一敏郎へ挨拶。次に、ワークショップの活動を一通り見学。最後に帰宅。それと、ワークショップ中、俺から離れない事な」

 

 社長からは「顔合わせの挨拶だけで良い」と言われたが、それを真に受ける人は居ないだろう。

 どう考えても相手方の覚えが悪くなる。

 それは即ち、巡り巡って苺プロへの悪影響という形で現れるのは必至。そこから更に連鎖して、今後、社長にマネジメント契約反故の正当性を与える事にも繋がってしまう。

 自ら仕事上の落ち度を作る必要は無い。

 俺の言葉を聞いたアイとユナは、2人共、両手を(ほお)に当ててクネクネし始めた。しかも、少し頬が(あか)い。

 

「『俺から離れるな』なんて、……シスイ君、外なのに大胆だねっ。きゅんってきちゃったよっ」

「やっぱり、私にはお兄ちゃんしか居ないのね! ふへへへ」

「いや、まぁ、その、2人が傷つくような事は絶対に嫌だからさ……って、お二人さん聞いてる?」

 

 駄目だ。

 2人共、(いま)だに「外なのに、シスイ君のえっちぃ」とか、「そこ触っちゃ駄目っ」とか言って、妄想の世界から帰ってこない。

 言うまでも無く、俺が意図するのはワークショップでのナンパ対策だ。

 アイもユナも方向性は違えど容姿端麗で、非常に目立つ。俳優崩れのチ○カス共が目をつけるのは間違い無い。

 必要とあらばその場で殺る。きっちり半分か8割くらいな!

 (もっと)も、ユナなら自衛くらい余裕だろうけど、そこは兄として。……かつて護れなかった負い目もある。

 

「さて。お二人さん、そろそろ劇団ララライへ――」

「あれ? そこのお三方、そんな路地裏で何をなさっているのですか?」

 

 俺としたことが、全く人の気配を感じなかった。警戒していた(はず)なのに抜かった……ッ!

 背後から聞こえた声に内心警戒しつつも振り返る。

 そこには――。

 

「僕が所属している劇団に、何かご用件でも?」

 

 金髪碧眼の少年が(たたず)んでいた。人当たりの良い微笑(ほほえ)みを浮かべていて、紳士のように落ち着いた雰囲気の少年だ。

 ……その彼を視界に入れた一瞬だけ、ほんの一瞬だけ底知れない不気味な違和感を覚えたが、気のせいだったのかもしれない。

 それよりも、……彼の整い過ぎている容姿へ意識を向けざるを得なかった。

 今生の俺と同じ金髪なのにサラサラヘアーで、超がつくイケメン君……。

 ……チッ、クソがぁ!!

 

 

 

 








2023.12/25 項目整理のため補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を一部削除しました。

以下、補足です。読み飛ばして構いません。

■補足

・原作との相違点について

原作では、アイのやる気無さげな態度を見て鏑木プロデューサーが劇団ララライを勧めましたが、拙作では純粋に有望株とのコネ作りの一環として推挙されてます。

・アイとシスイ君がキスしてる事について

その後、ヤってないです。

・契約解除権&包括的な責任免除条項について

ぶっちゃけ、一方的且つ無条件の契約解除権や、包括的な責任免除条項なんていうのは完全にファンタジーです。(拙作では、第9―②話にて、瞳術で捻じ曲げてゴリ押ししましたが)
通常、契約解除権には条件が複数設けられていたり、個別具体的な免責規定も使用者や商品提供側が設けたりするものになります。




補足は以上となります。ここまでお付き合いしていただきありがとうございました。
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