迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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前話が1話目ですので、お気を付けください。
では、どうぞ。






第14ー②話:帰り道&暗躍開始 12/23更新

 

 

 

 

 

 ワークショップの見学が終わり、金田一氏へ帰りの挨拶も済ませた俺達は帰路についた。

 当初、俺達は神威(かむい)で早々に帰宅する予定だったのだが、カミキ君も一緒のため電車の最寄り駅までは徒歩だ。

 行きと同じく、俺の左をアイ、右をユナが陣取っていて、カミキ君は俺の前を歩いている。

 

「カミキ君、今日はありがとう。今後のワークショップ、何とか乗り切れるように頑張ってみるよ」

「どういたしまして。……見学中も言ったけど、演じ方は十人十色、人それぞれだからね。陸路君もアイさんも、講師の俳優さんを真似しながら自分に合う演じ方を探していけば良いと思うよ」

 

 振り向いて、(さわ)やかな笑顔を浮かべているカミキ君。

 何をやってもイケメンに映る。

 俺には絶対に無理。

 

「そういえば、陸路君は『武芸を(たしな)んでいる』って言っていたけど、筋トレみたいな事をかなりやっているのかい? 役者は体力勝負なところもあって、体力作りが結構大変でね」

 

 舞台俳優に体力が要るのは、容易に想像がつく。カミキ君も苦労しているのだろうか。

 参考になるかは分からないが、当たり障りの無い部分だけ開示しよう。ギブアンドテイクだ。

 

「俺の場合は、まだ本格的にはやってないな。あくまで柔軟運動や走り込み、後は型の練習みたいなトレーニングを中心にやってる。本格的な筋トレは、身長が伸びきってからやる予定」

「へぇ~。パッと見でも、かなり鍛えているように見えるのに、まだ本格的にやっていないんだ。……それで走り込みって、どれくらいの距離を走ってる? マラソンのような長距離?」

「いや、メインは20メートルくらいの短距離で、本気ダッシュを限界まで何本も繰り返す感じ。長距離もやるにはやるけど、あくまでサブかな」

「なるほど、そういうやり方もあるんだね」

 

 俺の言葉を聞いて、カミキ君は興味深そうに首肯した。

 筋トレ含め基礎鍛練は、自身の限界までやらないと意味が無い。正しい姿勢や正しい走り方に細心の注意を払いつつ、自分を追い込んでいくのだ。

 そうする事で、少しずつ、ほんの少しずつではあるが、自身の限界ラインが上がっていく。

 前世の肉体性能をそのまま今生に反映できれば、現状維持程度の鍛練で済んだのだが……。まぁ無い物ねだりだな。

 

「……僕も走り込みやってるんだけど、いまいち効果が出なくてね。どうしたものかな? と頭を悩ませていたんだ。ありがとう、陸路君」

「どういたしまして、カミキ君。お互い様さ」

「ふふっ。優しいね、陸路君は」

 

 カミキ君よ。

 女の子が完堕ちしてしまうようなキラースマイルを俺に向けられても……。

 カミキ君にその気は無いのだろうけど、(わず)かながら動揺してしまった。

 その時。

 

「い、いや、そんな事は――」

「カミキ君、シスイ君はあげないよ。もう私のだから」

 

 突然、アイが会話に割り込んできた。静かな威嚇(いかく)とでも言えばいいのだろうか。瞳に黒き凶星を宿し、カミキ君をじっと見据(みす)えている。俺の右隣でユナが「は? 仮だろ、仮」と言っているが、無視するつもりのようだ。

 

「えっ? いや、アイさん、僕はノーマルだからね?」

「……」

「本当だよ、本当。アイさんと陸路君はお似合いだと思ってるよ」

「……そっ」

 

 アイは素っ気ない返事をして、再び黙り込んだ。けれども、カミキ君から目を離さないまま。監視していると言っても過言では無い。

 ここまで露骨な振る舞いをするアイなんて、久し振りに見た。ユナとの冷戦期以来だ。

 本当、どうしたんだ?

 もしかして、俺がチョロい奴だと思われてる……?

 (いず)れにしても、安全地帯――神威の時空間でアイに()かないと。

 彼女がこういう態度を取るからには、相応の理由がある(はず)だ。

 

「あ、あははは……」

「うわぁ、クソアマ(アイ……さん)感じわるー」

「……」

 

 ユナの口撃をまたしても無視し、アイは気まずそうに笑っているカミキ君へ意識を集中している。

 少々場の空気が悪くなろうがお構い無しだ。

 それだけアイにとって、カミキ君は要警戒対象であるらしい。

 反りが合わないだけなのかもしれないけど。

 そうして歩く事、数分。

 地下鉄の駅の入り口に着いたところで、カミキ君が別れを切り出した。

 

「それじゃ、僕はこれで。……あっ、陸路君」

「ん?」

「もし良ければ、連絡先交換しない? 折角の機会だからと思ったんだけど、……駄目、かな?」

 

 上目遣いで、おずおずとした様子のカミキ君。

 その様子を目にした途端、過去の記憶が一瞬(よぎ)った。……幼い頃のカンナを思い出してしまったのだ。

 

「っ……構わないよ」

「……」

 

 アイが物言いたげな目で俺を見つめる中、メアドと電話番号をカミキ君と交換する。

 ここで拒否してカミキ君の心象を悪化させるのは避けたい。……感傷的になったのも否定しないけど。

 

「ありがとう。陸路君、これからもよろしく」

「こちらこそ、よろしく」

「それじゃ、またね」

「じゃあな。気をつけて」

 

 嬉しそうに頬を上気させたカミキ君は、リズミカルに階段を下りていく。

 彼の姿が見えなくなるまで、俺達はその場で見送った。

 カミキ君が雑踏の中に完全に消えてから、俺はアイとユナへ声を掛ける。

 

「それじゃ、俺達も帰ろう」

「「うんっ」」

 

 地下鉄の駅に背を向けて歩き出す。

 ()ずは、人通りが無い場所へ移動しないと。また路地裏で良いか。

 

「お……支翠君」

「ん?」

「カミキ君、良い子だったね」

「まぁ、今のところはな」

 

 人の本性が現れるのは、苦難に直面し、誰かが犠牲を払わないといけなくなった時だ。外面を取り(つくろ)う余裕が無くなった時とも言える。

 自己保身に走るのか、その場で利益を得るために悪辣(あくらつ)な行動をするのか、それとも、誠実善良に献身性を見せるのか。

 それは、その時が来ない事には分からない。

 

「さっきのカミキ君を見ててさ、カンナ義姉(ねえ)の事をちょっと思い出しちゃった。あの庇護(ひご)欲を掻き立てる感じが、小さい頃のカンナ義姉(ねえ)に少し似てたよね」

「それは、まぁ確かに……」

「カンナ義姉(ねえ)何処(どこ)行っちゃったんだろうなぁ……」

 

 しんみりと寂しそうに呟くユナ。

 俺もユナも仙人モードの影分身に可能な限り探させたが、かつての幼馴染みであるカンナは(いま)だに見つかっていない。ユナが言うには、「六道(りくどう)仙人に頼み込んで、私と同じタイミングで転生した」との事だが……。

 

「シスイ君」

「ん? アイ、どうした?」

「カンナさんって、どんな人だったの?」

「燃えるような(あか)い髪をしてて、家族想いの優しい人だったよ。怒ると滅茶苦茶恐かったけど……」

 

 すると、右隣でクスクスと思い出し笑いをしながら、ユナが口を挟んできた。

 

「おに……支翠君がこっそり危ない事してた時、鎖でグルグル巻きにされて逆さに吊るされてたよねっ」

「ユナさん、しーっ」

 

 人差し指を口元へ当てて、ユナへ注意する。

 ユナも口を滑らせたと思っているようで、直ぐに口を閉じた。

 

「鎖って、あの鎖?」

 

 アイは首を(かし)げている。

 内容的に外で話すのは不味(まず)い。

 

「もう少ししたら話すよ」

 

 人気(ひとけ)の無い路地裏に到着。

 路地裏の奥の方まで歩いていき、出っ張っている建物の外壁にアイとユナを隠す。

 此処(ここ)なら、神威を使っても大丈夫そうだ。

 

「それじゃ、行くぞ」

「「うん」」

 

 俺は眼を万華鏡写輪眼へ変えて神威を発動した。

 左眼を起点として(うず)を描くようにアイとユナ、最後に俺を吸い込み、時空間の石造りの地面へ着地する。

 ユナは言わずもがな、アイも慣れたものだ。

 

「やっぱり、お兄ちゃんの神威ってズルいよね。何処(どこ)でも行き放題だし、負担少なそうだし」

「だよねー。私も欲しいなぁ」

 

 羨望(せんぼう)の眼差しを俺へ向けてくるアイとユナ。気持ちは分かるが、どうしようも無い。

 

貴女(あなた)は知らないでしょうけど、私の別天神(ことあまつかみ)なんて再使用までのインターバルが数十年必要なんだからね」

「ふぅーん……。まだ使わないんだ?」

「当たり前でしょ。そもそも、操り人形なお兄ちゃんなんて求めてないもの」

「へぇ……。妹婆(ユナ……さん)の事、ちょっとだけ見直したかも」

「『ちょっと』とは何だ、『ちょっと』とは」

「ステイステイ」

 

 また喧嘩し始めそうな2人の間に入る。

 

「ふぅ……。()ず、アイの質問からな。カンナの鎖――封印術・金剛封鎖の鎖っていうのは、かなり特殊なやつで、そこらで売ってるような普通の鎖じゃないんだ」

「普通じゃないって?」

「チャクラで出来た鎖で、背中から射出して相手を強力に縛りつけるんだ。多分、俺の須佐能乎(スサノオ)でも千切れないし、振り(ほど)けない」

「えっ? あのデカイすさのお(須佐能乎)でも?」

 

 アイは目を見開いて驚いている。

 

「ああ。やった事無いから実際にどうなるかは分からないけど、多分な」

「へぇ〰〰っ……。でも、シスイ君にはかむい(神威)があるから逃げれるんじゃ?」

「アイの推測通り、最初は神威で逃げれたんだけどな……。業を煮やしたカンナが自己流のアレンジをして、鎖が(から)まるとチャクラの抑圧による封印だけじゃなくて、チャクラコントロールを掻き乱す性質まで加えてさ……。()(すべ)無く、逆さ吊りになっちゃった……」

 

 ブルッと体が震えた。

 しっかりと俺の魂に刻まれている。

 前世にて、俺とユナ、カンナの3人で生活し始めてから、暫く経った時の話だ。

 当時の俺は、後ろ暗い連中が集まる闘技場で夜な夜な日銭を稼いでいた。

 バレたら怒られるか最悪泣かれると思い、静か~に帰ったら……、仁王立ちしたカンナ様が玄関でお出迎えして下さったのだ。いつもの穏やかな雰囲気(など)欠片も無く、顔を般若にして、物理的に怒髪天を()く有り様で……。

 玄関扉を開けるや否や、カンナの鎖が俺の首に絡まったため咄嗟(とっさ)に戦略的撤退をしようとしたが、チャクラを練り上げる行程を徹底的に妨害されてしまい、ただ立ち尽くす事しか出来なかった……。

 神威がありながら万事休す。マシンガンの如く射出される鎖が次々と俺の体に巻きついていき……その後は推して知るべしだ。

 

「ま、まぁ、当時、生活費のためとはいえ、ユナやカンナに心配させるような事をしていた俺が100パー悪いとは思ってる。……お、思ってます。本当に反省してます。ごめんなさい……」

 

 アイとユナの圧を感じさせる視線に耐えかねて、声のトーンが尻すぼみになっていった。

 ……2人の前で正座しよう。地面が硬くて痛いけど……。

 そんな俺を余所(よそ)に、各々の胸元で両腕を組んだ2人は、悩み事を相談する(てい)で話し始める。

 

「ねえ、妹婆(ユナ……さん)

「何かしら? クソアマ(アイ……さん)

「シスイ君って、何で自分を大事にしないんだろうね? シスイ君が傷ついて悲しむ人が居るのにさ。……その部分だけは、シスイ君の本当にいけないところだと思う」

「それは心の底から同意するわ。いざ自分が心配しないといけない立場になったら、居ても立ってもいられなくなるのにね」

 

 2人の半眼と正論が、俺に深々と突き刺さる。

 俺も頭では分かっている。分かっているのだが……。大切な人達に傷ついて欲しくない、傷を負うのは俺1人で良いという感情が、どうしても先行してしまうのだ。許されよ許されよ……。

 

「会った事無いけど、当時のカンナさんに同情しちゃうなぁ。……やっぱりシスイ君には、色々分からせないと駄目だね」

「カンナ義姉(ねえ)と私が居ても()()なのに、貴女(ごと)きに出来るのかしら?」

 

 ユナは、俺へ(あご)をしゃくってから、横目でアイを見た。

 どうも、これ呼ばわりされたお兄ちゃんです。

 

「出来るよ、私はシスイ君の『カノジョ』で『パートナー』だからねっ」

「ッチ!……仮の(くせ)に」

「ふふっ、負け惜しみー」

「あ゙? 今、何っつった?」

「ストーップ! 俺も心配させないように気をつけるから、ね? ラブアンドピース、オーケー?」

 

 (ひたい)に青筋を立てたユナと、そのユナを(あお)ったアイの間に立ち、自ら肉壁兼サンドバッグ役を買って出た。

 が……。

 

「お兄ちゃん」

「何でしょう、ユナさんや」

「愛故に戦いが起きるのよ。ラブアンドピース? そんなものはこの世に存在しない!!」

「おぉぅ……」

 

 『ドドーンッ!!』と効果音が入りそうな勢いで断言するユナ。

 ()わった目で俺を射貫き、尚も続ける。

 

「これは戦争なの!! お兄ちゃんを奪い奪われる、女としての生存競争なの!! 爪を噛んで(みじ)めな灰色の人生を送るのか、イチャイチャチュッチュッして薔薇(ばら)色の人生を送るのか、そういう死活問題なのよ!!」

「いや、あの、ユナさん? 俺、交際相手居るんですけど。貴女はいもう――」

「お黙り!! 肉体が他人なら何ら問題無いわ!! しかも、お兄ちゃんの方が年下ときた!! お兄ちゃんとオネショタ!! ナイス六道仙人!!」

「アッ、ハイ」

 

 カッと刮目(かつもく)して気炎を吐くユナに圧倒されてしまった。

 ユナの脳内で俺はどうなっているのだろうか……。

 知りたいような知りたくないような……。

 複雑な心境の俺に、アイがおぶさってくる。ずり落ちないよう、俺はアイの両太腿の裏に手を回した。耳元にアイの吐息がかかり、少しくすぐったい。

 

「ねね、シスイ君。妹婆(ユナ……さん)置いて家に帰ろ?」

「ん?……ああ、そうだったそうだった。ユナも居るこの場で、アイに()こうと思ってる事があってさ」

「んー?」

「路地裏でカミキ君に初めて会った時に、一瞬だけカミキ君から得体の知れない感覚しなかったか? カミキ君に対してアイらしくない反応が気になってな」

 

 俺の勘違いである可能性はある。が、もしアイも同じように感じていたならば、注意を払うべきものと考えても間違いでは無い筈だ。

 

「シスイ君も感じたんだ……。私、ずっとカミキ君から不気味で嫌な雰囲気を感じてたんだよね。嘘は言ってないけど、何か隠している感じもあったし」

「そっかそっか。……ユナはカミキ君から何か感じたか?」

 

 真面目な話と察して落ち着きを取り戻したユナは、怪訝(けげん)な顔をして答えた。

 

「何も感じなかったよ。2人共、気のせいじゃないの?」

「いや、……違和感を覚えたのが1人ではないからな。原因は分からないけど、何かあると見て良いんじゃないか?」

「それはそうかもしれないけど……」

「まぁ、ユナの気持ちも分かる。俺も好き好んでカミキ君を警戒する訳じゃない。……ともかく、今の段階ではカミキ君へ注意を払う事と、余り深く関わりを持たない事くらいか」

 

 何かアクションを起こすにしても、情報が少な過ぎる。

 かといって、直ちに情報収集すべきかと言えば否だ。違和感程度で貴重なリソースを割くのはコストパフォーマンスがよろしくないし、疲弊(ひへい)して肝心な時に力を行使できない事態は避けたい。

 追跡調査は肉体的に精神的にも消耗が激しいのだ。

 

「いたいけなカミキ君を疑うの、気が引けるなぁ……。けど、お兄ちゃんの言う事だから従ってあげる」

「ありがとう、ユナ」

「貸し1だからね、お兄ちゃんっ」

 

 右手の人差し指を立てて、ウインクしたユナ。

 恋愛的な意味合いではピクリとも反応しないが、やはり妹としては非常に可愛らしく思う。

 

「俺に出来る事ならな」

「じゃあ、今ここでキスして?」

「無理」

「即答!?」

 

 ユナは、ズゥーン……と気落ちした様子で肩を落としている。

 俺におんぶされているアイの目の前で、キスをおねだりするとは思わなかった……。

 アイが居るのを忘れているのか?

 今、一瞬だけアイの爪が俺の首に食い込んだんだけど……。すんごく不穏な感じだったんだけど……!

 

「……ほんっとうに年甲斐も無く()りないよね、ユナ(ばあ)。私のシスイ君が浮気するなんてあり得ないのにねー」

「……おい、クソアイドル。もしお前が数十年間お兄ちゃんを想い続けていたとして、他の誰かにお兄ちゃんを盗られた時、それを黙って見ていられるのかしら?」

「無理だね」

「なら察しろ」

()だ」

 

 ヒリつく空気が辺り一帯を覆っていく。

 前世で経験した鉄火場とは違う、精神が(きし)む重圧。

 ああっ……、ユナの眼が万華鏡写輪眼になってるぅ……。

 

「……クソアイドル、お兄ちゃんの背中から今直ぐ降りろ。今日という今日は、その減らず口、叩き(つぶ)してやる……ッ!」

「シスイくーん、助けてーっ」

 

 明らかに棒読みで、アイはより強く抱きついてきた。

 背中に、ふにゅんっとした柔らかい感触ががが……。

 

「色仕掛けでお兄ちゃんを味方につける気? 小癪(こしゃく)な……ッ!」

「ただ、おんぶして貰ってるだけなのに被害妄想だよねー? それにさ、私、シスイ君無しじゃ生きていけない体になっちゃったしぃ……えへへっ」

「……お兄ちゃん」

「いやいや、待って!! 須佐能乎(スサノオ)は止めよう!!」

 

 

 俺の制止も(むな)しく、ユナの体から淡い赤色のチャクラが噴き上がる。

 

「前世で出来なかったけど、今なら完成体の須佐能乎を出せそうな気がするの……。寝取られで覚醒した須佐能乎の恐ろしさ、私の愛の鉄拳をとくと味わえ!!」

「ちょちょちょ、死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

 爆撃のような轟音。

 俺も慌てて須佐能乎完成体を発動し、ユナの須佐能乎完成体の右拳を何とか(しの)いだ。

 

「ユナ、落ち着いてぇ!!」

「お兄ちゃん、私は至って落ち着いてるわ」

何処(どこ)が!?」

「年単位で破壊された脳みそが弾き出した結論――ボコボコにしたお兄ちゃんを犯し抜いて、私色に染め上げる!!」

「言ってる事が恐すぎるわ!!」

 

 ギラギラした眼のユナに総毛立つ。

 須佐能乎の両翼を使って、空中へ逃げよう。ユナがクールダウンするのを待つしか無い……!

 

「三十六計逃げるに如《し》かず!」

「待て、お兄ちゃん!!」

 

 背後へ視線を送れば、直ぐ後ろを追走している赤い須佐能乎。

 ひぃぃ……っ、赤い悪魔にしか見えない!

 

「おおっー、これが本場のカーチェイス? すさのお(須佐能乎)チェイスなんだね」

「アイさん、呑気すぎない!? 俺達、色々な意味で狙われてるんだけど!?」

「大丈夫だよ、私とシスイ君の愛が負けるわけ無いからねっ」

 

 そう言ってアイは身を乗り出して、俺の右頬にキスした。

 俺の須佐能乎の速度が少し上がる。

 アイの混じり気の無い信頼が(まぶ)しい。きゅんってしちゃったわ。

 

「私の前でイチャついてるんじゃねえ!! クソがぁ!!」

 

 荒ぶったユナの怒鳴り声をBGMに、俺とアイは逃げ続け……。

 結局、俺とユナ、双方のチャクラが切れるまで、死と隣り合わせな追走劇は終わらなかった。

 その後、ヘロヘロになったユナがガチ泣きしたため、彼女を慰める事に。

 アイの聖母のようなバブみの影響か、それとも情緒がニュートラルではないからか、幼児退行したユナはアイに抱きついて頭を()でられていたな。

 少しだけアイとユナの距離が縮まったかもしれない。

 

 

 

 

★★★★

 

 

 

 

 深夜の都内某所。

 金髪碧眼の少年は、暗い部屋の中で1人(たたず)み、ガラケーを耳元に当てる。

 

「もしもし」

『何かしら?』

()()に従って、彼らと接触したよ。1番手強(てごわ)いのは()()()()だね。結構……いや、かなり警戒されたみたいだ」

『……()()()()とユナちゃんは?』

貴女(あなた)には悪いけど、彼は()抜けているように映ったかな。ユナさんは基本的に彼しか見ていないね」

 

 少年は日中の出来事を思い出す。

 ()()()の協力があったとはいえ、簡単に背後を取られるお粗末さ。帰り際の、()えて作った表情に引っ掛かる間抜けっぷり。

 それで命のやり取りをしてきた人間などと、聞いて呆れる。

 

『……2人に手出ししたら許さないわよ?』

「分かっているさ。食い物にされた僕を、毒婦から救ってくれたのは貴女だ。逆らうつもりは全く無いよ。それ以前に、予防策として僕に()()を埋め込んだのは貴女だろう?……まさか、アレのお陰で自分の生を、命の重みを知覚出来るようになるとは、思いもしなかったけどね」

 

 少年は自身の胸元をそっと撫でる。

 そこに何かがあると示すように。

 

『それもそうね』

「ははっ。……いやぁ、僕も大概だと思うけど、貴女には負けるね。一途に彼を想い続け、神すらも地平に引き()り下ろす情念……恐い恐い」

『私を馬鹿にしているのかしら? 死にたいの?』

「そんなつもりは無いさ。……ともかく、大まかな方針としては、彼に取り入りつつ選択肢を奪っていき、幸せの絶頂期に星野アイを殺す――それで良いかい?」

『構わないわ。勝手に女をつくった、しーくんへのお仕置きだから。……それじゃあ切るわ』

 

 その言葉を最後に、電話が切れた。

 ガラケーをポケットにしまった少年は、髪を掻き上げて1人哄笑(こうしょう)する。

 

「ハハハハッ! これからが楽しみだなぁ!! 星野さんは僕の(かて)相応(ふさわ)しい人だと一目で分かった。その彼女を()み取った時、陸路(りくじ)君はどんな反応をするかな? 話に聞く須佐能乎(スサノオ)――森羅万象を砕く力とやらを振るってくれる事を願うばかりだ。……僕のために()()()を頼むよ、陸路君?」

 

 抑えきれない感情を口元に(にじ)ませて、クツクツと少年は(わら)った。

 ひとしきり嗤ってから、ふと何かを思案するように視線を宙へ向ける。

 

()ずは、……()()()()()にお願いして、あの毒婦を利用しようか。彼女の夫は有象無象だから丁度良い」

 

 そう独りごちて、少年はポケットから取り出したガラケーを再び操作しだした。

 画面の光に照らされた彼の瞳には、全てを食らい尽くさんとする貪欲(どんよく)な狂喜がありありと浮かんでいた。

 

 

 

 









2024.1/10. 項目整理のため、あとがきを削除しました。
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