迷い人と星の子 作:ポテチバタースキー
俺が
施設長の
アマゾネス3姉妹の調きょ……じゃなかった、統制は中々のようで、過激なスキンシップはある時を境にピタリと止んだ。
……亀甲縛りにされたアマゾネス3姉妹が、仲良く玄関に吊るされた結果なんだけれども。
吊るされて「吊るされるの気持ちいいかもっ……ひんっ」なんて、涎を垂らしながら呟いてたアへ顔の変態は居なかったと思いたい。
さて、本題に入ろう。
いよいよ、この日が来た。
俺の小学校デビューの日だ。
「よし、行く前に確認するぞ!
「うん、大丈夫! ありがとう、節子お姉ちゃん!」
「支翠は良い子だなぁ」
節子お姉ちゃんが、俺の頭を柔らかい手つきで撫でてくる。
この凡そ1年の月日で、節子お姉ちゃんは信頼できると判断した。
現在に至るまで、彼女は、日々の生活の中において誠実且つ献身的で、何か事が起これば率先して対処に当たっている。
そして何より、……俺の童貞を守ってくれているから……。
「それじゃ、行くか! 皆、アタシと支翠はこれから出るからな~!」
「「「「「「「はぁ~い、いってらっしゃ~い」」」」」」」
そう言って節子お姉ちゃんは、俺とともに小学校に向けて歩き始める。幸い、小学校までの距離は徒歩5分程度とかなり近い。
因みに、今日の俺の服装は、入学式に合う子供用のスーツだ。節子お姉ちゃんも、普段のTシャツとジーパンではなく、フォーマルな白色系のワンピースを着ている。
「支翠、入学式の最中にトイレ行きたくなったり具合悪くなったら、遠慮なく先生に言うんだぞ?」
「うん。でも、多分大丈夫だよ」
こういったことを言える辺り、節子お姉ちゃんはまともな人だ。
毒親の場合、子供の健康状態よりも、自身の欲求や世間体を優先するからな。
親ポジガチャ成功!! 親ポジガチャ成功!!
「それとな、困ってる人がいたら、出来る限りで良いから助けてあげな?」
「勿論!」
思うに、誰かを助けること、救うことは、誰かを幸せにすることとイコールになる部分がある。相手方をマイナスの状態からプラスの状態へ引き上げる行為であるから、当然と言えば当然だ。
浄土にて、
誰かに愛情を注ぎ、その誰かを幸せにする。
今生を終えた時に、それを以て
勿論、純粋に、困難に直面している人を助けたい、救いたいという感情はある。けれども、浅ましい自己満足としての側面があるのも否定できない。
「本当に良い子だなぁ、支翠は。……小学生時代のアタシは酷いもんだった」
遠い目をし始めた節子お姉ちゃんは、
「酷いもんって?」
「まぁ、あれだ、ヤンチャしてたってことさ。ハハハ……」
「ふぅ~ん?」
苦笑いしながら目を逸らす節子お姉ちゃん。いつもの快活さは何処へやら。
正直、節子お姉ちゃんの過去は気になる。
例えば、『何で亀甲縛りをするのに手慣れているのか?』とか、
『何で安全に人を気絶させるのが上手いのか?』とか。
『実はNARUTOの世界で忍者やってました!』って言われても驚かない。
だが、この反応を鑑みるに結構な黒歴史のようだから、そっとしといてあげるとしよう。
「っと。話しているうちに、そろそろ学校だな。支翠は、あそこの先生達の案内に従って教室へ行くんだぞ。アタシは体育館へ行かないといけないみたいだから。終わったら、あの先生達が立ってる所で待ち合わせな」
「うん、また後で!」
節子お姉ちゃんが指差した先――学校正門――に、案内担当の教員が複数人立っていた。正門近くに掲示板の類いも設置してある。
精神年齢おっさんの俺は掲示板見れば良いや。
節子お姉ちゃんと一旦別れた俺は、掲示板へ歩を進めた。
※※※※
掲示板を見た限り、どの学年も2クラスずつらしい。
新1年生の教室は学校正門と同じフロアで、正門から直ぐの場所だった。俺のクラスは1年2組だ。
教室に入ってみると、早速、近くの席同士でコミュニケーションを取っているクラスメイトがちらほらと見える。
子どもってコミュ力が高いよな。好奇心の塊だからか? そのコミュ力、俺にもプリーズ!
そんな根暗特有の悩みを抱えつつも、俺は自分の座席を探す。
黒板には座席表が張り出されているが、到着したクラスメイト達が群がっていたのでスルーすることにした。
机には名前が書かれたシールが貼ってあり、それを頼りにすれば良い。名字が
その後、1分もかからず、俺は『りくじ しすい』のシールを見つけ、自分の席に着いた。後方の窓際の席だった。……教員の視界にギリギリ入る嫌な席だ。
既に隣の席には女の子が座っていたので、ランドセルを机に置いてから、笑顔で挨拶をしておく。
「初めまして。俺は
「えっと、……りくじ すしい君? 私の名前は星野アイって言うんだ。こちらこそよろしく~」
「惜しい。下の名前は支翠な」
「私、名前覚えるの苦手で……。ごめんね? シース君」
「支翠な。まぁ、誰でも苦手なことは有るもんな。気にしてないから大丈夫」
「ありがとう、死体君!」
「惜しい、支翠な。どういたしまして」
隣に座る星野アイという少女の容姿を観察する。
何と言えば良いのか、
星野アイ本人は、今後間違いなく美人になるであろう、整った顔立ちをしている。若干紫がかった長い黒髪も、本来ならば綺麗で艶やかな髪なのだろう。
だが、目の前にいる星野さんの髪は、艶を失い、ごわついているように見える。
それだけではない。
彼女の服装もそうだ。
彼女が着ているピンク色のフォーマルな子ども用ワンピースも、あちこち皺だらけでヨレヨレだ。
普通の親ならば、娘の晴れ舞台である以上、皺一つない綺麗なワンピースを娘に着せる。間違いなく。
まだ情報が足りないが、何となく……
「ん~? どうしたの?」
「いや、何でもないよ。そう言えば今日って、これから体育館に行って入学式やるみたいなんだよね。体育館履き持ってきた?」
「えっ……、体育館履き要るの?」
「要るみたいだよ、ほら」
寝耳に水と言わんばかりに驚いている星野さんに、新1年生向けのプリントを見せる。
「どうしよう……忘れちゃったっ」
あははは、と苦笑いしている星野さん。
自身の不幸な境遇を薄々気づきつつも、笑って誤魔化そうとする独特な笑み。
小学1年生なりたてで、そんな痛々しい笑みを浮かべないといけないとは……。
星野さんの姿が、かつての、前々世の俺に重なる。
毒親に虐待され続け、『自分の生活環境は普通で、他の人達と一緒なんだ』と、自分に言い聞かせていた当時の俺に。
「それじゃあ、俺の体育館履きあげるよ。星野さんが使いな」
俺は、ランドセルから体育館履きが入った袋を取り出して、星野さんに手渡そうとした。
「ええっ!? それはシーサー君に悪いよ」
「良いから良いから。それと、俺の下の名前は
「……本当に良いの?」
「良いよ。体育館履き持ってないと星野さんも困るだろ。多分、サイズは少し大きめだろうけど」
恐る恐る俺の反応を窺う星野さんに、俺は体育館履きが入った袋をずいっと差し出す。
……これは、ほぼ確定とみて良いかもしれない。
『体育館履きを忘れた』は嘘で、『体育館履きを買って貰ってない』が本当。身なりや表情の違和感。それから、俺自身の経験則。
これらを考慮すれば、1つの結論に至る。
即ち、星野アイが家庭内で何かしらの虐待を受けているという結論。
偶然に偶然が重なり、偶々身なりが整っていなかったという可能性もゼロではないだろうが……僅かなものだろう。
お節介に思われるかもしれないが、彼女を救い出さなくては。
「……ありがとう、大切にするね。シンナー君」
「俺の名前は、つんっとした臭いのするやつじゃなくて、支翠な。どういたしまして」
それから少しして、担任の教師が入ってきた。
担任は、教室で体育館履きに履き替えてから体育館に向かう旨の説明をして、2組の新1年生が体育館履きに履き替えるのを待っている。
「皆、準備できたかな? そろそろ行くよ~」
5分程して、殆どが体育館履きに履き替え終わり、それを見た担任が声を掛けてきた。
星野さんも特に問題なく履いている。推測通り、サイズは少し大きめだったが。
……本格的に体育館での運動が始まる前に、彼女が抱えているであろう問題を解決しておきたいな。
それが難しそうなら、半ば強引にでも靴屋に連れて行って体育館履きを調整して貰うか……。
星野さんが怪我をする事態は避けないと。
俺? 当然、靴下オンリーさ。
「それじゃあ、出発っ」
担任の掛け声とともに、整列した新1年生の児童達もぞろぞろと動き始める。
……これから、内容がないよーな話を聞かされるのか。
メンドクセー……。
次々と湧き上がってくるサボりたい気持ちを押し殺し、俺は列の
※※※※
入学式自体は、校長の形式ばった面白みの欠片もない話を延々と聞かされて終わった。
そして現在、教室に戻ってきた俺達は、各々自己紹介を終えて解散前のホームルームをしている。
今後の学校生活などは、全く持ってどうでも良い。
目下問題なのは、隣に座る星野さんの窮状――ほぼ間違いなく虐待――をどう証明して、彼女を救い出すか。
どうしたものかな……。
俺自身は、ただの6歳のガキに過ぎない。転生してから人目を盗んで試してみたが、かつて使えていた忍術や仙術、
その上、
はっきり言って、児童相談所は当てにならないとみなすべきだろうな。警察のような初手から強制力を発揮出来る機関ではない。毒親側に親の懲戒権を持ち出されて、
警察も警察で、合理的疑いを超えるレベルの事案でないと動かない筈だ。但し裏を返せば、『これはほぼ間違いなく有罪事案だ』と心証形成すれば、警察は動くということ。
……警察の権力を上手く利用したいな。
ただ、それには前提として、星野アイが親から虐待されていることを証明できる、証明力の強い証拠が必要……。
うーむ……。
「シンバル君? ホームルーム終わったよ?」
「ん? ああ、本当だ」
星野さんが俺の顔を覗き込んできた。
潜考していたら、いつの間にかホームルームが終わっていたようだ。
クラスに残っている同級生は、
……
「星野さん、これから少し時間ある?」
「……うん、あるよ?」
「星野さんと一緒に行きたいところがあるんだ。ちょっとだけ付き合って欲しいんだけど、良い?」
「ん〰〰……分かった! いいよっ」
「ありがとう。それじゃあ行こう」
星野さんに礼を言ってから、俺は、星野さんと共に節子お姉ちゃんとの待ち合わせ場所へ歩き出す。
到着した待ち合わせ場所――学校正門――には、既に新1年生と保護者達が大勢居て混雑していた。
俺の背の低さも相まって、この中から節子お姉ちゃんを探すのは少し骨が折れるかもしれない。
「おっ! 支翠ぃ、ここだ~、ここ!」
節子お姉ちゃんが、俺達に向かって手をブンブン振っている。
流石、節子お姉ちゃん。俺が節子お姉ちゃんを見つけるよりも早く、俺達を見つけてくれた。
……これでも俺、
目には自信があったんだけどなぁ……。
少しばかり
「おまたせ、節子お姉ちゃん。
「星野アイです。よろしくお願いします。……その、私、名前を覚えるのが苦手で、……間違ったらごめんなさい……」
「初めまして、アタシは栗林節子。
お辞儀をした星野さんの背丈に合わせて前屈みになった節子お姉ちゃんは、星野さんの頭を一撫でしてから、明朗に自己紹介をした。
今、星野さんは、『お母さん』という言葉にピクリと反応したな。母親絡みなのか?
とりあえず、話を進めよう。
「節子お姉ちゃん、星野さんを幸燦園に招待したいんだけど、良いかな?」
「ああ、勿論!! でも、アイちゃんのお父さんとお母さんは大丈夫なのか?」
「あの、お母さんはっ……忙しくて来れなかったので、大丈夫です……」
「っ……そっかそっか、ウチんちで好きなだけ過ごしたら良いさ」
節子お姉ちゃんも、星野さんの違和感に感づいたらしい。
お辞儀をし終えた星野さんの頭を、壊れ物を扱うように優しく撫で始めた。
対する星野さんは、不思議そうな表情を浮かべて、それを受け入れている。
思うに、『お父さん』が言葉で出てこないということは、星野さんの親はシンママなのだろう。そして、そのシンママが問題ありの可能性大と……。
「それじゃ、そろそろ帰ろう。と言っても、直ぐ近くだけど」
「だな! ああ、それと支翠。アイちゃんのエスコートよろしくな」
「分かってるよ、節子お姉ちゃん」
俺は、節子お姉ちゃんと軽口を叩き合いながら、星野さんを連れて幸燦園への帰路についたのだった。
2023.12/9:補足関係以外削除しました。