迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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お気に入り、感想、評価ありがとうございます。
今話は、ご都合主義、過激な主張、表現がありますので、ご注意ください。


第3話ー②:ターニングポイント

 

 

 

 

 歩き始めて約5分。現在の時刻は12時前。

 入学式を終えた俺達は、幸燦園(こうさんえん)に帰ってきた。

 日中の幸燦園には、基本的に職員しかいない。

 平日である以上当然の話であるが、入所者は皆、学校なりバイトなりで出払っているためだ。

 

「ようこそ、幸燦園へ! 昼ご飯の前に……まず、アイちゃんと支翠(しすい)は、ランドセル置いてから手洗ってきな」

「分かった~。星野さん、こっちこっち」

「うん……」

 

 節子お姉ちゃんの言葉に従って、俺は星野さんを伴って洗面台がある脱衣所へ移動する。

 いきなり同級生の家へ招待されると思っていなかったからか、星野さんは不安げで落ち着かない様子だ。

 まぁ、そりゃそうだわな。

 

「星野さん、先どうぞ」

「えっ、しいな君が先じゃないの?」

「いやいや、星野さんは女の子でお客さんだからな。そりゃ、優先するさ。後、俺の名前は支翠な」

 

 脱衣所に着いた俺は、執事のお辞儀――所謂(いわゆる)、ボウ・アンド・スクレープ――の真似事をして、星野さんに順番を譲った。

 何で執事のお辞儀を真似たのかって?

 レディーファーストも理由ではあるが、その大部分は遊び心故だ。特に深い意味はない。

 

「シンパ君、変なお辞儀してる~。何で~? あの、先に手を洗うね? ありがとう」

 

 そう言って、星野さんは洗面台で手を洗い始めた。

 うぐっ、何か気を遣われた……。

 ま、まぁ、執事のお辞儀を知らない子どもからしたら、変なお辞儀に見えるよな。

 ……べ、別に、通じなくても恥ずかしくなんかないんだからねっ!

 本当に本当なんだからねっ!

 恥ずかしくて顔が火照ったりしてないんだからっ!!

 姿勢を平時のそれに戻し、脳内でツンデレ染みた言い訳を繰り広げていたら、星野さんはとうに手を洗い終えていて、手をタオルで拭いている。

 

「終わったよ。どうぞ~」

「ありがとう」

 

 星野さんに礼を言い、俺も手を洗い始める。

 丁寧に、されどもスピーディーに手を洗っていく。

 人を待たせるのは好きじゃないんでな。

 

「お待たせ。それじゃ、リビングに行こう」

 

 手を洗い終えた俺達はリビングへ。

 リビングには、俺と星野さん以外誰も居ない。

 ただ、リビングからは、隣接しているキッチンで料理している節子お姉ちゃんの姿が見える。

 料理が出来るまで突っ立っていても仕方無いので、リビングテーブルの椅子に座ることにした。

 当然、星野さんから先に座って貰ったとも。星野さんが座れるように、俺が椅子を引いてな。

 レディーファースト、レディーファースト。

 

「おっ、2人とも手ぇ洗い終えたか。もうちょっと待っててな。あ、そうそう。アイちゃんは苦手なもの何かあったか?」

「……えっと、白いご飯は、あんまり好きじゃなくて」

「そっかそっか、パンは大丈夫そう?」

「多分、大丈夫です……」

「おっし、それじゃパン焼くから、ちょっとだけ待っててな」

 

 明るい調子で了解した節子お姉ちゃんとは対照的に、星野さんは、節子お姉ちゃんの顔色を窺いながら、おずおずと返事をした。

 この星野さんの様子には、俺も覚えがある。

 親に自分の希望を述べて怒られないだろうか、殴られたりしないだろうか。

 そういった不安や恐怖があるから、相手の顔色を過度に(うかが)って自身の望みを抑圧したり、控えめな反応に終始してしまうのだ。

 かつての俺もそうだったからこそなのかもしれないが、実際に目にすると辛いものがある……。

 

「お待たせ、2人とも! 昼ご飯は、オムレツと、カレースープ、フルーツポンチ、サラダ、ココア。それから、アイちゃんにはハチミツとイチゴジャム付きのトーストで、支翠にはご飯といつもの(かに)カマな」

 

 昼ご飯を作り終えた節子お姉ちゃんが、大きなお盆の上に料理を乗せてやって来た。

 料理に統一感はないものの、どれも美味しそうだ。

 

「ありがとう、節子お姉ちゃん」

「あ、ありがとうございます……あの、本当に私、食べて良いの?」

「勿論。星野さんの分なんだから好きに食べて良いんだ。量が多かったら残しても大丈夫だからね」

「そうそう、アイちゃんが遠慮なんてしなくて良いのさ!」

 

 席に着いた節子お姉ちゃんは、ニシシッと人好きのする笑顔を浮かべ、星野さんの頭をワシワシと撫で回す。

 それを星野さんは、ぽかーんとした様子でされるがままだ。

 大方、実親との違いを実感して、カルチャーショックを受けているんだろうなぁ……。

 

「それじゃ、食べよう! 戴きます!」

「「いただきます」」

 

 節子お姉ちゃんの声に(なら)い、俺と星野さんも食事前の挨拶をしてから食べ始める。

 俺が最初に食べるのは、KANIKAMAもとい蟹カマよ!

 ふははは!

 たんぱく質最高!! たんぱく質最高!!

 たんぱく質最高と言いなさい!

 

「ねぇねぇ、今食べてるそれって何?」

「これは蟹風味かまぼこ、略して蟹カマってやつなんだ。試しに食べてみる?」

「うん」

 

 星野さんは興味深そうに、俺が食べてるスティック状の蟹カマを凝視している。

 彼女の要望に応えるべく、俺は蟹カマを皿の上に乗せ、未使用の箸で半分に切り分けた後、食べ掛けの方はご飯の上へ置き、皿に残った方を星野さんに差し出した。

 

「こんなに良いの?」

「星野さんの口に合うか分からないけど、蟹カマを気に入ってくれたら俺も嬉しいからね。どうぞ」

 

 差し出された皿に箸を伸ばし、蟹カマを丸ごとパクッと食べた星野さん。

 チビチビ食べない辺り、案外肝が据わってる娘なのかもしれない。

 

「不思議な味だね……初めての味かも」

「蟹カマを食べる機会は少ないからね~。多分、給食にも出てこないレベル」

「ふぅ~ん、そうなんだね」

 

 何故か星野さんは、ついさっきまで蟹カマを掴んでいた箸の先端を見つめている。

 やはり口に合わなかったか?

 実はアレルギー持ちで体調が悪くなったか?

 俺の懸念を余所(よそ)に、星野さんは再び食事を始めた。

 雑談しつつ食事を進め、各々が昼食を食べ終わりそうになった時、星野さんは俺に顔を向けてきた。

 

「そういえば、しりょう君って、ここに住んでるの?」

「そうだよ。後、俺の名前は支翠(しすい)な」

「へぇ~。何で?」

 

 俺が幸燦園(こうさんえん)に住んでいるという意味が分からないのは、仕方無い。6歳の子どもに分かれという方が無理がある。

 星野さんの質問を聴いて、節子お姉ちゃんは俺を案ずるような表情をしているが、心配無用だ。

 転生前の陸路(りくじ)支翠としての記憶は、文字通り無いからな。

 それに、陸路支翠の両親がどんな人だったのかは知らないが、年端もいかない息子を巻き込んで無理心中を実行した辺り、まともではないだろうし。

 精々利用させて貰うわ。

 

「俺の両親は既に死んだからね。俺を乗せた車で川に突っ込んで溺れて死んだ。ま、一言で言えば無理心中ってやつだね」

「あっ、……ごめんなさい……」

「星野さん、気にしなくて良いよ。彼らは血が繋がってるだけの他人さ。彼らには一番大事なものが無かったから」

「……一番大事なものって?」

「相手を想いやる心と行動かな」

「難しくて分からない……」

「簡単に言えば、『自分がされたら嫌だな~、辛いな~』ってことをしないこと。された側が辛いことや悲しいこと、苦しいこと、嫌なことを何回もやる人は、家族なんかじゃない」

 

 前々世(1度目の生)の親は正に毒親だった。お陰様で、人格担保の意味合いでの血縁を微塵(みじん)も信じていない。

 客観的に、血縁関係が家族としての考慮要素の1つになることは、理解できる。しかし血縁関係が、親の人格を保証をしてくれるわけでも、関係性の全てを決定づけるわけでもないのだ。

 親として肝要なことは、日頃から愛情を注ぎながら子に接して寄り添い、苦難に直面した時に、子のために利他的な言動をするかどうか。血縁の有無ではない。

 

「そう……なのかな……」

 

 星野さんは、俺の言葉を聴いてから俯いてしまった。

 星野さんにしてみれば、聴きたくなかった言葉の筆頭だろう。

 俺だって彼女の苦しみを理解できるから、現実を突きつけるようなことを言いたくない。まだ6歳の子ども相手に、ナイフのような鋭い言葉を浴びせたいと思うわけがない。

 けれども、かつての俺のような失敗をして欲しくないんだ。『いつか自分に優しくしてくれる。いつか自分のことを真摯(しんし)にみてくれる』なんて、幻想を抱いて無様に死んでいった俺のような。

 そもそも、言葉で人間性が変わるくらいなら、毒親にはならない。そして、その毒親から救われる方法は、子どもが毒親を切り捨てる以外にない。

 だから、彼女が、星野アイが、毒親を見限る選択をする必要がある。

 その事を理解しているが故に、俺は、彼女の救いを願いながらも、……心を鬼にして核心に迫ることを決めた。

 憎まれるのは覚悟の上だ。

 

「星野さん、正直に()くね? 辛いことを訊くことになるから、先に謝る。ごめん」

「……うん」

「星野さんのお母さんって、いつも星野さんにどんな事してる?」

「……」

「多分、星野さんに酷いことしてるんだろうなぁって、俺は思ってる」

「……」

 

 (うつむ)いたままの星野さん。

 痛ましい、見ていて辛くなる姿だ。

 でも、彼女を救うためには、ここで俺が折れるわけにはいかない。

 やるからには責任を全うする。彼女の今後も含めて。

 それでね、と俺は言葉を続ける。

 

「俺は星野さんを助けたいと思ってる。節子お姉ちゃんもね」

「……何で?」

「本当は辛くて苦しい筈なのに、我慢している星野さんを、見て見ぬ振りをすることなんて出来なかったから」

「……」

「星野さん、辛いなら辛いって、苦しいなら苦しいって言って良いんだ。我慢する必要なんてない。逃げて良いんだよ。何があっても、全力で星野さんを護るから。命を懸けて護り切ってみせるから」

「……」

 

 彼女の母親への想いが躊躇(ちゅうちょ)させているのだろう。

 その想いを断ち切ろうとする俺は、外道畜生の(そし)りは免れないな。

 今更ではあるけども。

 

幸燦園(ここ)で生活すれば、酷いことされないし、必要なものも買って貰える。星野さんに辛い出来事があっても、幸燦園(ここ)が逃げ場になる。俺や節子お姉ちゃん始め、皆が星野さんを助ける。だから、俺や節子お姉ちゃんを信じて欲しいんだ」

 

 どうか、この手を取って欲しいと切に願いつつ、俺は言葉を終えた。

 

「アイちゃん、子どもはね、大人を頼って当たり前なんだ。大人に面倒見て貰って当たり前なんだよ。だからさ、今まで我慢してきたこと、全部吐き出しちゃいな。ここにアイちゃんを傷つける人は居ないから、ね?」

 

 俺に続いて節子お姉ちゃんも、優しい声音で星野に呼び掛けた。

 沈黙が場を支配する。彼女の葛藤の現れだ。

 けれども、長い葛藤の末、嘘の仮面が砕けたのだろう。

 遂に、星野さんは沈黙を破った。

 

「……ご飯にガラスの欠片が入っていたり、お母さんに叩かれたりして痛かったっ」

「うん」

「……具合が悪くなってもほったらかしで、……ひぐっ、……つらかったっ」

「うん」

「お母さんと一緒に、……ひぐっ、どこか、……ふぅっ、……遊びに、行って、みたかったっ」

「うん」

「お母さんに、ほめてほしかったっ! うわぁぁああああん!!」

「よく頑張った、星野さんはよく頑張った。大丈夫、もう大丈夫だから」

 

 俺は、(せき)を切ったように大粒の涙を流して泣く星野さんを抱き締め、彼女の頭を撫でる。

 少しでも星野さんが安らいで欲しいとの想いを込めて。

 辛い気持ちを吐露することにも勇気がいる。

 それが家庭内のことなら尚更。

 それが出来るだけでも、星野さんは凄いと思う。

 

「支翠も言ったけど、アイちゃんは本当によく頑張った! 後はアタシに任せな。必ず助けるから」

 

 節子お姉ちゃんも席を立って、後ろから俺ごと星野さんを抱き締める。

 節子お姉ちゃんの声からは、星野さんを労る想いだけでなく、彼女を救わんとする覚悟を感じさせた。

 それから暫く、星野さんが泣き止むまで、俺と節子お姉ちゃんは星野さんを抱き締め続けたのであった。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 泣き止んだ星野さんは、吐露したこと以外の事もポツポツと語り出した。

 彼女の母親は、2日前に『暫く帰らないから、身の回りの事は全部自分でやって』と言い残し、家を出たらしい。

 結構な頻度で出歩いていて、4日間帰ってこなかったこともあったとか。

 入学式の身なりも、分からないなりに自分で用意してみたとのこと。

 星野さんの身の上を把握するためとはいえ、探りを入れたりした俺はクソ野郎だ……。

 

「星野さん、学校で体育館履きのことを訊いたりして、本当にごめん。……何を言っても言い訳になるけど、確信を持てなかったから訊いたんだ。本当にごめんなさい」

 

 俺は席を立って、星野さんへ深く頭を下げる。

 理由はどうあれ、彼女の心を傷つける行為だったことには間違いない。

 

「ううん、いいよ。私、……初めてだったから。人から物を貰ったの」

「ん? 2人とも、学校で何があったんだ?」

「シスイ君が私に体育館履きのことを訊いて、自分の体育館履きを私にくれたの」

「ああ~! だから、支翠は靴下のままだったのか」

 

 星野さんの説明に、合点がいったという反応を示す節子お姉ちゃん。入学式の時に、俺が体育館履きを履いていないことには気づいていたらしい。目敏いな。

 

「だからね、シスイ君が謝ることはないよ。頭を上げて? あの時、私は嬉しかったし」

 

 星野さんの言葉を聴いて、俺は頭を上げた。

 未だ彼女への申し訳なさが心に残るが、何とか思考を切り替える。

 これから起こることが、彼女を救えるか否かの分岐点。

 俺に出来ることは殆どないけど、せめて一助(いちじょ)にはなりたい。

 

「星野さんは優しいね、ありがとう。……節子お姉ちゃん、児童相談所に一時保護される前に、星野さんを幸燦園(こっち)に住ませることって出来る? 星野さんのためにも、出来るだけ今日中に終わらせてあげたい」

「多分、出来ると思う。アイちゃんが今まで置かれていた境遇を考えればな。しっかし……児童相談所なんてよく知ってんなぁ! 支翠、天才ってやつか!?」

 

 6歳の俺の口から児童相談所という言葉が出たことに、節子お姉ちゃんは驚いている。

 俺が転生者であることのボロを出しているのは自覚しているが、そんなことを気にしている場合じゃない。

 どのような手段が最善か……。

 恐らく、ゴミ屋敷状態であろう星野さんの家の内部を情報提供しても、警察が動かない可能性は否定できない。

 星野さんの母親も『娘の事は出来る限りやっている。偶々汚かっただけだから』とかで逃げるだろうし。それに、罪証隠滅の恐れも。

 現状だけでも保護責任者遺棄に該当するとは思うが、どこまで証明出来るか不透明……。

 となると、警察を確実に動かすには()()しかないか。

 星野さんの体に残っているかどうかは一か八かの賭けになるが、これは節子お姉ちゃんしか出来ない……というより、俺がやると大問題だから、節子お姉ちゃんにお願いしよう。

 

「節子お姉ちゃん、警察呼んで女の刑事さんに来て貰おう。こっちの事情を説明すれば、それで解決に近づくんじゃないかな?」

「だなっ。――アイちゃん、これから女の刑事さんが来るからさ、辛いと思うけど、さっき話したことを刑事さんに、もう一回話して欲しいんだ」

「……うん。わかったよ、節子お姉ちゃん」

「おおっ! アタシの名前覚えてくれたのか! アタシは嬉しいぞ〰〰アイちゃん!!」

「っ!! えへへへっ」

 

 感極まった節子お姉ちゃんに頬擦りされて、照れ臭そうにしている星野さん。

 少しずつでも、彼女が幸燦園(ここ)に馴染んでくれたらと思う。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 それ以降のことで、俺に出来ることは殆ど無い。

 話した通り、節子お姉ちゃんは電話で警察を呼び、10分程して女性警官が幸燦園に来た。

 節子お姉ちゃんと星野さんが女性警官に事情を説明して、俺以外はリビングから脱衣所の方へ。当然ながら、俺はリビングで待機。

 やはりというべきか、星野さんの体には暴行の跡が残っていたようだ。

 その後、実母から星野さんへの暴行の跡を確認した女性警官は、幸燦園から出て行った。

 脱衣所から戻ってきた節子お姉ちゃんによると、星野さんの母親について、『捜査次第だが、まず傷害容疑で逮捕してから、保護責任者遺棄で再逮捕することになるだろう』とのこと。

 星野さんも、不完全ながら理解したのだろう。

 安堵と喪失が入り交じったような、年齢に似合わぬ物悲しい微笑みを浮かべていた。

 それからも節子お姉ちゃんは、星野さんを病院に連れて行き暴行由来の怪我を診察して貰ったり、児童相談所の職員と交渉したり、星野さんの生活用品を買いに行ったりと大忙し。

 他方、俺が出来たことと言えば、星野さんの付き添い程度だ。

 節子お姉ちゃんと一緒に行動しているから、必然的にそうなる。

 そうして方々駆け回り、俺達が幸燦園に帰ってこれた時には、既に夜7時を過ぎていた。

 時間が押していることもあって、節子お姉ちゃんが星野さんの簡単な紹介を済ませ、夕食や入浴等であっという間に時間が経っていき、……就寝の時間が訪れた。

 現在、俺の部屋のベッドには、俺だけでなく星野さんも寝ている。互いに向き合う体勢で横になっているからか、それとも、いつもとは違って星野さんが居るからか、少々落ち着かない。

 

「今日は色々と大変な1日だったな。改めてよろしく」

「こちらこそよろしくね、シスイ君」

 

 星野さんは、節子お姉ちゃんと一緒に入浴して、体の洗い方を教えて貰ったらしい。

 見違えるように綺麗な黒髪をしている。いや、本来の彼女の輝きを取り戻したと言うべきか。

 

「節子お姉ちゃんや、アマゾ……じゃなかった、先輩達の所で寝なくていいのか?」

「うん、シスイ君の所で寝たかったから」

 

 周りが年上ばかりだと、居心地が悪く感じるのは道理ではある。実母との決別を経験して心寂しく思うのも尤もだ。

 ただなぁ……。

 

「男と同じ所で寝るのは、星野さんにとって余り良くないぞ? 星野さんは可愛いから、男から嫌なことされるかもしれないし」

「シスイ君はしないでしょ?」

「それはそうだけどさ……」

「なら良いよねっ」

 

 俺が転生していることなんて知る(よし)もない星野さんは、大胆に擦り寄ってきた。彼女の顔は目と鼻の先だ。

 彼女の瞳には、夜空を照らす星の如き眩(まばゆ)い輝きが宿っている。ずっと見つめたくなるような、吸い込まれていきそうな輝きが。

 

「それと、『星野さん』じゃなくて、『アイ』って呼んで欲しいな」

「……分かった。これからはアイって呼ぶよ」

「んっ」

 

 俺の返事に満足した様子で、アイは俺に抱きついてきた。

 それに応えるように、俺はアイの頭を撫でる。

 

「そろそろ、おやすみ。アイ」

「うん、……シスイ君もおやすみ」

 

 やはり、心身ともに疲れていたようだ。

 アイが寝入るまで数分も経たなかった。

  完全にアイが眠っていることを確認した俺は、1人ごちる。

 

「俺の命の使い道は決まったな」

 

 今日はアイにとって辛い一件があったが、この一件があったからこそ、俺の今生の目的は定まった。

 アイへ愛情を注ぎ、彼女が幸せになっていく姿を見届けること。

 早い話、アイのお兄ちゃんポジになるということだ。

 そして、……かつての失敗を繰り返さない。

 彼女を害するものは全て排除する。たとえ刺し違えてでも。

 全ては、彼女が幸せを掴めるように。

 そんな覚悟を胸に、俺も眠りに就いた。

 

 

 

 










2023.12/12 補足関係以外削除しました。


■補足

 アイの実母への想いは捨てきれていません。当たり前ですが、簡単には断ち切れないよねってことです。
 そのことは、シスイ君も節子お姉ちゃんも理解しています。
 下手な文章で上手く描写できてないと思います。ごめんなさい……。


以下、読み飛ばして構いません。敷衍(ふえん)するものではなく、あくまで個人的な見解です。センシティブな事柄なので、念のため書きました。今話含め、賛否両論あると思います。



血縁関係について


 血縁への評価については、個々人の経験次第で反転し得るものだと考えています。
 感情を排してフラットに血縁というものを考えた場合、メリット、デメリットともに人の生死に直結するもので、トータルではプラマイゼロに近いかなと。
 拙作のシスイ君は、1度目の人生にて親からの虐待が原因で心身の故障を来たし、その後死亡しています。それ故、過激な主張を展開する運びになったというわけです。



毒親について


 毒親という言葉を耳にするようになって久しいですけども、毒親のどのタイプにも共通項があると思います。
 必然的な結論ですが、それは、家庭内という閉鎖的環境で親の優越的地位を濫用、悪用していること。平たく言えば、肉体的、精神的、社会経済的に弱い子どもに苦痛を与えているということですね。
 仮に、毒親が内閣総理大臣や大統領、大企業の社長等の社会的権力者を攻撃できる機会があったとして、攻撃するか? といったらしないでしょう。間違いなく。
自身がどういう目に遭うのかくらいは計算するでしょうから。
 それから、毒親との向き合い方について、性善説は悪手であると考えています。
 性善説は、互いに誠実善良だから成立し、誠実善良故に生じる隙につけ入らないから機能するのであって、誰か一人でもそこから逸脱した時点で機能不全になるからです。
 それ故、対毒親では、性悪説(ゼロトラスト)な考え方の方がリスクヘッジできると考えています。
 拙作で、アイを毒親の実母から引き離す方向で話を進めているのもそのためです。


原作との相違点について。

 星野アイについて。

 原作の彼女は、本物の愛を求めながらも、嘘というフィルターで物事を見て、嘘という分厚い鎧を纏っているという印象を受けました。そういう状態になるまでに、それ相応の経験(人間不信的な経験)を積み重ねたのだろうと思います。原作1巻では母親への感情的なしこりを吐露する描写(壱護との邂逅のシーン)もありました。

 そこで、拙作では、アイの物心がついてから2~3年と嘘の仮面や鎧が薄い時期であったこと、アイに寄り添ってくれる人、毒親から解放し別の道へ導こうとしてくれる人(シスイ、節子お姉ちゃん)が現れたこともあって、こういう展開になりました。


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