迷い人と星の子   作:ポテチバタースキー

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お気に入り、感想始め、皆様読んでいただきありがとうございます。
今話のケツの方は、三人称っぽくなってます。●●●●以降です。(三人称の書き方のコツがいまいち掴めない……)
では、どうぞ。


第4話ー④:萌芽

 

 

 

 紆余曲折(うよきょくせつ)あったものの、幸燦園(こうさんえん)の玄関扉前まで辿り着いた俺達。

 これから、今日のメインイベントの始まりだ。

 

「よいしょっと~。玄関の鍵は開けたから、今日はアイちゃんが扉開けてね~」

(しおり)お姉ちゃんが開けないの?」

 

 アイは栞お姉ちゃんを見上げて、小首を傾げている。

 

「そうだよ~。ささっ、アイちゃんどうぞ~」

 

 栞お姉ちゃんは自分が立っていた場所に両手を差し出して譲る仕草をしつつ、()り足で退()いた。

 

「ん〰〰……シスイ君も一緒が良いなぁ」

 

 幼いアイでも、何か可笑(おか)しいと感じているみたいだ。

 俺に顔を向け、不安が(にじ)んだ表情をしている。

 

「いや、今日はアイじゃないと駄目なんだ。俺も栞お姉ちゃんも直ぐ後ろに居るから、何かあっても大丈夫」

「……分かったぁ」

 

 俺の言葉を聴いて、不承不承(ふしょうぶしょう)な返事をしたアイは、プッシュプル型のドアノブに手を掛け、玄関扉を開けた。

 

「「「「「「「「「アイちゃん、誕生日おめでとう!!」」」」」」」」」

 

 予定通り、節子お姉ちゃん始め、幸燦園のメンバー全員がクラッカーを手にして、玄関で出迎えてくれていた。

 直後、アイの誕生日を祝うクラッカーの音が鳴り響き、大量のテープと紙吹雪が舞い上がる。

 

「わっ!? えっ? えっ??」

 

 アイは目を丸くして、何が起こっているか分かっていない様子。

 サプライズ第一段階成功かな?

 1人進み出た節子お姉ちゃんは、俺とアイを一回ずつ抱き締めた後、アイに目線を合わせて話し始める。

 

「病院の電話から栞が連絡してくれてな……。話は聴いてる。2人とも帰ってきてくれて良かった。本当に良かったっ。……それでな、今日はアイちゃんが幸燦園に来てから初めての誕生日だから、サプライズにしたんだ」

「サプライズ?」

「そう、サプライズ。アタシが決めた幸燦園(ここ)のルールの1つさ!……正直、トラブルがあった後だから、明日に延期するべきか迷ったんだけどな……」

「シスイ君も知ってたの?」

 

 俺の方へ振り向いて、アイは問うてきた。

 アイからすれば、裏切られたように感じるかもしれないな。

 知らなかったのはアイ1人だけってことは事実だし。

 アイが不信感を抱かないよう、俺はアイの目を見つめ返して素直に白状することにした。

 

「……ああ、知ってたよ。隠し事は余りしたくなかったけど、アイの誕生日を祝うためだから。意地悪するとか、騙すとか、アイを傷つけるつもりは全く無い」

「……誕生日ってお祝いするの?」

 

 アイは、きょとんとした顔をしている。

 毒親に誕生日を祝われた事がないから、誕生日を祝う理由が分からないといったところか……。

 そんなアイの疑問に、節子お姉ちゃんは大きく(うなず)く。

 

「勿論!! アイちゃんもそうだし、支翠(しすい)もそう。皆そうさ! 生きて産まれてきてくれたことだけでも嬉しい事なんだ!」

「節子お姉ちゃんが言った通り、誕生日はお祝いするものなんだ。これからも幸せに成長していって欲しいと願いながらね」

 

 俺と節子お姉ちゃんの言葉を聴いても尚、アイはいまいちピンと来ていないらしい。

 まぁ、論より証拠だな。

 アイに、誕生日は目出度(めでた)いものだと経験させた方が早い。

 

「アイ、リビングに行こう! 節子お姉ちゃん、準備はOKだよね?」

「ああ! あっ、2人とも手洗いを忘れずにな」

「分かってるよ、節子お姉ちゃん」

 

 俺はアイの手を取って、脱衣所にある洗面台へ向かう。

 それと共に、玄関に集まっていた幸燦園のメンバーもリビングへぞろぞろと移動し始めた。アマゾネス3姉妹も空気を読んで移動している。やれば出来るじゃないか、アマゾネス!

 一旦節子お姉ちゃん達と別れた俺とアイは、廊下を歩いていき洗面台に着いた。同時に、俺はアイの手を離す。

 

「アイ、手を洗うの先どうぞ」

「良いの?」

「良いよ。アイが主役なんだから」

「ありがとう、シスイ君。……そういえば、入学式の日もこんな事あったねー」

 

 シスイ君が変なお辞儀してたなぁ、と呟き、アイは手を洗い始めた。

 あの時は執事のお辞儀を真似して滑ったが、今回は違う。

 奇を(てら)わず、普通に順番を譲った。

 何故かって?

 自身の痛々しい厨二的振る舞いを振り返って、頭を打ち付けたくなったからではない。恥ずかしさの余り、脳が沸騰しそうになったからでもなく、『ああああああああ!!!』と叫び出したくなったからでもない。

 本当に本当だ……。うぎぎぎ……。

 

「シスイ君、手を洗い終えたよー」

「ああ、ありがとう。アイ」

 

 アイと交代して、俺も手を洗い始める。

 

「ねね、シスイ君、これからどうなるの?」

 

 鏡越しにアイの顔を見れば、先程まであった不安の色は無くなっている。アイなりに、悪い事は起こらなさそうだと予想出来たからだろう。

 

「多分、最初は夜ご飯だな。それ以降は見てからのお楽しみかな?」

「へぇ~っ、何があるんだろう?」

 

 アイ自身も少し興味を持ってくれたように見える。

 ……正直、誕プレで失敗しないか心配だ。

 アイの期待値を上回りたいが……センス無いからなぁ、俺。

 一抹の不安が(よぎ)る。

 

「……お待たせ。それじゃ、リビングに行こう」

「うんっ」

 

 手を洗い終えた俺とアイは、リビングに入っていく。

 

「わぁっ……!」

 

 アイは、目をキラキラと輝かせて感嘆の声を漏らした。

 リビングテーブルには、既に出来上がった料理の数々が鎮座しており、本日の主役を今か今かと待ちわびていた。

 幸燦園では珍しいことに、フランス料理風に食器が並べられている。

 

「おっ! 2人とも来たか! アイちゃんと支翠の席はいつもの席だからな」

「ありがとう、節子お姉ちゃん」

 

 エプロン姿の節子お姉ちゃんが、鍋とお玉を持ってキッチンから現れた。パッと見渡した限り、先輩達は既に全員座っていて、後は俺とアイだけだ。

 ……料理は完成しているのに、何故鍋とお玉を持っているんだ……?

 一瞬、疑問が脳裏を(かす)めたものの、アイがスムーズに座れるよう、アイの席の椅子を引いておく。

 

「アイ、どうぞ」

「ありがとう、シスイ君」

「どういたしまして」

 

 アイが椅子に座って食事をする体勢になったのを視認してから、俺も自分の席に座った。俺の右隣にアイが座っていて、左隣はというと……。

 

「あっ、支翠(しすい)君が隣だ!! ラッキー!」

「ア……高山先輩、こんばんは」

 

 アマゾネス3姉妹の末妹(まつまい)、高山あゆみ先輩だった。

 今年中学1年生で、陸上部に所属しているとのこと。

 節子お姉ちゃん同様、ポニーテール女子だ。

 ま、まぁ、まだこの高山先輩はマシではある。

 亀甲縛り事件以降はガン見程度だからな!

 突発性アマゾネス症候群による汚染具合は軽症な方だ……。

 ビクンビクンしていた残りの2人と比べたら……。

 ひぃっ!

 反対側の離れた席から、アマゾネス年長2人が能面みたいな顔して俺達を見てるぅっ……!

 

「しっかし、支翠君、アイちゃんにだけは甲斐甲斐しいよね~。アイちゃん、少しだけ支翠君ちょ~だいっ?」

「絶対にヤだ」

 

 俺の右腕を抱き締めたアイは、高山先輩に無機質な瞳を向けて即答した。昼間よりも恐え……。

 このアイの瞳を泰然と受け止められる高山先輩も、肝が据わってるな……。

 何にせよ、ひ弱な男の子としては、アマゾネスに喰われる事態は避けたいです……絶対に。

 

「た、高山先輩、いきなり何言ってるんですか」

「いやぁ、私も支翠君にお世話して欲しいなぁって」

「いやいやいや……。高山先輩の場合、それだけじゃないでしょ。また節子お姉ちゃんに亀甲縛りされて下さい」

「ちぇ〰〰……ってかさ、支翠君、本当に6歳なの? 年齢詐欺でしょ」

 

 アマゾネス年長2人の嫉妬塗れな視線に気づかず、高山先輩は俺達との雑談に興じている。

 隙を見て俺は、影を薄くして置物になろうとしている男の先輩2人に視線を投げ掛けた。『縮こまって合掌してないで、お前らの隣のアマゾネス2人をどうにかしろ!!』という感情を乗せて。

 俺の視線を受けた先輩2人は、互いに顔を見合わせた後、口パクで答える。

 ……何?

『おねショタは、ある意味男の夢だぞ? 肉食獣に喰われてどうぞ。俺は御免被るがな』

『お前のチェリーを生け贄にして、俺達は生き延びるんだ。アーメン』だと?

 ……ファァァァック!!

 ご丁寧に、2人して十字切りやがって!!

 俺がタマ無し野郎先輩共と暗黙の口喧嘩をしていると、近くから鍋を叩く音が聞こえてきた。節子お姉ちゃんだ。

 アイも俺の腕から手を離して、姿勢を正す。

 

「ちゅうも~く! そろそろ食べるぞ! 今日の夕食は、カルボナーラ、デミグラスハンバーグ、サーモンマリネ、フルーツヨーグルト。飲み物はシャンメリー! 米食いたい奴は米も有る! それじゃあ、戴きます!!」

「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」

 

 皆、一斉に好きな物を食べ始める。

 俺はカルボナーラからだ。

 店で出てくるような盛り付け方をしていて本格的だなぁとは思っていたが、味の方もカルボナーラソースが上手くパスタに絡んでいて旨い!

 カルボナーラソースのしつこ過ぎず、あっさりし過ぎずの加減が絶妙だ。

 幸燦園に来た時から思っていたけど、節子お姉ちゃん凄え……。一家に一人節子お姉ちゃんだよ、マジで。

 弟子入りしようかな……。

 

「ねね、シスイ君」

「ん? どうした?」

 

 節子お姉ちゃんの料理の腕前に改めて畏敬(いけい)の念を抱いていたら、アイが耳元でひっそりと話し掛けてきた。

アイの吐息が当たって、少しこそばゆい。

 

「スパゲッティって、どう食べるんだっけ?」

「ああ、それはこう食べるんだ」

 

 アイのスプーンとフォークを借りた俺は、フォークで(すく)ったパスタをスプーンの上で回転させ、巻きつける。

 

「はい、あ~ん」

「えっ?……あ、あ~んっ」

 

 カルボナーラを巻きつけたフォークをアイの口元に近づけ、食べさせた。

 俺に食べさせられるとは思ってなかったのか、アイはモグモグと咀嚼(そしゃく)しながら、頬を少し火照らせ上目遣いで見つめてくる。

 幼子が照れてるの可愛くて良いね!

 ロリ○ン的な意味ではなく、父性的な意味な!

 

「ま、こんな感じで食べるんだ。スプーンが無い時は、皿をスプーン代わりにしてやる感じかな」

 

 アイの手元にスプーンとフォークを戻して、少しだけ追加の説明をしておいた。7歳の子どもにテーブルマナーを要求する場面は皆無だろうが、最低限の事は知っていて損はない。

 

「うぅっ〰〰分かったっ。……あ、あのね、私もシスイ君に『あ~ん』するっ!」

「本当に? それじゃあ、アイにお願いしようかな?」

「うんっ!」

 

 俺の返事を聴いて上機嫌になったアイは、()()()()のスプーンとフォークでカルボナーラを巻きつけ始めた。

 ……間接キスが云々と考えるのは野暮だよなぁ。

 アイは、お礼するつもりでやっているんだろうし。

 出来る限りフォークに触れないようにして食べよう。

 

「シスイ君、あ~んっ」

「あ~ん」

 

 カルボナーラを巻き付けたフォークを差し出されたので、俺は少し歯を立ててカルボナーラだけを引き抜いて食べる。アイのフォークに俺の唾液は殆ど付着しなかった筈だ。

 

「どう? おいしいっ?」

「美味しいよ」

「えへへへっ」

 

 アイは、照れ臭そうに笑って抱きついてきた。

 俺も、アイの頭を空いてる左手で撫でる形で応える。

 アイの誕生日ということで、食事のマナーは多めに見て欲しい。アイにとって幸せな想い出になることが一番大事なのだ。

 それからも俺とアイは、時たま食べさせ合いつつ、食べ進めていく。

 すると、――

 

「かぁっ〰〰!! 独り身にはキッツイわ〰〰!! 支翠君みたいな彼氏欲しぃぃいいい!!」

 

 突然、左隣から聞こえたシャウトに、俺とアイは目を向ける。

 俺達とアマゾネスを除いた皆は一瞬だけ高山先輩に視線を移したものの、いつもの事だと言わんばかりに食事と雑談を再開した。節子お姉ちゃんですら、可笑(おか)しそうに笑いつつも、やれやれと首を振っている。

 

「急にどうしたんですか? 高山先輩」

「変なのー」

 

 高山先輩も、アイ程ではないにしても目鼻立ちは整ってる方だ。

 彼氏の1人や2人出来るだろうに。

 

「小学1年生とはいえ、目の前でいちゃつかれたらダメージ受けるわ! つか、支翠君も少しは照れろ!! 天然ジゴロか!?」

「いや、照れるも何も」

 

 親が子どもにご飯を食べさせてるようなものだし。

 お兄ちゃんポジで照れた方が問題でしょ。

 

「高山先輩。彼氏が欲しいなら、身近に年が近い男2人居るじゃないですか」

 

 タマ無し野郎先輩2人に、チラッと視線をやる。

 その2人はというと、いつの間にか肥大化したアマゾネス2人の情念にビクついて、肩身が狭そうに食事していた。

 ……気持ちは凄く分かる。女性が感情を煮え(たぎ)らせている時に関わりたくないよな。

 

「そこの2人は駄目! タイプじゃない! 視線がやらしい! やっぱ支翠君じゃないと駄目だ!! 支翠君、結婚して!!」

「ごめんなさい、無理です」

 

 節子お姉ちゃんに亀甲縛りされる前のイメージが強すぎて無理。ガキの下腹部に顔を埋めてスゥハァしてたからな、この人。

 それ以前に、……今生は俺個人の幸福を求めようと思えないし。

 

「無理!? ぴゃぁああ」

 

 高山先輩は奇声を上げて、背もたれに寄りかかり()()った。本人は特に意識していないだろうが、胸が強調されるような格好だ。

 仰け反ったまま口からエクトプラズムを出しそうな高山先輩を、直ちに視界から外して、俺は食事を再開する。

 百歩譲って俺が性欲剥き出しだったとしても、食虫植物のおっぱいを見ようと思わない。見たら最後。喰われます。

 アイも、顔を綻ばせて俺に(なら)った。

 ふふ~ん♪ と鼻歌交じりだ。可愛い。

 他方、タマ野郎先輩共は、高山先輩の発展途上のお山様をチラチラ見てる。

 多分、それ気づかれてるぞ。女性は男の視線に敏感だ。

 男のチラ見は、女のガン見と心得るべし。

 とはいえ、たとえ洗濯板呼ばわりしていても、結局目が吸い寄せられる男の性よ……。俺も気を付けよう……。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 夕食を終え、風呂も済ませた俺とアイは、再びリビングに戻ってきた。

 夕食後、直ぐに誕生日ケーキを食べるのではなく、少し食休みを挟んでから誕生日ケーキを食べる運びだ。

 リビングには全員集合している。

 あ、高山先輩がアマゾネス1号、2号と何やら密談している。

 「かくなる上は、既成事実を……」「3人でシェア……」なんて不穏なワードを聞きたくなかった……。

 貞操的な意味合いでも力を取り戻さないと不味(まず)い……。

 

「シスイ君、まだ何かあるの?」

「……勿論。これからが本番だからな」

 

 アマゾネス3姉妹への対抗手段を検討していて、返事が遅れてしまった。

 一先(ひとま)ず俺は、アイの手を引いて、アイに自分の席へ座ってもらう。

 当然、いつも通り気配りの類いは忘れない。

 今、椅子に座っているのはアイだけだ。俺を始め、他の皆はアイを始点としてリビングテーブルを囲むように立ち並んでいる。アタックなタイタンのウ○ール教じゃないぞ。

 

「わっ!? シスイ君、暗くなったよ!?」

 

 何の前触れもなくリビングの照明が完全に消えたことに驚いてるアイは、直ぐ近くに立っている俺の手を握ってきた。

 

「大丈夫、そのうち分かるから」

 

 アイを安心させるように、俺はアイの小さく柔らかい手を優しく握り返す。

 

「皆、通るぞ~!」

 

 少しして節子お姉ちゃんが、ロウソクを灯した誕生日ケーキをキッチンから慎重に運び出してきた。

 暗闇の中、朧気(おぼろげ)に浮かび上がっている誕生日ケーキは、どうやらオーソドックスな苺のホールケーキのようだ。

 

「シスイ君、あれ何?」

 

 ロウソクの灯りだけを頼りに、アイは俺に顔を近づけてくる。

 けれども、その視線はケーキに釘づけだ。

 

「あれはケーキだよ、アイの誕生日ケーキ。誕生日を迎える人の幸せを願って、皆で切り分けて食べるんだ」

 

 アイは遠慮しないで食べるんだぞ、と付け加えてアイの耳元で(ささや)く。

 アイは優しいから、幸燦園のメンバーの顔色を(うかが)って遠慮しかねない。アイの誕生日を祝う目的なのに、誕生日を迎える本人が遠慮するなんて本末転倒だ。

 俺達がひそひそと話している間に、一歩一歩ゆっくりと歩いてきた節子お姉ちゃんは、細心の注意を払いながらアイの目の前にケーキを置いた。

 

「わぁっ……!! 綺麗っ……!」

 

 眼前の誕生日ケーキに目を奪われているアイ。

 火を灯した7本のロウソクが不規則にゆらゆらと揺らめいて幻想的な色合いを見せており、『アイちゃん、7さいのたんじょうび おめでとう』と書かれたチョコプレートがケーキ中央で自らの存在を主張している。

 

「バースデーソングを歌う前に写真撮ろう。アイちゃん、ハイ、チーズ!」

 

 アイの対席に移動してカメラを構える節子お姉ちゃんの声に、アイは、片方の腕で俺の腕を抱き寄せて、もう片方の空いた手でピースサインして応えた。彼女は、偽りの無い満面の笑みを浮かべている。

 カメラのシャッター音とフラッシュが何度か繰り返され写真撮影は終わり、いよいよバースデーソングだ。

 歌い始めるまでの僅かなインターバルを利用して、俺は、歌が終わったらアイがロウソクを吹いて消すんだよ、とアイに耳打ちしておいた。

 不安や困惑を抱くこと無く純粋に味わって欲しいからな。

 

「せ~のっ」

 音頭を取った節子お姉ちゃんに合わせて俺達は歌い始める。

『 Happy birthday to you~♪     

  Happy birthday to you~♪

  Happy birthday dear アイちゃ~ん♪

  Happy birthday to you~♪     』

 

「「「「「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」」」」」

 

 割れんばかりの拍手がリビングに響き渡った。

 その拍手の音色は、純粋にアイの幸福を願う声無き祝歌(しゅくか)そのものだ。

 

「っ……みんな、ありがとうっ!!」

 

 今まで親からの愛情を受けてこれなかったアイ。

 その彼女の心に、確かに届いたのだろう。

 一筋の涙を流しながらも咲き誇る花のような笑顔を浮かべたアイは、ロウソクの火をふぅっと優しく吹き消した。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

 

 主観的な時の流れは一定ではない。

 何かに集中していると、あっという間に時間は過ぎ去っていく。

 それが喜ばしい出来事や楽しい出来事なら尚更だ。

 俺達は誕生日ケーキを食べ終え、節子お姉ちゃんからの誕生日プレゼントもアイに渡し終えた。

 節子お姉ちゃんからの誕プレは浴衣セットだった。朝顔の花柄が入った、淡い水色の浴衣だ。アイの瞳や黒髪が映える色合いだと思う。

 受け取ったアイは、目を潤ませて終始大事そうに抱えていた。

 彼女にとって、正真正銘、初めての誕生日プレゼントなのだ。その想いを詮索するのは野暮というものだろう。

 浴衣の着付けについては、節子お姉ちゃんが今度教えてくれるとの事。アイのみならず、俺も帯の結び方は全く知らないからありがたい。

 そうして誕生日会は終幕し、就寝の時間と相成(あいな)った。

 それは即ち、俺個人としての誕プレをアイに渡す時が来たということを意味している。

 誕プレを節子お姉ちゃんと同じタイミングで渡さなかったことには理由がある。

 それは(ひとえ)に、アマゾネス3姉妹の目につけば面倒事になりかねないからだ。

 ……ショタコンはもうお腹いっぱいです。貴女達は普通に青春を謳歌(おうか)して下さい……。

 コホン!

 さて、……現在、俺と一緒に部屋に戻ったアイは、節子お姉ちゃんからの誕プレ――浴衣セット――をベッド下の引き出しに仕舞(しま)っている最中だ。

 その表情は真剣そのもの。

 浴衣に(しわ)がつかないよう、引き出しの中身を整理しながら丁寧に丁寧に仕舞っている。

数分程して、(かが)んでいる状態から立ち上がったアイが、俺に振り向いた。

 

「シスイ君、おまたせーっ! それじゃあ、寝よ?」

「その前に、……少し時間をくれないか?」

「ん~? 良いけど、どうしたの?」

 

 俺は、不思議そうな顔をしているアイを通り過ぎ、アイが来てから共用になっている狭いクローゼットを開け、クローゼットの奥に隠しておいたアイへの誕プレを取り出した。

 俺がアイに背を向ける形で遮蔽物になっている関係上、アイにはまだ見えていない。

 

「すぅ〰〰……はぁ〰〰……」

 

 正直、前世で(ユナ)と眼球交換した時よりも緊張しているかもしれない……。

 原作知識のようなカンニングペーパーがなく、絶対にできない状況だからか。

 一回深呼吸してみたが、全然緊張が解れないぞ……。

 

「シスイ君?」

 

 アイから見れば、俺がクローゼットを開けたかと思えば深呼吸し始めたのだから、変に思うのは至極当然だ。

 ……男は度胸! ええい、ままよっ!!

 俺は、清水の舞台から飛び降りる思いで体を反転させ、アイに向き合う。

 

「実は、……俺もアイの誕生日プレゼント、用意したんだ」

 

 そう言って、ピンク色の包装紙でラッピングされた袋をアイに差し出した。

 

「えっ? もう節子お姉ちゃんから貰ったのに、また貰って良いの?」

「良いよ。アイの誕生日なんだから」

「シスイ君、ありがとうっ!  開けていい?」

 

 俺から袋を受け取り、アイは上目遣いで()いてくる。

 

「ああ、勿論」

 

 目を輝かせたアイは、封になっていた包装紙のシールを剥がし、袋の中身を取り出した。

 

「わぁっ! えーっと、これって、髪の毛のゴムと……道具入れ?」

「まぁ、そんな感じだな。そのピンク色のやつはポーチって言うんだ。アイが大事な物を仕舞ったりするのに便利かな? と思って」

 

 結局、悩みに悩んだ俺は、星飾りが付いたヘアゴム3種類と淡いピンク色のミニポーチを誕プレに選んだ。

 ヘアゴムは星飾りの色が各々異なっていて、勿忘草(わすれなぐさ)のような明るい青色、オーソドックスな黄色、梅の花のような淡い紅色の3種類1セットになっている。

 ポーチの方は、至る所にハートマークと星の形の刺繍が施されていて、機能面も触り心地も中々良い。

 ……小学生では資金源が小遣いしか無い上、その小遣いも月1000円だからヘアゴムとミニポーチくらいしか買えなかった。

 俺が幸燦園で生活を始めて以降の小遣い、約1年分。

 それを投入して何とか誕プレの形になる物を用意してみたが、果たして……?

 恐る恐る、手元のヘアゴムとミニポーチに集中しているアイの様子を(うかが)う。

 沈黙が俺達の間に降りて――

 

「っ……シスイ君、本当にありがとうっ!!」

「おっと」

 

 ヘアゴムとミニポーチを持ったままのアイが猛然と抱きついてきた。

 頭を俺の胸板にグリグリと押し付けてくる。

 アイにガッカリされる事態は避けれたようだ。良かったぁ……。

 

「勢い良く抱きついたりしたら怪我するぞ?」

「シスイ君は受け止めてくれるから、いいんだよ! えへへへっ……」

 

 尚も俺から離れず、自身の顔を俺の胸元に擦り付けてくるアイ。

 俺の服の胸元部分だけ、じんわりと湿り気を帯びてきている。

 彼女に何が起きているかは言うまい。

 俺は、そっとアイを抱き締め返し、彼女が落ち着くまで頭を撫で続けた。

 今後経験する出会いや出来事が、どうかアイの心を愛と幸福で満たすものであって欲しいと想いを込めて。

 

 

 

 

●●●●

 

 

 

 

 時計の針は回っていき、夜勤をしている社会人等の一部の人以外は、皆寝静まっている時間帯になった。

 幸燦園の裏手にある小高い山。

 その山の(ひら)けた(いただき)は、鬱蒼(うっそう)()(しげ)った木々に取り囲まれて、常闇(とこやみ)の世界と化していた。

 常人ならば自然と()()が走りそうなその場所で、数多(あまた)(からす)を従えた1人の少女が、白けた顔をして(たたず)んでいる。

 

「愛を知らなかった少女に、こんなに早く愛が芽生えるなんてね。予定が台無しになっちゃった」

 

 少女は、普通ならば見えていないであろう足元の小石を、つまらなさそうに蹴飛ばす。

 路傍の石の意味を体現するかの如く、小石は山の斜面をコロコロと転がり落ちていき、あっという間に闇と同化した。

 

「幸福の総量は変わらない。誰かを幸せにすることは、他の誰かを不幸にすることなんだよ? 分かっているのかな、迷い子君」

 

 木々に(さえぎ)られ僅かな月明かりすら差していないにもかかわらず、正確に幸燦園(こうさんえん)の方角を見据える少女。その瞳に何が映っているのか知る由もない。

 

「運命を(ゆが)めたからには、責任を取らないとね?」

 

 容姿に似合わぬ不気味な微笑みを浮かべた少女は、その言葉を最後に、烏達の羽音に包まれて姿を消した。

 飛び立った烏の羽根だけをその場に残して。

 

 

 

 

 







2023.12/9:補足関係以外削除しました。
2024.3/14:補足関係を削除しました。

 一先ず、これにて幼少期編の本筋? は終わりとなります。
 ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
 
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