キングボンズ・イン・オラリオ 作:マルボロ
光り輝く荘厳なる黄金樹が見下ろす麓。玉座に座さず、ザゼンを組み両手を合わせて祈りを捧げるボンズの姿があった。
「マリカはハンマーを振り上げ、しろがね人を殴った。しろがね人は黄金に変わり、粉々に砕かれて死んだ」
いや、ただのボンズではない。この玉座の間に一人座す事を許されるほどの権力者。アーチボンズやエンシェントボンズよりも高位の存在、ブッダに最も近づいた存在、律の担い手にして狭間の地の王、すなわちキングボンズだ。
「ある日、マリカはしろがね人から三本の矢を奪い取り、まとめて全てへし折った。怒ったラダゴンは英雄的殴打持って全てを消しとばしてしまい、しろがね人は銀色の涙を流した」
キングボンズは調香師の服を纏い、頭にはグレーター級サムライのユラに乗り移っていた悪霊から剥ぎ取った鉄笠を被っている。このスタイルは彼の故郷である葦の地のハイボンズの布衣に似ており、孤独に祈りを捧げる精神的支柱の一部だ。
「ゴッドフレイは祝福を失った時に失意の底に落ちた。マリカは無気力となったゴッドフレイの肩に優しく手を置いて微笑み、その鳩尾にパンチを三回叩き込んで狭間の地より追放した」
センポーテンプルで修行する一介のレッサーボンズでしかなかった彼がゼンを極めるべく狭間の地にて王を目指すと言う過酷なボンズクエストを任ぜられ、幾年月。過酷な闘いを勝ち抜き、幾つもの出会い、幾つもの律の発見の末、彼は王となった。
しかし、彼はどの律も掲げることなく壊れかけの世界を継続することに決めた。彼にはどの律も真理足り得ない、どの律を掲げようと救えない者たちが出てしまう。それすなわちゼンの極地たるサトリに到達するには届かない。
「ある日マリカは石打ちにされる女たちの盾となった。石を投げた男の胸ぐらを掴み、右の頬を殴られたら左の頬にチョップと言い、男の顔の左半分をケジメした」
故に彼は王となった今でも玉座に座することなく、黄金樹へ祈祷を捧げている。全ては世の誰もが救われる律を見出す、サトリへと至るために。
「「イヤーッ!」」
キングボンズのネンブツだけがあった玉座の間に突如カラテシャウトが響いた! そして彼に向けて背後の上空から赤黒い光の刃が放たれる。アブナイ!
「イヤーッ!」
ゴウランガ! キングボンズは座ったままの姿勢で大ジャンプして刃を回避! そのまま後ろに向けて回転しつつ黄金の光て出来たヒカリ・スリケンを二枚襲撃者に向けて投擲!
「「イヤーッ」」
襲撃者二人はヒカリ・スリケンを連続バク転で回避! キングボンズがどのような攻撃をしてきても対処できる距離まで離れて彼を見据える。
見据える? いや、二人には目がない。それどころか青白いヴェールの下は顔がない虚ろだ! コワイ!
「ドーモ、シャドウナイフです」
「ドーモ、ブラックダガーです」
襲撃者二人はアフリカ投げナイフめいた神聖なニンジャダガーを背中の後ろまで下げ、片手を立てアイサツをした。ナムサン! あからさまにニンジャなのだ!
シャドウナイフとブラックダガーは黒き刃・ニンジャクランに所属するグレーター級ニンジャだ。黒き刃・ニンジャクランは陰謀の夜に神人ゴッドウィンを暗殺した恐るべきニンジャ組織だ。
「ドーモ、ダイバンです」
キングボンズ、ダイバンはニンジャの作法に合わせてアイサツをした。実際のところ彼はニンジャではない。しかし「合わせると相手は嬉しくなる」という平安時代の剣士にして哲人であるミヤモト・マサシのコトワザに則ったのだ。対話のために。
「シャドウナイフ=サン、ブラックダガー=サン。貴女達にはもはや戦う理由はないはず。互いにカラテを納め、共にゼンの道を探求するというわけには行かないのでしょうか?」
ダイバンは優しげな声で二人のニンジャに問う。元来彼は聖職者、まず言葉を交わすことで悔い改めてもらうのが本分だ。
「玉座の簒奪者め。貴様の戯言など耳に入らぬぞ」
「オカクゴ!」
しかし殺気立つ二人のニンジャはこれを拒否。刃を構え直して突撃してくる! 狭間の地で言葉など不用、己が主張を押し通すために刃とカラテがぶつかり合うのはチャメシ・インシデントだ。
「仕方がありません。ナムアミダ・マリカ=サン」
ダイバンが光り輝く聖印を掲げると彼は黄金の光に照らされた。そしてその全身に縄のような血管が浮き出る。そして彼の手を見よ。いつの間にか凶悪なスパイクセスタスが装着されていた。宗教戒律上、刃物を武器にできないバトルボンズ達はボーやカラテなどの人道的な殺人武術を身につける。セスタスはダイバンのカラテを補助するためのものだ。
「「イヤー!」」「センポー! イヤーッ!」
三者のカラテがぶつかり合う!
「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」
ゴウランガ! なんたる神話級カラテの応酬か! シャドウナイフとブラックダガーのカラテは骨などないように全身をしならせてアフリカ投げナイフめいた神聖なニンジャダガーに渾身の力を乗せる、ヘビ・ニンジャクランの流れを汲む強力にして対処何度の高いワザマエ。対するダイバンは所作の一つ一つにネンブツが組み込まれたセンポーテンプルカラテ。両者のヤバイ級まで練り上げられた両者のカラテは空気をかき乱し、竜巻すら発生させているではないか!
「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イ、イヤー!」」「イヤーッ!」
一見するとこのイクサはゴジュッポ・ヒャッポ。しかし読者の皆様の中にニンジャ観察眼を持つ方がいれば見えるであろう。ダイバンのカラテが二人のニンジャのカラテを押し返しつつあることに!
「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イヤー!」」「イヤーッ!」「「イ、イヤー!」」「センポー! イヤーッ!」「「ンアーッ!」」
タツジン! ダイバンは一瞬の隙を突いてシャドウナイフとブラックダガーを同時に蹴り飛ばした! 二人はボロ雑巾めいて地面に叩きつけられるも、その勢いのまま戦闘体勢を整える。
「おやめなさい。このようなイクサに何の価値があると言うのです。マリカ=サンも泣いておられます」
ダイバンが空を見上げる。すると無数の黄金樹の葉が風に揺られてヒラヒラと舞い落ちてきた。彼の言う通りマリカが、黄金樹が嘆き涙を流しているかのようだ。
「ダマラッシェーッ! 命に代えてでも貴様を殺す!」
「オカクゴ!」
シャドウナイフとブラックダガーは尚も立ち向かってくる。そして、おお、見よ。彼女達のアフリカ投げナイフめいた神聖なニンジャダガーが赤黒い光を帯びているではないか! これこそ陰謀の夜の直前、恐るべきケモノニンジャより盗み出され、ゴッドウィンを殺害した運命の死である!
「「イィィィイイイイッ!!! ヤァァァアアアアッ!!!」」
決断的なカラテシャウトと共に二人のニンジャが飛び上がる! 確実にダイバンを、キングボンズを倒すために神をも殺す力を直接突き立てんと足掻いているのだ。キヨミズ!
「バカッ!」
アフリカ投げナイフめいた神聖なニンジャダガーが突き立てられる寸前のコンマ1秒の瞬間。ダイバンの体から黄金の衝撃波が爆発的に広がりシャドウナイフとブラックダガーを吹き飛ばした! これぞレジェンド級祈祷である黄金の怒りだ!
「「ンンアアァァァアアアアッ!?!?」」
運命の死はかき消され、二人のニンジャの全身の骨が粉々に砕ける! そして地面にベシャリと叩きつけられた。
「「ンアッ……ンンッ……アアッ」」
さながら神話に記されし囲まれて棒で殴られたイカのような、無残な有様となったニンジャ二人。その命はもはやロウソク・ビフォア・ザ・ウィンド。もはや五分と保つまい。
「カイシャクし、貴女達の魂が安らかになれるよう、ネンブツを唱えましょう」
ダイバンは手を合わせた状態でシャドウナイフに歩み寄る。慈悲深きチョークスリーパーで首をへし折るのだ。
「バ、バカハドッチダー……」
全身の骨が砕け、肺や内臓に刺さっていても尚シャドウナイフはダイバンに罵倒を吐きつける。ただの負け惜しみか? その答えは、否だ。突如ダイバンの足元がグラグラと揺れ始めた。
「こ、これは……」
ダイバンが空を見上げる。すると、おお、ブッダ・アンド・マリカ! 敬虔なる黄金樹信徒は目を背けていただきたい。黄金樹が、永遠のはずである黄金樹が崩れ始めているではないか! さながらニンジャがチョップで破壊したというバベルの塔のように!
「思い上がった、ンアッ……愚かな簒奪者ッ……貴様は、ンッ、何もかも、遅すぎたのだ、アンッ……!」
シャドウナイフが最後の力を込めて膝立ちになり、黄金樹を見上げる。彼女の言う通りダイバンは遅すぎたのだ。孤独なる幾星霜もの祈祷は意味をなさず、キングボンズは新たなる律を見出すこともできず、黄金樹が、狭間の地が、壊れかけていた世界が、その終わりを迎えようとしていた。
「私は……」
ダイバンの声から慈しみ、勇ましさは消えた。ただそこにあったのは自責の念、そして深い絶望だけだった。
「先に……アンッ……ジゴクで、ンアッ……待って、ンッ……いるぞ……」
「オ、カ、ク、ゴ……」
「「サヨナラ!」」
シャドウナイフとブラックダガーは爆発四散! しかしイクサの後に決まったように待っているはずの静寂は訪れない。世界が崩壊する轟音、無数の悲鳴、それらが混ざった絶望が絶えず聞こえてくる。
「……………………………………………………………………………………」
しばし呆然とした後、ダイバンはその場でザゼンを組んだ。そして両手を合わせる。最早、彼が責任を果たす機会は永遠に失われてしまった。できるのはただ、声もなく祈ることだけだった。
世界が壊れ、原初の坩堝へと帰っていく。王も、兵も、貴族も、貧民も、獣も、亜人も、混種も、黄金も、赤も、水も、空気も、空間も、時間も、光も、闇も、全てが鋳溶かされていく。