転生近界民のアカデミア『リメイク』   作:暁月鈴

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今回は爆発シーンが多くなりました。


第10話「トーナメント②」

 

 雄英体育祭最終種目、トーナメントの一回戦第五試合。この試合には、今体育祭において最も注目を集めているだろう普通科の少年、空閑遊真が出場するということもあって、観客のテンションは今まで以上に高揚していた。

 

 しかし、試合が終わってみれば。先ほどまでのテンションはどこに行ったのか。

 

 瞬殺と、そう表現するのに相応しい試合内容を前に。観客は言葉を失い、会場はシンと静まり返っていた。

 

 試合がほんの数秒で終わること自体は、珍しくない。実際に今回のトーナメントにおいても、第二試合(轟 VS 瀬呂)第三試合(上鳴 VS 塩崎)はものの数秒で試合が終了した。しかし、今回の試合に限っては、今までの試合とは次元が違いすぎる。

 

 なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……な、なあ。誰か見えたか? あいつの動き」

 

 観客の誰かが震える声で問いかけるが、答える物は誰もいない。いや、正確には答えられない。なぜなら、会場にいる人のほとんどは遊真の動きを視認できなかったのだから。

 

 芦戸に何もさせることなく、過去最速で勝利を捥ぎ取った遊真に対して。観客からは称賛の声ではなく、驚愕混じりのざわめきが響き渡る。そのざわめきは瞬く間に会場全体に伝播していき、場はどんよりとした空気に包まれる。

 

 そんなどんよりとした空気を払拭するかのように、プレゼントマイクは朗らかな声を上げた。

 

『え、えーと、とりあえず第五試合は終わったし、切り替えて次行ってみようか!! 始めるぜ第六試合!! 対戦するのはこの二人だ!!』

 

 アナウンスと共に常闇と八百万の二人がステージに上がると、会場からは歓声が響き渡る。だが、先の試合の衝撃が抜けていないのか、その歓声はどこかぎこちない。入場した二人もその空気を肌で感じており、どこかソワソワとしている。

 

 そんな空気の中で、二人の試合は行われた。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 おれが観戦席に戻った時には、既に第七試合が始まっていた。

 

(ゆっくりしすぎたかな……)

 

 次の対戦相手が出る第六試合を見ておきたかったおれは、その試合を見れなかったことに軽くため息をつきつつ、ステージの方に視線を向ける。

 

「「おぉぉぉぉ!!!」」

 

 そこでは、第七試合の出場者であるキリシマとテツテツが雄たけびを上げながら、激しい攻防を続けていた。

 

 互いの拳がぶつかり合う度に金属音が鳴り響き、周囲に火花をまき散らす。両者共に殴られながらも一歩も引かずに攻撃を続行。真正面からぶつかり合う二人の姿に観客のボルテージはだんだんと盛り上がっていき、周囲からは歓声が響き渡る。

 

 一進一退。互角の戦いを繰り広げた二人の試合は、相打ちによるダブルノックダウンで引き分けという形で終了した。担架に乗せられて運ばれる二人に、観客からは惜しみない拍手が送られる。

 

 二人の戦いによって傷ついたステージの修繕が終わると、一回戦最後の試合、バクゴウとウララカの戦いが始まった。

 

 開幕と同時に速攻を仕掛けたウララカに対して、容赦なく爆破を当てに行くバクゴウ。途中でウララカは浮かせた上着を囮にして背後から攻めようとしたが、逆に返り討ちにあってしまう。

 

 その後は一方的な試合展開が続いた。ウララカは低い姿勢で特攻を仕掛け、それをバクゴウが爆破で吹き飛ばす。その様子は、先の変わり身が通じなかったウララカがヤケを起こしているようにも見える。それが複数回続いたところで、観客から「いたぶってないでさっさと場外に出せ」や「女の子をいじめるな」といったバクゴウに対する罵声の声、ブーイングが聞こえてきた。

 

(……ガチバトルなんだから、そういうもんだろうに)

 

 今の様子は不良が女子をいたぶっているように見えなくもない。でも、二人とも勝つために戦った結果こうなっているのだから、文句を言うのはお門違いだ。この戦いに水を差すのは、二人に対する侮辱に近い。……というか、ブーイングを起こしたやつらはウララカの策に気付いていないのか? 上から見ているのなら普通気付くだろ。

 

 呆れていると、実況席にいるイレイザーヘッドがブーイングをしていた人達に向けて、怒気を含んだ声で叫んだ。

 

『今遊んでるつったのプロか? 何年目だ! 素面で言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ! 帰って転職サイトでも見てろ!! ここまで上がって来た相手の力を認めてるから警戒してんだろ! 本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねぇんだろうが!!』

 

 その怒りの声に会場は一度静まり返る。その直後に、試合は動きだした。

 

「ありがとう爆豪くん……。油断しないでくれて」

 

 何度も爆破を受け続けたことでボロボロになったウララカが両手の指をピタリと合わせると、ステージの上に浮いていた沢山の瓦礫が、バクゴウを目掛けて流星群の如く降り注いだ。

 

「勝ぁぁぁぁぁぁぁつ!!!」

 

 大きな声でそう叫びながら、ウララカは走り出す。ただ勝利だけを求めて、降り注ぐ瓦礫と共にバクゴウへと突撃する。バクゴウは右の掌を上に向け、腕がブレないように右手首を左手でしっかりと抑えると――――

 

BOOOOOOOOM!!!

 

 今までとは比にならない威力をした爆破が、掌から放たれた。その威力は凄まじく、上から降り注ぐ瓦礫だけではなく、ウララカ本人も吹き飛ばすほど。

 

『会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々――正面突破!!』

 

 秘策を破られたウララカはショックを隠し切れずに顔色を変える。それでもなお抗おうとバクゴウに向けて駆け出し、バクゴウが迎え撃とうと構えを取り――――その途中でウララカは、崩れるようにその場に倒れた。

 

「麗日さん、行動不能! 二回戦進出は――爆豪くん!!」

 

 倒れたままでありながらも動こうとするウララカにミッドナイトは近寄って容体を確認する。試合続行不可能と判断したのか、バクゴウの勝ちだと高らかに告げる。見ごたえのある試合を見せてくれた二人に、おれは素直に拍手を送った。

 

 この後は、キリシマとテツテツによる二回戦進出者を決めるための腕相撲が行われた。これもまた互角の押し合いの末にキリシマが勝利し、二回戦進出者が出揃った。

 

『さあ、気を取り直して二回戦目! 最初の試合はこの二人だぁー!!』

 

 一回戦が終わった後に設けられた15分間の休憩はあっという間に終わり、二回戦が始まった。第一試合の対戦カードはミドリヤVSトドロキ。この体育祭で好成績を残している二人がぶつかり合うだけあって、会場は盛り上がりを見せる。

 ステージに上がった二人はお互いに思う所があるのか、険しい顔で互いを見つめる。

 

『両雄並び立ち、今! スタァァァァート!!!』

 

 開始と同時に二人は『個性』を発動させた。トドロキはミドリヤを飲み込まんとばかりに氷結攻撃を仕掛け、ミドリヤは弾いた指を犠牲にして放つ衝撃波で、迫りくる氷塊を相殺する。攻撃を防がれたトドロキはそれでもなお氷塊を出し続け、ミドリヤは先ほど怪我した指とは違う指を弾くことでそれを防ぐ。

 

 その光景が何度も繰り返され、ミドリヤは全ての指どころか、左腕までも壊してしまう。攻撃手段を失ったミドリヤにトドメを刺そうとトドロキは氷塊を放つ。

 

 迫りくる氷塊に対して。迎撃手段を失ったミドリヤが何も出来ずに氷結に飲み込まれる――――そう思ったが、そんなことにはならなかった。なぜなら――――

 

バキィィィィィ!!!

 

「……マジか」

 

 なんとミドリヤは、壊れた指を再び弾くことで氷塊を迎え撃ったのだ。自ら激痛に飛び込むような行動を前に、おれは思わず息を飲む。氷塊を防いだ直後に、ミドリヤはトドロキに向けて大きな声で叫んだ。

 

「全力で、かかって来い!!!」

 

 その言葉を皮切りに行われた、二人の近接格闘戦。氷結を出し続けた影響か、動きが鈍くなっているトドロキと大怪我を負ったミドリヤの格闘戦はミドリヤが有利に進めていき、ミドリヤがトドロキの腹に拳を決めて、ステージの端へと吹き飛ばした。

 このままミドリヤが決めてしまうのかと、そう思った時だった。

 

「君の、力じゃないか!!!」

 

 もう一度、今度はトドロキに呼びかけるようにミドリヤが叫んだ、その直後。ゴゥという音と共にトドロキの左側から炎が噴き出した。……あいつ、炎も出せたのか。

 

 トドロキが炎を出したことに驚いていると、顔から炎を出している大男が観客席から身を乗り出して叫んだ。

 

「焦凍ォオオオ!!! やっと己を受け入れたか!! そうだ!! 良いぞ!! ここからがお前の始まり!! 俺の血をもって俺を超えて行き……俺の野望をお前が果たせ!!!」

 

 会場の雰囲気をぶち壊すような大きな声に会場はシンと静まり返る。しかし、そんな大男の声を気にすることなく、二人はぶつかり合った。拳を振り上げながら飛び掛かるミドリヤに対して、炎と氷を同時に放つトドロキ。二人は同時にぶつかり合い、そして――――

 

 今まで以上の大爆発が、ステージ全体を包み込んだ。

 

(火力ヤバいな、今の……)

 

 アマトリチカの炸裂弾(メテオラ)……通称チカオラを彷彿とさせるその威力に思わず呆然としていると、ステージを覆い隠していた土煙が晴れた。目に映るのは場外のもたれ掛かるミドリヤと、背後に展開した氷を支えに、半壊したステージの中央に立つトドロキの姿。

 

「……み、緑谷君場外。三回戦進出は、轟君――――!」

 

 静まり返る会場にミッドナイトの声が響くと、会場は敗退したミドリヤに対する評価の声で溢れかえった。ステージの修繕が終わり、第二試合が始まる直前。おれは控え室へと足を運んだ。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

『さあさあ始まるぜ! 雄英体育祭二回戦、第三試合!! 普通科、空閑遊真! VS ヒーロー科、常闇踏影!』

 

 その実況の声に会場は盛り上がることはなく。今度こそ見逃すまいと、観客はただ真剣にステージを見つめる。そんな中で、遊真は一回戦の時と同じような構えを取り、常闇は腰を低く落として、鋭い瞳で遊真を見つめる。

 

『第三試合!! レディ……スタァァァァート!!』

 

 瞬間、常闇の身体から音もなく飛び出した黒影(ダークシャドウ)がわき目も降らずに遊真へと襲い掛かる。

 

 常闇は事前に、自身のクラスメイトから遊真がどんな戦い方をしてたのかを聞いて回った。その結果分かったことは、彼は自分より数段上の実力者だということ。先に動かれたら、間違いなく負けてしまうこと。

 

 だからこそ、常闇は予め黒影に「試合が始まったら、直ぐに空閑に攻撃するように」と指示を出しておいた。常闇の作戦は『速攻』。絶え間なく攻撃を仕掛け続け、遊真に戦いの主導権を握らせないようにする。これ以外に、方法は思いつかなかった。

 

 あっという間に遊真との間にあった距離を詰めた黒影の爪が遊真を切り裂かんとばかりに襲い掛かる。しかし、その攻撃は換装を終えた遊真がほんの少し身体をずらすことであっさりと避けられ、返しの刃が黒影を切り裂いた。攻撃を受けた黒影は苦痛の声を漏らす。

 

「怯むな、黒影! このまま攻撃を続けろ!!」

「~っ!! アイヨ!!」

 

 攻撃こそは決まらなかったものの、作戦自体は成功していると。そう感じた常闇は再び黒影を遊真へと嗾ける。その声に反応した黒影は再び遊真へと突進して爪を振るう。遊真は迫りくる爪の起動に合わせてスコーピオンを振るうことで迎え撃ち――――

 

 ガキン!! という音と共に爪と刃がぶつかり合い、鍔競り合いが発生した。遊真の握るスコーピオンを押し返そうと、黒影が一層力を込めたその瞬間に、遊真は勢いよく後方へとスコーピオンを引いた。

 

 背中からステージに倒れこむ遊真に対して、支えを失った黒影はそのまま前につんのめる。つんのめった黒影の背中が上空を向いたタイミングで遊真はグラスホッパーを自身と黒影の間に展開。黒影がグラスホッパーに触れた、次の瞬間。

 

『What!?』

 

「……は!?」

 

 黒影は勢いよく上空に打ち上げられた。わけが分からないまま吹き飛ばされた黒影を前に、プレゼントマイクと常闇は間の抜けた声を出す。

 

 会場にいる誰もが、突然打ち上げられた黒影へと視線を向ける。そんな中、くるりと、後転の要領で体制を立て直した遊真は地面を蹴り、常闇との間にあった距離を一瞬で詰める。そして、常闇のがら空きの顎を目掛けてスコーピオンを振るい、真下から振るわれた刃は常闇の意識を容易く刈り取った。

 

「常闇くん、行動不能……。空閑くんの勝ち!!」

 

 ミッドナイトによる勝利宣言も経て、第三試合は終了した。会場は突然吹き飛んだ黒影に対する疑問の声に包まれる。この時、同じような疑問を抱いていたプレゼントマイクが質問すると、イレイザーヘッドはその問いに、呆れ混じりに答えた。

 

『おいおい、またアイツ勝ちやがったぞ!! つーか、突然黒影が吹き飛んだよな!? アレ、何が起きたのか分かるか? イレイザー』

 

『遊真が予選の時に何度も使っていた光るジャンプ台。アイツはそれを鍔競り合いの後の倒れたタイミングで黒影に当てることで吹き飛ばしたんだ。鍔競り合いで押し負けたのも、わざとだろうな』

 

『マジかよ……あの一瞬でそんなことしてたってのか!? 戦い慣れしすぎだろ!?』

 

 何でそんな奴が普通科にいるんだよという、プレゼントマイクの突っ込みが会場全体に響き渡る。会場にいる誰もが遊真へと視線を向ける中。担架に乗せられて搬送される常闇を眺めていた遊真は、周囲の視線を気にすることなくステージを後にした。

 

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