転生近界民のアカデミア『リメイク』   作:暁月鈴

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第12話「決勝」

 

「マジ、かよ……」

「嘘だろ…… あの爆豪が……?」

 

 ステージの端で頭から血を流したまま倒れ伏し、ピクリとも動かない爆豪の姿に。爆豪と同じクラスであるヒーロー科、1年A組の面々は驚いていた。その中でも、幼馴染である緑谷の驚愕っぷりは凄まじく、顎が外れそうなほどに口を大きく開け、目玉が飛び出そうなほどに目を見開いている。

 

 彼らが驚くのも無理はない。なぜなら爆豪は轟と並んでクラス2トップの内の一人。その戦闘能力はクラスの中でも頭一つ抜けており、『センスの塊』と評されるほどに優れている。そんな彼が一度も遊真に攻撃を当てきれず、逆にいいようにボコボコにされたのだから。

 

 会場がシンと静まり返る中、全身がボロボロになった爆豪が搬送ロボによって運ばれるのを確認した緑谷は爆豪が心配になり、安否を確認するために保健室へと走り出す。それを見た麗日や切島、蛙吹に峯田といった面々も後を追うように保健室へと向かう。

 

(空閑遊真……彼は一体……)

 

 そんな彼らの脳裏には、遊真の底が見えないほどに優れた戦闘能力に対する疑問で包まれていた。

 

 

 

 一方で、当の本人は今何をしているのかと言うと――――

 

「おォ、いたいた。君が空閑遊真くんだね?」

 

「あ、ハイ。そうだけど……」

 

 エンデヴァー(No2ヒーロー)に絡まれていた。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

(この人、どっかで見たような……? どこだっけ……?)

 

 控え室へと向かう途中で突然現れ、話しかけてきた人は、おれの倍はあるであろう背丈を持つ筋骨隆々の大男。全身を威圧するかのようにオレンジ色の炎で包みつつも作り笑いを浮かべるその姿に言葉を失っていた。

 

 目の前の人物をどこで見たのか思い出せずにモヤモヤしていると、レプリカがそいつの正体を教えてくれた。

 

『彼の名は『エンデヴァー』。No2ヒーローにして、ユーマの次の対戦相手であるトドロキショウトの父親だ』

 

 その言葉を聞いて思い出した。トーナメントの二回戦第一試合で、トドロキが炎を使った時。場の雰囲気をぶち壊すような大きな声を出した人だ。

 

 目の前の人物の正体が分かったことで、胸の支えが下りる。そのまま軽くお辞儀をして、エンデヴァーの横を通り過ぎようとしたが、その前にエンデヴァーが口を開いた。

 

「君の活躍は見せてもらった。『個性』自体は大して強くないとはいえ、それを扱う技量と発想力はどれも素晴らしい。どちらも、ウチの焦凍には足りない部分だ。それほどの力を得るためにどのような訓練をしてきたか、是非とも教えてくれないだろうか?」

 

 作り笑いを浮かべながら、まるで品定めをするかのような問いかけに、毎日鍛えただけだとぼかした回答をする。転生特典だとは流石に言えないし、一応ウソではないから大丈夫だろう。

 

 その答えを聞いたエンデヴァーはフム、とうなずくだけでこの場から動こうとはせず、じっとおれのことを鋭い三白眼で見つめてくる。その視線がいい加減にうっとおしくなったおれは、他に何かあるのかとエンデヴァーに問いかけた。

 

 しかし、問いかける際に敬語を使わなかったからだろうか。エンデヴァーの眉間に皺が寄り、視線はより鋭くなるが、直ぐにエンデヴァーは表情を直し、声を発した。

 

「なに、簡単なことだ。これから君はウチの焦凍と戦うだろう? あの愚か者は未だに左炎を使うことを迷っているようだ。だが、君ほどの実力者ともなれば使わざるを得ないだろう。とても有益な戦いを期待する。あれの為にも、君の為にもな」

 

 ――――君の為にも。

 

 エンデヴァーがそう言うのと同時に、黒いモヤが発生した。それを見たことで不快な気持ちが溢れ出し、質問したことを後悔する。

 

「要はおれに、トドロキの引き立て役になれと」

「そうは言わん。焦凍との闘いは君にとっても貴重な体験になるはずだ」

 

 おれは会話を終わらせようとエンデヴァーの言いたい事を要約すると、エンデヴァーはそれを否定した。しかし、そんなエンデヴァーからはまたも黒いモヤが発生する。

 

「おまえ……つまんないウソつくね」

 

 ため息を吐きそうになるのをどうにか堪えつつ、おれはそう口にする。するとエンデヴァーは、より鋭い視線をおれに向けてきたため、おれもエンデヴァーを睨み返す。

 

 お互いにこれ以上口を開くことはなく、沈黙がこの場を支配する。時間の流れが遅く感じられるほどに張り詰めた空気は、遠くから響いてきた『もう少しで決勝戦が始まる』というプレゼントマイクの声によって崩された。

 

 おれは試合が迫っていることを理由にこの場を離れようと、エンデヴァーの横を通ってステージの入場口へと向かうが、その途中で再びエンデヴァーは口を開く。

 

「ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。くれぐれも、みっともない試合はしないでくれたまえ」

 

 最後に投げかけられた言葉を無視しながら、おれは入場口へと足を運ぶ。その途中、エンデヴァーの姿が見えなくなった所で、おれはため息交じりに呟いた。

 

「レプリカ。あいつの言いたい事って……」

『息子の成長の為の踏み台になれということだろう。ユーマ、トドロキとの試合もバクゴウの時と同じように戦うつもりか?』

 

 トドロキがそれを望むならな。バクゴウ戦での出来事を思い浮かべながら、レプリカの質問にそう返す。

 

 『全力で来い』とバクゴウに言われた時。おれはレプリカに本気で戦ったら...黒トリガーを使用した全力戦闘をしたらどうなるかを聞いた。帰ってきた答えは『バクゴウが一瞬でミンチになる』という凄惨なもの。

 

 だからこそ、おれはどうするべきかを真剣に考えた。そして、出た答えはノーマルトリガーでの全力戦闘。アシド戦・トコヤミ戦の時のように、出来るだけ相手に怪我をさせないように戦うのを辞め、殺さないように注意しつつも徹底的に叩きのめした。

 

 様子見しつつ、本気を要求されたら思い切りやる……これでいいかな。

 

 最後にトドロキとどう戦うかを決め、おれはステージへと飛び込んだ。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

『雄英高校体育祭もいよいよラストバトル! 一年の頂点が、この一戦で決まる!!』

 

 高いテンションと共にプレゼントマイクが二人の名前を叫ぶと、名前を呼ばれた二人がステージに上がる。

 

 No2ヒーロー『エンデヴァー』の息子と、そんな彼を含めたヒーロー科を圧倒し続けた普通科。一年生とは思えないほどの実力を有する二人が激突するだけあって、会場は今までにない盛り上がりを見せる。

 

『そこから見ろ! 向こうから見ろ! 体育祭最後の試合が今……』

 

 思い思いの構えを取り、開始の合図を待つ二人。観客は勿論、生徒や教師達の視線は全て、静寂に包まれるステージへと集まる。

 

『レディー……スタァァァァート!!』

 

ガギギギギギギギギギィィィ!!!

 

 轟音が、開始の合図と共に静寂に包まれたステージに響き渡る。轟の放った大氷塊はあっという間に遊真の立っていた場所を飲み込み、そこに小さな氷山を作り出した。

 

『おぉーっと! 轟、開始早々にかましてきたぁ!! まさかまさかの速攻勝利か!?』

 

 プレゼントマイクの陽気な声が会場に響くが、轟はこれで終わりだとは微塵も思っていない。現に、今も警戒を解かずに己が作り出した氷塊をじっと見据えている。それはプレゼントマイクも、観客達も同じのようで、皆の視線が氷塊に集まる。

 

 

 

 しかし、遊真は一向に姿を現さない。五秒経っても、十秒経っても、一分経っても、冷え切ったステージ上にあるのは氷山とそれを見つめる轟の姿だけ。そんな光景に『もう勝負はついていたのではないか』という声が観客席のどこかから聞こえてきた。

 

 そして五分が経過し、観客達も何一つ変化しないステージに飽きてきたころ。警戒を解いた轟がミッドナイトに試合が終わったことを伝えようとした――――その時だった。

 

ゾクッ

 

 酷く嫌な予感が背筋を冷たく流れる。その予感に従い、バッと勢いよく背後を振り返ると、足元にはいつの間にか、片膝立ちの姿勢をした遊真の姿が。

 

『いつの間に!?』

 

 どっから湧いてきた!? 遅れて気づいたプレゼントマイクが思わずといった様子で席を立ちあがって叫び、観客席にいる人達もあり得ないものを見るような視線を遊真に向ける。

 

 そんな声と視線を受けながら、遊真はスコーピオンを振るう。轟の意識を落とすための刃が下から上へと切り上げられるが――――

 

「……っぶねぇ!!」

 

 間一髪、本当にギリギリの所で轟の回避が間に合った。もしかしたら、この一撃で終わっていたかもしれないという考えが頭に浮かび、冷や汗がまるで滝のように全身から溢れ出す。

 

 轟は距離を取るために地面を蹴って大きく後退。再び氷塊を嗾けるが、遊真はグラスホッパーを使って上へと飛び上がり、その攻撃を難なく回避。そのまま轟の左側へと着地する。

 

 着地と同時に地面を蹴り、遊真は轟へと接近する。対する轟は近づくなと言わんばかりに氷塊を放ちつつバックステップで後ろに下がる。それを見た遊真は何を思ったのか。ピタリとその場で足を止めるのと同時にスコーピオンを振るい、迫りくる氷塊を打ち砕く。その直後に背中に回した左手でグラスホッパーを起動。轟の背後に配置する。

 

「!?」

 

 轟の足がグラスホッパーに触れた瞬間、轟の身体は場外を目掛けて勢いよく打ち出された。突然の出来事に驚き、声も出せずにいた轟だったがすぐに意識を切り替え、地面に手を付けるのとほぼ同時に氷壁を展開する。

 

 場外目掛けて飛ぶ轟の身体はその氷壁に激突。場外にこそならなかったものの、ぶつかった衝撃で肺の空気は押し出され、受け身も取れずに地面に倒れこんだ。

 

 轟はすぐに起き上がろうとするが、低体温症となってしまった身体では思うように力が入らず、まるで生まれたての小鹿のようにプルプルと身体を震わせる。そんな轟を見た遊真が終わりにしようと足を踏み出した。

 

 先ほどまでとは打って変わって、観客のほとんどが遊真の勝ちを確信しつつある中、一人の生徒が声を上げた。

 

「負けるな、轟くん!!」

 

 頑張れー!! と立ち上がって声を上げるのは同じヒーロー科に在籍する少年、緑谷出久。そして、彼の声援を皮切りに、他のA組の生徒達も声を上げる。

 

「そうだそうだ!! 負けんな轟!!」

 

「ファイトですわ!! 轟さん!!」

 

「轟くん!! 頑張れー!!」

 

 クラスメイト達からの声援に背中を押され、轟は再び立ち上がる。そんな彼の左半身からはオレンジ色に輝く炎が溢れ出す。

 

『クラスメイトの声援を受けた轟が、本日二度目となる炎と共に立ち上がった!! こりゃあ熱い展開になってきたなオイ!!』

 

 仲間の声援を受けて立ち上がる。そんな熱い展開を前にプレゼントマイクのボルテージはかつてない勢いで上昇し、観客は炎を纏った轟がどのような戦いを見せるのかと期待を込めてステージを見つめる。

 

 ――――しかし、その戦いが実現することは無かった。

 

 

トンッ

 

「がっ」

 

 轟が突然意識を失い、崩れ落ちたのだ。そんな彼の背後には、スコーピオンを肩に担いだ遊真の姿があった。

 

 背後に回り込んだ遊真が轟の意識を落としたのだと理解したプレゼントマイクは思わず『ええ……』と声を漏らした。先ほどまでの雰囲気が台無しである。

 

 その光景の一部始終を間近で目撃したミッドナイトは何かを言いたげな表情を見せるが、それらをぐっと呑み込み、勝利宣言を行った。

 

「轟くん、行動不能……よって空閑くんの勝ち!!」

 

 その結末に、プレゼントマイクが騒ぎ出す。

 

『いやいやいやいや、こんな呆気ない結末あり!? というか空閑お前!! そこは空気読んで待ってあげろよ!! せっかく轟が炎を使ったんだからさぁ!!』

 

『何言ってんだマイク。相手が行動を起こす前に仕留めるのは合理的だろ』

 

 いやそうだけど!! と、プレゼントマイクは声を上げる。観客達も遊真の行動に理解は示しているものの、感情が追い付かずにいる。

 

 こうして、会場内に微妙な空気が流れるなか、体育祭の全ての種目が終了した。

 

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