転生近界民のアカデミア『リメイク』   作:暁月鈴

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前の作品には無かったか回です。


第2話「観光」

 

 真っ白な四角い部屋の中で。ふわふわとした白髪の少年が一人、自然体で佇んでいた。彼がその赤い瞳で見つめる先では、白く輝く粒子が集まり。その形を少しずつ変化させていく。最初は粒子の光でぼんやりとした輪郭しか見えなかったが、時間が立つごとにつれ、その姿は段々と露になる。そして現れたのは、およいたそ7~9mほどの大きさをした四足歩行の白い芋虫のような見た目をした捕獲用トリオン兵『バムスター』。

 バムスターがその姿を現した直後。また先ほどと同じように、白く輝く粒子が今度は二つに分かれてバムスターの周囲へと集まる。そこにはまた、別のトリオン兵が現れた。自動車ほどの大きさに蜘蛛のような無数の足を携え、その足の先端に鋭利なブレードを装備した戦闘用トリオン兵『モールモッド』。

 この部屋に現れた三体のトリオン兵のそれぞれに搭載された目がそこにいた少年を捉えると。最も近くにいた二体のモールモッドが地面を這うように素早く移動し、真っ先に少年へと襲い掛かった。二手に分かれたモールモッドは、少年の左右を抑え。少年を切り裂かんとばかりに足のブレードを振るう。その速度はかなりのもので、常人であれば防ぐことはおろか、視認することすら出来ないだろう。

 

 ――しかし、彼はブレードが己の体に触れる直前に。素早いバックステップで後ろに下がり、そのブレードを回避した。攻撃を外したモールモッドが再び攻撃を仕掛けようと、もう片方の足を振るう――よりも早く彼は地面を踏み込み、一気にモールモッドへと肉薄する。そんな彼の両手には、いつの間にか白く発光するブレードが、『スコーピオン』が握られていた。彼はそのままの勢いでスコーピオンを一閃。ストンと音を立てて、二体のモールモッドの口内にあるカメラアイが切り裂かれた。弱点が切り裂かれたことで、モールモッドは活動を停止し。ドサリ、と地面に崩れ落ちた。

 その直後に、残ったバムスターが少年へと襲い掛かる。しかし素早い動きで襲い掛かってきたモールモッドとは違い、その動きは鈍く、常人でも十分視認できるほど。それもそのはず。バムスターは捕獲用のトリオン兵。捕獲用の名が示すように、その大きな口で人間を飲み込んで捕獲することを目的に制作されている。そのため、攻撃手段はその巨体を生かした体当たりしかなく、その戦闘能力はモールモッドより低い。そのモールモッドを瞬殺できる彼にとってバムスターは――――

 

 ――――単なる「的」でしかない。

 

 地面を蹴って大きく跳躍し、バムスターへと肉薄した彼は再びスコーピオンを振るう。

 その一撃はバムスターの核をあっさりと両断し、破壊。核を失ったバムスターは先ほどのモールモッドと同様にその活動を停止し、こちらは轟音と共に地面に崩れ落ちた。

 

 戦闘開始から、僅か数秒。

 この短時間で、彼はこの場に出現したトリオン兵三体を殲滅させた――――。

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 凄いな。この身体のスペックは

 

 切られた個所から少なくないトリオンを流し、その体を白く輝く粒子へと変化させながら煙のように消えていくトリオン兵。その姿を眺めながらおれは心の中でそう呟いた。

 転生特典である『空閑遊真の容姿と能力』。この能力に戦闘能力も入っているのかを確かめようと、地下にあったトレーニングルームでトリオン兵を相手に軽く戦ってみた。その結果、しっかりと戦闘能力も入っていることが分かった。

 トリオン兵を前にしても、恐怖心は一切無く。どう動けば攻撃を避けれるのか。どうやって攻撃するか。そして、どうすればこいつらを破壊できるのか。それらが自然と頭に浮かぶ。手に取るように分かる。

 そしておれはその思考に、その感覚のままに戦った。その結果、僅か数秒でトリオン兵を破壊出来た。流石は空閑遊真(の、身体)だ。

 

 さて、確かめたいことは確認出来たし……これからどうしようか。

 おれはトリガーを解除しつつトレーニングルームからでて、今後の予定を考える。

 

「ここには来たばかりだし、まずは観光かな。(ヴィラン)……はともかく、ヒーローは見ておきたいよな」

 

 話を聞くのと、実際に見るのとではだいぶ違うし。

 

 ヒーローのいる場所に行く。ということは(ヴィラン)のいる可能性の高い場所に行くということ。かなり危険な行為になるが、遠くから見るだけなら大丈夫だろう。

 

 なにせ、今のおれの身体は、近界(ネイバーフッド)を渡り歩いた傭兵、空閑遊真だ。さらにはレプリカという優秀なサポーターもいる。仮に(ヴィラン)と遭遇して戦闘になったとしても、余程の相手でもない限りは負けることは無いはずだ。

 

 いいよな? と、おれは先ほどまでトレーニングルームの操作を行っていたレプリカへと問いかける。

 その問いかけに対して、レプリカはすぐに返答した。

 ただ一言の、お決まりの言葉を。

 

『それを決めるのは私ではない。ユーマ自身だ』

 

 その返答を肯定と受け取ったおれは、玄関のドアをガチャリと開けて。

 外の(ヒロアカの)世界へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 たくさんの人たちが横行し、活気に満ち溢れる市街地。

 ここは今、仕事に勤しむ者。友達と楽しく談笑する者。そして、買い物を楽しむ者等、たくさんの人達で賑わっていた。

 そこに彼らは、悪意は突然現れた。

 

「どけどけどけぇ!!(ヴィラン)様のお通りだぁ!!!」

 

 銀行強盗を行った(ヴィラン)達が市街地で暴れ始めた。先の言葉を叫び、人々が悲鳴を上げつつ避けたことでできた道を軽トラックを使って通り抜ける。そのままの勢いで逃げ切ろうと、軽トラックのアクセルを踏み込んだ……その瞬間

 突然横から現れた樹木が、まるで生き物のように動き、トラックに絡みつく。そして、トラックの動きを完全に封じ込めた。

 

「クソが、もうヒーローが来たのかよ」

 

 悪態をつきながらも動かせなくなったトラックの窓を割り、(ヴィラン)は一人、また一人とそこから飛び降りて戦闘態勢に入る。そんな彼らの前にはトラックを抑え込んだ、一人のヒーローが現れる。

 

「銀行強盗に街中の爆走……まさに邪悪の権化よ!!」

 

 そう言いながら構えを取り、戦闘態勢に入るヒーロー。彼の登場に、いつの間にか見物に来ていた大勢の通行人が、中でも女性陣が声を上げた。

 

「「「キャー!! がんばれ、カムイー!!!」」」

 

その声援と共に樹木のような身体をしたヒーロー、シンリンカムイは(ヴィラン)目掛けて走り出す。(ヴィラン)も己の『個性』を使って抵抗する。

 しかし、経験か、才能か。はたまたその両方に差があるのか、次第に(ヴィラン)達は圧され始めた。シンリンカムイが戦いを有利に進めていく中。また一人、別のヒーローが現場に現れた。

 

「おっしゃあ!! デステゴロ 参上!!」

 

 ポージングと共に新たに現れたのは2mほどの背丈に、筋骨隆々の身体。青いジャケットのような物を羽織り、頭と手首、そして腰には工事現場とかでよく見かける黄色と黒のシマシマ模様がついた鉄製のものを装備している。新たなヒーローの登場に、また辺りは歓声で包まれた。

 シンリンカムイ一人にさえ圧されていた(ヴィラン)にとって、この状況は絶望的だ。現に今、(ヴィラン)はまともな反撃すら出来ず、一方的にヒーローにやられていた。この状況を打開しようと(ヴィラン)の一人はこの戦いを見る野次馬の一人を人質にしようと動き出した。しかし、それをヒーローが許すはずも無く。あっさりとデステゴロに腕を摑まれて。軽々と仲間の元まで投げ飛ばされた。

 

 そうこうしていくうちに(ヴィラン)の体力が付きかけて、一塊になったその時。二人のヒーローはこの戦いを終わらせるべくそれぞれ構えを取る。

 

「先手必縛……ウルシ鎖牢!!」

 

 先に行動したのはシンリンカムイ。己の必殺技の名を叫ぶと同時、彼の腕から多数の枝が飛び出した。その枝は物凄い勢いで伸びていき。(ヴィラン)を拘束しようと襲い掛かる。

 先ほど軽トラックの動きを見事に止めてみせたこの必殺技を。息も上がり、体力が尽きかけてきた(ヴィラン)がよけられるはずもなく。一人、二人、そして三人とあっという間に拘束され。動けなくなった(ヴィラン)にデステゴロが己の拳をねじ込み、彼らの意識を刈り取っていく。そうしてヒーローの勝利が決まった、その瞬間

 

 わぁぁぁぁぁ!!と辺りは歓喜の声に包まれる。その歓声に答えるように二人のヒーローは周囲にひらひらと笑顔で手を振った。そしてその場にパトカーのサイレンと共に警察が現れ、先ほどシンリンカムイと戦っていた(ヴィラン)に手錠をかけて連行していく。一方で、(ヴィラン)を倒し終えた後も二人はこの場にとどまり、この現場に居合わせた(集まった)人達と写真を撮ったり握手をしたりとファンサービスをこなしてく。数分後、ファンサを終えた二人がこの場を立ち去ると、先ほどまで群がっていた人たちもほくほくとした笑顔でこの場から立ち去って行った――――。

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 おれはその事件をレプリカと共に少し離れた橋の上から眺めていた。

 

「なんというか……ヒーローショーを見ているみたいだな」

 

 それは、おれがこの戦闘を見た感想だった。

 ヒーローと(ヴィラン)が交戦している危険な現場から、近くに居合わせた人たちは逃げる様子を一切見せず。逆に近寄り、スマホやカメラを手に取って写真や動画を取ろうとする始末。そのせいで人質取られそうになってたし、この世界の人たちには危機感が足りてないように感じる。やっぱりヒーローが身近にいるからだろうか。

 

『おそらくそうだろう。この世界の人々は、「何かあっても必ずヒーローが助けてくれる」と、そう思っているようだ』

 

 やっぱりそうか、とおれは思わずそう呟いた。この人たちの感覚は、ワートリの世界と酷似している。

 あっちもボーダーという組織が近界民(ネイバー)から街を守っているからこそ、その街に住む人たちがのんびりできるわけだし。ただ、ワートリの世界では、近界民(ネイバー)とボーダーが戦う現場に近寄ろうとする人や、危険区域に侵入する人はほとんどいなかった気がする(あいつらは例外だが)。

 状況は似ているのに人々の危機感にここまで差が出るのは、敵の脅威を正しく認識してないからだろう。ワートリでは、大規模侵攻による被害があったからこそ、近界民(ネイバー)がいかに危険な存在かを知っている。しかし、この世界の人たちは(ヴィラン)がいかに危険な存在かを正しく認識していないように感じる。(ヴィラン)による大規模な被害が今までなかったのか。はたまたそれを忘れてしまったのか。…………まあ、どちらにせよ

 

「この戦いを見れたのはよかったな」

 

 自身の目で見て、この世界がどんな世界かを。自分の認識とどのくらいずれているかを確認できた。

 そうしておれは、くるりと踵をかえしこの場を後にして。雄英高校入学までの時間をどう過ごすかを考えながら帰路をたどった。

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