早朝、午前六時三十分。
すでに朝日は昇っており。換気のために開けた窓から晴れやかな春の日差しが差し込み、暖かい風が髪を揺らす。
転生してから二週間が経ち、雄英高校入学式を迎えたこの日。毎晩レプリカと共に行っていた戦闘の復習を早めに切り上げて、白いシャツと黒っぽいズボンに灰色のブレザーという雄英の制服に着替えたおれは、レプリカと共に学校に行く準備を進めていた。
「えっと、まずは財布だろ。それから筆記用具と、トリガーと、あとは……他に必要なものあったか?」
『いや、今日の予定は入学式とガイダンスだけだ。必要なものはそれくらいだろう』
今日必要なもの。または必要になりそうなものを一つ一つカバンに詰め込んでいく。
すべての荷物をカバンに詰めたあと、そのカバンを肩にかけ、玄関へと足を運ぶ。そこで靴を履いて立ち上がり、心を落ち着かせるために軽く深呼吸をする。まだ不安は残るが、レプリカもいることだしきっと大丈夫だろう。
「…………よし」
家の留守番を
電車に揺られること一時間。そして、降りた駅から三十分ほど歩いたところで、ようやく雄英高校の校門が見えてきた。
「おおー……。やっぱ写真で見たときより大きく感じるな。この学校」
ビルを思わせるガラス張りの校舎を見上げながら、おれはぼそりと呟く。地面に『H』の文字を書いたような形をした校舎は、プロヒーローを育成するための様々な施設が配備されているだけあって、周りにある他の建物が霞んで見えるほどに大きい。ここまで大きな建物をおれは今まで見たことがない。
正門をくぐると、真っ先にクラス分けを記した掲示板が目に映る。他にも、校内の地図や矢印が印刷された張り紙が至る所に掲示されている。やはり、迷子になる新入生が多いのだろう。
自分がどこのクラスなのかを掲示板で確認した後、校内に掲示された張り紙を見ながらその教室へと足を運ぶ。数十分ほど歩いて、ようやく教室が見えてきた。
「これはまた、デカい扉だな」
『規格外な肉体を有する"異形型"の生徒や先生にも対応するために、この大きさにしているのだろう』
なるほど。バリアフリーというやつか。それに、想像以上に扉が軽い。
扉を開けようと取っ手を掴んでスライドさせると、思っていたより簡単に扉は横へと動く。手を止めるのが少しでも遅れていたら、扉と壁をぶつけた音が教室に響く所だった。
意図してなかったとはいえ、結果的に勢いよく扉を開けたからだろう。すでに教室の中にいたクラスメイト達から一斉に視線を向けられる。その視線を浴びながら、おれは自分の席を探す。その間にも、視線を元に戻す者、いまだに視線を向ける者と二つに分かれるが、それらの視線を一切無視して、見つけた自分の席に腰かける。
それからおよそ十分ほどが経過し、教室の席が埋まってきたころ。
予鈴の鐘が鳴り響き、スーツを身に着けた人が一人、教室に入って来た。どうやら、あいつがこのクラスの担任らしい。
教室で談笑していたりしたクラスメイト達が席に戻り、先生が「おはよう」と挨拶をすると、クラスの皆も「おはようございまーす」と口を揃えて返す。
挨拶をした後、先生は簡単な自己紹介と今日の予定を説明しだした。まず、これから体育館で入学式が始まり、その後は、教室に戻ってガイダンスを行うとのこと。
番号順に廊下に並び、先生の案内の下、おれたちは体育館へと移動する。体育館に集まり、入学式開始を待つ。開始まで残り僅かとなったが、ある一つのクラス、ヒーロー科のA組が来ない。何なら、来る気配すらない。この状況に、クラスメイト達も、他の新入生達もざわざわと騒ぎ出す。
しかし、教師陣はこの状況に慣れているのか、このまま入学式を開始した。
入学式とガイダンスを終え、翌日。この日から普通に授業が始まった。
流石は名門校。その授業スピードはとても速く、少しでも手間取ったら、そのまま置いてけぼりにされそうなほど。正直、前世の記憶が無かったら、間違いなく授業についていけなかっただろう。
そして入学式から三日後の朝。この日は学校の前が騒がしかった。
「騒がしいな。なんだあれ?」
『マスコミだな。おそらくオールマイト関係の取材がしたいのだろう』
ああ、なるほど。考えてみれば当然か。
No1ヒーローのオールマイト。彼が学校でヒーロー科の教師を務めるとなれば、マスコミにとってそれは美味しいネタだろう。とはいえ、校門前を堂々と塞ぎ、登校の邪魔をするのはどうかと思うが。
そんなことを考えながら登校するために門に近づく。すると
「すいません!!教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」
一人のマスメディアがマイクを片手に話しかけてきた。その問いに対して、「普通科だからオールマイトの授業は受けてない」と答えると、マスメディアの人は目に見えてため息をつく。その後、他の人を見つけたのか、そいつはそちらへと足を運ぶ。
マスメディアの人が移動した事によって出来た僅かな道を通り、途中で高校を覆うように壁が展開されたがそれを無視しておれは教室へと移動する。扉を開けると、案の定というべきか教室の中はすでに険悪な雰囲気で包まれていた。まあ、マスコミの人にあんな対応をされたらムカつくだろう。おれも多少ムカついたし。
チャイムが鳴り、教室に先生が入ってくる。そして、険悪な雰囲気のまま、この日の授業が始まった。
時計の針は十二時を超え、昼休みに入るころには、先ほどまでの険悪な雰囲気は鳴りを潜めていた。授業のペースが速いため、マスコミのことに意識を割く余裕がなかっただけかもしれないが。
マックで購入したハンバーガーを食べ終え、屋上で一人のんびりと寝転がって時が過ぎるのを待つ。そんな中、警報音が辺りに鳴り響いた。その音に、おれは思わず身体を起こす。
<<セキリュティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに避難して下さい。繰り返します―――>>
その言葉におれは辺りを警戒し、周囲を軽く見渡す。そして、ある一か所に、雄英高校の正門近くにたくさんの人が群がっていることに気付いた。フェンス越しにその場所に近づき、それが何かを確かめる。目に見えたのはカメラやマイク、ボイスレコーダーを構えた人達、朝の迷惑なマスコミ集団だった。
ネタ欲しさに堂々と入ってくるマスコミに呆れていると、レプリカが話しかけてきた。
「めずらしいな、レプリカ。学校の中でおまえの方から話しかけてくるとか。なんかあったのか?」
『うむ。マスコミとは別に侵入者が二人。すでに校内に入り込んでいる』
その言葉に驚きつつも、おれは頭を回す。三日前の入学式で、雄英高校が高い防犯システムを装備していることが説明された。それを破って侵入してくるあたり、そいつらはかなりの手練れとみていいだろう。……となると
「レプリカ。そいつらは今どこにいる?」
『今、建物内のマップを表示しよう。侵入者の位置にはタグをつけておいた』
おれはトリガーを起動し、戦闘体に換装した後、レプリカに侵入者の場所を聞く。その直後、おれの視界に校内の地図が表示された。ここは……職員室か?ならあのマスコミは教師を職員室から遠ざけるためのおとりというわけか、なるほど。
侵入者の作戦に関心しつつ、おれはバッグワームを起動。黒っぽい色をしたマントを着用し、侵入者のいる場所へと足を進める。
音を立てないように廊下を走り、階段を飛び降りたりすること五分。誰とも遭遇することなく職員室へとたどり着いたおれは、窓ガラス越しに中の様子を伺う。そこには、身体の至る所に人の手を付けた男性と、性別は分からないが、全身を黒い靄で覆った者が一人、何かを探すような行動をとっていた。探し物に夢中になっているのか、やつらはおれがここにいることに気付いていないようだ。……それなら
「よし、やるぞレプリカ」
『承知した』
「おい黒霧。まだ見つからないのかよ」
「もう少しお待ちください、
雄英の教師陣が校内に入って来たマスコミの対応に追われているころ。二人の
職員室の扉がガラリ、と大きな音を立てながら勢いよく開き。そこから飛び出した白い影が、二人の間を勢いよく通り過ぎた。そして、その刹那――――
「がっっっ!!」
「ぐっっっ!!」
それぞれの片足に激痛が走り、二人は思わず蹲る。攻撃を受けた足を見れば、青紫色に変色し、腫れ上がっていた。
痛みを訴える足から目を離し、先ほどの攻撃を仕掛けたであろう人物へと顔を向ける。
少し離れた机の上。そこで静かに立つのは、青っぽい色をした軍服に身を包み、右手に白く輝く刃を携え。白い髪と赤い目という、アルビノを彷彿とさせる少年だった。
「オイ、てめぇ……いつからいやがった」
死柄木が殺気を放ちながらそう問いかけるも、その少年は口を開かず。無表情のまま、ただこちらを見つめるだけ。
「はぁ……無視かよ。まあいいや。見られたからには――――」
死んでくれよな。そう言って立ち上がった死柄木が手を構えた、その瞬間。
ダンッという音と共に、少年は机を蹴り、死柄木の懐へと入り込む。その少年の動きの速さに驚いたものの、この距離は自分の間合い。右手を伸ばし、少年へと殺そうと掴みかかる。しかし、その手は少年ではなく、少年の前に現れた青く輝く、半透明の板によって阻まれる。その板は死柄木の個性『崩壊』によって粉々に砕け散るが、それより先に、少年が振るう光の刃が自身の身体に吸い込まれる。その後足元に展開された白い板に少年の右足が触れ。テレポートじみた速度で繰り出された蹴りが死柄木の身体を勢いよく横に吹き飛ばした。
苦悶の声と共に机や椅子、プリントなどを巻き込みながら吹き飛ばされる死柄木弔。思わず彼の名を叫ぼうとした黒霧の目に映ったのは、しゃがみこんだ姿勢のまま赤い瞳をこちらに向け、今にも飛び掛かってきそうな少年。その光景に思わず黒霧は一歩後退る。その直後――――
フュンッッッ
「なっ……」
先ほどまで黒霧が立っていた床。そこから光る刃が飛び出し、己の肩をかすめた。予想外な場所から行われた攻撃に、彼の動きが止まった、その瞬間。
床から生えた刃が消えるのと同時。少年は勢いよく飛び上がり、光る刃を振りかぶる。それを見た黒霧は我に返り、慌てて個性を発動。己の周囲を黒い霧で覆い隠す。
少年が振るった刃は、誰にも当たることはなく。黒霧はいつの間に移動したのか。死柄木の近くに立っていた。
「大丈夫ですか、死柄木弔」
「これが大丈夫に見えるかよ。オイ、黒霧。お前も手を貸せ。あいつを殺す」
黒霧の問いかけに、死柄木はぶっきらぼうに返すと、殺気の籠った目で少年を射抜く。しかし、黒霧は死柄木の意見に反対した。
「いえ、ここはもう撤退しましょう。時間もありませんし、これ以上の負傷は、後の作戦にも影響します」
その返答に死柄木は怒り、ふざけんな、たった一人のガキに逃げるのかと喚き散らかす。そんな彼をなだめながら、黒霧は自分たちの周りを先ほどと同じように黒い霧で覆い隠す。それを見た少年は、右手の刃を手裏剣のような形に変え、彼らを目掛けて投擲する。その刃が二人の侵入者に命中する直前に。
『ワープゲート』の個性によって、彼らはこの場から姿を消した――――
カシャーンと、先ほど投擲した手裏剣状のスコーピオンが床に落ちる音が、自分以外の誰もいない、荒れた職員室に鳴り響く。
二人の侵入者が完全にいなくなった後、おれはトリガーを解除し、軽く一息つく。そして戦闘中にシガラキというやつを蹴り飛ばした辺りにレプリカから伝えられた、「こちらへと向かっている二人」を待つこと数分。二つの小さな足音が聞こえてきた。時間が立つに連れて、その音はだんだんと大きくなり、開かれたままの扉から二人の人物が顔を出した。
一人は、オウムのような頭にラジカセを首に着けた男性。もう一人は、黒い服と首に灰色のマフラーを撒いた男性だった。この二人は入学式の時に紹介された雄英高校の教師だ。
「はぁ!?何だこの惨状は!!一体何があったってんだよ!?」
オウム頭の教師、プレゼントマイクこと山田ひざしは、まず職員室の惨状に驚き、この場にいたおれに何があったのかと問いかける。その問いに、マスコミとは別の侵入者が二人いたこと。その二人と戦ったこと。その二人が逃げた事を伝える。その際に、怪我はないかと心配されたが、何ともないと答えると目に見えて安心していた。
「なるほどな。それでこの惨状ってわけか。取り合えず、お前は教室に戻ってろ。それと今起きたことは誰にも話すな。いいな?」
もう一人のマフラーを身に着けた教師、イレイザーヘッドこと
授業を終え、放課後。帰ろうとしたおれは担任の先生に呼び止められ、二人の侵入者と戦った場所に、職員室に行くように言われた。侵入してきた二人の
職員室の扉を開けると、そこは争った形跡が見つからないほどに片付けられており、
「まずは我々教師一同。君に謝罪しなければいけないのさ!」
誠に申し訳ない、とスーツを着けたネズミ、この学校の校長である
その謝罪の後、根津校長の声と共に職員会議が始まった。その最中、おれは侵入してきた
こうして一時間後。ようやく会議から解放されたおれは、電車に揺られながら、家道をたどっていた。その最中に、今日の