ついに始まった雄英体育祭。その第一種目、障害物競争。ミッドナイトの開始の合図と同時に生徒達がそれぞれ熱気を纏いながら一直線にゲートへと押し寄せ、朝の電車の通勤ラッシュを彷彿とさせる光景がそこには出来上がった。
「押すな、押すな」といった声が聞こえてくる中、おれは一人離れた場所でトリガーを起動し、自身の姿を玉狛の隊服に包んだ戦闘体に換装する。その直後、二つの声が聞こえてきた。
『さあ、ついに始まったぜ雄英体育祭!! 実況はボイスヒーロー、プレゼントマイク! 解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの二人でお伝えしていくぜ!! 解説Are you ready? ミイラマン』
『無理矢理呼びやがって……』
楽しそうに、テンション高く声を上げるプレゼントマイクに対して、もう一方は不機嫌そうに愚痴をこぼす。その声が聞こえてきた方を見てみれば、そこにはプレゼントマイクともう一人、身体の至る所を包帯でぐるぐる巻きにした、ミイラ男を彷彿とさせる人がいた。
おれはその人物を二度見した。なにせ、顔が包帯で見えなくなるほど巻かれており、腕まで吊っていたのだから。見ただけで、その人が相当な重傷だということがわかる。……いや、何でここにいるんだ?
そんなことを思っていると、辺りに冷気が立ち込めた。足元を見れば、そこは薄っすらと白く染まっている。
――――何かが来る。
そう判断したおれはすぐに行動を開始した。
グラスホッパーを起動し足元に展開。そしてそれを踏み込み、ゲートの上を目掛けて跳躍する。
『さーて、早速だが序盤の見どころは?』
『今だよ』
実況席から二人の声が聞こえた、次の瞬間。
先ほどまで立っていた箇所を含め、瞬く間に地面は凍り付いた。この妨害により、ゲート付近にいた人達の大半の足は地面に縫い付けられ、動けなくなった。
空中に飛び上がったことでその妨害から逃れたおれはそのままゲートの上を飛び越え、そこで再度グラスホッパーを起動。再びそれを踏み込み、今度は前方向へとその身を加速させ、先頭にいた、先ほどの氷による妨害工作を仕掛けたであろう人物。紅白に分かれた髪色をした少年の上を通過し、先頭へと躍り出る。
こんなすぐに抜かされると思っていなかったのか、その少年から驚いたような声が聞こえてくるが、気にせずグラスホッパーを起動し、踏み込み、加速。これを数回繰り返し、後続との距離を一気に距離を突き放す。
『真っ先に先頭に立ったのはA組の轟! さらに氷結攻撃で後続の妨害!! そのまま先頭をキープするかと思ったが、そんな轟の上から一人の少年が抜け出した!! ……って、お前、あの時の普通科じゃねえか!! どっかの軍服みてぇな恰好してるけど、その服どうした!? というか速いなオイ!! アイツ、もう第一関門に入ってるぞ!?』
『入ってるっつーか……もう攻略しかけてるな』
『マジかよ!? 嘘だろオイ!! ヒーロー科ですら、まだ
二人の実況を聞きながら、おれは目の前のロボットに自ら近づきスコーピオンで切り裂いていく。おれが今いる場所は、様々なサイズのロボットがコース一面に配置されたエリアだった。ロボットのサイズは小さいので3~4mくらい、大きいのでは大体40mくらいだろうか、バムスターを優に超えている。
が、しかし。そのロボットは大して強くなかった。どのロボットも動きは単調で鈍く、装甲も簡単に切り崩せるほどに脆い。避けて通ることも、破壊することも、ほとんど時間を費やすことなく、簡単に出来てしまう。これならまだ、バムスターの方が何倍も強い。
巨大なロボットの相手はせずに隙間を通って避け、こちらへと近寄ってくる小さめのロボットは、目の前にいるヤツだけを破壊しながら移動し、残りは放置する。
最後に立ちふさがった二体のロボットの首のようなパーツをスコーピオンで撥ね飛ばし、このエリアを抜け出し――――
「よし、どんどんいこう」
おれはそう言ってスコーピオンを仕舞い、次のエリアへと足を進めた。
※ ※ ※
『オイオイ、先頭のアイツもう第一関門突破したぞ!? 他の奴らも急げ急げ!! 上位何名が通過するかは公表してねぇからな!!』
迫りくるロボットの群れに怯むことなく、いともたやすく第一関門、ロボ・インフェルノを突破して見せた少年、空閑遊真。ヒーロー科を圧倒する彼の姿に観客の皆はどっと沸き立つ。
その一方で、開始早々に氷結攻撃を仕掛けた少年。
『さあ、ようやくヒーロー科の奴らも第一関門に到着したぞ!! 次にここを突破するのは誰だ!!』
目の前を塞ぐように立ちふさがる、入試の時に使用された、たくさんの仮想敵。目の前に広がるその光景に怯えたのか、生徒達は思わず足を止めてしまう。そんな中、たった一人。轟が動き出した。
「せっかくならもっと凄えの用意してもらいてぇもんだな……」
そう呟きながら轟は身体から冷気を放ち、指先を地面につける。すると地面はピシピシと音を立てながら凍り始め――――
「クソ親父が見てるんだから」
そう言って右手を振りぬくと同時。轟を押しつぶさんとしていた巨大な仮想敵、0P敵はあっという間に氷に包まれ、一つの巨大な氷山へとなり果てた。0P敵の動きが止まったことで出来た隙間を見つけ、轟はその間を走り抜ける。
他の生徒達も便乗しようと、轟が仮想敵を凍らせたことで出来た隙間を通ろうとしたが、その点はしっかりと考えられており。不安定な姿勢の時に凍らされた仮想敵は、轟が走り抜けるのと同時に地面に倒れ、辺りに土煙を作り出した。この時に、二名ほどロボットに潰されていたものの、二人とも自身の身体を固くする、防御系の個性ということもあって、気にすることなく倒れた仮想敵の装甲を突き破り、すぐさま走り出す。
その光景を見てか、協力して道を開こうとする人達がいる中、また一人、今度は選手宣誓を行った少年、
「待ちやがれモブ野郎がァァァ!!!」
先頭を走る普通科の少年に向け、怒りの形相で叫びながら彼は飛び上がり、0P敵の拳を起こりながらも冷静に避けつつ、その上を乗り越える。そんな爆豪に便乗するかのように、二人の生徒が同じく個性を駆使して仮想敵の上を乗り越えた。
『攻略と妨害を同時に行った轟を筆頭に、他の生徒達も着々と進んでいくぅ!! 先を進むのはA組が多いな!! これが巨悪に対峙した経験の差なのかぁ!!?』
仮想敵を破壊しながら進んでいく生徒達。中でもA組は立ち止まる時間が短く、それがより観客の視線を集めている。轟が第一関門を半分ほど進んだところで、イレイザーヘッドが声を上げた。
『おい、そろそろ先頭の方にも注目したらどうだ。もう少しで第二関門も突破するぞ、アイツ』
『What? いやいや、流石にそれは言い過ぎ――――って、マジじゃねえか!! つか何だ、その移動法は!!』
二人の声を聞いた観客が視線を向けると、目に映るのは忍者のように崖と崖を飛び移る少年の姿。
彼が今いる第二関門の名はザ・フォール。切り立った崖がいくつも並び、崖と崖の間を繋ぐのは一本の細いロープだけ。崖の下は底が見えないほどに真っ暗で、高所恐怖症の人には相当きついだろう。
だがしかし。そんなので彼は、空閑遊真は止まらない。トリオン体の跳躍力を以て、軽々と崖から崖へと跳んで移動し、届きそうにない距離はグラスホッパーを使って移動する。その光景に観客のプロヒーロー達は隣や近くにいる人同士で話し始めた。
「一位の奴、圧倒的じゃないか……あれで普通科なのが信じられねぇよ」
「もしかしてあの子が噂のエンデヴァーの息子さんか?」
「いや、エンデヴァーの息子は二位の子だ。にしても、今年は間違いなく当たり年だな!!」
プロヒーロー達が今後の話題で盛り上がる中。第二関門を攻略し、後続を大きく引き離す形で最終関門へとたどり着いた彼は、このエリアの違和感に足を止めた。
危険であることを示すかのように骸骨が描かれた看板が立てられ、その先は軽く見渡す限りは何もない、広い平地。そして地面には、何かを埋めたような跡が至る所に広がっている。
彼は少し後ろに下がると、右手にスコーピオンを起動。起動したスコーピオンの形を手裏剣のように変形させ、何かが埋められている箇所を目掛け、勢いよく投擲する。投擲されたスコーピオンは回転しながら進んでいき、カッと音を立てて地面に突き刺さる。次の瞬間、
爆音が辺りに響き渡り、爆風が髪を少しだけ揺らす。さらに先の爆発の隣で連鎖するかのように爆発が起こり、桃色の煙が周辺に広がった。
『いろいろな生徒がチャンスを掴もうと励む中、速くも先頭が最終関門にたどり着いた!! その正体は地雷原! 名付けて、怒りのアフガン!!! 地雷の位置は、よく見りゃ分かるようになってる! 目と脚を酷使しろ!! 他の奴らもトップに追いつくチャンスだ!!!』
このエリアの説明を終えた後『威力は控えめだが音と光は派手だから失禁必死だ』とプレゼントマイクが付け加え、『人によるだろ』とイレイザーヘッドがツッコミを返す。そのコントじみた実況を聞きながら、彼は思考する。
(先頭ほど不利な競技か……とことんエンターテインメントだな)
爆発に巻き込まれたスコーピオンに傷一つないのを見るに、この地雷は個性によるものではないのだろう。戦闘用のトリオン体に換装している彼が地雷を踏んでもダメージは無いが、爆風で飛ばされて時間を取られるのは面倒だ。
やはりここは上から行くことにしよう。
彼はグラスホッパーを起動し、前方へと跳躍。地面に足が付きそうになったら再度グラスホッパーを踏み込み、跳躍する。
『……何か普通に進んでいるんですけど、アイツ』
『普通なら先頭ほど不利なんだが、空中を移動できるアイツには無意味だったみたいだな』
地雷の上をピョンピョンと飛び跳ねながら移動する彼の姿に、せっかく仕掛けた障害物が一切機能していないとプレゼントマイクは愚痴をこぼし。イレイザーヘッドは予想通りだと言わんばかりに返答する。
あっさりと最終関門を突破した彼はその勢いのまま走り出し、ゴール地点であるスタジアムに足を踏み入れると。
『オイオイ、マジか? マジなのか!? こいつァ完全に予想外だ!! 他生徒を終始圧倒し続け、一番最初にスタジアムに戻ってきたのはまさかの彼!!』
『D組普通科 空閑遊真だあぁぁぁ!!!』
テンション高く、一際大きな声で彼の名を叫んだプレゼントマイクに続くかのように観客席からも歓声が響き渡る。その声を浴びながら、彼は一度大きく伸びをして、ゴール地点に設置された、競技の様子を中継するモニターを眺めた。
――――さて、他はどうなってるかな?
そんなことを考えながら。