『さあ、次に空閑チームからポイントを奪おうと現れたのは轟チーム!! 果たして、推薦入学者トップは1000万を奪い取れるのかぁー!?』
プレゼントマイクの実況が響き渡る中で、二つのチームがじりじりと、一定の距離を保ちながら向かい合う。
その様子を見ている他のチームも、隙があったら自分達が1000万を奪ってやろうと睨み合いを続ける二つのチームを取り囲むように集まる。
そんな膠着状態が続く中、先に動き出したのは……轟のチームだった。
「飯田は前進。八百万がガードと伝達を準備」
周囲の騎馬には一切目もくれず、轟は自分のチームメンバーである飯田と八百万の二人に指示を出す。騎馬を組む二人はその指示を全うすべく、それぞれ行動を開始した。それを見るや否、周囲を囲んでいた他のチームも、戦いの隙を付こうと動き出す。
最後に轟は上鳴に向けて指示を出すが、上鳴は「分かっている」とその指示を途中で遮ると、パチパチッと身体中から電気を迸らせ――――
「無差別放電、130万ボルトッ!!!」
辺り一面に、無数の電撃が放たれた。
轟のチームは事前に八百万から受け取った布を。絶縁体シートを羽織ることで電撃をしっかりと防ぐ。しかし、防ぐ手段の無い者は皆して感電してしまい、立っているのがやっとという状態に追い込められてしまう。
「
更に、ダメ押しとばかりに轟は八百万から鉄の棒を右手に取り、それを地面に突き立てて、棒に冷気を纏わせた。その冷気は地面を伝い、辺り一面を凍らせる。先の電撃を受けたことでまともに動けない状態となったチームは皆、騎馬の足が地面に縫い付けられた。
『何だ何した!?群がる騎馬を轟一蹴!』
『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせたか。流石というか……障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな。ただ……』
――――あいつには通用しなかったようだが。
イレイザーヘッドの口から発せられた言葉に、思わずといった様子で「マジで!?」と返すプレゼントマイク。
そう。空閑チームは、というより遊真は、轟チームの繰り出した攻撃をたった一人で、全て防いで見せた。
上鳴の身体から電撃が放たれた瞬間、即座にスコーピオンを破棄し二枚のシールドを起動。それを自分の正面に、騎馬全体を覆い隠すように展開することで、上鳴が放った電撃の内、自分達に当たる電撃だけを全て受け止める。
続く轟の氷結攻撃に対しては、マンティスを使用。迫りくる氷の波を全て、鞭のようにしなる刃が打ち砕き、攻撃力を持たない氷の粒へと変化させる。
その光景を見せつけられた轟は音が鳴りそうなほどに奥歯を嚙みしめ、目の前の空閑チームを。いや、遊真一人を睨み付ける。
ただし、空閑チームの被害もゼロというわけでは無かった。
「わ、私のベイビーがぁ!!」
上鳴の電撃をもろに受けた背中のジェットパックが、完全に壊れてしまっていた。自作のサポートアイテムが故障する様子を見た発目は、ショックを隠そうともせずに絶叫する。
その発目の声が聞こえたのだろう。轟は逃がしてたまるかとばかりに、すぐに別の策を行使した。
冷気を纏わせた棒を地面に突き立てると、先ほどと同じように、出現した冷気が、氷の波が地を這うように動きだす。
――――ただし。氷の波が進む方向は、空閑チームではない。
冷気と共に進む氷の波は、遊真と轟の、二つのチームを囲むように左右に広がり、3~4mほどの大きさをした氷の壁を作り上げる。
最終的に完成したのは、氷のフィールド。外からの介入も、中からの脱出もさせないとばかりに聳え立つ氷の壁に囲まれた、簡易的なバトルステージ。
この作られたステージの中。轟はギラついた瞳で遊真一人を睨み付け、遊真は相も変わらず無表情のままスコーピオンを構える。互いの騎馬も、それぞれが目の前の相手をしっかりと見据える。
観客席にいる人達は、これから行われようとしている戦いを。
全員の視線が集まる中――――轟が先に仕掛けた。
再び鉄の棒を地面に突き立ると、先ほどよりも巨大な氷塊が空閑チームを飲み込もうと襲い掛かる。
だが、その氷塊が空閑チームを飲み込むことはなく。遊真が迎撃のために繰り出したマンティスとぶつかり合った結果。先ほどと同じように、氷塊は大きな音と共に砕かれ、無力な氷の粒へと変化し、消えていく。
それを見た轟は顔を歪めつつも、再び氷結攻撃を繰り出す。大きさを変えたり、氷結を放つ位置を変えてみたり、次の氷結までの間を減らしたり……と、様々な方法で仕掛けてみるが、結果は何も変わらない。それどころか、青山のレーザーや捕縛銃のネットが反撃として襲い掛かってくる始末。
「うそぉ!?」
クラス屈指の実力者である轟の猛攻をいとも容易く凌ぐその姿に、上鳴は思わずといった様子で声を上げる。
一方で、轟の猛攻を捌きながらも、遊真は目の前の相手をしっかりと観察していた。
トリオン量にまだ余裕がある遊真は、このまま氷結攻撃の迎撃を続けてもとくに問題は無い。しかし、メイの捕縛銃とユウガの個性には使用限界があるため、このまま続けたら捕縛銃もユウガも使いものにならなってしまう。そうなれば、攻撃の手数が足りなくなり、防戦一方になってしまうだろう。
そうなることを避けるために、遊真は目の前の相手を観察していた。さっきから続く、轟の氷結をどうにかするために。そして、五回目の氷結を防ぐのと同時に……あることに気付いた。
(こいつ、もしかして……右からしか攻撃できないのか?)
そう。さっきから続く轟の攻撃。それらは必ず、右手から繰り出されていた。
得にそれが顕著だったのは、動き回りながら氷結攻撃を仕掛けてきたときだ。立ち位置を変えて攻撃を仕掛ける場合。普通なら四方八方に、いろいろな方向に動き回って仕掛けるだろう。それなのに、轟チームは空閑チームの右に回り込むような移動しかしてこなかった。
発覚した轟の弱点を遊真が突かないわけもなく。
「メイ、ユウガ。轟の左側に動いてくれ」
「左ですね? 分かりました!!」
「OK☆」
すぐさま二人に騎馬を動かすように指示を出し、轟の左側へと回り込む。
「野郎……上手く立ち回ってやがる」
轟チームの左側をキープするような立ち回り方に変えてきた空閑チームを見て、轟は悔しそうに舌打ちをし、歯を食いしばる。
自分一人だけならこのような動きをされても問題は無い。だが、轟は今騎馬を組んでおり、目の前には飯田がいる。この状態で氷結を左側に向けて放つ場合、どうしても飯田が射線上に入ってしまう。安易な攻撃は、逆に自分の首を絞めてしまうだろう。
つまり、轟は今攻撃に参加できない状態に置かれてしまった。
そして、轟チームと空閑チームの戦いが互角だったのは、轟の氷結があったから。轟の氷結がなくなった今、この均衡は崩れ去る。
『残り時間約一分!! 轟がフィールドをサシ仕様にし……そしてあっちゅー間に1000万奪取!! とか思ってたよ五分前までは!! 空閑チーム、なんとこの狭い空間の中逃げ切ってる!! いや、むしろ轟チームの方が押されてるぞ!!』
『空閑が轟の氷結を防ぐ必要がなくなり、攻撃に回ったからだな。空閑チームの攻撃を前に、轟チームは後手に回っている。空閑はおそらく、このまま攻撃を続けて、轟チームが立て直す時間を与えないつもりだろう』
『なーる!! 意外と策士だなアイツ!!』
この狭い氷のフィールドで行われている攻防にイレイザーヘッドは感心し、プレゼントマイクと観客はテンションを上げる。
その一方で、攻守関係が完全に逆転した現状を前にした轟は焦りを感じていた。
空閑チームからレーザーが、捕縛ネットが、鞭のような刃が絶え間なく降り注ぎ、自分達はそれの対処で手一杯。反撃はおろか、この場から動くことすらままならない。
(くそっ……どうすれば……)
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。必死にそれを考えるが、何も思い浮かばない。何も出来ない悔しさが、轟の肩を震わせる。
同じような焦りと悔しさを飯田も感じていた。
このまま、何もできずに終わっていいはずが無い。ならどうすればいいのか。そのための策を考えて、考えて。そして――――
「聞いてくれ、皆。残り一分弱……この後俺は使えなくなる、頼んだぞ」
――――ここで、誰にも見せてない奥の手を切る覚悟を決めた。
飯田は右足を少し後ろに下げ、腰を落とす。脚のマフラーからは唸るような音が鳴り響き、眩い光で包まれる。
それを見た遊真は警戒し、騎馬を後ろに下がらせると、いつ攻撃が来てもいいようにスコーピオンを構える。
「取れよ、轟くん! トルクオーバー・レシプロバースト!!」
飯田がそう叫んだ、次の瞬間。マフラーからは青い炎がジェットのように噴出され、今までとは比べ物にならない速度を以て、空閑チームの左側を駆け抜ける。あまりの速さゆえに、発目と青山は何が起きたのかが分からず、目を白黒させる。
その速度に驚きつつも、すれ違う寸前に。轟は遊真の頭についているハチマキに向けて、反射的に右手を伸ばす。そして、その手がハチマキに触れる――――
ことはなく、遊真が頭部を守るように展開したシールドが轟の手を阻んだ。
この一瞬の攻防の間に何が起こったのか。それを理解できない者たちの困惑で、場は静寂に包まれる。
その沈黙を破ったのは、プレゼントマイクの実況だった。
『ちょっ!? は、速っ!? 何が起きた!? 何だよ、今の超加速!? 飯田、そんな超加速があるんなら予選で見せろよ!! あれ? でも、ハチマキ取られてない!? 嘘だろ!? あれを防いだってのかよ!!?』
この実況で、何が起きたのかを把握した観客達はどっと沸き立つ。
それを聞いた飯田は、まさかと遊真へと目を向ける。そこで、目線だけをこちらへと向ける遊真を見て息を飲んだ。遊真がさっきの動きを目で追えてたことを理解して。
『さあ、残り時間も後わずか!』
「まだだ!!」
このまま終わってたまるかと、轟はそう叫びながら、立ち位置が変わったことで放てるようになった氷結を放ちながら接近する。
遊真が再びマンティスで氷を砕き、発目と青山が迎撃の準備をする中……
「ポイント寄こせや、白髪野郎ォォォッ!!」
氷の壁を飛び越えた爆豪が、再び単騎突撃を仕掛けてきた。両の掌から爆破を放ち、真っ直ぐに遊真の元へと突き進む。
「ユイガはそのままトドロキにレーザーを。メイは捕縛銃でバクゴウの足止めを頼む。距離が10m切ったら教えてくれ」
騎馬の二人の指示を出し、遊真本人も迎撃のためにスコーピオンを片手に構えた瞬間。近くの氷の壁が砕けた。
「皆、行くよ!!」
「……よっしゃぁ!!」
「……ああ!!」
「……承知!!」
氷を砕いたのは、障害物競走で二位になった、緑谷のチームだった。常闇の個性、
『ああっと!? ここで緑谷チームが参戦!! 空閑チームは三つのチームに囲まれた!! こりゃあ、最後までどうなるか分からないぞ!!』
新たなチームの参戦に、プレゼントマイクのテンションは上がる。
そして、空閑チームとの距離が20mを切った時、緑谷チームの一人が声を上げた――――
彼、心操人使は最初、彼らのことを利用するつもりで声を掛けた。
しかし、この作戦は常闇の個性によって、失敗に終わる。常闇を洗脳しても、彼の個性である
自分の作戦が失敗したことを痛感した心操は、直ぐにこの場を立ち去ろうとするが、緑谷に手を掴まれたことで、それは叶わなかった。
操ったことに文句を言われるんだろう。そう思っていた心操だったが、緑谷の口から発せられたのは全く違う言葉だった。
――――僕とチームを組んでほしい!!
こうして、心操は緑谷のチームに入った。そして、今。1000万を奪うべく、心操は空閑チームに向けて思い切り挑発した。
「さっきからずっと逃げてばっかりだよな、お前ら!! ホントは大したこと無いんじゃないか!? そのポンコツアイテムも含めてなぁ!!」
それが挑発だと分かっている遊真は無視するが、発目と青山はイラついたのか反論してしまう。その結果、二人はあっさりと洗脳に引っかかった。急に動かなくなった二人を前にした遊真は、ここで初めて表情を変えた。
その隙に轟チームは、爆豪は、緑谷チームは。1000万を奪うために空閑チームとの距離を詰める。
「ちっ……」
遊真は軽く舌打ちをすると、背負ったままだったジェットパックを放り捨て、頭上にグラスホッパーを展開し、飛び上がる。
――――その板を使って、上に逃げるつもりか。
空閑チームを取り囲む皆はそう考え、逃がしてたまるかと爆豪は進行方向を上に変え、轟は八百万から上を攻撃できるように武器を受け取り、緑谷は麗日の個性を使って飛び上がる。
そして、遊真の足がグラスホッパーに触れる――――寸前にグラスホッパーは消え。遊真の身体は弾かれることはなく、真っ直ぐに下へと落ちていく。
「えっ!?」
「なっ!?」
「しまっ……」
やられたと、そう言わんばかりに緑谷、爆豪、轟の三人は声を漏らす。慌てて下に向けて手を伸ばすがその手は遊真に届かない。改めて展開したグラスホッパーを使って、地面すれすれを横に飛び、あっさりとこの場から抜け出した。そして――――
『――――TIME UP!!』
プレゼントマイクの合図を以て、騎馬戦は終わりを迎えた。
「ごめん……取れなかった……」
騎馬戦が終了し、結果発表を待つまでの間、緑谷はチームを組んでくれた麗日と心操に向けて、頭を下げていた。せっかくのチャンスを物にできなかった悔しさに、緑谷は肩を震わせる。
それを見た麗日と心操は、それぞれ笑みを浮かべた後、ある一点を指さした。その先にいたのはもう一人のチームメンバーである常闇と――――嘴で数本のハチマキを加えた
「心操の個性で騎手を操って1000万を奪い取るつもりだったが、そう上手くは行かないな。だが、あの時、皆が1000万に夢中になっているうちに轟、爆豪から数本頂いておいた。……喜べ緑谷。二位通過だ」
常闇がそう言うと同時に、プレゼントマイクの口から、結果が発表された。
「それじゃあ、結果発表と行こうか!! 一位! 空閑チーム!! 二位! 緑谷チーム!! 三位! 爆豪チーム!! そして四位! 轟チーム!! 以上四チームが最終種目に進出だぁぁぁ!!!」
観客達の拍手喝采が鳴り響く中、緑谷は嬉しそうに涙をこぼし、麗日と心操,
常闇はそれぞれ笑顔を浮かべる。
その一方で、爆豪はあまりの悔しさに唸り声を上げながら地面を叩き、轟は両手を強く握りしめ、歯を食いしばった――――