「うまうま」
騎馬戦が終了し、昼休憩の時間。おれは食堂で注文したハンバーグを頬張っていた。普段は屋上で、登校中にコンビニなどで買った弁当を頬張っているのだが、今日は体育祭ということもあってか、近くのお店はどこも人がいっぱい並んでいて、弁当を買うことが出来なかった。
そんなわけで、初めて食堂を利用しているのだが――――
「ん―、さっきから視線がすごいな」
周囲の人達から突き刺さる視線に食べる手を止め、おれは軽くため息をつく。
『予選の障害物競走。本選の騎馬戦でヒーロー科を圧倒したからだろう。ヒーロー科が主役となるこの体育祭で、普通科がここまでいい成績を残すことは過去に一度もない』
ふーん。とレプリカに返事を返した後、ひそひそとした話し声が聞こえる方へ視線を向ける。その場にいた二人はおれと目が合うと、すぐに目を逸らし足早にその場を立ち去って行った。
(……まあ、何もしてこないならいっか)
遠ざかっていく背中を眺めながら、おれは一口サイズに切り分けたハンバーグを口に放り込む。
……うん、すごく美味しい。お肉はふんわり柔らかくとろけそうで、ソースも濃厚でまろやか。白いご飯がいくらでも食べられそうである。それでいて、購入にかかる値段も普段からコンビニで買っている弁当と大して変わらない上に、量もコンビニ弁当より多い。コンビニで弁当を買うのが馬鹿らしく感じるほどだ。
これからの昼食はここを利用しようかな。そんなことを考えながら、おれは残り少なくなったハンバーグに齧り付いた。
「……なにしてんだ? あいつら」
昼休みが終わり、ステージに戻ったおれは今、目の前に広がる光景に軽く困惑していた。とりあえず状況を整理しようと、おれは辺りを見渡す。
ある人は、恥ずかしそうにその光景から目線を逸らし。
またある人は、その光景を興奮した様子で、食い入るように見つめ。
またある人は、その光景を見つめている人に極度の視線を向けていた。
周囲の様子を確かめた後、おれは改めてこの場にいるほとんどの人が意識を向けているであろう箇所へと視線を向ける。
「………………」
そこにいたのは、露出の多いチアガールの衣装を身に纏い、両手には黄色のボンボンを携えた、ヒーロー科、1年A組の女子生徒達。皆揃って死んだ魚のような瞳をしており、何かを悟ったかのように呆然と立ち尽くしている。
『どうした!? A組!!?』
「なーにやってんだ……?」
実況席にいるプレゼントマイクから発せられたツッコミの声が会場全体に響き渡り、イレイザーヘッドが呆れた様子で呟く。
すると、チアガールの恰好をしたヒーロー科の生徒の中でも、そのスタイルの良さからか最も注目を集めているポニーテールの人が、ステージの端の方でサムズアップをする金髪に黒いメッシュが入った人と、ブドウのような髪型をした小さい人の二人に向けて怒りの声を上げた。
「上鳴さん! 峰田さん! 騙しましたわね!!」
その言葉を皮切りに、A組の女子達は大声で猛抗議を始めた。話を聞く限り、どうやらあの二人に騙されたらしい。
……人を疑うということを知らないのだろうか、あいつらは。
その事実に、おれは呆れしか出てこなかった。
その一方で、ポニーテールの人はショックを隠し切れないのか、肩を深く落として落ち込み、隣の人に励まされていた。他にも、恥ずかしそうに頬を赤くして縮こまる者や、逆に楽しそうにボンボンを振る者など、一人一人様々な反応を見せる。
そんな彼女達をよそに、プレゼントマイクの口から最終種目の説明が始まった。
『まあ、良いか! そんじゃあ、改めて……。楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目。総勢16名からなるトーナメント形式! 一対一のガチバトルだ!!』
「あ、そうそう。一位の空閑チームのメンバーが三人しかいない上に、青山君は予選落ちしているから、最終種目に出場できないわ。と、言うわけで……。騎馬戦で五位だった鉄哲チームから、新たに二名を選出するわ!!」
ミッドナイトが補足するように説明を付け加えた後、五位のチームから新たに二人を出すように告げた。話し合いの結果、灰色の髪をした人と植物のツルのような髪をした人の二人が前にでた。どうやらこの二人が繰り上がりで出場するらしい。
こうして、最終種目に出場する16人全員がミッドナイトの立つ壇上の近くに集まった。そして、一位のおれ達から一人ずつ、順番にクジを引いていく。
「抽選の結果、組はこうなりました!」
ミッドナイトの言葉に合わせ、モニターにトーナメント表が表示される。
第一試合 緑谷出久 VS 心操人使
第二試合 轟焦凍 VS 瀬呂範太
第三試合 上鳴電気 VS 塩崎茨
第四試合 飯田天哉 VS 発目明
第五試合 空閑遊真 VS 芦戸三奈
第六試合 八百万百 VS 常闇踏陰
第七試合 切島鋭児郎 VS 鉄哲徹鐵
第八試合 爆豪勝己 VS 麗日お茶子
組み合わせを確認した人達が様々な反応を見せる中、おれは対戦相手のことを考えた。
アシドミナ。確か、騎馬戦でバクゴウとチームを組んでいたピンク色の肌に、トリガー
はっきり言ってそんなに強くないから、いつも通りの動きをすれば問題なく勝てるだろう。気を付けることがあるとすれば、やりすぎないように注意することくらいか。
『よーし、それじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
レクリエーションが始まると、バクゴウやトドロキを筆頭に、最終種目に参加する人のほとんどはこの場から姿を消した。おれもレクには参加せずに、レプリカと共にクラス指定の観客席でレクの様子をのんびりと眺める。
借り物競争から始まり、綱引きやリレー、大玉転がしなどの様々な競技が個性ありで行われ、観客の皆も盛り上がりを見せる。
因みに。A組の女子たちはその間、二人を除いてボンボンを振り回して応援を楽しんでいた。……どうやら開き直ることにしたみたいだ。
『
レクリエーションが終わりを迎え、最終種目の時間がやって来た。
プレゼントマイクの大きな声が会場全体に響き渡ると、会場にいる人達も大きな声で騒ぎ立てる。そのテンションの高さは、先ほどのレクリエーションとは比べ物にならないほどだ。
『第一回戦! 成績の割には何だその顔! ヒーロー科、緑谷出久! VS ごめん、まだ目立った活躍なし! 普通科、心操人使!』
プレゼントマイクの紹介と共に、二人は拍手喝采を浴びながらステージに上がる。
『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする。あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ! 怪我上等! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから、道徳倫理は一旦捨ておけ! だが、もちろん命に関わるようなのは駄目だぜ! アウト! ヒーローはヴィランを捕まえる為に拳を振るうのだ!』
と、ここで最終種目のルールが説明された。
その説明を聞きながら、おれはこの勝負の勝敗を予想する。
(……ミドリヤの勝ちかな、これは。相手が悪すぎる)
シンソウの個性はおそらく、自身の言葉に答えた相手に影響を与えるといった物だろう。初見殺し性能の高い、かなり強力な個性だ。でも、だからこそ相手が悪すぎる。
なにせ、二人は騎馬戦で同じチームを組んでいたのだから。互いの個性を把握しているはずであり、シンソウが何を言ってもミドリヤは口を開かないだろう。となると、正面から戦うしかないのだが、それだと身体を鍛えていないシンソウが勝つのはかなり厳しい。
だからこそ、おれはミドリヤが勝つと思っていたのだが……
『オイオイどうした、大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!? 緑谷開始早々―――完全停止!?』
ミドリヤがシンソウの個性に引っかかるという予想外な展開になり、おれは驚いた。
と、ここでシンソウの個性がプレゼントマイクから説明される。
シンソウの個性は『洗脳』。問いかけに答えた相手を操ることが出来るという、予想以上に強力な個性だった。……騎馬戦の時にあいつの煽りに答えていたらヤバかったな。
そんなことを考えている間にも、ミドリヤは場外に向けて足を進める。そして、あと一歩で場外に出る、その直前。ミドリヤの指から、強力な風が吹き荒れた。その結果、指の怪我を代償にミドリヤは正気を取り戻す。
その後は二人とも正面から殴り合い、最後にミドリヤが一本背負いでシンソウを場外まで投げ飛ばしたことで勝負が付いた。
敗北したシンソウは悔しそうにしつつも、どこかすっきりとした表情でミドリヤと会話した後、ステージを去っていった。
続く第二試合と第三試合は言うこともなく秒で終わり、第四試合のハツメとイイダの戦いに至っては、ただのサポートアイテムのプレゼンの場になっていた。……ガチバトルとは何だったのか。
(そういや、次はおれの番だったな)
そのプレゼンの途中で席を立ち、おれは控え室へと足を運んだ。
発目によるサポートアイテムのプレゼンが終わり、第五試合が始まろうとしていた。
『障害物競走、騎馬戦共に一位通過! 下剋上を成し遂げる普通科、空閑遊真! VS あの角からなんか出んの? ねえ、出んの? ヒーロー科、芦戸三奈!』
大歓声の中、二人はステージに並びたつ。芦戸は軽くストレッチをした後構えを取り、遊真は右手をポケットに突っこんだまま、自然体で佇む。その姿からは一切の気迫はなく、しかしそれでも見入ってしまうような何かが感じられた。
『そんじゃあ、始めようか! 五回戦、レディィィ……』
その声を耳にした遊真はトリガーを握る右手にほんの少し力を込めて、右足を一歩前に踏み出した。そして
『スタートォォォ!!!』
開始の合図が会場全体に響き渡り、これから始まる試合を見ようと、会場にいる皆の視線がステージに集まる。しかし。
「……え?」
誰かの疑問の声が、会場に木霊する。目に映ったのは、玉狛第二の隊服を身に纏った遊真が芦戸の背後で剣を振り切った姿勢を取るという光景だった。
会場にいる誰もが言葉を失う中、遊真は剣を振り切った姿勢を戻しながらトリガーを解除。自身の身体を雄英指定のジャージ姿へと戻した後、ステージから出るために歩みを進める。その途中で、芦戸は力なく地面に倒れ伏した。
「あ、芦戸さん行動不能! 空閑くん、二回戦進出!!」
一足先に我に返ったミッドナイトが慌てた様子で遊真の勝ちを宣言する。すると、プレゼントマイクも驚愕の声を上げた。
『は? え? 待て待て待て待て!! 今何が起こった!? いや、何をした!? アイツの動き、全く見えなかったんだけど!? と、とりあえず、二回戦進出者は、空閑遊真だぁぁぁ!!!』
その驚愕の声は会場全体に伝播していき、プロヒーロー達も、遊真のその力に畏怖を覚える。
そんな彼らをよそに、遊真はステージから姿を消した。
前作では芦戸と常闇の試合は1つに纏めていましたが、今作では長くなりそうなので、分けて投稿することにしました。