「じゃあ本番行きまーす3、2、…」パチン
「「「いらっしゃいませ、お嬢様」」」
そこには友達の紹介で行くことになった
「……」
ここ──ホスト部にはこの学園の中でも有数の権力者が多数在籍している
「いらっしゃいませ、藤原様と早坂様と……初めての方ですね? 確か……四条あかね様でしたね? ようこそいらっしゃってくださいました」
目の前で腰を折り丁寧に挨拶をしてくれる人
「私は四宮大輝と申します。ここで部長をやらせていただいております」
四宮さんと言えば世界に名だたる財閥四宮グループの御曹司
この日本で生きていきたいのならば絶対に敵に回してはいけない人物である
「は、はじめまして私は四条あかねと申します」
こちらも頭を下げて礼をする
「これはご丁寧に」と笑みを見せてくれる彼だが、その瞳がこちらを値踏みしていることに気づいてしまう
(うぅ怖い……でも)
「あ、藤原さん! 今日も来てくれたんですね!」
「あ!! メルトくん!!」
藤原さんの存在に気づくと子犬のように駆け寄ってくる人物
「メルト、こちら四条様だ。ご挨拶を」
四宮さんに促されようやく私の存在に気づいた彼は
「あ、すみません失礼いたしました。僕は田沼メルトと申します。これからよろしくお願いします」
ぺこりと丁寧な挨拶をしてくれた田沼さん
彼は大病院の院長のご子息であり、彼の父の病院には小さい頃に何度か私もお世話になった
私からも挨拶を返している間に
「ねぇメルトくんあっち行こう?」
「あ、柏木くん!」
藤原さんと四条さんが各々の推しの方のところへ行ってしまう
取り残された私がワタワタしてしまう中
「とりあえずお席にいきましょうか」
四宮さんが空いている席へと私を案内してくれる
そこに待っていたのは
「あれ、君は……確かあの時の……」
「──」
太陽の様に煌めく金色の髪、透き通る様な青の瞳。
顔のパーツ全てが神に愛されているのではないかと思わせるくらいに整った男の子がいた
見惚れてしまっている私をよそにその人は
「改めて、初めまして雨宮アクアです。以後よろしくお願いします……あかねさん?」
私にあの日にも見せてくれた優しげな笑顔を向けてくれた
「あれ? アクア、お前あかね様とお知り合いだったのか?」
「ええ、この前少し」
「じゃあ、この場はまかせるぞ。他のお嬢様がお呼びだ。ということであかね様、どうかごゆるりとお楽しみください」
「あ、はいありがとうございます……」
呆然として、頭があまり回っていないようなあかねさんの返事を聞くと一礼して席を外す大輝さん
「それで今日はどうしたんだ? あかねさんってあんまりこういう場所興味があるタイプじゃないだろ?」
「えっと……」
反応があまり芳しくない、こちらを呆然と見つめているだけで、やはり頭がうまく回っていないようだった
テーブルに備え付けられているティーポットを用いて、手際よく紅茶を淹れ、ミルクと砂糖を少々入れ
「とりあえずこれ飲んで」
と差し出す
「え、あ、ありがとうございます……」
ティーカップに手を伸ばし上品な動作で紅茶を飲んでくれるあかねさん
「ほぅ……」
「少しは落ち着いた?」
「あ、うん。ありがとう」
「それで今日は急にどうしてここへ? また会えたのはとてもうれしいけど……」
「えっと……実は雨宮くんがここにいるって聞いたから」
ぼそぼそと恥ずかしそうに言った答えは予想外のものだった
「え? 俺? あ、あと俺のことはアクアでいいから俺もあかねさんって呼んじゃってるし」
困惑する俺に
「だって、あの時ろくに御礼も言えなかったから……」
律儀に先日の礼に来てくれたらしい
「あんなの運が良かっただけだよ。だからそんなに気にしなくてよかったのに……」
「あま、アクア君にはあんなことなのかもしれないけど私はとても助かったの」
その日私は演劇部の舞台の稽古を行っていた
その日は調子がよくついつい調子に乗ってみんなが帰った後も一人で本読みをしていた
切りのいいところまでいけ、役をつかめてきたので満足して帰ろうと思って荷物をまとめ、
稽古場を片付け電気を消したところで
「……あれ?」
急に足に力が入らなくなってしまい天地がひっくり返った
「……ッ」
次の瞬間には声もうまく出せなくなってしまっていた
振り返ってみると本読みに夢中になりすぎて水分補給を怠ってしまっていた
「……」
体も動かず声も出ず意識が朦朧としてきてしまい
(おかあさん……おとうさん……誰か助けて……)
誰かが助けてくれるなんて都合の良い妄想にすがってしまう
しかし、誰も現れずこのまま……そんな恐怖が頭をよぎる
そんな時だった
「……! ……!!」
声が聞こえた気がした
うっすらと目を開けると金色の髪の毛が見えた
(天使さま?)
「気が付いたか? これ飲めそうか?」
彼は手に持つペットボトルを見せてくる
それに対し頷くと安堵した笑みを浮かべ
「ゆっくりだぞ、最初は唇を湿らせるくらいでいい」
ペットボトルをほんの少し傾けると冷たくて少し甘い水が唇を湿らせる
そうして徐々に口に送る水の量を増やしていく
「よかった……何とか間に合った……」
彼は安堵のため息と共に私の手を優しくされど力強さを感じられるくらいに握ってくれる
「もう大丈夫。安心して」
穏やかな笑顔を私に向けてくれた
そのあとは何となくしか覚えていない
「アクア!!」
「……、助かった早く病院へ」
「ああ、……!!」
「……!!」
そうして私は彼に命を救われた
「あなたとお陰で私は今こうして生きて美味しい紅茶が飲めているんだよ?」
彼は照れ臭そうに眼を逸らす
「確かに運が良かっただけかも知れないけれど、それでもアクアくんが私を助けてくれたことに変わりはない」
それでも構わない
「だから……ありがとうございます」
私が今できる最大限の感謝を彼に
「……どういたしまして」ポリポリ
真っ赤になった頬をかく彼は
「でも、本当に良かった」
あの時のように穏やかな笑みを浮かべる
「え?」
心臓が跳ねた
「扉の前を通るといつでも演技部の頑張っている声が聴こえてた」
ドクンドクンと
「その中でもあかねさんの声は綺麗だからよく通っていたんだ」
1秒前よりもずっと早く
「いつも遅くまであかねさんが頑張っている声が聴こえてたから、いつの間にか君のファンになっちゃってたんだ」
あの時よりも顔が熱い
「だからまた君の声が聴こえるようになって嬉しかったよ」
私の目を見て私の欲しかった言葉をその声でその笑顔で私に向けられてしまったら
「ッ!!!」
もうムリ…アクア君大好き…