真・恋姫†無双 外史『劉懿伝』   作:老虎

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乱に起つ

幽州に来てから早一ヶ月が経過した、一刀を筆頭に皆が足りない経験を積みながら徐々に仕事になれつつある。

 

「おい北郷!これ間違ってるぞ!?」

「え!?マジで!」

 

一刀は少しいろいろな面でたくましくなってきた。内政では白蓮に怒られながら朱里、雛里、灯里に教わりながら仕事をして。

 

「うわぁあっ!」

「北郷殿!あまりご無理をなさるな!」

 

軍事では公孫賛軍古参の将である田楷に鍛えられ、少なくともこの時代で生きていける程度には成長してきている。

 

「ふむ・・・・」

 

皆の成長は実感できている、桃香も白蓮について上に立つ者の仕事と言うのを学び始めているし愛紗、鈴々、伽耶は部隊を率いて戦う事を覚えたし朱里、雛里、灯里も実地での知識の使い方を学んだ。

 

「鏡夜」

「戒か・・・・」

 

背後に現れた気配を感じ取れば振り向くことなく俺は言葉を返す。

 

「近頃黄巾をまとった賊が多いだろう?」

「ああ」

「その数が大陸全土で膨れ上がっている、既に50万を超えた。まだまだ増える兆候がある」

「50万・・・・だと?」

 

その数は何なんだ?普通はありえない、賊がそこまでの徒党を組むなんて・・・・

 

「近々、朝廷から討伐命令が出るはずだ」

「動くとしたらその時、か」

「ああ、同時に他の雄たちも動く時だ。大諸侯は更に力を伸ばし無名の者は飛躍の機会となる」

「名を上げそうなのは?」

 

ここでようやく振り向くと、以前と変わらぬ小太りだが鋭い目つきの男が適当な椅子を掴んで座る。

 

「兵力のある袁紹、袁術とそのの客将だがそれに留まらぬ才を持つ孫策、濮陽の劉岱、張邈、併州の丁原、それにここの公孫賛・・・・中常時曹騰の孫、曹操」

 

おおよそ、予想通りだ。特に気をつけなければならないのは・・・・

 

「孫策と曹操か」

「ああ、孫策は家臣団を散らされているが腹心の周瑜、黄蓋、陸遜の三人はまだ手元にある。曹操はまだ手元の駒は少ないがいずれも優秀、おそらくは当人の能力値もあり直ぐに台頭するだろう」

 

孫策は、かつて見た。江東の英雄孫堅の戦場を覗き見た時に別働隊を率い苛烈な攻めを行っていた少女だろう、あれが主君としての資質を身に付けたならば・・・・かなり厄介な相手には違いないだろう。

そして曹操は直接面識がある。陳蕃様に連れられて名族や高官が集まる場に連れて行かれたことがあった、「私たちの夢にとって障害となるかもしれない相手の顔だ、見ていて損は無いだろう」とのことで。そこで俺は曹操と会っている・・・・あの不敵な眼を、忘れはしない。

 

「しばらくはまた情報収集を頼む、急な案件があれば直ぐにな」

「分かった」

 

目の前でその姿がかき消えるのを見れば再び机に向かい合う、さて・・・・そろそろか。

 

――――――

その日、俺らは全員太守執務室に集められていた。まぁおおよそ要件の検討もつく。

 

「だから、お前らにとってこれは好機だと思うんだ」

 

白蓮の言葉を好意的に受け取るならば俺たちが独立し名を上げる好機だと、有り体に言うならばそろそろ出て行け・・・・というわけだ。確かに最近俺たちの名は幽州で広がってきて総合的な名声だけなら白蓮より上だ、そんな連中がいつまでもいると言うのは太守と言う立場上よろしくないのだろう。

 

「ありがとう白蓮ちゃん」

 

口火を切ったのは桃香だ。

 

「ごめんね、長々とお世話になっちゃって。確かに白蓮ちゃんの言う通りこれは好機だもんね、私たち頑張るよ!」

「桃香・・・・」

 

うん、分かる。桃香は白蓮の言葉を極限に好意的に受け取っていて白蓮もそれがわかっているから余計に心が痛むのだろう。

 

「それは構わんが・・・・兵が足らん」

 

約二ヶ月の幽州での生活で俺たちを個人的に慕い集まってくれた連中はいる、がそれでも100に満たない程度だ。粒ぞろいではあるがここからの戦いを生き抜くならばせめて500以上は欲しいところだ・・・・

 

「ならば幽州で募兵して行かれれば良かろう」

「星!?無茶言うなよぉ・・・・私だって兵が必要なんだぞ!」

 

突如口を出す星(趙雲)に白蓮がちょっとだけ顔を青くする。

 

「何、その分は我らが頑張りましょう。なぁ?田楷殿」

「然り、それに劉備殿に募兵の許可をお出しなされば『友の門出に兵を譲った義の人』として評判が上がりましょう」

「うぅ・・・・後の名声より目先の兵力なんだが・・・・あぁもう!わかったよ!好きにしろ!でもあんまり連れてくなよ!?」

 

ちょっとヤケになってるなぁ・・・・

 

「白蓮」

「鏡夜・・・・」

「まぁ長いこと世話になった」

「そんな、ことは・・・・」

 

急に顔を赤くしたなぁ。

 

「こうやって俺らが一歩踏み出せたのも白蓮のおかげだ、ありがとうな」

「う・・・・ぁ・・・・」

「また会おうぜ」

「あ・・・・ああ!」

 

ひらひらと手を振りながら戻ると一刀が「あれがフラグか・・・・」とか呟いている。

 

「さて、厚意に甘えて募兵するぞー!」

『応!』

 

――――――

募兵に応じた人数は3000、まぁ一ヶ月弱の成果としては十分か。白蓮が「お前ら取りすぎだぁああ!!!」とか叫んでいたけどこうなれば聞かなかった事にしてしまおう。

 

「フハハハハッ!だいぶお集めになられたなぁ!」

「確かに、ここまで集まると壮観ですなぁ」

 

ようやく出征、と言う頃合で田楷さんと星が見送りに現れた。

 

「お嬢が兵が足らんと喚いておったがまぁ気にせんでええ!ワシと子龍が何とかするでな」

「うむ、私と田楷殿がいれば3000足らん程度では問題あるまい」

「ま・・・・俺もそう思うよ」

 

田楷さんも星も一騎当千とも言える実力者、先ず多少の戦力の誤差ならひっくり返せるだろう。

 

「世話んなった、直ぐにお前らも出陣だろう?」

「そうなるな、南から上がってきた賊が北に回り込み異民族と手を結ぼうと動いているらしいんでな・・・・お前ら見送ったらこのまま俺らは南を、お嬢が北を押さえ込むと言う事だ」

「すまんな大変な時期に」

「構わんさ、全てはお嬢の判断だ。何・・・・ワシらも自分の言葉には責任持ってやるさ」

 

ケラケラと笑う田楷を見れば何かと安心出来る。

 

「お兄さーん!!行きますよー?」

「おう、待ってろ」

 

遠くから声をかけてきた桃香に返答を返す。

 

「・・・・また会おう、公斥殿」

「ああ、また会おうぜ田楷さん」

 

拳をコツン、と突き合わせて互いに背を翻す俺と田楷。

 

「まったく・・・・男と言う生き物は・・・・」

 

星がその光景を見て微笑みを浮かべていたのを、俺たちは知らない。




今回登場の田楷さんは年齢で30半ばぐらいです。白蓮をお嬢呼ばわりする理由は仕える主だから、とのことです。イメージ的には任侠とかそんな感じです、能力的にはちょっと器用貧乏だけど忠誠心と情熱だけは人一倍なキャラです。真名はいずれ公開する事になりますが。

さて次回予告です。乱世にようやく乗り出した鏡夜とその仲間たち、数多訪れる出会いと再会。その始まり、軍事も政治もなんでもかんでも一人でできちゃうけど身長と胸が足りな「死ねぇっ!!?(in華琳)」あぶっ!?じ、次回ぃっ!『覇王との邂逅』をお楽しみぬぁあああああ!!!「待てぇえええええっ!!!(in春蘭)」

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