死に別れENDばかりのゲームに転生しました。   作:超高校級の切望

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もう一度勇気を出して

 【陣地】。

 陣取った場所。アンデッドがこの世に重ねて生み出す異空間。

 生者を捕らえ、殺し尽くす現世に顕現した死の世界。それに、飲まれた。初期位置はランダムか………。

 場所は、病院。異様なほど壁が広く、天井が高く、薄暗い。

 

「糞が………」

 

 【陣地】を張れるアンデッドが潜んでいた…………訳では無い。これは、たった今『彼岸の園』に殺された少女がアンデッド化して張った【陣地】だ。

 

「糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が糞が!!」

 

 アンデッドにとって【陣地】とはあの世、或いは()()()()………例外を除き生前の人間にとっての『心の写し鏡』。

 つまり、この【陣地】の持ち主にとって世界とは病院である。生まれた時から病弱で、治すには金が足りず、入院ばかり………その少女の死後に救いを求めた母親が『彼岸の園』に()()()()()

 

 そして少女は『世界』にノイズを持たせぬために()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何より一番救えないのは、少女の入院していた病院は長く金を絞るために治せる体を治さなかったというもの。作者に人の心とかないのか。

 

『おちゅちゅうしゃのぉ時間デスよぉ………』

『ささざあふくくをぬぎでぇ………』

 

 現れるのはナース服を着た辛うじて人に見えるのっぽな異形と、ブヨブヨとした人形にはとても見えない白衣を纏った異形。

 

『いだぐしないよぉ?』

「死ね」

 

 伸ばしてきた手を蹴りつける。軟な肉が弾け飛び、剥き出しになった骨が砕ける。

 

『おおおどどなじくしなさいぃぃ!』『すすす愚に住むカラねえええ!』

「っ!!」

 

 当然生物どころかアンデッドですらない異形共は痛みを感じることなく反撃してくる。

 この異形共は、この世界の主にとって消し切れない恐怖の象徴ということだろう。

 

『げげんげんきになぁってぇ、おおかあさんをあんししんさせよよねえええ』

「────!!」

 

 怒りが湧く、殺意が溢れる。

 刀身に刻まれたラインが光る。

 

 

 

 

「ようやく死んだか」

 

 創造主のイメージを、俺の出力が上回った。漸く殺せた。

 無駄な体力を使って、馬鹿が俺は。

 

 

『おおかあさんをあんししんしせよよねえええ』

 

『おかあさん!』

 

 

「…………糞」

 

 とにかく、この【陣地】の創造主を見つけて殺さなくては。

 

「ふん!」

「っ!?」

 

 入院していた部屋が中心だろうと探そうとすれば、物陰から飛び出してきた何者かに殴られる。強化人間であり、変身している俺にダメージを与える鉄の腕。

 

「義手か」

 

 再生医療が発達したこの時代において、新しい腕を生やすより高いそれを行うとすれば、理由は2つ。

 趣味か………実用性。

 

「我等の御子を返してもらおう。あれは不死を否定する者共が触れて良いものではない」

「死ににくいだけの出来損ないの不死のために、千人万人を殺す化け物を保護してたまるか」

「貴様………!」

 

 ガキョンと義手の一部がスライドする。

 床が砕けるほどの踏み込み。拳が激突すると同時に、スライドした機構が再び起動し電磁波を発生させる。

 

「ぐっ………!!」

「おお!」

 

 一瞬の体の痺れ。腹を蹴りつけられる。生体装甲とぶつかり金属音が鳴った。義足か。こいつ、体の何割かを機械にしてやがる!

 

「千人死のうと万人死のうと……知るものか! 向こう千年人が死ななくなれば、犠牲になったものも報われる」

「千年後の人類が報われようがしったことか。何より、アンデッドのみが蔓延る世界が()()()()()()()()()()()()………」

 

 アンデッドが世界を覆えば世界は輪郭を失い解ける。生き残れるものは極一部の存在だけ。それすら知らずに死から人類を救えるなどと思い上がりやがって!

 

「てめぇ等のくだらねぇ自滅にあの子を巻き込むんじゃねえよ!」

「ぐっ!」

 

 顔面を殴りつけ吹き飛ばす。

 壁まで吹き飛び、しかし壁は罅一つはいらない。

 

「やっぱ壊せるとしたら俺達ぐらいか……」

 

 少なくとも装具を持たない人間では逃げ出せない。いや、マナコなら可能か。

 マナコは特別な存在だ。

 それは間違いない。だが、子供だ………世界を救う力なんてない、14歳の世間知らずの子供。

 

「アンデッドを崇めてアンデッドに利用されてるだけのくせに………」

 

 そもそも『彼岸の園』の真の支配者はアンデッドロード数体を束ねるオーバーロード。

 知性はあるが、アンデッドの本能は変わらない。人類を救う気なんてあるわけがない。

 

『おおおはよう』『きょうははいいてんきぃいいですよお』『よるはほしをみみようねえ』

「ちっ…」

 

 壁から生えるように現れる異形の群れ。流石にこの数は、無理だな。逃げるか………

 

 

 

 

 もう怖い思いをしなくて良い、そう言っておじいちゃんは頭を撫でてくれた。

 気づかなくてごめんなさいと、おばあちゃんは抱きしめてくれた。

 でも二人共、お母さんを悪く言う。

 

 違う。違うの………悪いのは僕なんだ。お母さんは悪くない。

 言いつけを守れない僕を叱っていただけ。

 

「ああ、ごめんなさい秋良。痛かったわよね………大丈夫………?」

 

 僕を殴って、怒った後、何時もお母さんは謝ってくれる。抱きしめてくれる。撫でてくれる。

 悪いことをした僕を、許してくれる。

 だから、あの日も………お母さんが化け物になったあの日も僕が悪いんだ。

 お父さんを怒らせたから。お父さんに逆らったから。

 殴るだけで許してくれないお父さんの、子供になんて生まれたくなかったって叫んでしまったから。

 

 お父さんは僕を蹴って、僕が悪い子に育ったのはお母さんのせいだって叫んだ。お母さんに殴りかかって、お母さんも殴り返して、お父さんは包丁を持ってきた。

 お母さんを刺した。お母さんはお父さんを突き飛ばして、二人とも倒れて………

 

 

「あ、こども……」

「………え?」

 

 ペットでも飼ってみたいか、と祖父に連れられてあるビルに来た秋良は、気が付けば薄暗い病院にいた。

 困惑しながら祖父を探していると女の子と出くわす。自分より年上の女の子は、じっと此方を見つめてくる。

 

「あ、あの……」

「しっ!」

 

 女の子は秋良の口を抑えると病室に飛び込む。

 困惑し固まる少年の耳に、不意に音が聞こえた。

 

『せんせえがおよびですよおおお? かかくくれてないでておいでえ』『どこににいるのかかかかな』

 

 ズチャ、ビチャと不気味な音を立て廊下を通る何か。扉の曇ガラスから見えた影は、異様な形で異様な大きさ。

 やがて音と声が聞こえなくなると、ようやく女の子は秋良を離してくれる。

 

「………な、何今の?」

「………おばけ?」

「おばけって………アンデッド?」

「あんでっど……ん〜……そうかも?」

 

 なんか、子供みたいな人だな、と思った。歳上なのに、なんだか態度が幼いと言うか……。

 

「…………」

「!? な、なんですか………」

 

 と、不意に女の子は顔を近づけてスンスンと匂いを嗅いでくる。そのままじっと見つめてきた。

 

(………あ、目が………)

 

 赤の左目と金の右目。不思議なその色合いに、吸い込まれそうになる。

 

「…………あなた、おかあさんににおいがにてる」

「お、おかあさん………?」

「わたしのおかあさん! でも、なんかちがう? おかあさんはね、もっとわたしににたにおいなの」

 

 いいでしょ、と自慢するように胸を張る女の子。お母さんと、仲がいいのだろう。それは………羨ましいな。

 

 

 

「これは、【陣地】か………」

 

 正継は元墓守だけあり、その状況をすぐに理解する。

 アンデッドの生み出す()()()()()()()()()()、アンデッドの思想世界。

 広さも時間の流れも形もアンデッドによって違う。

 窓の外は一見存在するが、開かないし割れない。病室のドアの窓は割れた。ただし、壁には傷一つ付けられない。

 

 闘病生活が長かったのだろう。硝子は割れるものと認識しているが、病院から外には出られないとイメージが固まっている。

 

「………とにかく、隠れなきゃな」

 

 今の自分になにか出来ることなどなにもない。下手に動けば、死ぬだけだ。隠れてやり過ごせ。死にたくはないだろう。

 

「あんなのは、二度とごめんだ………」

 

 巨大な異形に飲まれ、闇に包まれ、押し潰される。

 死を目前に感じた。死が迫っていた。あの時の恐怖は、決して忘れない。

 

「………出口を探すべきか?」

 

 【陣地】から抜け出す方法は主に2つ。一つは【陣地】の主たるアンデッドを倒すこと。これは現実的ではない。

 もう一つは、出入り口を探すことだ。

 アンデッドの【陣地】は必ず現実世界と繋がっていて、そこが出入り口として存在する。

 

 ただし何処にあるのかはアンデッド自身も理解していない。見つければ出れるが、見つけられるかはかけだ。

 

「きゃあああああ!!」

「っ!!」

 

 悲鳴が、聞こえた。子供の悲鳴だ………。

 それで? だからどうしたというのか。出ていって、何ができる。

 

「やだ、やだ! 誰か、助けて!」

「……………無理だ」

 

 何も出来ない。この場に隠れてやり過ごすしか、今の自分に出来ることはないのだ。

 

『でも逃げたってどうにもならないですからね』

 

「────くそ!!」

 

 その言葉を思い出し、飛び出す。

 行って何もできないくせに、自ら力を手放したくせに!

 悲鳴が聞こえた場所では、子供が襲われていた。新作ペットの発表会があったのだ、子供はあの場にたくさんいた。

 

『りはびりびりりいいがんばりましょね』

「させるか!」

 

 今まさに掴まれそうになっていた少女を抱き抱え跳ぶ。床を転がりながら立ち上がり走ろうとして、何かに足を取られ転んでしまう。

 

「なん、だよ…………っ!!」

 

 それは死体だった。手足を千切られた、墓守の死体。変身する暇がなかったのか、変身が解けたのか………細かく散らばった死体。

 思わず息を呑む。と………

 

『ちゃちゃんと、りびりはびり………』

『がんばるましょおお』

 

 もう一体現れる。挟まれた………逃げ場は、無い。

 

(……やっぱり隠れてりゃ良かった)

 

 後悔しても、もう遅い。

 葬儀社では後悔しないように生きろと言われていたか。死後の未練はアンデッド化の可能性を引き上げるから。

 葬儀社?

 

「…………………」

 

 死体の左手首が落ちている。装具は、壊れていない。

 

(………馬鹿か、俺は)

 

 なんとか隙を見て逃げようとするほうが、まだ生存できる。ただし、それは一人だけ。

 

(………戦うのが、怖いんだろう)

 

 カチカチと歯を鳴らすのは少女ではなく自分。逃げ出したい、死にたくない。

 でも、【PLAIN(プレイン)】タイプの装具の生体認証は、使用者側の肉体を調整することで行われる。

 

「………くそ!」

『たくたくあん……たくさんあるこうねええ』『すとれっちてつててつだうよ』

 

 大型の異形。怖い、逃げたい。食われたくない!

 でも、逃げたってどうにもならないんだろ!?

 

「頼む………俺に、勇気を………」

 

 

 

「変……身!!」

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