死に別れENDばかりのゲームに転生しました。   作:超高校級の切望

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勇気を出した者

 伸びてくる異形の腕を蹴り上げる。骨が砕け、肉が千切れ、鮮血が舞う。

 

『いいうこととこと危機ききなささい!』『けんここうになれなれななな!!』

 

 『治療行為』を邪魔されたのがよほど癪に障ったのか、醜い容貌を歪め叫ぶ異形。

 

「っ!!」

 

 竜ほどではない。

 それでも人を遥かに超える巨体は、正継のトラウマを刺激する。

 

『すすとれすとれっちぃぃ!!』『りはりりはびりをぉぉ!』

 

 捕まれば文字通り体を伸ばされ引き千切られる。

 周りの死体を見れば、それは一目瞭然。

 

「ひぃ………!」

「………大丈夫だ」

 

 こういう時、生体装甲に表情がなくて助かった。今の自分は、子供を安心させるどころか不安がらせる情けない表情になっているだろうから。

 

「俺に、任せろ!」

「………うん!」

 

 ああ、糞。怖い、逃げたい。でも、そんな風に元気よく返事されちゃあ逃げられないよな!!

 

『あしをまげげ!』『うででのばしゅ!』

 

 人の頭を簡単に握り潰せそうな手が迫る。回避し、肘に剣を振るう。バランスを崩し倒れる異形が斜めに裂けた大口を開け、思わず体が固まるが幸いなことに額にぶつかり吹き飛ばされるだけですんだ。

 

「つ、ぐぅ………」

『やわわ!』

 

 叩き潰そうとしてくる手を横に飛び避け、懐に入り込み引き金を引く。

 

『ぐぽえ!!』

 

 【陣地】より生まれた異形は原型をとどめぬ程に破壊するか【陣地】の(あるじ)が死んだと思うような傷を与えると死ぬ。

 逆に言えば、胸から上が銃弾で吹き飛び首が千切れようと【陣地】の(あるじ)が死なないと思えば、その程度では決して死なない。

 

『からだを、のばば!』

「がっ!」

 

 抉れた胸が新たな口となり、肩辺りからギョロリと目が生まれる。そのまま張り手で壁に叩きつけられる。

 

「っ…………ぁ………!」

『あししをあしをひら鮃………ひらいて!』

 

 ギリギリとプレス機のように壁に押さえつけられながら、手が足に伸びてくる。もう一体は、少女に向かう。

 

『あは………!』

「!!」

 

 ガバリと傷口が変化した大口が開く。竜に飲まれた時を思い出し、恐怖が体を縛る。

 

「ひ、や………いや!」

「!!」

 

 だけど、自分には戦う力があるのを思い出す。指に力を込め、壁にめり込ませる。

 亀裂が走り、異形の力によって砕ける。

 

『!?』

 

 バランスを崩した異形の手首を掴み、引き寄せる。呆けた顔にドロップキックを食らわせた。

 グチャリと不快な感触とともに、異形がもう一匹めがけて吹き飛ぶ。

 

『ガア!?』

『グギ!!』

 

 ゴロゴロと転がる異形共。2匹纏めて、剣で突き刺す。

 

『アギイイイ!!』『ガギャアアア!!』

 

 最早人の言葉を取り繕わず悲鳴を上げる異形の体を切り裂き、再生しないように小さくなったパーツを蹴り飛ばす。

 

『グギャアアア!』『ガアアア!』

 

 斬られた箇所から牙のように肋が生え、慌てて回避する。異形共は互いに骨を突き刺し肉を食らい、混ざり合う。

 

『『りりはりはびりの時価じかん………せんせいが予備よんでで………さざあ、今日もおへやや(やに)』』

 

 更に人から外れた姿。辛うじてナース服のようなものを着ていたから『この病院の職員』だと思ったが、この【陣地】にとって病院の職員はどれだけ醜悪に写っていたのか。

 

 不治の病による不信感から死神でもイメージした………訳ではないのだろう。

 どちらかと言うと………あまり子供が体験すべきではない事柄を連想させる造形だ。正直、後ろの少女にはまだ理解できないだろうが長い間見せたくない。

 

『『ききききょうもせんせいとなな中々なかよくくく!!』』

 

 縦に裂けた口が肋の牙に己の血を滴らせ迫る。口が、迫る。死が………迫る!

 

「るううあ!!」

 

 その恐怖に抗いながら剣を振るう。放たれた斬撃は床や天井事異形を切り裂いた。

 

「…………え?」

 

 思った以上に出力が出た。

 装具の性能が良かったのか? いや、自分が使っていたのより下の筈…………。

 何で?

 

「す、すごい…………」

「と………!」

 

 聞こえてきた声に正気に戻り異形を睨む。回復せず、崩れて消えた。どうやら殺せたようだ。

 

「………大丈夫か……? ああ、いや………違うな」

「…………?」

「もう、大丈夫だ………」

 

 安心させるように声をかける。正直またあれが来たら勝てる自信はないが、それでも眼の前の子供を安心させなくてはならない。

 

「………ほ、本当に?」

「ああ、見ていただろ? 俺は強いんだ……」

 

 こういう時、墓守の姿は便利だ。表情が見えないし、それに………ちょっとかっこいいと正継は思っている。子供を安心させるにはやはり強そうな見た目が良いだろう。

 

「隠れて、待っててくれ。俺がこの世界からお前達を出してみせるから………それまで大人しくしててくれよ?」

「うん………! わ、私! ちゃんと、待つ。お兄さんが、ここから私達を出してくれるまで………」

「良い子だ……」

 

 正継は少女を物置に隠す。

 あの異形は、それほど索敵能力は高くない。何度か隠れてやり過ごせた。

 

 【陣地】の(あるじ)()()から逃げたかったのだろうな………。

 もしも()()の呪い付きなら、それはつまり自ら作り出した終わりなき悪夢に己自身を閉じ込めてしまったということ。

 

 正直逃げたい。美波葬儀官もいるのだから、彼女に任せて隠れているのが一番安全だ。でも………

 

「子供に期待されちゃ、裏切れないよな…………」

 

 怖いさ、逃げたいさ。自分がやらなくてもと、心の中で自分が甘く囁く。

 

「………逃げたってどうにもならないらしいからなあ」

 

 全く耳が痛い台詞を吐いてくれたものだ。

 子供の期待を背負った上にあんな事を言われてしまえば、怖い怖いと震えてなどいられるものか……。

 

 

 

 

『あそぼ棒ぼぼ!』『えんえんにぃ!』『すく空くくわれ!』

 

 襲いかかってくるアンデッド共。時折異形とも殺し合っているそれらを刻み、打ち抜き、砕く。

 幸いあのカマキリモドキレベルのアンデッドはいない。いたら詰んでた。

 

「……………」

 

 新しい死体はない。

 どれもこれも死後数分は経過している。鏡華が約束を果たしてくれたのだろう。

 後で何を要求されるか………。前回はどうせ治せるのだからと片手を要求されたな………。

 

「っ!」

 

 と、グチャグチャの死体ばかりの中で、原型を保っている死体を見つけた。老人の死体だ。

 

『があああ!』

 

 生者たる俺に反応して立ち上がる。長い間人で居た老人の異形化は遅い。ギョロリと血走った目を向けてくる。

 

『じゃあああああ!!』

「ふ!」

 

 すれ違いざまに頭部を斬り裂く。そのまま体も刻んだ。

 

「…………? この死体」

 

 バラバラにしてしまったから分かり難いが、目立った外傷が胸だけ。

 一瞬だが服が乱れているようにも見えなかった。薄暗いから確証はないが………反応される前に殺したのか?

 少なくともこれまでであったアンデッドや異形の類ではない。

 

「!?」

 

 と、不意に聞こえた足音に振り返り銃口を向け………墓守?

 

 そこにいたのは墓守だ。ただし、纏っている服は一般のもの…………

 

「って、正継さん?」

「佐々木葬儀官か………!」

 

 その服は正継さんのだ。

 装具は肉体に認証受容体をつけて初めて使用可能になる。使えるとしたらそれを持つ墓守か元葬儀官だけ。

 当然正継さんは使える。使えるが…………。

 

「…………やっぱ、犯罪だよな?」

「緊急避難として俺から上に報告してみます」

「ああ、頼む………」

 

 と、本気で困ったように言う正継さん。

 

「………大丈夫ですか?」

「大丈夫なもんか。怖ぇよ………でも、今は逃げたくないんだ」

 

 正継さんはそう言って、拳を強く握りしめた。何があったのかは解らないが、考えを改めたらしい。

 震えながらも、勇気を出して立ち上がった。

 かっこいいな………。

 

「それより、【陣地】の(あるじ)の居場所はわかるか?」

「いえ………ここはどうにも、広すぎる」

 

 中庭が見つけただけで12箇所あった。病棟の数も明らかに普通ではない。時折見かける地図は目茶苦茶で宛にならないし、廊下だってまるで迷路のようだ。

 

「とにかく地道に探すしか……っ!! 分隊長!」

「分隊長じゃないがな………ああ、足音………子供だ」

 

 子供………鏡華が一般人を避難させたのなら、ここにいるのはアンデッドか…………

 

「あ、おかあさん!」

「マナコ………!」

「おかあさ〜ん!」

 

 変身していても解るらしい。俺の方にかけてくるマナコを受け止め抱きしめる。怪我はしてないようだ。信者共に見つかってないようで良かった。

 

「おかあさん? ま、まあいい………君も大丈夫か?」

 

 そう言って正継さんはもう一人の子供にかけよ………子供?

 

「っ! 今すぐそいつから離れろ!!」

「え?」

 

 ベキッと子供の顎が砕け口が腹まで裂ける。傷口の縁には鋭い牙が生え揃い、正継さんを噛み砕いた。

 

「!!」

 

 噛み砕いた。前回のように、飲み込まれて助かるなんて希望はない。ガリボリと音を立て咀嚼する子供を見てマナコを抱えたまま慌てて距離を取る。

 

「………は、墓守……お前達、墓守!!」

 

 メキメキと音を立てながら姿を変える。皮膚が俺達のように、しかしより生物的な生体装甲へと変化し、口が突き出て触手が生える。

 以前の息子食いアンデッドを人型に近づけたかのような見た目。ていうか、人間だった頃の容姿………あのアンデッドの子か!?

 

『よくも僕からお母さんを奪ったなああああ!!』

「っ!!」

 

 慌ててマナコを病室に投げ入れる。同時に、アンデッドが接近する。

 

「はや──!!」

『があ!!』

 

 咄嗟に剣で受け止めるも、触手に吹き飛ばされる。

 膂力もとんでもねぇ………!!

 

『お母さんを返せ………返せよ!!』

 

 言葉の端々から感じる怒り、瞳に宿ったゴキブリや生ゴミでも見るかのような嫌悪感。

 

「お前の母親なんて知らねえよ」

『嘘をつくな! おじいちゃんが、おばあちゃんが言ってた! 墓守が、お母さんをつれてったって!!』

 

 会話が成立している。

 ()()がある。最悪だ………

 

中級不死者(ミドルアンデッド)……こんなの、小説に載ってねえぞ……!」

 

 竜よりもなおたちが悪い、知恵持つ不死者。

 知性を持たない【呪い憑き】はそれなりにいるが、【呪い】を持たない中級不死者(ミドルアンデッド)もそれなりにしかいない。

 どう考えても平隊員の俺が相手しちゃいけない怪物が敵意を持って睨みつけていた。

 

 


 

 

この世界は残酷だ

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