死に別れENDばかりのゲームに転生しました。 作:超高校級の切望
天藍家の異能は『空』と呼ばれる大気の屈折率の操作。
蜃気楼、陽炎などの幻惑から、圧縮した太陽光による攻撃。高い空間認識能力を必要とする異能だ。
当然脳もそのように改造され、子孫にもその特徴が受け継ぐよう製造されている。時折在野から空間認識能力の高い物を見つけて血に取り込み、そうして力を高めていた。
だから天音も高い空間認識能力を持ち………しかし干渉力が低かった。もちろん在野で血の薄まった異能者や、歴史はあれど異能名家以外の異能家系の者達に比べれば高い方だ。だが異能名家としては弱い。
特に、数年前佐条で生まれた少女は処理能力が低く細かい制御は苦手とするが、破壊力は天災と称される姉にも決して劣らない。
細かい操作だけなら出来る天音とは正反対。
だから比べられた。
そして、下に見られる。自分よりも弱い存在にさえ、劣る存在だと笑われた。
家族は………いっそ見捨ててくれればいいのに、弱い天音を保護対象として見ていた。
『民を守る』。それが天藍の遺伝子に刻まれたあり方。要するに、天音は共に肩を並べる存在ではなく、守ってやらねばならぬ無辜の民の一人と判断されたのだ。
見捨てられる方がマシだった。見放される方がマシだった。
優しさが憎い。優しさが辛い。いっそ嫌われたくて、敵を作るような性格を演じて………それでも離れない家族と、敵愾心を持ってるくせに絡んでくる周りの連中。
家族が嫌いだった。
周りが嫌いだった。
自分自身が、何より嫌いだった。
家族の心配を余計なことと感じてしまう自分が。
周りを見下して安心しようとする自分が、大嫌いだ。
価値を見出したくて、人類の、世界そのものの最大の脅威であるアンデッドと戦う墓守になるべく養成所の門を叩いた。
そんなある日、彼女はある男と出会う。
養成所の、一つ年上の先輩。これと言って成績がいいわけでもない………平均的。
だけど顔がいい。
一目惚れだ。
目茶苦茶好みの顔だった。
最初は、それだけ………。
人との接し方を忘れた自分を、それでも拒絶しなかった。天音の対応にも問題があるだろうに、不当な差別は文句を言ってくれた。
死なないために力を求めたと言いながら、その癖言い訳ばかりして人の命を切り捨てられない人だった。
数人の先達と共に
異能の出力は家族の中では最低なのに【呪い】への適性は高かったらしく、異能と【呪い】を合わせアンデッドを倒した自分に「ほらな……」などと言っていたが、【呪い】への適性なんて装具を纏っても分かるものではないのだ。ただの偶然、何を知ったかぶっているのか。
そう詰った天音に、彼は笑った。
「でも助かったろ、ありがとう。お前のおかげだ…」
別に、あれはきっかけに過ぎない。
だって、見てきたから。死にたくないくせに自分を優先しきれないあの人を………特別強いわけでもないのに、とても強いあの人を………。
「お前ごときが、この人を語るなああああ!!」
空間断裂。
万物の硬度を無視して切り裂く無双の刃。それは、しかし死者の王の纏う現実改変を前に脆く崩れさる。
『あらあら、じゃあ貴方はその子をどれだけ理解しているの? 優しいのなんて、出会ったばかりの私でも解るわ?』
駄々をこねる子に語りかけるように、困ったような声で語りかけてくる死者の王。その語り方を、天音は知っている。
自分より弱い存在に気遣う、強者の語り方。何処までも神経を逆撫でしてくれる!!
「ルート」
死者の王の頭上に光り輝く四角の線が現れ、中から崩れかけのビルが落ちてくる。
超質量攻撃。並のアンデッドなら、この力任せでそれなりのダメージを与えられる。アンデッド一体葬るのにここまでしなきゃ人間はダメージを与えられないのだ。
そして、例えアンデッドの力に手を染めようとも死者の王には通じない。
『うふふ。転移させた物にも、【呪い】を纏わせているのね? とっても器用』
「チッ」
溶けるように腐り落ちるビルの瓦礫。死者の王は、当然のように無傷。長い髪がかかり腐肉の滴る顔から覗く目が天音を捉え………
「え、きゃ!?」
足に鎖が絡みつき、引っ張られる。鎖を巻き付けたのは隼人。
「いきなり何を!?」
「避けろ馬鹿!」
ジュワッと死者の王と先程まで天音が居た場所の直線上に浮いていた瓦礫が溶け崩れる。【腑廢の呪い】……何の前兆もなく? いや……
「見えてるんですか?」
「数秒先の死因が見え…………うえええ!」
と、その場で崩れ落ち吐き出す。ただでさえ足場が少ない瓦礫が汚されていく。能力の副作用? それにしたって、【呪い】や異能の気配を感じない。
「げふ………うっぷ………ただ、死に遠い要因には効果が薄い。あれは、全部が全部即死級だけどおおおお!?」
と、浮泥の中から飛び出した腐った蛇のような何かに足を掴まれる隼人。あれは、腕?
伸びるのか………。
『うふ、ふふふ。無理は、いけないわ? 今の貴方では理解しきれるものではないもの』
「何を……!」
『教えてあげない。貴方にだって、理解できないもの』
隼人が苦しんでいる姿を自分は理解しているとでも言いたげな死者の王に思わず舌打ちする天音。
「ふざけんじゃないですよ…………深く知ってれば優先されるんですか? 知ってることが少なきゃ、諦めなきゃならないんですか? 幼馴染なら結ばれて当然? 分かり合ってる奴が先にいたら、解ろうとしちゃいけませんか? そんなの、絶対認めるか!!」
【呪い】を圧縮。線………いや、点!
「ピリオド」
空間そのものが歪み放たれる球体。万物を削り取る一撃は死者の王に僅かな、ほんの僅かな傷を付けた。
『…………あら』
ゾワッと世界そのものが塗り替えられるかのような違和感。隼人は咄嗟に天音の前に立つ。
理由は不明だが気に入られている。腐らせないように気を使われている。その気になれば全方位を腐らせる死者の王が一方向にしか【呪い】を放たないのはそれが理由だろう。
『優しい子………でも、無理よ?』
「────ぁ」
と、天音が倒れる。外傷は、ない………。
『どれぐらいから貴方にも効いてしまうのか解らないけど、この程度ならさっきも試したし……問題ないようですね』
「精神の腐敗………!!」
隼人の肉体はともかく、精神面においては【呪い】への高い耐性を有する。精神のみに影響する【呪い】を放てば、隼人のみを対象外とした攻撃になる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「か、ぅ………あ………」
装具による多少の耐性向上故に精神腐敗を完全に起こしてはいないが、時間の問題。どうする? どうすれば!?
──貴方の魂………私達の影響を受けないのね? でも、貴方が自身のルールを持っているからでもない──
ふと、先程の言葉を思い出す。
この世界の【呪い】のぶつかり合いとは言ってしまえば思想概念のぶつかり合い………独立しきれない独自世界同士の潰し合いだ。
より強い世界が此の世界を染め上げる。
そして、この発言からして俺の魂を守る独自概念は………恐らく前の世界の……正真正銘一つの世界の概念。
もちろんアンデッドは世界を塗り潰す最悪そのものだが、生まれた此の世界の概念は認識出来ても俺の世界は認識できない。
「鵺!」
〘応! 逃げるかぁ!?〙
「俺を食え!」
〘…………はい?〙
鵺があげる疑問の声を無視して、短剣に変え左腕に突き刺す。
所有者が俺と判断されている以上、武器であるこいつは俺に従う。変質型の【呪い】………【強化の呪い】を己の腕に流す。
位相のズレた概念。異なる思想世界を流し込まれ、肉体が拒絶反応を起こし全身の神経に焼けた鉄を塗りたくるかのような激痛。
鼻血や血涙が吹き出す。
「もっと寄越せ…………!」
此奴は触れた存在を嘗ての主と同じ形のアンデッドに変質させるだけの【呪い】がある。俺の肉体は、精神ほど【呪い】に耐性がない。
腕が変質し、形作られる赤鬼の腕。俺自身と融合している。これは、賭けだ。
「づぅ………ああ!!」
放つ熱線。
それは…………無傷。そりゃそうか、俺のその概念は精神面に絡みついている。物理的攻撃力に変えられるなら、とっくに効いてる。
〘そうね、使い方はそうじゃない………〙
「は?」
突如聞こえた聞き覚えのない声。左腕が勝手に動き、緋佐奈に向けられる。
再び放たれる非実態弾。色は、黒い。
『!?』
黒い球体状のエネルギー弾は寸前で膨張し緋佐奈の身体を飲み込み…………
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「驚きましたね…………」
体の表面を削り取られた緋佐奈は人の姿に戻り、腐泥の上に浮かぶ隼人に歩み寄る。
腐泥の上に立ち、ジッと隼人を見つめ………
「ふふ。今日は諦めましょう………それにしても、貴方も随分厄介な存在に目をつけられたようで………」
と、夜空に浮かぶ月を眺める。
「私、貴方のことが好きになりそうです。だって私達は、とても似ているもの」
自分より他者を優先してしまうその歪な在り方が。
より大きな存在に運命を決められてしまう生き方が。
『緋佐奈………』
「あら、ヨーちゃん」
と、新たに現れたアンデッド。緋佐奈の【呪い】の気配が満ちたこの場で、特に不快感を感じている様子も見せない事から、相応の【呪い】を持つアンデッドということだ。
『勝手な行動はするな………ここは、良い飼育場だったのだがな』
「あら、でも向こうで強い子がいたわ。どのみち被害は出ていたと思うの」
『…………佐条の天災か』
と、肩を竦めるアンデッド。
『それで………そいつは何だ?』
「………さあ? でも、何時かは貴方の願いも叶えてくれるかもしれないわ」
『………私の願いは、私が叶える。他の手など借りない』
「あら、あんなものを利用してるのに?」
『そうとも………利用しているんだ、私が』
だから私が叶えている。そういうアンデッドに、緋佐奈はニッコリと微笑む。
『私は私の世界を手に入れる。この世界が私達を拒絶するなら、此の世界を壊して……その恩恵も分けてやる。大人しく従え』
「はぁい、王様」
緋佐奈は笑みを返し、歩き出す。ふとアンデッドが隼人に目を向ける。
「どうしました? 顔が好みでしたか?」
『お前は何を言っているんだ。ただ………御子の母親代わりをやっている存在として、顔を知っていただけだ』
「あらあら、お母さんなのですね……ふふ、そんな人と特別な関係になりたいと思ってしまうなんて、なんだか背徳的………」
『…………人と死者が共にある世界を作るためにも、『彼女』を完成させる』
「でも、どうするの? 序列1位は月から出るかわからないけど、2位と3位は現状維持派………『彼女』は勝てるのかしら?」
『勝たせる………』
その言葉に緋佐奈は目を細める。
「フフ。まあ良いわ………ところで、計画にこの子を使ってみない?」
『何だと?』
「
『…………思う、なんて曖昧な理由で計画を変えるわけがないだろ』
「残念」
緋佐奈は本当に残念そうに肩を竦め、アンデッドとともにその場から立ち去った。
佐々木隼人の追加情報
顔がいい!!
ちなみにこいつ別に天音が【呪い】に高い適性があるから異能と【呪い】を混ぜ合わせる、なんて知識はなかった。
死ないためならこれから虐殺が行われると知ってる場所から離れるけど悲鳴が聞こえたり知り合いがいると戻ってしまうタイプ。
死にたくはないが、無意識に自分の命の優先度を下げている