Butterfly Effect   作:オルタンシア

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第三話

.

 

 

 

 

収容人数が200人ほどの、小さなコンサートホール。

そのホールを貸し切って、中学生のアマチュアバンドが、ライブを行っていた。

締め切られたドアの向こうから微かに聞こえてくる、プロにも負けないであろう歌唱力。

それを引き立てる、ぎこちないながらも情熱が込められた、楽器が奏でられる音。

そしてそれをかき消すほどの、黄色い悲鳴。

そっと覗けば、籠っていた音が一気に解放され、タケルの耳を劈いた。

思わず肩を竦め、片目をギュッと瞑った。

赤、青、黄色のスポットライトが上下左右に動いたり、点滅したりして、ライブ会場を盛り上げている。

薄暗いが、この会場に入っている観客のほぼ全員が女子であることは、確認済みだ。

彼女たちが手に持っているペンライトが、色とりどりに光って左右に激しく降られている。

相変わらず、よくおモテになるようで、とタケルは苦笑いを浮かべた。

ステージのど真ん中、スタンドマイクを陣取り、肩にかけたギターをかき鳴らしながら美声を発しているのは、タケルの実兄である、石田ヤマトだ。

名前こそ日本人らしいが、2人ともフランス人の血を引いているためか、日本人離れした容姿である。

目は青味がかっており、髪も祖父や母と比べるとくすんではいるが、金色だ。

だが生まれも育ちも日本であるため、幼い頃は周りと違うのが嫌で、外では殆ど帽子を被って過ごしていた。

幸い髪や目の色のことでからかったり、いじめてくるような子はいなかったものの、両親の離婚という出来事も相まって、“他人の目”というものを、タケルは異様に気にしていたのだ。

それを気にしなくなったのは、やはり3年前の“あの冒険”が大きいだろう。

自分は自分らしく。ありのままのタケルを認めて、受け入れてくれた、大切なパートナー。

闇に浸食された“あの世界”の平和を取り戻し、1度は離れ離れになってしまったが、“あの世界”に再び訪れた危機によって、タケルは晴れてパートナーとの再会を果たした。

新たな仲間と、進化と共に。

 

「ふう……」

 

そっと扉を閉める。

再び音がこもり、静寂が廊下を包んだ。

目の前の窓ガラスの方に歩み寄り、何を見るでもなく外の景色を眺める。

小さく息を吐き、それから腰の方に手を回した。

シャツをまくり上げて、ズボンにひっかけていたものを手に取る。

見下ろす。そこに見慣れた、薄い水色がかった白の、小さな機械はなかった。

あるのは卵をひっくり返したような形で、左右に緑色の持ち手のような装飾があるデバイス。

3年前、子ども会のキャンプに飛び入り参加した際に、空から降ってきたデジヴァイスが変化したものだ。

つい先日、新たに選ばれた大輔、京、伊織と共に“あの世界”……デジタルワールドに赴いた時、デジモンカイザーとの戦闘になった。

その際、大輔達3人は新しい進化である“アーマー進化”をして戦ったのだが、パタモンは進化をすることができず、テイルモンも力の源であるホーリーリングを紛失してしまったために、共に戦うことが叶わなかった。

タケルとヒカリも、逃げることしかできなかった。

まるで3年前の再現のような絶望感に苛まれた時、タケルとヒカリの元に届いた一筋の希望の光。

大輔と京にデジモンカイザーを任せ、伊織と共にデジヴァイスの反応が示した先へと赴けば、そこには大輔達が持っているのと同じオブジェ、デジメンタルがあった。

最初は他にも選ばれし子どもがいるのかと思ったが、そのデジメンタルに掘られた紋章がタケルとヒカリの紋章である、希望と光だったため、2人は一縷の望みをかけてデジメンタルに手を伸ばした。

デジメンタルは、持ち上がった。

その結果、タケルとヒカリのデジヴァイスは太一達と同じものから、大輔達と同じものへと変化した。

タケルとヒカリは、再び“選ばれし子ども”となったのだった。

 

 

 

「……つまり、差し当たっての問題は、ゴツモン達の隠し場所というわけだな」

 

ヤマトが言う。

ライブが終わり、観客の女の子達も殆ど残っていない廊下で、タケルは昨日あった出来事を兄に話していた。

デジモンカイザーに囚われていたデジモン達を解放したはいいものの、そのままにしておけばまたデジモンカイザーに狙われると、その日に引率していた太一の独断で、囚われていたデジモン・ゴツモン複数体を現実世界に連れて帰ってきてしまったのだ。

光子郎は苦言を呈したが、太一の正論に反論できず、かといってこのままにもしておけず、ということで、タケルはヤマトに相談したのである。

 

「お兄ちゃん、何処かいいところ知らない?」

「そう言われてもな……」

 

弟に頼られて嬉しい反面、困惑もしている。

デジモンが現実世界に及ぼす影響を、弟も知らないはずがない。

3年前、お台場をめちゃくちゃにしてしまったのは、他ならぬデジモンだ。

デジモン達が発する強い電磁波で、お台場の電子機器等は軒並み使い物にならなくなってしまった。

今は何とか復興し、3年前の電波障害がまたいつ起こった時のために、という対策も取られてはいるが、犬や猫のようにそこら辺の空き地に匿う、なんてリスキーなことは出来ない。

かといって太一の言うように、デジモンカイザーの陰に怯えなければならないデジタルワールドに、無碍に帰すようなこともしたくない。

さて、どうしたものか、とヤマトが小さく息を吐いた時だった。

 

「ねえ、サインもらえないかな?」

 

ヤマトよりも少し年上であろう、女の子の声がした。

は、とそちらを見れば、親友と同じぐらい爆発した赤茶色の髪をした女の子が走ってきて、ヤマトの前で立ち止まると、サインペンを差し出してきた。

まだ人がいたのか、今の聞かれていなかったか、と若干冷や汗を流したのは、内緒だ。

 

「いいですよ」

「ありがと」

 

そう言うと女の子は、ヤマトに背を向け、膝に手を突く。

どうやら色紙ではなく、服に直接書いてもらいたいようだ。

これ油性じゃないよな、と女の子の背中を心配しながらも、ヤマトはキャップを取って彼女のシャツにサインを書く。

恥ずかしがり屋の兄が、目立つ筆頭であろうバンドを始める、と聞いた時は、何かの間違いでは、明日嵐が来るのでは、とタケルは本気で思ったのだが、サインを書いている姿は、なかなかどうして様になっていた。

身内の贔屓目を差し引いても、兄はカッコいい。

それは、こうしてサインを求める子がいることからも、伺えることだ。

 

「……あれ?」

 

ヤマトが彼女の名前を聞こうとした時、ふと彼女はタケルの方を見た。

ヤマトの方しか見ていなかったから、タケルに気づいていなかったようなのだが、ヤマトに背を向けたことでタケルが視界に入ったようなのだ。

怪訝そうな声を上げ、じ、とタケルを見つめた後、彼女はあ、と合点がいったような声を上げた。

 

「君、もしかして“タケル”くん?」

「へ?」

 

思ってもいなかった言葉に、タケルは素っ頓狂な声をあげてしまった。

が、次の彼女の言葉で、理解した。

 

「アタシ、本宮ジュンっての。大輔の姉ちゃん」

「えっ、ああ、大輔くんの!?」

 

知らない女性からいきなり名前を当てられて、何で知ってるの!?誰!?どうして!?と若干パニックに陥っていたタケルであったが、大輔の姉と聞いて落ち着いた。

よく見れば髪の爆発具合や、顔立ちやら、確かに大輔の面影がある。

いや、この場合大輔がジュンに似ているというべきか。

ともかく友達になったばかりの子の姉である、と聞いて、タケルはほっと胸を撫でおろした。

 

「あはは、ごめんね。驚かせちゃったみたい」

「あ、いえ。僕のこと、お姉さんに話してたんですね」

「まあね。大輔のやつはアタシのこと、君に話してなかったみたいだけど。薄情ねー、あいつも」

「あはは……あ、あの、お兄ちゃんのコンサート、聞きに来てくれて、ありがとうございます」

「うん?お兄ちゃん?あ、君たち兄弟?どおりで似てると思ったー」

 

カラカラと笑うジュン。

年上だが、気のよさそうな人だなぁ、とタケルがほほ笑むと、ジュンは徐に近寄り、そっと耳打ちするように口元に手を添える。

 

「“デジモン”のことも、大輔から聞いてるわ。君にもいるんでしょ?」

「っ」

 

そんなことまで話してたのか、と思いつつも、ヤマトに聞こえないように小声で喋る辺り、ヤマトはデジモンを知らないと思っているのかもしれない。

そう言えば大輔はまだヤマトに会ったことはないはずだ。

面識はあるかもしれないが、選ばれし子どもの1人であることはまだ話していなかったはず。

心の中で大輔に謝りながらも、タケルはジュンの心遣いに感謝をした。

 

「はい、います。兄にも」

「え?そうなの?」

「はい。なので、小声じゃなくても大丈夫ですよ」

「なぁーんだ」

 

変な気を使った、とジュンは笑うが、嫌みや悪意などは全く感じられなかったので、タケルもヤマトもすみません、と苦笑しながら素直に謝った。

 

「大輔、迷惑とかかけてない?アタシが言うのもなんだけど、あいつ夢中になるとそこに向かって一直線になっちゃって、周りが見えなくなる時があるからさぁ。そん時は遠慮なく蹴飛ばしちゃっていいから。普段はアレでもそれなりにしっかりしてるんだけどねぇ……」

「……そんなことないですよ。確かに目的に向かって一直線、って言うところはあるけど……迷惑って思ったことはないです」

「そう?ならいいけど。懲りずに仲良くしてやって」

 

もちろん、とタケルが言おうとした時、ジュンは闊達そうな笑みを引っ込めて、少しだけ大人びた表情を見せた。

それが“姉”の顔だと、“兄”であるヤマトにはすぐに分かった。

 

「……大輔から話は聞いてるよ、全部。なんか“デジモン”達の世界が危ないんだって?それで大輔達が何とかするために“選ばれた”って。2人もそうなの?」

「……僕は、そうです」

「……俺は、3年前に」

「ああ、あれか。3年前のお台場霧事件」

 

1999年の、8月3日。

お台場が突如謎の霧に包まれ、外部との接触が一切断たれた日。

きっと、誰も、忘れられない。

 

「覚えてるわ。アタシあの時、今のヤマトくんと同い年だったから」

 

ヤマトのバンドのファンで、追っかけでもあるジュンは、当然ヤマトのプロフィールだって知っている。

今のヤマトは14歳の、中学2年生。

そのヤマトと、当時のジュンが同い年ということは、彼女は今17歳の高校2年生だ。

その彼女が、こんな表情を浮かべている理由は、ただ1つ。

 

「……タケルくんは大輔と同じ、5年生。ヤマトくんでさえも中学2年生だってのに、なかなか酷なこと押し付けるのね」

「……押し付けるなんて、そんな」

「ああ、ごめん。なんか、今すっごい嫌な言い方しちゃったね。でもさ、アタシもお姉ちゃんなわけ。普段は生意気ばっかりのお莫迦でもさ、やっぱ弟は大事なのよ。ヤマトくんなら分かってくれると思うけど」

「そうですね」

 

ヤマトには、彼女が言わんとしていることがよく分かる。

3年前の自分も、同じ気持ちだった。

 

「でもさ、大輔は大輔であって、アタシじゃないから。アタシがどんだけ心配してても、あいつどんどん先に行っちゃうから、こっちとしては何よそれ、みたいな?でも、大輔が決めたことなら、アタシお姉ちゃんだから、やっぱ精一杯応援してやりたいのよ」

「……………」

「やめて、なんて、言えるわけないのよ。大輔がやるって決めたんだから。アタシに似ちゃって、やるって決めたら絶対やり遂げちゃうから。だから、だからさぁ」

 

ちゃんと帰ってきてね。

 

ジュンは、言った。

 

「無茶するなとは言わないし、怪我するなとも言えないわ。だって知らない世界を冒険するんでしょ?多少の無茶は必要だろうし、怪我だってするっしょ。だったらもう、アタシがしてやれるのって、あいつを庇ってやることぐらいかなって。あー、もう悔しいなぁ。あいつがやろうとしてることの、手助けもできないの」

 

ほんと悔しい、とジュンは泣きそうになりながらも、それを堪えて無理やり笑みを浮かべる。

ヤマトにも、そしてタケルにも、ジュンの気持ちが痛いほど分かる。

ほんの数日前まで、タケルもジュンと“同じ”だった。

大輔達が奮闘しているのを、見ていることしかできなくて、歯を食いしばっていた。

デジメンタルを手に入れたお陰で、大輔達と肩を並べることは出来たが、兄は違う。

兄は、今でも見ていることしかできない。

兄のデジヴァイスは以前から変わらぬもの。

つまりタケルと同じように、戦うことは出来ない。

戦う力は持っているはずなのに、それを発揮できない。

ジュンには、それすら与えられていないのに、それでも尚、弟のためにできることをしようとする“姉”の姿に、ヤマトもタケルも好印象を抱いた。

 

「……ま、嘆いたところで仕方ないんだけどね」

 

ぱ、と先ほどまで見せていた、大人びた表情は鳴りを潜め、代わりにまた闊達そうな笑みを、ジュンは浮かべた。

慰めるべきか、と手を伸ばしかけていたヤマトは、突如変貌した彼女に驚いて、その手を止めた。

 

「まー、ですね。お姉さんが言いたいのは、どうしようもなくなったら、ちゃんと大人にも頼りなさいよってこと。何で子どもばっかりが選ばれんのか分かんないけど、大人からしたら、子どもが知らないうちに、知らないところで、大冒険してました、なんて泡吹いて倒れる案件なんだからね。それに、あんた達が思ってるほど、子どもの隠し事なんて上手く隠せてないから、絶対いつかはバレるわよ。今は言えなくとも、いつかはちゃんと言いなさい?アタシも折を見て、大輔には母さん達にもちゃんと言うように言うから。いい?分かったら返事!」

「「はっ、はい!」」

「よろしい。じゃ、そろそろ帰るわ。またね、ヤマトくん、タケルくん」

 

バイバイ、とジュンは来た時と同じ笑みを浮かべながら、走り去っていった。

残されたヤマトとタケルは、颯爽と走り去る彼女の、ヤマトのサインが書かれた背中を、見送ることしか出来なかった。

 

「……嵐みたいだったけど」

「うん……いい人だよね、あの人、絶対」

 

だって途中から、“君達”が“あんた達”に変わっていた。

それって、きっと、ジュンさんにとってヤマトもタケルも大輔と同じ、“年下の護られるべき子”っていう認識になったからだ。

 

──君のお姉さんに会ったよ、って言ったらどんな顔するかなぁ。

 

明日会う友人の顔を想像しながら、タケルはヤマトと顔を見合わせ、クスリと笑った。

 

 

 

 

大輔は今、新たな進化を手に入れた相棒の背中に乗っていた。

隣にいるのは、クラスメートであるタケルの実兄と、そのパートナーのガルルモン。

そしてそんな2人と2体と対峙する、青いボディーカラーのメタルグレイモン。

あのメタルグレイモンは、太一のアグモンが進化した姿だ。

デジモンカイザーが完全体を完全に支配すべく、太一のアグモンを実験体として捉え、無理やり進化させて支配下に置いたのである。

右腕に装着されている、螺旋状のリング。

あれを外せれば……!

 

ヤマトとタケルが大輔の姉・本宮ジュンと出会ってからも、色々とあった。

まずあの後、ガブモンから届いたSOSによりデジタルワールドに赴いたのだが、そのエリアに建設されたモノリス、通称ダークタワーを破壊したことにより、ガブモンがガルルモンへと進化を果たした。

そのことで、太一達先代の選ばれし子ども達のパートナーデジモン達が、進化ができなくなった理由を知り、それ以降は各地に設置されたダークタワーの破壊が、新たな選ばれし子ども達の当面の目標となった。

ピクニックに出かけて仲間と逸れたり、思わぬところで懐かしい友との再会を果たしたりと、その間も様々なことが起こったが、今は割愛しておこう。

 

デジモンカイザーの正体は、天才少年として名を馳せている一乗寺賢という少年だった。

数日前に行われたサッカーの試合にて、大輔がスライディングしたことにより、賢は右足を負傷した。

その賢と同じところに、カイザーにも傷があったのだ。

そして彼は、本格的にデジタルワールドを支配するために、現実世界から姿を消した。

連日放送される、天才少年行方不明事件。

ほぼ同時に多発した、デジタルワールドに建てられる無数のダークタワー。

居ても立っても居られなくなった大輔達は、賢を止めるべくデジタルワールドに向かったのだが、賢はそんな大輔達を迎え撃つべく、恐ろしい計画を立てた。

何と、大輔の幼馴染である八神ヒカリの兄・八神太一のパートナーであるアグモンを捉え、デジモン達を強制的に支配する闇のリング、イービルリングを無理やりはめて、大輔達を襲わせようとしたのである。

以前、イービルリングをはめた完全体デジモン・アンドロモンを大輔達にけしかけようとしたのだが、処理能力が追い付かず、アンドロモンを完全に支配できなかった。

そのこともあり、賢はイービルリングをはめたグレイモンから完全体に進化させれば、支配することができると考えたのである。

結論から言えば、賢の目論見は失敗し、太一のグレイモンはメタルグレイモンではなく、スカルグレイモンへと進化。

賢でさえ手が付けられずに暴走してしまったため、力尽きて退化したアグモンを連れ去ってしまった。

その後、改良に改良を重ね、イービルスパイラルという、螺旋状の受信機を完成させると、賢は再度アグモンにそれをはめて、完全体でウイルス種のメタルグレイモンへと暗黒進化させた。

アグモンは、太一のパートナーは、完全に賢の支配下に置かれてしまい、子ども達を、そしてデジタルワールドを蹂躙していった。

それが、つい昨日までの出来事。

 

『ライトニングブレード!!』

 

新たなデジメンタルで、新たな進化を遂げたブイモン、ライドラモンが鼻先の稲妻型の角に電気を集め、電気の塊を作り出した。

それをメタルグレイモンの右腕に嵌められている、イービルスパイラルにぶつける。

バリン、とイービルリングはデータの粒子になって、粉々に砕け散った。

やったぁ、と歓喜する子ども達。

デジモンカイザーは、自信作を呆気なく壊されて、驚愕していた。

カイザーの支配下から逃れられたメタルグレイモンの身体が光り、小さくなっていく。

そこにいたのは、キョトンとした表情を浮かべた、太一の大切なパートナー。

 

「アグモンッ!!」

 

感極まって、太一はアグモンの下へと駆け寄る。

アグモンはどうやら、メタルグレイモンになっていた時のことは覚えていなかったようで、何故自分がここにいるのかと、しきりに目を白黒させていた。

 

「……何故。計算上、僕のイービルスパイラルが、あいつの技などに破壊されるはずがない……!僕は天才なんだっ!お前らごときに遅れをとるはずがないっ!くだらない凡人の、虫けらどもめっ!!」

 

 

……………ぶちっ

 

「あ」

「あ」

「あ」

「あ」

 

色々なことが矢継ぎ早に起きて、今何が起こっているのか理解できていなかった大輔。

そんな大輔を、自分の友情を受け継ぎ、見事に開花させた生意気な後輩の頭を、ヤマトがぐしゃぐしゃとかき乱していた時だ。

メタルグレイモンから振り下ろされたデジモンカイザー、基、一乗寺賢が、憎悪の眼差しを大輔達に向けながら、そんなことを口走っていた。

太一のアグモンを誘拐して、自分の思い通りにしようとしていたくせに、いちいち癇に障る野郎だ、とヤマトが眉をひそめながら言い返してやろうとした時、隣から聞こえてきた、何かが切れる音。

直後に発せられた、何かとてつもなくまずいものを見てしまったような声。

それに乗り遅れたのは、ヤマトとタケル、そしてパートナー達だった。

 

「え?え?何?」

「太一?どうした?」

『何があったの?』

『ヤマト?』

『タイチ~?どうしたの、なんか顔色悪いよ?』

『ミ、ミヤコさん?』

『イオリ~?』

『ヒカリ?今の音は何だ?』

『……なんか、さっきのぶちって音、ダイスケから聞こえたような』

 

ブイモン、基、ライドラモンがそう言うと、ヤマトとタケル、そしてパートナーズは一斉に大輔の方を見やる。

ライドラモンに乗っていた大輔は、ひょいと飛び降りると、ゆらありとした動作でデジモンカイザーの方へと歩み寄っていった。

その時の大輔の顔は何故か陰がかかっており、どんな表情をしているのか、よく分からなかった。

知っているのは、先ほどぶちっという音の後に声を発した者達だけだった。

 

「……タケルくん、ちょっと、こっち」

「ヤマト、離れるぞ」

「は?え?ヒ、ヒカリ、ちゃん?ってぇ、京さんも伊織くんも早くない!?」

 

唖然としている高石田兄弟の肩を叩いたのは、八神兄妹であった。

我に返ったタケルがヒカリの方を振り返ると、京と伊織はとっくのとうに遠くの方へ、デジモン達と一緒に逃げていた。

自分のそばにいたはずのパタモンも然り。

いつの間に、とタケルが思う間もなく、ヒカリに腕を取られて京達の下へと引っ張られていく。

そのすぐ後ろに、同じようにヤマトが太一によって引っ張られていた。

 

「おい、太一?どうした?何が……」

「いいから、いいから」

「死にたくねーなら、早くしろ」

「え゛」

「は……?」

 

太一の口から、物騒な言葉が聞こえてきた時である。

 

「…………てんめぇええええええええええええええっ!!!!」

 

ピシャァアアアアアアアアアアアアアンッ!!

 

「ぎゃああああああああああああああっ!?」

 

大輔の怒声が聞こえてきたかと思ったら、雷が落ちてきたような音がした気がした。

直後に、カイザーの悲鳴が響き渡る。

 

「「っ!?」」

「「あーあ……」」

 

ギョッとなる高石田兄弟を他所に、八神兄妹はやっちゃったなぁ、といったニュアンスのため息をつく。

なんか、ズゴゴゴゴゴ、とかいう地響きにも似た音も轟いていて、ヤマトとタケルとデジモン達は、音の発生源から目が離せなかった。

その音の発生源は、言わずもがな。

 

「テメーほんとマジでいい加減にしろよっ!?イチ兄のパートナー勝手に連れて行ったかと思ったら、無理やり進化させて、俺TUEEEEEEE!ってきゃあきゃあはしゃぎやがって!!ガキか、テメーは!?ガキだったな!!デジタルワールドの支配者気取って、ふんぞり返って、他人の褌で相撲取って、バッカじゃねぇの!?それでよく俺らのこと凡人扱いできたなっ!?伊織の方がしっかりしてんぞ!!」

 

大輔である。

ライドラモンから降りて、デジモンカイザーに歩み寄っていったかと思ったら、身体から真っ黒いオーラを醸し出して、デジモンカイザーの胸倉を掴み、上記のセリフをまくし立てたのだ。

デジモンカイザーは、先ほどの雷のような音と何か関係があるのか、何故かへたり込んでいた。

へたり込んでいるところを、大輔が胸倉を掴んでいるのである。

ヤマトとタケルは、またもや唖然としてしまった。

まだ大輔とは知り合ったばかりだから、人となりもまだ手探り中なのだが、彼ってこんなんだったっけ?と太一とヒカリを思わず見てしまうぐらいには、大輔の変貌ぶりに困惑していた。

ちなみに高石田兄弟に助けを求められた八神兄妹は、肩を竦めるだけだった。

 

「き、君達のような凡人に、僕のような天才の、崇高な使命など分かるはずが……!」

「うるっせぇえええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」

 

ピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!」

 

「本日2回目~」

「カイザー、お前もう喋んな、マジで」

「………………」

 

絶句するヤマト。その顔は、真っ青通り越して真っ白だ。

つい先ほどまで、太一のアグモンを巡って死闘を繰り広げていたはずなのに、何なんだこのギャグ空間。

デジモン達も白目を剥いて、カイザーに詰め寄っている大輔を見つめていた。

八神兄妹からは助けを得られないと悟ったタケルは、同じく平然としている京と伊織に尋ねる。

 

「………………みっ、京さん……大輔くん、何したの……?」

「大輔の必殺毒電波」

「は?」

 

京の口から飛び出たのは、聞いたこともない単語。

伊織がそれに補足する。

 

「昔、ヒカリさんの従姉という方に習ったそうで……怒りが頂点に達すると、相手に向かって毒電波を放って、気絶させるんです」

『……カイザー大丈夫かな』

「……うん」

 

毒電波というものが何なのかは分からないが、とんでもない代物であることだけは分かる。

だって2回も食らったカイザーの足ががっくがくで、立つこともままならないほどの、瀕死状態になっているんだもの。

口の端からは涎が垂れており、顔色も紫色だ。

何だよ、毒電波って。

ヒカリちゃんの従姉さんがどんな人なのか知らないが、とんでもない術を大輔に仕込んでくれやがって。

身体中から色を無くして、現実逃避をしていると、突如として強い風が吹いた。

うわ、と子ども達は咄嗟に顔を庇って目を閉じる。

次に目を開けた時、デジモンカイザーはいなかった。

ばっさばっさという音につられて、そちらの方に目を向けると、エアドラモンが飛び去って行く姿が。

恐らく、デジモンカイザーの配下だろう。

待てゴラ逃げんなっ!!とドスの利いた声で怒鳴る大輔から、ヤマトとタケルは全力で目を逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

☆おまけ☆

 

「よいしょ」

「?ヒカリちゃん、どうし………………何それ」

 

去っていくカイザーを見送っていたら、隣にいたヒカリがそんな掛け声を上げたので、そちらを見やる。

何処から取り出したのか、彼女は厚さ20センチはあろうかと思われる、分厚い本を手にしていた。

その表紙には《誰でも出来る!呪術入門書》と書かれている……。

タケルの眼が再び点になった。

 

「んーと……これにしよっ☆“1週間、角に足の小指をぶつけ続ける呪い”☆」

「うわ、地味だけど厄介な呪いね」

「想像しただけで痛そう……」

「……ヒカリちゃん、もしかして、もの凄く怒ってる?」

「………………………うふっ☆」

「あっ、これは怒ってますね」

 

見てはいけない女の子の一面を見てしまった気がする、とタケルは遠い目になったのだった。

 

 

 

 

 

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