Butterfly Effect   作:オルタンシア

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第四話

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悪夢(ゆめ)を見た。

 

深い深い闇の中、身を投じることしか出来ない、弱い自分の夢魔(ゆめ)を。

 

夢幻(ゆめ)を見た。

 

とても暖かい光が、闇に溶けそうな自分を迎えに来てくれる瑞夢(ゆめ)を。

 

 

 

 

 

 

 

デジモンカイザーこと、一乗寺賢から太一のアグモンを取り返した、数日後。

“選ばれし子ども達”と呼ばれる救世主達にも、生活はある。

それを蔑ろにするには幼すぎる子ども達は、未だデジタルワールドに留まっているであろうデジモンカイザーが新たな侵攻を始めていないか、気が気ではなかった。

今の彼らに出来ることは、現実世界でできるだけ普段通りの生活を過ごし、放課後にデジタルワールドに赴いて、デジモンカイザーが支配したエリアを解放することだけだ。

それも気休めにしかならず、支配した証であるダークタワーを倒しても、一乗寺賢がデジタルワールドに留まり続ける限り、支配されるエリアは増えていくばかりだ。

どうしたものか、とタケルが溜息を吐きながら、もうすぐ校門に着く通学路を歩いていると、見知った後ろ姿があった。

タケルは、その後ろ姿に声をかけようと、右手を上げて口を開きかけたが、彼女の方が早かった。

 

「っ、お兄ちゃん!」

 

弾んだような声色とは裏腹の、強張った彼女の表情。

ポカンとするタケルを見て、ヒカリは顔を真っ赤にして曖昧に微笑んだ。

 

「タケル、くん……?あ、お、おはよう」

「あ、うん……」

 

やだ、私ったら、って笑うヒカリに、何となく違和感を覚えたタケルが、彼女に尋ねようとした時、背後から誰かが走ってくる音がした。

 

「2人とも、おは…………」

「あ、大輔くん、おはよう」

「……おはよう」

 

大輔だった。

タケルとヒカリに挨拶をしかけた大輔だったが、不自然なところで言葉が途切れた。

それに気づかず、タケルはいつもの調子で挨拶を返したのだが、大輔はタケルを見ていなかった。

じ、とヒカリを見たかと思うと、眉を顰める。

 

「……ヒー、お前今度は何くっつけてんだ?」

「え……」

 

少し低い声で、大輔がヒカリに詰め寄るように尋ねた。

タケルは何のことか分からずに、キョトンと大輔を見やるが、ヒカリは心当たりがあるのか、ギクリ、と肩を跳ねさせた。

大輔はヒカリと距離を詰め、覗き込むようにヒカリを見つめる。

いや、どちらかというと睨みつけているような目つきだった。

 

「……海の匂いがする」

「?そりゃ、すぐそこ海だし……」

「違う。そっちじゃねぇ。()()()()()()()()()()()

「へ?」

「………………」

 

タケル達が通うお台場小学校の、すぐ目の前には砂浜と海がある。

だから夏になればプールだけでなく、海でも水泳の授業があるのだ。

強い潮の香りがするのは当然のことなのだが、大輔は違うと言った。

“ヒカリから海の匂いがする”、と言いながら、大輔はヒカリから目を離さない。

ヒカリは気まずくなって、俯いてしまった。

流石にヒカリが可哀そうになったタケルがやめさせようとしたが、丁度その時予鈴が鳴る。

まずい遅刻する、と3人は慌てて校門を潜った。

 

「ヒー!お前、今日1人で帰んなよっ!」

 

それだけ言うと、大輔はそれ以上ヒカリを追求することはなかった。

先を行く大輔を追いかけるように走るヒカリと、そのすぐ後ろを追うタケル。

 

──大輔くん、何が見えてるんだろ……

 

3年前、タケルが初めて()()()()()()()()()()()()()として意識した女の子の、不思議な力は冒険の中で時々垣間見ていた。

そんな彼女と何か似たものを大輔から感じるのだが、それを問いただす術を、タケルは持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

カツカツカツ、と教師が黒板に、チョークで何かを書き込む音だけが響く、授業中。

生徒達は、教師が黒板に書いているものを一生懸命ノートに写していたり、黒板を見つめたり、教科書を読みこんでいたり、とそれぞれのことをしていた。

黒板を見ていたタケルは、肘をついて手に顔を乗せている大輔のだらけた姿が、必然的に視界に入る。

今朝の険しい態度とは一変して、いつもの大輔だった。

それから、ヒカリ。

教師が黒板の方を見ている隙に、タケルは彼女の方にも目線を向ける。

膝に置いた手をぎゅっと握っているのは分かるのだが、斜め前に座っているせいで彼女の表情までは分からなかった。

大輔と同じく、今朝は様子がおかしかったが、今は何ともなさそうだ。

気のせいだったのかな、でもそれだと大輔くんが言っていたあの言葉の意味は、何だったのだろう。

幾ら考えても、タケルには分からなかった。

 

その時、ヒカリを異変が襲った。

ぼんやりと霞がかった思考の中で、黒板ではなく前に座っているクラスメートの背中を見つめていた時、ちゃぷん、ちゃぷん、と水の音が突然聞こえてきた。

ぎょっとなるヒカリを置いてけぼりにするように、水の音は少しずつ大きく、近づいてくる。

うっすらと白い靄が教室に広がったかと思うと、その靄の中にクラスメート達が飲み込まれるように消えていき、景色が一変した。

暗く、深い、闇の空間。

 

「……なに、これ……」

 

声が引きつる。

ばく、ばく、ばく、と心臓の鼓動が激しくなり、息も荒くなってきた。

 

ちゃぷん、

 

足元が冷たい。

咄嗟に、足元に目線を降ろす。

水が、ヒカリの脚を飲み込んでいた。

 

「…………………っ!!」

 

ぞわぞわとした悪寒が、全身を包む。

息ができない、苦しい、動けない。

逃げたいのに、ここから立って、走って、逃げなきゃいけないのに、ヒカリの身体は動いてくれない。

諦めたように顔を上げる。

誰もいない。

暗い暗い、深い深い、闇の中。

独りぼっちの、闇の中。

 

 

 

 

 

 

 

うしろのしょうめん、だあれ

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は()()、彼女が揺らぐのを。

 

彼は()()、彼女が居る世界を。

 

「ヒカリちゃんっ!」

「ヒーっ!」

 

それは、ほぼ同時だった。

彼女を見ていたタケルが立ち上がり、名を呼んだ。

彼女を視ていた大輔が振り返り、名を繋いだ。

教師が黒板に叩きつけるチョークの音以外、静寂に包まれていた教室で、大輔とタケルの声が嫌に響き渡った。

クラスメート達が一斉に、タケルを、大輔を、そしてヒカリを見る。

ヒカリは、其処に居た。

しかし頭を抱え、ふらりと眩暈を起こしたように、ヒカリの身体が傾く。

後ろに座っていたヒカリの友達が席を立って支えてくれなければ、彼女の身体は教室の床に寝転がっていただろう。

 

「大丈夫か?保健室で休みなさい」

「………はい」

 

ただ事ではないと感じた教師の配慮により、ヒカリはか細い声を出しながら席を立つ。

足元はふらついており、ヒカリの友達はついて行こうとしてくれたが、申し訳なくてヒカリはそれを断った。

教室を出ていくヒカリの背中を心配そうに見つめるタケル。

それから、ほぼ同時にヒカリの異変に気付いた大輔にも、目を向けた。

大輔は今、背中をタケルに向けているので、その表情は分からない。

しかし今朝のこともあるので、後で大輔君と一緒に、ヒカリちゃんのお見舞いに行こうかな、と考え、タケルは席に座った。

 

 

大輔の表情が、かつて見たことがないほどの険しい顔になっていたことなど、タケルは疎かクラスメートの誰も、気が付かなかった。

 

 

 

 

 

授業中の廊下はとても静かだ。

壁を隔てた向こうでは、沢山の生徒達がいるはずなのに、まるで独りぼっちの世界に放り出されたような感覚に、ヒカリは陥った。

頭も足取りも重い。

ずしん、と腹の奥に鉛を詰め込まれたような、鈍い痛みが走る。

 

──久しぶりだな、こういうの……。

 

視界がぐるぐる回っている。

溜息を吐く気力もない。

最近は()()()()()、なかったのにな。

小さい頃はしょっちゅうあったけど、その度にお兄ちゃんが、ダイくんが気づいてくれていた。

お兄ちゃんは仕方ないなぁ、って顔をしてヒカリを安心させるように頭を撫でてくれたり、落ち着くまで抱きしめてくれたりしていた。

ダイくんは()()だったから、手を繋いで何処までも一緒に歩いたり、ずっと隣にいてくれたりしていたっけ。

今朝だって、お兄ちゃんは先に家を出てしまったから気づいてもらえなかったけれど、ダイくんはすぐに気づいてくれた。

顔がちょっと怖かったけれど、でもあれはヒカリを見ていたのではない。

()()()()()()()()()()を、ダイくんは見ていた。

だから『一人で帰るな』って言ってくれた。

でもどうしよう。

怖いのに、嫌なのに、()()()に行きたくないのに、ヒカリの身体はヒカリの心とは裏腹の行動をとろうとしている。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ピション……

 

 

 

「っ!!」

 

水の音。

背後から波紋のように広がる気配に、ヒカリは息を飲む。

誰もいない廊下、音が死んだ空間で、障害物にぶつかって反響する水の音が、まるで幾つもの見えない手となって、ヒカリの身体に纏わりついているような感覚。

 

ピション……ピション……

 

音が少しずつ近づいてきているのが分かる。

詰まりそうになっている息を何とか吐き出し、ヒカリは恐る恐る振り返る。

今しがた自分が降りた階段の陰。

そこに、何かがいた。

ギラリと不気味に光る、2つの赤。

遠目だからなのか、それとも存在が揺らいでいるせいなのかは分からないが、どんな姿形をしているのかは分からない。

分からないけれど、分かる。

 

「…………………………っ!!!!」

 

 

“それが()くないものだということは”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変は、突如訪れる。

 

放課後、生徒達はそれぞれの場所へと向かっていく。

クラブ活動をする者、教室で友達とお喋りに興じる者、先生に呼び出された者、塾や習い事のために下校する者。

ヒカリは、体調が優れないということで、今日はパソコンルームには寄らずに帰ることにした。

京と伊織にはすでに言ってある。

大輔から、1人で帰るなよと言われたので、昇降口で待っているつもりだった。

しかし、ヒカリの身体は、彼女の意思と反して、動き出していた。

下駄箱から靴を取り出し、靴を履いてふらふらとした足取りで校門を出る。

すぐ目の前に広がる海から、潮の匂いを乗せた風が吹き、ヒカリの髪を弄んだ。

あれ、おかしいな、どうして、身体が、勝手に、海、呼んでる。

戻らないと、ダイくんを待っていないといけないのに、一人で帰るなって言われたから待っていたかったのに。

お兄ちゃんが小学校に居ない今は、ダイくんしかアタシを護ってくれないのに。

それでも、ヒカリの身体は勝手に動く。

小学校のすぐ目の前に広がる海。

そこに吸い寄せられるかのように、ヒカリの足は真っすぐ海へ向かっていく。

横断歩道を渡り、砂浜へと降りる階段の前で立ち止まった。

ヒカリを待っている間に木の上で眠ってしまったテイルモンが起きた時には、すでにヒカリの身体には異変が生じていた。

 

『ヒカリッ!?』

 

普通の猫として取り繕うのも忘れて、テイルモンは叫んだ。

ヒカリの身体にノイズが走り、色を無くして灰色に染まっていったのだ。

そのノイズから、灰色から、うっすらと闇の気配を感じたテイルモンは、慌てて横断歩道を渡ってヒカリの下に駆け寄ろうとしたが、丁度その時トラックが目の前を横切った。

 

トラックが通り過ぎた頃には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

その異変を感じ取ったのは、テイルモンだけではなかった。

今日のヒカリの様子から、彼女を一人にしてはいけないと感じ取っていた大輔は、弾かれるように顔を上げた。

大輔をサッカーに誘っていた友人は、どうした?と大輔に尋ねたが、大輔は聞いていなかった。

ランドセルを背負うのも、パソコンルームに置いていたチビモンを回収するのも忘れて、大輔は走り出した。

背後から友人が呼び留めてきたが、知ったこっちゃない。

それよりも大変な事態が起きているのだ。

廊下を走っているところを教師に見られ、叱られたが大輔は返事もせずに昇降口へと急ぐ。

上履きを脱ぎ、自分の下駄箱に乱雑に突っ込んで、取り出した靴を放り投げて足をつっかかける。

マジックテープで留めていないせいで走りにくいが、それどころではない。

走って、校門を出て、横断歩道を渡り……ぽつん、と置かれているランドセルを拾った。

 

「一人で帰るなって言ったのに……!」

 

悔しそうに歯を食いしばりながら、そう呟いた大輔は、幼馴染のランドセルを抱えて学校へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

確かにそこにあるはずなのに、まるで蜃気楼のように朧げな輪郭。

テレビの向こうで見たことがあるような、古ぼけた木の板で作られた塀は、ヒカリの行く先を誘っているようだった。

現実世界と全く同じ作りの住宅も、緑の樹々もあるはずなのに、何処か他人事のような景色に、ヒカリは寒気を覚える。

 

「……ここ、何処?デジタルワールドじゃないの……?」

 

そう呟くも、返ってくる言葉などない。

いつも傍にいて護ってくれる兄も、幼馴染も、パートナーも、“従姉”もいない。

心細さで押しつぶされそうになるのを誤魔化すように、ヒカリは彷徨い続ける。

 

──誰か……

 

助けを求める言葉さえ、この世界は許してくれない。

 

 

 

ペリーの黒船来航に備えて、東京湾上に作られた、品川台場の跡地の1つである第三台場。

首都高速11号台場線、通称レインボーブリッジがすぐ横に建っている台場公園を、タケルは歩いていた。

お台場小学校から歩いて行ける距離ではあるものの、何かあったら簡単には小学校に帰れない距離なので、後をついてきたパタモンとテイルモンはだんだん心配になってくる。

 

「……僕、ヒカリちゃんに酷いこと言っちゃったんだ」

 

そうタケルが言ったのとほぼ同時に、ヘリコプターが上空を横切る。

プロペラとエンジンの音が煩くて、タケルの声が聞こえなかったが、タケルはお構いなしに続けた。

それは、授業のすぐ後。

ヒカリの見舞いに行こうと思ったタケルは、大輔も誘ったのだが、何か考え事をしていたのか、タケルが声をかけても上の空だった。

クラスメートがサッカーに誘っても、何の反応も見せなかったため、珍しいこともあるものだと言っていたクラスメートの言葉を聞き流しながら、タケルは保健室に向かった。

しかし、保健室にヒカリはいなかった。

慌てて探しに行けば、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下から見える位置にあるベンチに、ポツンと座るヒカリの姿。

ほっとしたやら苛立つやらで、ヒカリの下へ行けば、ヒカリの口から紡ぎだされたのは、『海へ行った』という言葉。

彼女の口調と今朝の大輔の様子から、すぐ傍にある海へ行ったという意味ではないことは、すぐに分かった。

一緒に冒険をした時から垣間見せていた、彼女が持つ不思議な力。

その力が、今彼女を苦しめている。

助けてほしいのなら、そう言えばいいのに、彼女の口から飛び出てくるのは、兄の太一、幼馴染の大輔や京のことばかり。

()()()()()()()()()()()()()()()()彼女の言葉に苛ついて、ついつい語気を荒げてしまった。

ほんの3年前、まだヒカリがいない時の自分を見ているみたいで。

彼女の傷ついたような目を見て、しまったと思った。

気まずくなって、タケルは逃げるようにその場を後にした。

結局ヒカリが戻ってきた後も、タケルは気まずさからヒカリに近づこうとしなかった。

ヒカリもまた然り。そして、いつも元気で、クラスで煩いと言われるぐらい騒ぎ倒している大輔も、不気味なぐらい静かにしているものだから、その日の5のAは騒然とした。

 

──何で、あんなこと言っちゃったんだろう。

 

そんな思いばかりが、タケルの心を占める。

分かっていたはずなのに、あれがヒカリなりのSOSだってことに。

助けてって言えない彼女の、精一杯の“助けて”だったのに。

 

「ヒカリちゃんはっ、護ってあげなきゃいけないのに……!」

 

放課後のパソコンルームで聞かされたのは、ヒカリの消失という衝撃の出来事。

目の前で人が急に消えるはずがない。

しかし今朝から様子がおかしかったヒカリを心配して、授業中でも時々ヒカリに目を向けていたタケルは、知っていた。

ヒカリの姿が、輪郭が揺らいで、朧気になったところを。

だから、パソコンルームに集まっていた仲間達が、デジタルワールドに行ったのでは、と言っていたのを、タケルは否定して学校のすぐ目の前にある海に来た。

念のため、京はお得意のハッキングで調べるも、彼女の腕ではそこまでは調べられなかったようだ。

大輔も来ていないし、それまではチビモン達と留守番をしながら調べてみる、と言って、今京は頑張っている。

伊織も、心当たりを探してみると言って、ウパモンと共にパソコンルームを出ていった。

 

でも、ヒカリは見つからない。

 

『……ヒカリは弱い子じゃないよ。ヒカリは強い子。だけど、それは助け合う仲間がいるから』

「っ、だけど……っ!だけどっ、今の僕には、何もできないじゃないかっ!」

 

分かってる、ヒカリは護られなければならないほど、弱い子ではないことぐらい。

それでも、ヒカリのSOSに気づけなかったことが、悔しかった。

多分、大輔にはヒカリに会った時から見えていたのだ、あの口調だと。

自分とヒカリの間に特別な絆があるように、大輔とヒカリにも自分とは違う形の絆があるのだ。

大輔が自分とヒカリの間に入り込めないのと同じように、自分も大輔とヒカリの間には入り込めない。

大輔はヒカリの危うさに気づいていた。

それが、何だか悔しい。

 

「っ、ヒカリちゃぁあああああああああああああああんっ!!」

 

闇雲に名前を呼んだところで、返ってくる言葉なんて、あるはずもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、どうしてアタシなの。

 

どうしてアタシじゃなきゃいけなかったの。

 

アタシには何もない。何もできない。

 

アタシに出来ることなんて、何もない。

 

それなのに、どうしてアタシに救いを、助けを求めるの。

 

()()()に、アタシの何が分かるの。

 

……分かってる。こんなことを考えてしまうアタシは、とってもイヤな子だって。

 

何もできない、分からないってうじうじして、誰かに助けてもらうことを当たり前に思って、それで何度ダイくんや京ちゃんに怒られたっけ。

 

いっぱい怒られてるのに、それなのに、2人は絶対にアタシを助けてくれるの。

 

もう嫌だって、いい加減にしてって見捨てられてもおかしくないぐらい助けてもらって、怒られたのに、2人は絶対にアタシを見捨てないの。

 

だから、アタシも期待してしまうの。

 

何があっても助けてくれるって。

 

助けられることを期待して、甘えてしまうの。

 

ダメなのに、そんなの、このままじゃダメって分かってるのに。

 

それなのに、どうしようもなく惹かれてしまう。

 

嫌なのに、怖いのに、行きたくないって思ってるのに。

 

なのに、それなのに、どうして?

 

どうしてアタシはここにいるの?

 

どうして呼ばれたの?

 

何でアタシじゃなくちゃいけないの……?

 

 

「アタシを助けて……お兄ちゃん……テイルモン……京ちゃん……ダイくん……タケルくん…………」

 

 

 

 

 

「………………()()()………………………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空はうっすらとオレンジがかっており、夕暮れが差し迫っているのが分かる。

タケルもパタモンもテイルモンも、その場から動かず、ただひたすら海に向かってヒカリの名を呼び続けること、約数十分。

傍から見れば奇妙な光景だったが、幸い叫び続けるタケル達を見咎める者はいなかった。

 

「……何してんだよ、お前」

 

ただ1人、背後からいつの間にか近寄ってきた、大輔以外には。

 

「っ、大輔、くん……」

 

背後から呆れたような声が聞超えたので、振り返るとそこにいたのは呆れたような表情を浮かべている大輔。

その腕には、キョトンとしているチビモンがいた。

何故ここに、とか、京さんや伊織くんは、とか色々尋ねたかったが、大輔はそんなタケルに構わず、ずんずんずん、とタケルの方に歩み寄り、隣に並び立った。

何をするでも、タケルの方を見るでもなく、ただ、じ、と斜め上、空を見つめている。

否、睨みつけている。

その時間、凡そ数秒。

 

 

「───来た」

 

 

ぽつり、と大輔が呟いた。

同時に、大輔が見つめていた個所に、淡いピンクの光が浮かび上がる。

その光の中に浮かび上がったのは、見慣れた人影。

ヒカリだ。

光の中に、ヒカリがいた。

両手を伸ばしたその姿はまるで差し伸べられる手を待っているようで、怯えたような表情を浮かべている。

ギョッとなるタケルとパタモン、テイルモン、そしてチビモンだったが、大輔はそれが分かっていたのか、タケル達のように驚く素振りを見せず、それどころか数歩後ろに下がったかと思うと、その光に向かって大きく跳躍した。

 

「……っ!!」

 

目を見開くタケル。

しかし、それを見て逆に決心がついたのか、タケルも大輔の後を追うようにジャンプする。

テイルモンとパタモンも。

 

ジジ、と目の前の景色にノイズが走った。

水平線を境目にして、オレンジと紺碧の景色が、じわじわと灰色に侵食されていく。

否、違う。

色を無くしているのは、タケル達の方だ。

全身にノイズが走り、輪郭が溶けているのも。

そしてタケルは、テイルモンは、パタモンは、そして大輔とチビモンは、不思議な空間へと投げ出される。

それは奇しくも、タケルが初めてデジタルワールドへと連れていかれた時に放り出された、あの空間によく似ていた。

上下も前後も分からない空間に、デジ文字がランダムに表示され、流れていく。

いつもデジタルワールドに行くときに通る空間とは、何かが違った。

それを確認する前に、タケル達の身体は硬い地面に投げ出された。

着地をするために体勢を整える時間すらなく、顔面を叩きつけるように放り出されたので、タケルも大輔も痛みで顔面を抑える羽目になった。

 

「あいたた……」

「いってぇ……!」

 

痛みを耐えて、何とか起き上がるタケルと大輔を尻目に、テイルモンは辿り着いた空間を見渡して、警戒心を跳ね上げた。

 

『ここ……普通のデジタルワールドじゃない……!』

 

背後に生えている樹々、薄暗い空、灰色の地面、風に乗って漂ってくる潮の匂い、黒い光を放っている灯台。

どれをとっても、現実世界のものとも、デジタルワールドのものとも違う、異質なものだった。

目の前の崖は飛び降りるには高すぎて、覗き込むだけで足がすくみそうだ。

パタモンも、そしてデジタルゲートを潜ったことで進化をしたブイモンも、テイルモンの言葉で全神経が研ぎ澄まされる。

 

「……やっぱり」

 

知っているデジタルワールドではないことに戸惑っているタケルは、大輔が落とした小さな小さな呟きに、気が付かない。

 

「ダイくん!タケルくん!テイルモン!」

「っ、ヒカリちゃん!」

「ヒーッ!」

 

崖下から聞こえてきたのは、ずっとずっと探していた、大切な女の子。

嬉しそうに手を挙げて駆け寄ってくるヒカリに、タケルもテイルモンもパタモンも、そしてブイモンも安堵した。

険しい表情を浮かべていたのは、大輔だけだった。

 

『ギシャアアアアアアアアアアッ!!』

 

咆哮と共に、大きく、柔らかいものが上下に動いて空気をかき乱しているような音がした。

大輔とタケルがそちらを見やると、目を赤く光らせ、様子が怪しいエアドラモンが、真っすぐこちらに向かってくるのが見えた。

タケルはパタモンをペガスモンに進化させ、エアドラモンを迎え撃つ。

 

『ダイスケッ!』

「俺達はヒーのところだ!ブイモン!」

『おう!』

 

大輔も手に入れたばかりの友情のデジメンタルで、ブイモンをライドラモンに進化させ、テイルモンを後ろに乗せて崖下へと駆け降りる。

 

「ヒー!」

『ヒカリッ!』

「ダイくん、テイルモン……っ!」

 

こっち、とヒカリが指し示す方へ行けば、そこにはイービルスパイラルを嵌められ、思うように身動きが取れないハンギョモンがいた。

 

「………っ!?」

 

ライドラモンから降りて、そのハンギョモンを見た大輔は、何故かその場で硬直した。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

エアドラモンが放った技に、少し離れたところにいるハンギョモン達が巻き込まれる。

タケルが悔しそうに叫びながら、エアドラモンに向かっていくのが見えた。

 

『くそ、俺も空を飛べれば、加勢できるのに……!』

『ライドラモンはここでヒカリとダイスケ達を護ってて!ヒカリ、アタシもアーマー進化を!』

 

縦横無尽に空を飛び回るペガスモンとエアドラモンを見て、加勢できないことを歯がゆく思うライドラモンを宥めながら、テイルモンはヒカリに言う。

テイルモンもアーマー進化をして、ネフェルティモンになれれば、ペガスモンとの連携技でエアドラモンを捉えることができるのだが……。

 

「っ、ごめん、テイルモン……!アタシ、D-3をランドセルに……!」

「えっ、マジか……!くっそ、やっぱ持ってくればよかった!」

 

この世界に来るとき、ヒカリが背負っていたランドセルは現実世界に置いてきてしまった。

それを拾ったのは大輔だったのだが、まさかD-3をランドセルに入れたままだったとは、と大輔は頭を抱える。

どうりで見つからないはずだ、京はヒカリのD-3の反応を辿って、デジタルワールドを探していたのだから。

ごめん、と謝罪した大輔に、ヒカリは自分が身につけておかなかったからだ、と首を横に振る。

 

『けど、このままじゃ……!』

 

テイルモンが悔しそうに、歯を食いしばった。

ライドラモンが、何とか攻撃の隙を狙えないかとペガスモンとエアドラモンを見上げるが、的が動く上に高すぎて技の有効範囲にいないため、なかなか攻撃が出来ない。

それに、ここに来た時から身体が妙に重いのだ。

まるで、エリアに建てられたダークタワーのせいで、通常進化が出来ないような……。

 

『……!』

 

その時、テイルモンの頭が妙に冴えた。

まさか、でも、それなら……。

辺りを見渡す。ここに来た時から妙に印象的だった灯台。

あれだ、とテイルモンはライドラモンに飛び乗り、灯台に行くように指示する。

 

『ライドラモン、あの灯台を破壊するの!あれがアタシ達の力を奪ってる!』

『……何かよく分からないけど、あれを壊せばいいんだな!?』

 

自分には分からない。

しかしテイルモンは元々、聖なるデジモンに進化が可能な、神聖なデジモンだ。

ホーリーリングがなくとも、その身に宿す聖なる力が、正反対の邪悪な力を、あの灯台から感じ取っているのだろう。

大輔が頷くのを確認したライドラモンは、テイルモンを乗せて崖を駆け上った。

あっという間に灯台に辿り着くと、背中についている3つの触角に、強大な雷のエネルギーを集め、青い稲妻を放つ。

 

『ブルーサンダーッ!!』

 

どぉん、と雷のエネルギーが灯台にぶつかり、罅が入り、外壁が崩れる。

そこから姿を現したのは、()()()()()()

デジモンカイザーが支配の証に建てている、ダークタワーだ。

根元からぼっきりと折れたダークタワーが崩れるのを見ながら、何でこんなところに、とライドラモンが睨みつけていると、ふと視界に映ったピンク色に気づいて、反射的にそちらを振り向く。

 

黒い雲の隙間から差し込む、光の柱。

それを見たテイルモンはペガスモンを呼び、ライドラモンから飛び移る。

光の柱へ近づくように指示されたペガスモンは、エアドラモンに追われながらも、そこへ飛んでいった。

攻撃を躱しつつ、光の柱へ近づくと、テイルモンはその光に向かって飛び出していった。

ペガスモンには、その光が何なのか、分かっていた。

感じるのだ、その光から、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『テイルモン、超進化!』

 

テイルモンの身体が光に包まれ、等身がぐんと伸びた。

可愛らしい白い猫のようなフォルムは、スラリとスタイルのいい女性の体型へと変化し、バサリと長い髪が靡く。

そして、4対の白い翼。

ピンク色の布はまるで天女の羽衣のようだった。

 

『エンジェウーモン!』

 

それはかつて、世界を救った天使様。

友を失った怒りと哀しみが爆発したことにより、自身の使命を取り戻した白い猫が、手に入れた力と姿。

大輔もあの場にいたのだが、世界を闇で塗りつぶさんと企んだ吸血鬼により眠らされていたために、その姿を拝むことはなかった。

しかし、見ることは出来なかったが、感じることは出来ていた。

 

「……お前だったんだな、テイルモン」

 

幼馴染の女の子と同じ、見えないものを視る力を、聞こえない声を聴く力を持っていた男の子は、その聖なる力を確かに感じ取っていた。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

そんな聖なる光景を、引き裂かんとする咆哮が響き渡る。

目を怪しく、真っ赤に光らせたエアドラモンが、エンジェウーモンを飲み込もうとしているように、大きく口を開けながら迫ってきていた。

 

『シルバーブレイズ!』

『ライトニングブレード!』

 

ペガスモンとライドラモンが迎撃するも、エアドラモンは意に介さずエンジェウーモンへと向かっていく。

エンジェウーモンは焦らず、両手をまっすぐ伸ばして手を合わせた。

 

『ヘブンズチャーム!』

 

合わせた両手から真っすぐ上下に、光が現れる。

両手を広げると、今度は横切るような光が現れたため、縦と横の光は十字となり、真っすぐ放たれてエアドラモンを飲み込んだ。

聖なる光は相手が邪悪であればあるほど、効果を発揮する。

長い身体に嵌め込まれた黒いリングは、デジモンカイザーの(しもべ)の証。

恐らく長いことデジモンカイザーの支配下にあったのだろう。

エアドラモンはデータの粒子となって、呆気なく消滅してしまった。

それを見届けたエンジェウーモンは高度を落とし、イービルスパイラルを嵌められ、苦しんでいるハンギョモン達のために、癒しの光を放った。

ハンギョモン達の腕に巻き付かれたイービルスパイラルが、意志を持ったようにハンギョモンの腕から離れる。

怪しく真っ赤に光っていた目が、正気に戻っていくのを見たヒカリは、安心してほほ笑んだ。

しかし……。

 

「……………」

「ダイくん?」

 

す、とヒカリを隠すように立ちはだかり、ハンギョモンを見下ろす大輔。

ヒカリからは見えなかったが、ハンギョモンを見下ろす大輔の目は……険しかった。

 

「……ダイくん?」

「誰だ、お前ら」

「え?」

 

ぐ、と拳を握り、いつでも殴り掛かれるような体勢を取る大輔に、ヒカリはようやく大輔の異変を感じ取る。

 

「お前ら……()()()()()()()()()()

「え……?」

『………………』

 

灯台を壊したライドラモンと、エアドラモンを引きつけていたペガスモンは、まだ戻ってこない。

 

「な、何を言ってるの、ダイくん?」

「……なあ、ヒー。お前……お前には、こいつらが、()()()姿()()()()()()()()

「どんな、って……」

『………………』

「俺は……ハンギョモンってのがどんなデジモンか知らねぇ。けど……!」

 

ヒカリには分かった。

大輔は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺には最初っから……!」

 

だって、大輔が視ているのは、ヒカリとは違うものだから。

 

()()()()()姿()()()()()()()()

 

その時だ。

ウエットスーツを着たような姿で、左右の頭部に3つずつ突起があり、その間に薄い膜が張られた半魚人のような姿をしていたハンギョモンの姿に異変が起きたのは。

全身が真っ黒に染まり、どく、どく、どく、と波打つように鼓動しながら大きくなって、ハンギョモンだった()()は、ハンギョモンではなくなった。

靄がかかったような黒い身体は、シルエットしか分からないが、それがデジモンでも人間でもない、異質なものだということはよく分かった。

ヒカリがずっとハンギョモンだと思っていたものは、最初からハンギョモンではなかったのだ。

 

「それが……貴方達の、本当の姿なの……!?」

 

本来の姿を現した途端に、()()から悍ましい闇の気配を感じ取って、ヒカリは後ずさる。

大輔には視えていたのだ、最初から。

だって大輔はヒカリと同じ世界を共有できるけれど、視えるものが違うから。

 

「きゃあっ!」

「っ、ヒー!おわっ!?」

 

大輔から離れたのがいけなかったのだろうか。

後ずさったヒカリの腕を、いつの間にか近づいていたハンギョモンだった()()に捕まれた。

慌てて駆け寄ろうとした大輔だったが、大輔もハンギョモンだった()()に腕を掴まれ、ヒカリの下に駆け寄ることは出来なかった。

ハンギョモンを助けることが出来て、すっかり油断していたタケルは、ヒカリと大輔と離れたところで退化してしまったパタモンとブイモンと共に、血相を変えて走りだす。

 

『……我々ガ貴女ヲ呼ンダノハ、我々ノ花嫁ニ相応シイカラダ』

「っ!?」

『アノ新シイ神ニ対抗スルタメニ、我々ハ子孫ヲ増ヤサネバナラナイッ!』

「っ、お、おまっ、何言って……!?」

 

なかなかに生々しい理由に、大輔の顔が真っ赤になったり、真っ青になったりと忙しいが、慌てている暇などない。

要するに、ハンギョモンだった()()達は、デジモンカイザーに対抗するために、ヒカリに子どもを産んでもらおうとしているのだ。

人間と化け物の間に、果たして生殖能力などあるのか甚だ疑問ではあるが、企みは阻止しなければならない。

大輔はハンギョモンだった()()の腕を振り払おうとするも、思いのほか力が強くてそれが叶わず、それどころか後頭部を掴まれて、砂浜に叩きつけられた。

 

「ぐぇっ!」

「ダイくんっ!止めて!ダイくんを傷つけないでっ!」

『ナラバ我々ノ花嫁ニナルト言エ。ソウスレバ、コヤツノ命ダケハ助ケテヤル……』

「そんなっ……!」

 

そんなの、絶対に嫌。

でも、そうしないとダイくんが……!

 

バシュンッ!!

 

ヒカリの腕を掴んでいるハンギョモンだった()()の足元に放たれた、聖なる光。

見上げれば、ヘルメットの奥で隠れているはずの表情が、とても怒っているエンジェウーモンがいた。

当然だ、エンジェウーモンにとってヒカリは護るべきパートナー。

ヒカリと大輔がいたために、迂闊に手を出せなかったのだが、これ以上は我慢の限界だ。

せっかく助けたヒカリへ、まさかこんな形で仇を返すとは。

ブイモンにも申し訳ないと、エンジェウーモンは大輔を押さえつけているハンギョモンだった()()にも、指を向ける。

今すぐ離さなければ、今度は存在ごと消してやる、と言わんばかりに指先に殺気を籠めれば、ハンギョモンだった()()はあっさりと大輔を解放した。

いてて、と後頭部を抑える大輔に、ヒカリは駆け寄っていく。

 

「ごめんね、ダイくん……!」

「いいって。ヒーが無事でよかったよ……」

 

今にも泣きそうになっている幼馴染を宥めるように、大輔はおちゃらける。

ヒカリの泣き顔は望んでいない。

願っているのは、笑顔なのだから。

 

『選バレシ乙女ヨ……花嫁トナルコトヲ喜ンデクレルト思ッタガ……仕方ナイ』

 

ハンギョモンだった()()達が、ヒカリ達から目を離さず、後ろ歩きで海へと帰っていく。

大輔は咄嗟に立ち上がり、ヒカリを背後に隠すようにして立ちはだかった。

タケル達が駆け付けたのは、その時。

タケルは大輔の隣に立ち、パタモンとブイモンはパートナー達を護るように、ファイティングポーズをとる。

んなわけねーだろ、と大輔は喚いた。

 

「こんなことされて、ヒーが喜ぶわけねーだろっ!何考えてやがるっ!」

『そーだそーだ!』

『……オ前、オ前ハ我々ニトッテハ、毒ソノモノダ。選バレシ乙女トハ、全ク異ナル(チカラ)。我々トハ真逆ノ(チカラ)。オ前サエ、イナケレバ……』

「大輔くんがいなくたって、僕がいるさっ!」

『お前達に、ヒカリは渡さないからねっ!!』

 

力強い言葉。

ヒカリを護ろうとする言葉。

ヒカリは唇を噛みしめて、2人の男の子の背中越しに、ハンギョモンだった()()を見つめる。

 

『……我々ハ、深キ処ニ居ル。旧キ神ノ下ヘ還ル』

「……………」

『ソシテ……時ヲ、待ツ』

 

ざぶん、と海の中へ、霧の奥へ、ハンギョモンだったモノ達は消えていった。

ほ、と胸を撫でおろす大輔達の耳に届いた、ヒカリの帰りたいという言葉。

 

「……帰ろうぜ」

「うん……そのために、迎えに来たんだから」

 

大輔とタケルは顔を見合わせ、それぞれ手を差し出す。

すっかり気落ちしていたヒカリは、差し伸べられた手を、それから迎えに来てくれた2人の男の子の顔を交互に見て、やっと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

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