灰色の神 作:パスタ
──ぐちゅり、ぐちゅり。
そう、音が鳴っていた。その元凶は祭壇の上。
目も背けたくなるほど生々しいその
──血が落ちる。五角の文様が刻まれたその祭壇にぴちゃりと落ちた。
その文様が刻まれているのは祭壇だけではない。この部屋全てに、その文様は刻まれていた。
執拗とも言えるほど刻まれたその文様。閉鎖されたその部屋の中で、それは気味が悪いほど精緻に刻まれていた。
──ぴちゃり、と滴り落ちる。
先ほどと変わらない光景。だが、
少し大きく響いた、とでも言おうか。決して音が大きくなったわけではない。本来聞こえるはずのない範囲までその音が減衰することなく到達した。それだけの違和感。
そして、ぐちゅり、ぐちゅりと成形されていた
──ぴちゃり、となにかが滴り落ちた。
そして、次いで響いたその音に
──ぴちゃりと、赤色ではない
落ちたのは血ではない。
血ではない、もっともっと、もっともっともっと悍ましいなにかだった。
肉塊は肉塊の面影を失っていた。肌が見える。瞼が見える。伸びるその髪は、一筋の灰色を除いて赤色だった。
少女。見目麗しいとすら形容出来る少女は、かつての悍ましい原型など忘れたかのように宙でぷかぷかと浮いていた。まるで胎内で眠る赤ん坊のように体を丸め、浮かんでいた。
恐らく、そのまま眠っていることを聡い者達は願っていたに違いない。だが、その期待を裏切るように、静かにその瞳は開かれた。
灰色だった。のっぺりとした灰色。起きたばかりにしてはやけに冴えた知性を宿すその瞳は、世界を初めて認識した。
そして、
────ぴちゃん。
その音はこの世界全てを覆った。人が、獣人が、
聡い者は愕然とした。知性ある者は得も言われる恐怖に身を凍らした。そして、知性無き者は心のどこかで歓喜した。
足をついた少女はほう、とため息をついた。血に濡れた祭壇。刻まれた五角形。暗い世界。それらを一瞥し、そしてやけに優雅な動作で口を開いた。
「あぁ──腹が減った」