あなたと私とこの大地 作:ハクゲツロウ
コードネーム『クレマチス』! 良いんじゃない?私は気に入ったわ。まふゆが自分で考えた名前だもの。何であれ支持するわ。
ドクターの方も、何だかんだアーミヤちゃんには頭が上がらないみたいね。微笑ましいわ。
本編の時間ね、イクゾー(デーッデーッデデデデ カーン)
コードネームを決めて一晩が経ち、ロドスの食堂で朝食を食べていると、ドクターが声をかけてきた。その横には小さな赤い影。
「や、マフ……今はクレマチスか。相席してもいいかな。ヴィグナも一緒に」
ヴィグナというのは、この赤髪の人だろうか。角が生えている。もう見慣れたものだ。
「初めまして。先鋒オペレーターのヴィグナと申します。これからよろしくお願いします、クレマチスさん」
やはり。
「ええ、よろしくお願いします。ヴィグナさん。あ、相席は大丈夫です」
「ありがとう」
向かいの席に二人が座る。
「さて、食事中悪いが、ちょっと君に用があったんだ。クレマチス」
「ん……はい、何でしょうか」
食べながら話すのは流石に行儀が悪い。口に入ったものを嚥下してから話を続ける。
「君はロドスの構造は知っているか?」
「いえ、あまり詳しくは。エリジウムさんから食堂と購買部の所在は教えてもらったんですが」
「成る程……そこで、だ。このヴィグナに、ロドスを案内してもらおうと思っているんだ。ここは広いし複雑だからね」
「ええ! 任せてください!」
確かに、数日過ごしてみて分かったが、ここはとんでもなく広い。前の世界でもこんな施設は見たことがなかった。迷子にでもなれば何が起こるか…。
「はい。分かりました」
「よし、じゃあ決まりだ。クレマチス、午後から時間は空いてるか?」
「午後は特に何も有りませんね」
「それなら午後にやろう。ヴィグナ、それで良いな?」
「もちろんです!」
その後もトントン拍子で話が進み、私のロドス探訪の企画が決定したのだった。
そして午後。集合場所の食堂前。
「それでは改めて自己紹介を。私はヴィグナ。先鋒オペレーターよ」
「では私も…狙撃オペレーターのクレマチスです。よろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
お互いに頭を下げる。
「それじゃ、まず始めにロドスの中核! 医療部に行ってみましょう」
「え……そこって、医療オペレーターしか入れない、とかじゃないんですか?」
「医療部はオペレーターが負傷したり、鉱石病の発作が起こったりした時のために、誰でもいつでも入れるようになってるの。場所は覚えておきなさい。あなたはそうならなくても、周りの人を搬送させなきゃいけないことだってあるんだから。」
「! ……すみません、思慮が足りませんでした」
「あ! もう、いいわよ! そんなに謝らなくても! もうちょっと気軽にしなさい?」
優しい人だ。私が悪かったのに。
「さっさと出発しましょう。こんな調子じゃ朝日が登ってきちゃうわ」
「…そんなに広いんですか」
「あったりまえよ! ほら、急ぐわよ」
ヴィグナさんのあとを続く。
……なんだか、絵名みたいだな。これは失礼か。
「ここは療養庭園。PTSDとかで精神を病んじゃった人のための福祉施設よ。ここにいるラナさんの紅茶は絶品だから、用があったら来てみなさい」
「人事部。オペレーターの雇用とか、人事関係のトラブルとかをまとめる部署よ。……光が消えてるのを見たことが無いわ。明るいのにブラックね」
「訓練場よ。あなたも何度か利用したことあるでしょう? そう、ドーベルマン教官よ。あの人の指導は……ええ、うん…」
「ここが貿易所。他国との交易や、ロドスでの特産品などが運ばれて、取引されてるわ。……なんで純金があんなに運ばれて出てくるか、って? 私も知らないわ。でも知らないほうが良いこともあるのよ」
「ここは共同宿舎よ。貿易所とかの交代制の業務に当たるオペレーターは、次のシフトまでここで休むことになるの。勿論、それぞれ個人宿舎はあるんだけどね。こっちの方が近いし、都合が良いのよ」
その後も色々な施設をヴィグナさんと見て回った。本当に色んな施設があった。一つの都市みたいだ。
「さ! これであらかた紹介し終わったかしら? 結局日が暮れちゃったわね…」
窓から見える景色は、既に黒く塗りつぶされていた。…私には落ち着ける雰囲気だ。
ヴィグナさんが背伸びをする。……上げた腕を含めても私より小さい。
「ねえ、クレマチス」
「はい? 何でしょう」
「……あなた、カナデと友達ってホント?」
「え……」
まさか奏の名前が出て来ると思って無かった。一瞬思考が真っ白になる。
「………奏を知ってるんですか?」
「ええ。音楽のことで意気投合しちゃってね。あの子もロックを分かってるわ! ……出ていくって聞いたときは悲しかったけどね。セッションもしてみたかったし」
奏はどうやらこの世界でも馴染めていたようだ。安心した。した、が。
「………」
なんかモヤモヤする。私が知らない奏を、ここの人たちは知ってる。
「クレマチスは、あの子を探すためにロドスに入ったのよね?」
「…はい、そうです」
「頑張りなさい。あなたは強いわ。いつか、同じ戦場で肩を並べて戦う日を、楽しみにしてるわ」
そう言ったヴィグナさんは、私の目にとても大きく写った。この人は芯が強い。
「…ええ、その時は、私も…」
「あ! そうだ忘れてた!」
ヴィグナさんが唐突に叫ぶ。と共に、懐から一つの携帯のようなものを取り出した。
「これ、あなたの携帯デバイス。ドクターからの出撃命令とか、訓練のスケジューリング、普通に携帯としても使える優れものよ」
「あ、ありがとうございます」
スマホのようなものだろうか。ヴィグナさんからそれを受け取る。…スマホより少し重い。
「それじゃ、私はここまでね。自分の宿舎への道はわかる?」
「大丈夫です。ヴィグナさん、今日はありがとうございました」
「ええ。…またね、クレマチス。それと、次からはヴィグナでいいわ、むず痒いもの」
……いきなり呼び捨ては少々ハードルが高くないだろうか。
「それじゃあね〜」
ヴィグナが廊下の奥へと消えていく。私も早く部屋に戻らないと。
「………ゆ…………まふ…………」
「……?」
誰かから呼ばれた……?
足を止めて耳を澄ます。ドーベルマン教官から習った手法だ。実践ではクロスボウを構える臨戦態勢。
「………………」
何も聞こえない。
「……何だったんだろう……」
察知を諦めて、警戒を解くと、また宿舎に向けて歩きだした。
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「どうだった? ヴィグナ」
「うわぁ!! ドクター!!?」
何もそんなにビビることは無くないか? 声をかけただけだぞ?
「ドクター! そんな真っ黒な格好で真っ暗闇から出てこないでよ!」
「あ、そゆこと…」
「もう! ……クレマチスのことでしょ。特になんもなかったわよ。礼儀正しくていい子だなってだけ」
「ふむ…分かった。急に言ったのに対応してくれてすまない」
「あーもう! クレマチスと揃ってそんな謝らないでよ! 私は気にしてないから!」
そんなにか。悪いことをしてしまったかな。
ともかく、ヴィグナもマフユの本性は見抜けなかったわけだ。まあ、エリジウムに出来ないなら仕方ないか。
「……いずれ話してくれると良いが」
「……何かあの子に心配するような事あるの?」
聞かれていたようだ。ヴィグナは意外と耳がいい。
「…エリジウムからの報告なんだが…取り繕ってる感じがある、ってさ」
「へぇ……え、全然気づかなかったんだけど」
「そうなんだよな〜…私もちょっと掴みかねてる」
「…まぁ、時間が解決してくれることもあるでしょ? 気軽に待ちましょう」
「そうだね。…ヴィグナはこれからなにするんだい?」
「槍の手入れして、CD聴いて寝るわ。ドクターは?」
「私は仕事。まだ少しやり残したことがあってね」
「じゃあもう少しね。頑張って。…おやすみ、ドクター」
「ああ、ありがとう。おやすみ、ヴィグナ」
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「………」
宿舎へ戻った私は、ヴィグナから渡された携帯デバイスの機能を調べてみることにした。
(電話、タイマー、カレンダー、ゲーム……)
確かにスマホと大差ない。問題なく扱えそうだ。
「………! 音楽……」
その中には音楽アプリもあるわけで、私はそれを反射的に開いてしまった。
「………あるわけ、ないのにね」
アプリの隅から隅まで探しても『悔やむと書いてミライ』はない。当然だ。これは私のスマホじゃない。
それでもショックはある。私はベッドに倒れこんだ。
「…………ゆ……………まふ……………」
ガバっと起き上がる。やはり、聞こえる。一体どこから……。
「………まふ…………ゆ…………まふゆ………」
「!!」
聞き間違いじゃない。私の名前を知っている。そして、
私はその声を知っている。機械的だけど、愛情のあるやわらかい声。私はその姿を知っている。白いツインテールに、くすんだ赤と青のオッドアイ。
「ミク…………」
私はその名前を、知っている。
ホログラムに浮かぶ少女を、知っている。
UA数1000超えました〜〜〜嬉し恥ずかし〜〜〜〜! お気に入り登録もして下さってて嬉し〜〜〜! いやあ多くの人に見てもらって光栄です! これからも一層精進していきますので、よろしくお願い致します。
今回の最後について、ミクさんを登場させるか否かで私の中で苦心しておりました。この後の展開に結構干渉することだからです。…まあミク登場は元々するつもりだったので、それが前後するってだけなんですけどね。変わるのはまふゆの擦り減り具合。…おっとこれ以上はいけない。この話はここで終わりです。
以下関係ない話(白文字)。
インセプションという映画を見ました。それ以前にインターステラーとテネットを見ていたので、クリストファー・ノーラン監督の映画を見るのは三本目ということになりますね。
いやあ、やっぱりあの人すごいですよ。もう。演出も、設定も、音楽も。何もかも最高でした。ただ、一応ハッピーエンドと捉えることが出来た他二作と違って、インセプションはなんか特に意味深な終わり方でしたね。トーテムがぶれてたけど、止まるところは描かれなくて、コブが夢の中にいるのか、はたまた現実なのか…まあモルの呪縛から解き放たれて帰ってこれたと願いたいですね(個人的な推しはサイトーです。もう…あの人は私が好きなやつフルセットみたいな人なので。だけどイームスも好き…アリアドネかわいい…コブ働け…)。