あなたと私とこの大地 作:ハクゲツロウ
さて、前回はまふゆの洞穴探索が中心だったわね。源石の存在にも気づいたみたいだけど…この話はまた今度。
最後の二人組、誰なのかしらね〜(しらけ顔)。
それじゃあ、今回も楽しんで。ね?
「…………落ちた…………」
落ちた。ものの見事に落ちた。というのも、出口に繋がっていそうな横穴を、少し高いところに見つけて、登れそうなところを選んで登ったつもりだったが、踏み外してしまったからだ。
起きたときのように全身が痛む。幸い頭はぶつけなかったが、
「痛っ………」
足首を捻ってしまったようだ。思うように動かせない。それに物資も、落ちた衝撃でそこかしこに散らばってしまった。
「………ふぅ………」
その場に寝転がる。頭を冷ますために、一息ついた。
そういえば、絵名と瑞希もこんな事になった、って言ってたっけ。絵名と桃井さんが急斜面を落ちて、それを神代さんと瑞希で助けたんだって。確かそんなことを言ってた気がする。
そうやって思い出に浸っていた、その時、
「ッ!……この音……」
あの動物の這い回る音だ。数が多い。ぐんぐんこちらへ迫ってくる。
「あ……ああ………」
物資が食い荒らされていた。まだ使えるものは、そう多そうにない。弓も…弦を食い切られていた。
「………まずい」
どうやら標的を私に変更したようだ。私はほふく前進の要領で距離を取ろうとする。
「ッ………ッ………!」
足を負傷しているからか、思うようにスピードがでない。そうしている間に、あれとの距離はどんどん縮まる。
「ッ………嫌………来ないで…………」
迫る、迫る。こちらの様子などお構いなしにどんどんと侵攻してくる。
先頭のやつが私に追いつこうとした、その時だった。
「……?」
先頭のやつは、矢が突き刺さって死んでいた。他の奴らも、それを見て蜘蛛の子を散らすように去っていく。何匹かは逃げずに向かってきたが、それらも全て射抜かれてしまった。
「…………助かった…………?」
安堵してあたりを見渡すと、四人ほどの人影が見えた。男の人と女の人が二人ずつ。白い髪に前髪を一部赤く染めた男の人が、私に話しかけてきた。
「(ヴィクトリア語)大丈夫かい? お嬢さん」
「………」
何を言っているかは、分からなかった。
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「………」
「……………」
「…………………」
気まずい沈黙が流れる。やばい。ファーストコンタクトまずったかも。
「(小声)ねえ!! どうしようブラザー!!」
「知るか。俺に聞くな」
クソっ、このイベリア男め!
「うーん……言葉が通じてないんじゃないかな?」
そんな僕らに割って入ったのは、医療オペレーターのススーロちゃん。僕の報告で、急遽作戦基地から駆り出されたベテランだ。
「とりあえず、患部を見せてもらっていいかな」
ススーロちゃんが救助対象の子に歩み寄り、話しかける。しかし、やはり言葉がわからないのか、動くことはなかった。
「………難民の子供か?」
「ううん、違うと思う。それにしては着てるものがしっかりしてるから」
ソーンズと会話しているのはクルースちゃん。狙撃オペレーターだ。高低差が激しそうだったから、ついてきてもらった。結果としては大正解だったかな! クルースちゃんがいなかったら危なかったかも。
「なら……こいつは何だ?」
「こらソーンズ。言い方には気をつけなよ。相手はレディなんだからね」
「エリジウムさん、ちょっと気持ち悪いかな…」
「おおう言うねえ!? クルースちゃん!?」
「ちょっと皆、静かにしてて」
怒られちゃった。黙ります。
「えっと、なにか話すことはできる?何でもいいから。あなたの名前とか、好きな食べ物とか」
ススーロちゃんが語りかける。
「…………(極東語?)アサヒナ、マフユ。」
「!(極東語)あなたは、どこから来たの?」
「…(極東語?)トラックに轢かれて、気づいたら、ここに」
「…………(極東語)患部を見せて。分かる?」
そう言うと、その子は始めて表情を変えた。いや、変えたなんて次元じゃないな。なんかこう………根本から変わった? いや、仮面を被ったみたいな。うーん…うまく言葉にできない。
「(極東語?)ありがとうございます。ここです。」
「(極東語)痛かったら声を上げてもいいよ。我慢しないで」
ススーロちゃんが治療を始める。ススーロちゃんはこの子の感情の変化に気づいているんだろうか。
「うわぁ……けっこうやっちゃってるね……」
「ああ、随分腫れている。さっき這いつくばっていたから、折れていることは無いと思うが…ロドスに連れて行くのが得策だろう。まともな医療設備があるからな。」
「よし、そうと決まれば、帰るルートを探しておくよ。何かあったら、無線で伝えてね」
そう言って、僕はその場を離れた。
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今、私は知らない人の背中におぶさって、洞穴を登っている。この人たちが来なければ、今頃はあの動物たちに食い殺されていたかもしれない。その上傷の手当までしてもらえた。本当に感謝してもしきれない。咄嗟に『いい子』になったのは……もう仕方ないか。
「(日本語?)あなたを襲ったあの虫はね、オリジムシっていうの。武装してる人にはあまり脅威じゃないけど…あなたみたいな丸腰の人には別。怖くなかった?」
「ええ、大丈夫です」
手当をしてくれた、耳の生えた……待って、耳の生えた?
「これは………コスプレ?」
思わず手が伸びる。その人はその手を避けた。
「(日本語?)あっ、ちょっと!あんまり触らないで」
「あ……ごめんなさい」
無遠慮なことをしてしまった。罪悪感が込み上げてくる。………悪い子。
よく見れば、同行している金髪の人の頭にも、うさぎの耳のようなものが生えている。仮装大会でもやっているのだろうか。
そんなことを考えながら、先頭に立つ白髪の人の言葉に耳を傾ける。ずっと喋っているけど、相変わらず何を言っているかは分からない。けれど、疲れ切った心と体には子守唄のように聞こえた。人におぶさってもらったことなどいつ振りだろうか。心地よい振動の中、私はそのまま、意識を手放した。
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「ん?」
「あっ」
「あれ」
ソーンズの背には、すやすやと眠るあの子の寝顔があった。
「疲れて寝ちゃったのかなぁ」
「こうしてまじまじと見てみると…やっぱり、難民の子供には見えないね。肌につやがあるし、唇の色も健康的だし」
ススーロちゃんが真面目に分析する。だとすると…。
「ますます謎だね。こんなサルゴンの辺境に、富裕層の極東人がいるのは考えにくいし」
「そのことなんだが…あれは本当に極東語か?俺が知っているものとは随分ニュアンスが違うように思えたが。」
「うん、極東語なのは間違い無いんだけど…」
「「うーん…」」
僕とクルースちゃんが揃って頭をひねる。
「この子…種族は何なんだろうね?」
とススーロちゃん。そう、この子には角も尻尾も耳も羽も光輪もない。となると、それら全ての特徴に当てはまる可能性のあるエーギルが消去法で選ばれるのだが…。
「やっぱりエーギルじゃないのかい? ソーンズ」
「ああ。こいつから同族の雰囲気はしない。そもそもイベリアのエーギルと極東のエーギルの違いのせいかもしれないがな。だが、可能性は低いだろう。」
ソーンズがそう言うんだからまあそうなんだろう。そうなると完全に迷宮入りになるのだが。
「まあ、ややこしいことは全部…」
ドクターに丸投げしよう。
僕ら全員の意見が一致したところで、出口が見えてきた。
「さぁ、ちょっと急ごうか。みんなを待たせちゃってるからね」
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そうして僕たちは、少し駆け足気味でロドスの作戦基地に戻った。あの子は医療部に到着するや否や、たまたまいたガヴィルに担がれて搬送されて言った。運がいいんだか悪いんだか。
「さて、僕もぼちぼち、仕事に戻ろうかな」
まぁ、そう言いながら結局ソーンズのところに行くんだけどね。
見れば、彼は戦闘で使用する薬剤の整理をしているところだった。
「やあブラザー。邪魔して悪いね。…ちょっと聞きたい事があってさ」
ソーンズがこちらを振り向く。
「お前がそんなにかしこまるとは珍しいな。何の用だ?」
「いや、大したこと…ではあるかな。あの子のこと」
「ああ…あいつか」
「ススーロちゃんが治療を始めた時さ、気づいた? なんかこう…あの子の表情が変わったっていうか」
「…いや、気づかなかったな。そんなに露骨だったか?」
「ううん。すごく小さい。けど、違和感は感じたかな」
「お前でそのレベルなら、俺に分かるわけ無いだろう」
「開き直りがすごいね! それも君のいいところだけどさ! …まあそういうこと。場合によってはカウンセリングが必要かもしれないね」
ソーンズが眉をひそめる。
「何?…精神疾患の類か?」
「解離性同一性障害、躁鬱症、まあいろいろ考えられるよ」
「そうか…お前、それはちゃんと報告しろよ」
「わかってるさ」
ならいい。と言って、ソーンズは作業に戻った。
やはり気がかりだ。僕もついていけば良かったかな。もし挙げた中のどれかなら、治療…というか緩和は可能だ。ロドスにはラナさんがいる。だけどそうでないなら…割りと複雑な問題かもしれない。
「まあ、今はとりあえず報告書か」
独り言を言って、僕は仕事に戻った。