あなたと私とこの大地 作:ハクゲツロウ
やっと洞穴から出てこれたわね。やっとって言うほど長くいなかったけど。とりあえずロドスに拾われて安心だわ。……種族はどう誤魔化すのかしらね?
それじゃ、本編の始まり始まり〜
目が覚める。眼前には知らない天井。病院だろうか。そうだ。きっとそうに違い無い。洞穴も、謎の動物の襲撃も全部夢で、私はトラックにはね飛ばされたけど、奇跡的に助かって、病院に…。
「あっ、目が覚めましたか?」
看護師さんの声だろうか。そちらに顔をむける。
「災難でしたね。崖から落ちた上に、オリジムシの群れに襲われるなんて」
全てを否定された。どうやら夢ではなかったらしい。
「あの、すみません。ここは…」
「ああ、ここは『ロドス・アイランド』。製薬会社です。詳しいことは後ほど、担当者が説明いたしますので」
製薬会社?それにしては医療設備が充実しすぎているような…。
「では、私はこれで。担当医に起きたと伝えてきます。」
看護師さん(推定)は、そう言い残してさっさと出ていってしまった。
「ふぅ……」
目を覆って仰向けになる。
「奏……絵名……瑞希……ミク……」
なんとなく、名前を呼ぶ。それだけで愛おしい。
「会いたいな…」
ウィーンと自動ドアの開く音がした。
「失礼します、まふゆさん。起きたんだ……」
部屋に入ってきたお医者さんらしき人が、私を見て固まった。
「?……私、なにかしましたか」
「あっ、えと…ごめん、泣いてたから」
「え…」
自分の頬を拭う。確かにに湿っていた。そう自覚した瞬間、涙が溢れてきた。
「あ……」
止めなきゃ。この人に迷惑ををかけてしまう。
「あの……ごめ……なさ……」
「大丈夫。……怖かったね。ここは安全だから、泣いてもいいんだよ」
「あ……うあ……」
そう言うと、お医者さんは私を抱きしめた。私よりも小さいはずなのに、とても安心感がある。
……うん、落ち着いてきた。
「……ありがとう……ございます」
「うん。なにかあったら、いつでも頼っていいから」
お医者さんが私から離れる。少し名残惜しかった。
「自己紹介が遅れたね。私はススーロ。ロドスの医療部所属の医者だよ」
「えっと……ロドスとは、なんですか」
「ロドス、『ロドス・アイランド』。製薬会社だよ。表向きにはね」
「表向きには?」
「ロドスの『本業』は、源石と感染者、それが引き起こす様々な問題を解決すること。源石研究の最前線だよ。」
「…………」
「いきなり説明されてもわかんないよね。感染者の問題を解決しようなんて、随分突飛な話だし」
「あの……すみません」
「ん?」
「オリジニウム? ってなんですか……?」
「…………え?」
ススーロさんが信じられないというような目をこちらに向ける。まずい。取り繕わないと。
「あ、その、ごめんなさい。変なことを聞いてしまって」
「いや………」
ススーロさんが顎に手を当てて考えている。すると突然、鎖骨あたりを見せながら
「……これを見て、どう思う?」
「!」
ススーロさんの体には、私が洞窟で見た黒い石が突き刺さっていた。
「ッ! それ、痛くないんですか?」
「痛くない…って言えば嘘になるかな。……ねぇ」
「はい、なんですか?」
ススーロさんは、少しためらうようにして、私に問いかける。
「本当に、怖いとか、近寄らないでほしいとか、思わない……?」
………?
この人は何を言っているんだろう。確かにお母さんからは、こういうピアスみたいなのを付けてる人には近づくな、って言われてたけど……でもこれはピアスじゃない。
「いいえ……特には。それに、命を助けてもらった人に対して、そんなことは思いませんよ」
ススーロさんが目を見開く。
「………ありがとう」
そう呟いたのが聞こえた。聞こえてしまった。
「私はちょっと外すね。足は捻挫してるから、絶対安静。あまり動かないでね」
そう言って、ススーロさんは病室から出ていった。
「何だったんだろう…あれ」
謎の黒い宝石、オリジニウム、感染者。分からないことだらけだ。
上半身だけを動かして、部屋を見回す。私の足は包帯とギプスで吊り下げられて固定されていた。前には壁、横の棚にはパソコン、そして左には扉があった。引き戸にはみえないけど……あれ?
「ここ…個室?」
どうしてだろう。そんな大病を患った覚えも、監視されるようなこともした覚えがない。もしかして何かしてしまったんだろうか。
「………よく分からない」
思考を放棄して、横にあるパソコンを触ってみる。体をひねる形になるから、少し辛い。
「電源、付いてるかな」
ボタンを押して起動を試みる。しかし、パソコンに明かりが灯ることはなかった。
「…………」
とうとうなにもすることが無くなった。せめて動くことができれば………。
───絶対安静。動かないでね。
ススーロさんの言葉を思い出す。そうだ。安静にしてなきゃ。
眠ることにした私は、仰向けになる。すると、頭の中に声が浮かんでくる。
───私が、作り続けるから。
私は奏に救ってほしくて、奏は私を救いたくて、そんなことから生まれた、私達を締め付ける呪い。その呪いはとても居心地が良くて、ずっとここに居たいって思わせてしまう。
───何も与えなければ良かった!!
そんな私の思考を、全て塗り替えるお母さんの言葉。予備校をサボった私。ネットの悪い友達とつるんでいた私。そのせいでテストの点数が落ちた私。きっとそう思われてる。
「………お母さん………」
止まったと思った涙が、また溢れてくる。お母さんに失望されたくなかった。お母さんに私を大好きでいてほしかった。お母さんや、周りの人に褒められる『いい子』になりたかった。
でも、私はニーゴで音楽を作りたい。そのためには、『いい子』を辞めなくちゃいけなくて、でもお母さんに認められないのは辛くて、でも、もう仮面を被り続けるのも嫌で、でも、でも……でも…………。
堂々巡りの思考を繰り返して、涙を押し殺して、私は眠る。現実から逃げるように。
「奏…………………」
あなたの名前を、呟きながら。
──────────────────────
執務室のインターホンが鳴り、来客を告げる。モニタをみれば、小さい人影が立っていた。
「失礼します。医療部のススーロです。収容中のある患者のことでご報告があり、参りました」
「どうぞ、入って」
扉越しに用件を告げられ、入室を許可する。全く、もう少し柔らかくしてもいいのに。
「失礼します、ドクター」
「やあススーロ。……毎回言うけど、別に私に対してそんな畏まらなくてもいいのに」
「だめです。そういうのは業務外にしてください」
「ぐっ……と、ところでさ、その患者さんの報告ってなんだい?」
話を逸らす。我ながら情けない。
「はい……こちらです」
私のデスクトップにプロファイルが飛んでくる。どれどれ……。
【名前】アサヒナ マフユ
【性別】女
【出身地】(調査中)
【誕生日】(調査中)
【種族】不明
【身長】(調査中)
【鉱石病感染状況】(検査中)
【源石融合率】(検査中)
【血中源石濃度】(検査中)
サルゴンでの小規模任務中、エリジウム、ソーンズ、ススーロ、クルースの四名により発見(発見時の状況については下記)。右足首の捻挫と全身に軽度の打撲を確認、その場でススーロによる応急処置を実施。その後、医療部の手によってロドスへ搬送される。
エリジウムからの報告により、精神疾患の疑いがあることが予想される。また、当患者には極東語しか通じない。担当職員は留意すること。
発見時、当患者はオリジムシの群れに襲われていた。すんでのところでクルースがオリジムシを撃退し、ススーロによって応急処置が行われた。その際に極東語のような言語を話したというが、ソーンズは随分ニュアンスが違うという見解を示した。(制作中)
「…………」
付属された顔写真と、書かれた情報を見つめる。
「どうしましたか、ドクター。何かご不明な点でも」
「いや……なんでもない。そして? 報告って何だ?」
「先程、本人と顔を合わせて来たのですが……その際、源石とは何か、と。鉱石病についてもご存知無いようでした」
「(小声)だろうなぁ……」
「え? 何か言いましたか?」
「いや、何も。とりあえずわかった」
「でしたら、私は持ち場に戻りますね」
「ああ。頑張れよ」
ありがとうございます。そう言ってススーロは部屋から退出した。
「PRTS」
「はい、ドクター」
執務室にどこからともなく機械音声が聞こえてくる。
「今、ケルシーは艦内にいるか?」
「ケルシー先生は、只今カジミエーシュでの外勤任務中でございます。六日後には戻られるご予定です」
間が悪いな。となれば……。
「PRTS、フォリニックはどうだ?」
「オペレーターフォリニックは、現在重病患者の手術中です」
「ふむ……ではぁ……ワルファリンは?」
「オペレーターワルファリンは、三日前からア氏と共にご自身の研究室に籠もっております。毎晩気味の悪い笑い声が聞こえると他のオペレーターから苦情が来ています」
「グラベル、早急に"説得"してきてくれ」
「りょうか〜い」
クソ、三日も気付けなかったのか。
どこにいるかも分からないピンク髪の護衛に声をかける。私の声が届く範囲にはいるらしい。
「ちなみに三日前は、ケルシー先生が外勤任務に出立なさった日です」
「あ〜〜……サイレンスは?」
「サイレンス氏は、最近入った患者の検体調査を担当しております。今は検体を検査機にかけて休憩中です」
ビンゴ。
「PRTS、通話をつなげるか?」
「了解しました」
待機音が一瞬流れ、すぐに声が聞こえてきた。
『こちら医療部、医療オペレーターのサイレンスです。ドクター、何か用?』
「休んでいるところ悪いね、サイレンス。…アサヒナ マフユという患者の検査結果が上がったら、誰にも通さず、まず私に見せてくれ。これは機密事項だ。他言は無用で頼む」
『……なんかきな臭いんだけど。まさか、その人のことを危険に晒すようなことじゃないよね? いくらドクターでも承知しないよ』
「無い。断じて無い。……分かってくれ、サイレンス」
『…………分かった。ドクターのこと、信用してるから』
通話を切る。なんとかなって良かった。サイレンスからの信頼は、少し失われたかもしれない。当然だ。こんな話題は彼女の地雷でしか無い。
私は、ほんの数週間前に秘密裏にロドスを発ったある女性のプロファイルを見ていた。
「………君が探していたのは、彼女なのか?」
今はまだ帰ってこない疑問を、呟いた。
わ゛〜〜〜〜っ、9評価! 9評価! やった! やった! お気に入りの登録も皆さんありがとうございます!! これからも精進していきますので、どうぞよろしくお願いします!!!